日別アーカイブ: 2020年5月19日

映像科:合格者インタビュー①・感覚テスト編

2020年春、新美映像科から志望校へ合格した人にインタビューする企画。
今回は武蔵美映像学科の試験で感覚テスト140点というハイスコアで合格した宮脇さんに
実技制作の秘訣から、日頃の生活におけるアドバイスまで、詳しく聞きました。
映像系での受験を考えている人は、ぜひ参考にしてください!
インタビュアー:森田、百瀬(ともに映像科講師)

森田:こんにちは。今日はよろしくお願いします。
宮脇:よろしくお願いします。
百瀬:お願いしまーす。

【感覚テストについて】

森田:早速なんですが、宮脇さんが武蔵美の試験で制作した「感覚テスト」について聞いてみます。感覚テストはキーワードから発想して絵と文章で映像的な場面を表現する問題ですね。2020年度入試の問題では「その先は」というキーワードが与えられました。まずはこの作品について教えてください。


[入試再現作品/感覚テスト/武蔵野美大映像学科]

宮脇:はい。私は感覚テストを制作する上でいつも「場所の面白さ」を伝えたいと思っていました。この作品はトンネルが舞台なんですが、実在する場所です。小さい頃に親とドライブをしたときに通ったトンネルなんですが、どこか普通のトンネルとは違う雰囲気がありました。記憶に残っていたその雰囲気を、この感覚テストで伝えられたらいいなと思って作りました。

百瀬:私はこの作品の2つ目の段落「トンネルの中へ入ると~音は鈍くなる」というところが良いと思います。この作品ではトンネルを水中と重ね合わせていますが、視覚だけじゃなくて聴覚で捉えた情報を言葉で表現してるんですね。別の箇所では、コンクリートの柱に触れてみる触覚的な描写もあります。作品における「感覚の言語化」ということは意識していましたか?

宮脇:意識してました。「場所の面白さ」を伝える上では、その場所に降り立った時の聴覚や触覚といった感覚ーそれを私は「五感の情報」と考えていましたがーを書くことが大切だと思っていました。そのことに気づいたことで、感覚テストを作る手がかりを掴んだ感じです。
文章の表現に関してもう一つ言うと、キーワードの「その先へ」ということを読む側に意識させるために、最初の段落の後に、2行ブランクを入れています。

森田:確かにそうですね。逆にこの部分以外はすべて1行ずつ空いています・・・どういうことですか?

宮脇:最初の段落は作品の導入のようなものとして、文章全体からは切り離すような構成にしています。この作品で問題のキーワードの「その先」というのは、トンネルの中でもあり、トンネルの柱の隙間から見える風景でもあります。でもまずはトンネルに「入る」ということを読む人に強調したいと思ったので、こういう工夫をしています。文章の区切り方については教室で制作をしていたときにも、講評でアドバイスを受けて、かなり気をつけていました。

森田:なるほど、ありがとうございます。・・・と、ここで新美で制作した課題作品も見てみましょう。実は宮脇さんのこの作品には、いくつかのプロトタイプがあります。


[授業作品/感覚テスト型/新宿美術学院映像科]

百瀬:懐かしいですね。課題は毎回違ったキーワードだけど、同じトンネルが舞台になっているんですね。

宮脇:最初の作品は「斜光」というキーワードで制作した作品です(①)。この課題の講評会の時に百瀬先生が「映像装置のように見える」ということを話してくれて。

百瀬:ゾートロープですね(※)。柱から差し込む光が明滅することで、風景の見え方が変化する。舞台設定が面白いと思いました。


※ゾートロープ(Zoetrope)…スリットの間から静止画を見ることで絵が動いて見える。アニメーションの原理が体感できる装置。

宮脇:そのお話を聞いて、あらためてこの空間の魅力に気づいたこともあって、少しレイアウトを変えてリメイク制作してみました(②)。二枚の絵で表現することは挑戦だったのですが、正直ちょっと違うなと思いました。でもこの作品を作ったことで、このトンネルが持っている雰囲気を伝える上では、やっぱり一枚絵の方がいいんだということに気づけました。
その後入試直前の課題で制作したのが③です。この時の課題は「もしも今この瞬間にあなたが旅をしているならば、その旅でどんな印象的な出来事に出会うか」というちょっと変わった問題文だったのですが、「印象的な出来事」という言葉から、やはりこのトンネルが浮かびました。

森田:これは入試の作品とほぼ同じレイアウトです。あ、でも絵と文章は区切られているんですね!

宮脇:はい。画面全体に鮮やかな色を乗せることは試験本番での新しい挑戦でした。ひとつのイメージとして見せることで、この場所の広さを感じさせられるんじゃないかと思って。あと絵と文章をはっきり区切った画面のレイアウトは一見整理されて見えるけど、ちょっと安易かなとも思いました。試験で作品を採点する教授に「簡単なレイアウトを選んでる」と思われたら嫌だなとか(笑)そんなことも考えました。

百瀬:実際に試験本番の作品では、トンネルの隙間から海を見ているということが、画面全体で表現されていますね。全体に入れられた白いタッチがエフェクトになって、トンネル=水中という空間が繋がるような効果が生まれています。

森田:授業で制作するたびに試行錯誤したことが、試験本番の一枚に活かされてることがよくわかりました!

【受験生活について】

森田:ここからは新美で対策した一年間について聞いてみたいと思います。いつ頃から美大の映像系への進学を考えてましたか?

宮脇:元々映画を作りたいという気持ちがあって、在学中に何本か友達と製作したり、映画甲子園に出品したりしていました。映像で受験をしようと思ったのは高二くらい、でしょうか。私の高校に武蔵美を卒業された講師の方がいて、お話を聞いて「武蔵美の映像学科で映画を作りたい」と考えるようになりました。

百瀬:最初に受講したのは通信教育科(注:現オンライン教育科)でしたよね。

宮脇:現役の時は高校が美術科だったので、おもに学校の先生に見てもらって、入試の直前は他のアトリエに行って対策をやりました。でも結果はダメで。もう一年となった時に、やっぱりちゃんと映像科がある予備校に入らないと無理かもしれないと考えて、まずは一学期に通信教育を受けたんです。
送られてきた課題を見て「こんな対策をやるんだ」「面白い…けどちょっと苦手な課題かも」と思ったのは覚えています。たしか最初の課題のテーマは「私の部屋」でした。

百瀬:たしかに映像科の課題って、いきなり「私」のことを聞かれるというか、作る側としては、自分の内面を見せるような部分があって、最初はびっくりするかもしれませんね。
夏期講習から上京して教室での制作になりましたが、その変化はスムーズでしたか?


[課題制作時のエスキース帳/下書きや講師からのアドバイスがびっしり!]

宮脇:高校やアトリエでの制作の経験はあったので授業にはすぐ馴染めましたが、一人暮らしということもあって環境自体の変化の方が大きかったかもしれません。入試の時期がちょうど好きなアーティストのツアー中だったので、その様子をチェックしながら「頑張ろう」と思ってました(笑)。
本格的に学科のスパートをかけたのは11月くらいからでしたね。新美の講習会の学科の授業も取りました。家では集中できないので、家から新美までの間に単語をやることだけは徹底しようと思ってました。あとは…運です。

森田:運も大事ですね(笑)。ところで今後大学では特にどんなことを学びたいですか?

宮脇:映画を作りたい気持ちもあるんですが、今は映像を使ったメディアアートに興味があります。今までは画面の中で成立する映像に取り組んできたので、その枠から映像を解き放つような空間的な表現をしてみたい、という気持ちが強いです。

森田:楽しみですね。じゃあ最後に、いまこれを読んでいる映像科の受験生へ向けて「普段の生活の中でこんなことをするといいよ」みたいなアドバイスがあれば、ぜひお願いします!

宮脇:自分が今まで経験したことを思い出して欲しいと思います。家族とのやりとりとか、些細なことであっても作品になる。それは感覚テストだけじゃなくて映像作品を作るときにも役立つと思います。自分の経験は他人は経験したことがないと思うので。あとは、自分が好きなことを感覚テストに落とし込むことでしょうか。私はどこか行くときに街の様子を見ることが好きだったので、受験の直前でも街の特徴をよく観察していました。日常生活の中に作品の手がかりを探しながら、一日一日を過ごして欲しいです。

森田:今日はたくさん聞けて楽しかったです。宮脇さんのこれからの活躍に期待してます。
百瀬:また新美にも遊びにきてください!


《2020.5 オンラインでのインタビュー/宮脇さんご協力ありがとうございました!》

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