日別アーカイブ: 2014年5月12日

1学期は中盤へ!

こんにちは。彫刻科の小川原です。ゴールデンウィークが過ぎて、1学期も中盤に向けてテンションを加速させていきたいところです!
さて、前回からこれまでの課題で出た預かり作品を紹介します。

塑像、両手の構成課題です。
K.S君の作品。
IMG_5665
シンメトリーをやや崩した形で、左右の手の平から指先にかけて回転する円や球をイメージさせる構成になっています。とても考えられた組み立てができており、シンプルながら強い魅力を放っています。心棒との境のシュロ縄が見えてしまっているのが見栄えとしてもったいないです。作品として感情移入していたところをちょっとしたことで現実に引き戻されてしまいます。土付けの位置をずらしたり、心棒を工夫することで回避できるので、こうした部分にも一層気を配り、雑味を感じない作品を目指してほしいです。

R.Y君の作品。
IMG_5652
そっと触れる左手に優しさや穏やかさを感じることができる作品です。ただ両手を形として捉えて構成するだけでなく、感覚的なイメージも作品に込めていくというのもまたおもしろさの一つであると言えるでしょう。内容として、手の内側が良くつくられているのですが、手の甲など、起伏の浅い部分になるとやや構造的な強さや密度感に欠ける印象があります。こうした部分でこそ高い説得力をアピールできるので、これからさらに研究を進めてほしいです。

T.U君の作品。
IMG_5644
両手共肘近くまで使いダイナミックに構成しました。大きさの迫力が感じられてよいです。2つ以上のモチーフを構成したときにそれぞれの大きさが似通ってしまうと、要素に欠けて単調な作品になってしまいがちですが、この作品に関しては角度や配置が上手くいっているためそういった粗は見えてきません。大きくは悪くないですが、部分に目をやるとやや皮膚の内側から感じるリアリティーや、つながりの悪さが気になってきます。全ての形に実際の形の魅力が重ねられているか、さらに観察を深め、追求できると良いです。

首無し円盤投げのトルソ像のデッサン。6時間弱での制作です。
T.U君の作品。
IMG_5676
前半やや動きが弱くなっていましたが大分持ち直してきました。頭部が無いので割と進めやすかったと思いますが、6時間弱でここまで描けたら立派なものです。毎回ぱっと見目を引く炭が扱えているので安定して評価を得られていますが、90点のデッサンで満足すること無く、受験においての100点以上のものを見据えて追求を深めてほしいです。ザックリとした見切りは素晴らしいので、完成に到達するまでにもっと沢山の展開を経ることができたらいいと思います(分かることで全てまとめるだけでなく、分からないことを紆余曲折ありながらもどうにかして盛り込んでいくくらいの心構えが必要です)。

さ、4月が終わり、自分の弱点が見えてきた頃だと思います。早いところ克服しちゃいましょう!ただ何となく課題をこなしていてはダメです。皆さんが思っているより求められているものはずっとレベルの高いものだということを胸に刻んで下さい。上手くいかなくて落ち込んでいる暇はないし、悩んで考え込んでいる時間ほどもったいないものはありません!日々最高のパフォーマンスで課題に取り組めるよう、気持ちも体調も万全にしていきましょう!!自分の目標に向かって一直線にダッシュをかけられるやつが結局は一番強いです!

 

GWが明けました。

油絵科の箱岩です。皐月の花も満開のGWも過ぎまして、不安定ながらいい天気が続いていますね。

IMG_1619

?昼間は汗ばむほどになってきて早くも初夏の気配がし始めましたが、皆さんいかがお過ごしですか?

油絵科は各クラス別々のペースで1学期の課題が進められているようです。

私の担当するクラスはオーソドックスに石膏を利用したデッサンの期間中です。週末はフォーンのトルソでした。この像の異常な肉付きは、インドア美術系の子には馴染みの無い大きさらしく、なかなか印象を捉えるのが難しかったようです。

?IMG_1634

腕や頭部の欠損により像全体が持つムーブマンが把握し辛いということもあるのかもしれません。

?IMG_1635

背後のこの突起も何を意味するのでしょうか?今回のブログは、なんとか全体像をイメージしてもらいたくて、フォーンのトルソについて少し検索してみた話です。

先ずは、ウフィツィ美術館 (フィレンツエ)にあるオリジナルのフォーンのトルソ「踊る牧神:ガッティトルソ」

トルソ

ギリシャ彫刻の完璧な様式美は本当に美しいですが、それにもまして完璧であったものが欠損し崩壊する状態は輪をかけて美しいと思います。

無作為に残された形の美しさ、人工的な物が自然に還るときの輝きは本当に観ていて飽きません。

さて、フォーンの本来の姿はどんな物だったのか?

ギリシャ神話を紐解いてみますと、フォーンまたはパーンは、ギリシア神話に登場するの一柱であるとされています。

アイギパーン古代ギリシャ語: Α?γίπαν, Aigipān, 「山羊のパーン」の意)とも呼ばれ、ローマ神話におけるファウヌスFaunus)と同一視されるとなっています。 このファウヌスが語源になりFaun(フォーン)と呼ばれているようです。長母音を省略して英語風にパンとも表記されます。また意訳して牧神、牧羊神、半獣神とも呼ばれるようです。

皆さんは、映画「ナルニア国物語」をご覧になったことがありますか?

先日、子供と観ていますと気になる人物が・・・・

narunia

劇中の、心優しく少々勇気の足りない山羊の半身を持つ彼こそが、牧神ファウヌスなんです。

さて、フォーンの正体が見えて来たところで、検索にヒットした画像を観ていきましょう。

?Jean-Baptiste Greuze

こちらはジャン=バティスト・グルーズ(Jean-Baptiste Greuze, 1725年 – 1805年)彼は、フランスの画家で市民生活に題材を求めた風俗画を多く描いていました。当時は絶大な人気を誇っていたようですが、その後18世紀の忘れられた画家として低い評価を受けています。この半神半獣の男の素描を観る限り、とても力のある作家だったようです。

Jacob Jordaens2

Jacob_Jordaens_-_Pan_and_Syrinx

この2作品はヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens、1593年 – 1678年)によって描かれました。少々年老いて荒々しい様子の牧神ですね。ヨルダーンスはフランドルバロック期の画家です。ルーベンスヴァン・ダイク同様、アントウェルペン派を代表する画家です。ヨルダーンスは画家アダム・ファン・ノールトに8年間師事し、後に芸術家ギルドの聖ルカ組合の一員となり、画家として揺るぎない地位を築くと、ルーベンスと同様に、祭壇画、神話画、寓話画を描き、1640年のルーベンスの死後、アントウェルペン最重要の画家となったとされています。

 

続いてはピーテル・パウル・ルーベンス: Peter Paul Rubens1577年1640年)は、バロック期フランドル画家外交官祭壇画肖像画風景画、神話画や寓意画も含む歴史画など、様々なジャンルの絵画作品を残しました。

Rubens, Faun und Maedchen

ルーベンスはアントウェルペンで大規模な工房を経営し、生み出された作品はヨーロッパ中の貴族階級や収集家間でも高く評価されていました。この作品では上半身が中心に描かれていて分かりにくいですが、筋骨たくましい男の不敵な笑みがフォーンの気性を表しています。

??ルーブル博物館

こちらは《牧神パン》ルーヴル美術館、パリ

?おしり、フォーン

こちらは出典が不明なアート画像。映画のワンシーンの様ですが、気になります。

お尻の毛が薄くデザインされた特殊メイク。尻尾の感じが面白いですね。あっ、これがフォーンのトルソの腰のところにある突起ですね。

皆さん、全身像が想像できてきましたか?

?さて、『牧神』というだけあって、彼の仕事は家畜の世話であります。

自慢の笛を吹きつつ、ヤギや羊、牛などの家畜の世話をしているパン。同時に、狩人に獲物を与える神でもあり、豊穣の神としての性質も兼ね備えていたのです。

下半身は毛むくじゃらの山羊、頭にも山羊の角(のような突起)、おまけに顎には長い山羊鬚を生やした、かなり粗野な容姿の異形の半獣神、彼のこの奇怪な姿は生まれつきのものでした。と言うのも、伝令神ヘルメスが山中で羊を飼っていた際、土地の王の娘を見初めて、山羊の姿で接近し口説き落として身ごもらせました。

乳母は産まれ落ちた赤ん坊の姿に仰天し、悲鳴を上げて逃げてしまったといいます。

なんと、フォーンはヘルメスの子供!!

?

性格は父ヘルメスに似て陽気な子で、大喜びのヘルメスは、パンを獣毛皮にくるんでオリュンポスへと連れて行き、我が子の誕生を披露しました。

その変ちくりんな姿はすべての神々、特に酒神ディオニュソスを大いに喜ばせ、「すべての」を意味するパンという名がつけられたのだそうです。

パンはアルカディアの山中に棲まい、彼を拒んだニンフ(妖精)シュリンクスが姿を変えた葦で作った笙笛を手挟み、同じく彼を拒んだピュティスが姿を変えた松で編んだ冠をかぶった格好で、山野を逍遥してはニンフたちにちょっかいを出す。

しばしばディオニュソスにも付き従って、淫蕩な性豪ぶりを発揮し、あらゆるマイナス(狂乱したディオニュソス信女)たちと交わったとされます。なにしろ、ヤギ(ヤギは多産の象徴)ですからね。

?

 明るく朗らかで快活な反面、気性が荒く、気難し屋。特に寝起きが悪く、岩陰で昼寝をしているところをうっかり起こそうものなら、不機嫌になるどころではない。

突如、不相応に激怒して、山々を轟かす雄叫びを上げ、これを聞く者、大抵は羊飼いたちや羊たちを恐慌に陥れた。この“パニック”という現象は、実はパンの名に由来するそうなんです。

?

さて、フォーンの容姿やキャラクターは見えてきましたか?皆さんが目にする多くの石膏像がギリシャ神話の神々を模しています。ギリシャ神話は登場する神々の関係や巻き起こる事件がとても人間的で不完全なキャラクター像が設定されていて、知れば知る程面白くなります。

こういう不必要に脱線した所にある情報が、案外自分のこだわりを生むことがあります。

こだわりは表現のモチベーションを高くしてくれるカンフル剤のような物です。

是非皆さんも、好奇心を旺盛にして日々の制作に打ち込んでみてください。