日別アーカイブ: 2020年5月3日

彫刻科 延長期間講評3

こんにちは!彫刻科の小川原です。
突然ですが、今僕が制作中の作品です。デッサン力がそのまま作品に直結するようなタイプの方向性で制作しているので、受験生には大学に入るまでの修練が重要なんだと言うことが何となく伝わればいいなと思い紹介します。僕は大学入学前までに鍛えた基礎力を軸にしてここまで来ています。あの時期が何となく過ぎてしまって何となく受かっていたら今の自分は無いと思っています。作品性に関しては大学に入ってから探して磨いていくものなので(一生かけて探していこう!)、今の時点で何も無いと言うのが普通だし、全くそれで良いと思います。しかし基礎力に関しては今しか伸ばせない(というか今やっておかないとその後伸びていくための入り口に到達できないまま多分彫刻が好きではなくなる)のです。大学に入ってから、「彫刻って本当に面白いな」って思って欲しいし、前のめりになって活動して行ける力(作りたいものを作れる力)を今、身につけてください!僕は彫刻が大好きだし、彫刻を目指すみなさんを全力で応援したい気持ちです!

僕の制作はデッサンから始まります。僕の作品は完全に具象的な作品で、洗練していくことを目指しているのでバランスやポーズで魅力を欠く事に対して極度に慎重なところがあります。デッサン(ドローイング)は短時間でアウトプットできるし修正も容易なので、デッサンで入念に印象を吟味してから実際の作品に臨みます。(絵で描けないものは彫刻では作れないという事です。)


まだ全てに土がつききっていないですが、この時点でバランスがおかしいと先がないので、心棒も含めてある意味最初の勝負の段階です。表面の造形とかはむしろ簡単で(ただ作ればいいだけなので)、全体をコントロールするところ(作品としての方向性が決まってしまうところ)が一番重要です。

全体に土がついた状態です。まだ細部は意識していないので動かそうと思えば簡単に変えられます。表面はどちらにせよ後々作るので、そっちに気を取られずに地に足つけてここで作品を深めていくことが必要です。大学に入る前にこの段階の重要性を理解して欲しいのと、実際に理想的な状態に持っていく感覚を掴んで欲しいです。


原型が完成しました。ベースが大事だと言っておきながら、作り切る集中力やそこに対する興味関心というのはあったほうがいいと思います。クオリティが放つ魅力というのは基本的に誰も否定しません。

もともと大学ではテラコッタと言って陶器の焼き物で人物表現を続けていましたが、卒業後木彫に方向を変えて5〜6年くらい続けました。その時は塑像はもう一生やらないだろうなと思っていましたが、あるきっかけがあって戻ってきました。ブロンズには元々あまり興味がなかったのですが(というより制作費用が高額すぎて選択肢の中になかった。普通は鋳造は外注するので、このくらいの大きさの作品を依頼するのに多分150万くらいかかる)最初は木彫のマケット(小品)用にブロンズで高品質のものを作ってみようと思い、取り組み始めました。どうせやるなら溶解炉も自分で作ってブロンズを溶かして鋳込みまで自分でやりたいと考え、失敗を繰り返しながらのめり込んでいきました。改良を重ね、今はほとんど失敗せずに大きな鋳造もできるようになりました。自分で鋳造すると安いし(この作品で15万くらい)、何より誰の手も加わっていない純粋さがとても魅力だと思っています。一度展示搬入日に間に合わず、業者に外注した時、帰ってきた作品は多分元の形通りなのですが、全く感情移入できず微妙な気持ちで終わってしまったこともありました。見ている人には同じでも、自分にとってみたら全く違うわけですね。みなさんはどうですか?形が同じなら気にしないでしょうか?僕は形的にダメなのは許せないタイプですが、素材の特性的に自然に出てきたミスというか欠点みたいなもの(例えば鋳造が完璧でなく、部分的にプツプツ穴が出来たとか)はむしろ作品としてプラスだと思っています。(形に影響を与えるものはダメです)あと、彫刻家で重要なのは発明の力です。予備校と違って作る作品は毎回違うし、必要な技術も変わってくることが多いです。そうした時成功までの道筋を自分で開拓できるかにかかっています。少し極端なことを言うと、この世界に新しい作品を生み出そうとするなら、この世界になかった新しい技術が必要になると言うことです。


仕上げ段階です。最終的に作品になるのは「今の状態」なので、これまでのこだわり以上の追求で徹底的に形を詰めていきます。溶接がなかなかうまくいかずヒヤヒヤしましたが、ここまできたら必ずうまくいく確信が持てるので楽しい気持ちだけで進められます。デッサンより塑像の方が、塑像より実材(ブロンズ)の方が、段々魅力が増してくると思います。もちろん各段階でそれぞれ最高にいいものにしようと言う気持ちは変わりませんが、かけている時間が全然違うのでそれだけ詰まった想いの強さが比じゃないのだと思います。実際の作品がデッサンに劣ると言うことはありえない話です。
美術を学ぶって言うことは、普通に学科の勉強をすることと全く違うと思います。学科であれば本人が必要だと思って必死に取り組めば相応の成長が見込めると思います。しかし美術はそううまくはいきません。受験に必要だからデッサンをする。ではうまくならないのです。全ては彫刻に対する「興味関心と憧れ」ですね。多くの人は才能とかセンスの問題とか言いますが、全く見当はずれだと思います。この時点で人によって実力に差があるのは確かです。でもそれを才能の差というには微々たる差でしかなさすぎて、僕にはあまりピンと来ません。それより今上手くなくても彫刻に対しての興味関心が溢れていて感動しながら学べる人。こんな人には後光が射して見えるほどです。

「好きこそものの上手なれ」

僕はこれが美術の全てだと思っています。これから美術を学んでいきたいと思っている人たちにはぜひ心に留めておいてほしいことわざです。

長くなってしまいました。すみません。それでは学生の作品と講評を紹介していきます。


これはかなり上手いデッサンです!端々までかっちりしていていいですね!ラベルも正確だと思います。まず最初に蓋周辺と、ボトルの肩あたりに目線が行くのが特に良いと思いました!床面の表現も前回よりグレードアップできています。しかし床に関してはまだもっとできそうです。作業は平面に沿っていますが、具体的な距離感は差がないです。奥はこのままで、手前にくるにつれて少しずつタッチにピントを合わせていっても良いです。モチーフの描写は素晴らしいです!小川原

レベルの高い素描ですね!
実際に見ていた空間や時間が、言葉の様に伝わってくる感じがします。こんな素描が描けるなんて憧れます!
鉛筆の扱いもとてもよく、主任と同じく床が気になったくらいで、素晴らしい1枚だと思います!
氷室

キャップが特に素晴らしいです。靴よりも描画材が浮いてる印象もなくより自然に絵の世界にスッと入っていけます。良い一枚です。新妻

あ!良い素描!!ものをみる視点が伺えます。そういものはやはり絵として惹かれますね◎(その分床だけもう少し。齋藤


上手いです!自刻像を作った時も部分にかける情熱がすごかったので期待通りの内容です!口角の形の入り込みがよく表現できていて、口を開きそうな感じがよく出せています!小川原

素晴らしいですね!
質感もがっしりと感じられ、言う事はありません!
氷室

よくできてますね、喋り出しそうな感じがしていいですね!魅力的だと思います◎齋藤

口の中に入り込むかたちの追い込み方がずば抜けていいですね!新妻


これはいいデッサンです!質感表現が素晴らしい。いわゆるデッサン的な鉛筆のタッチも無いくらい丁寧に描かれていて感動できます!床のフェイドアウトのさせかたがもう少し自然なら最高。グローブの左右のキワと床の境の少し陰が消えてしまっているところが惜しいです。ものは完璧です!小川原

素晴らしい素描だと思います!
この時期だけでも、彫刻1、素描、自らの可能性を最大限に引っ張り上げていっている姿勢も凄くて、言葉にならないくらいです。
素描だけで画集ができそうです!
同じ床面がスッーとフラットに奥に抜けていたら、どうだっただろうか?と思うくらいです。
これまた質感や色味や弓道の練習の歴史が直に心に伝わってきそうな1枚です!
氷室

床の影が確かに少し気になりますが、それを差し引いてもあまりある魅力です!使い古された年月や生地の厚みも感じられていい絵ですね。何気ないものが描くことで絵の中でとても尊いものへと昇華される、とても良い経験ができていると思います。新妻

これぞ素描って感じですね!質感から匂いまで伝わってきそうです。いいですね◎齋藤


おお!耳は特に良い感じです!立体感、空間感がビンビンに伝わってきます!耳たぶあたりの質の荒さが何となく気になりますが。全体的に彫刻的にかっこいいです!小川原

よく作れてますね!思いっきり表面処理をリアルにしてしまってもこの際良い勉強になりそうですね!新妻

耳ー〜
耳上手いです!!
最高!!
完璧じゃないかな
耳たぶが、もう少しトゥルンとしていれば!!
氷室

面がねじれながら入っていくのがしっかり見えます◎いいんじゃないかな!齋藤

いいデッサンです!完成度が高く、魅力があります。惜しい点2点。顔は斜めにみていますが、口は正面を向こうとして見えます。もう一つは本当に些細なことですが、顎からえらに掛けてのラインに首までの奥行きが欲しいです。その二つ以外に僕は言うことはありません!小川原

 熱量があって、きちんと描ききってあり、素晴らしい自画像だと思います!魅力的な素描です!
洋服や髪の毛の表現も、効果的に作れていてカッコイイです◎
しいて言えば、耳の描き方が力強いので、それに匹敵する眼差しが、パッと画面を見た時にもう少しグッと来ると最高だなと思いました!
氷室
やりきりが素晴らしいです!耳の下の顎の輪郭線が強いのと、ほんの少しだけ奥の目のサイズが小さい気がします。他はいいと思います!新妻
光線もしっかり意識できていていいです◎首もしっかり描けていますね。細かいかもしれませんが手前の肩の洋服が少し平面的に見えてしまうのがもったいないなと思うくらいです。齋藤

生きているようです。(最高の褒め言葉でしょう 笑)でも本当です!モデルを前にして、ただ形を写したわけでは無いはずです。もちろんバランスも気にしただろうし、輪郭も気をつけたし、顔も似せようと観察したでしょう。でも同じ意識をしているはずの最初の方の提出作品とはもうリアリティがだいぶ違います。同じ要素を観察したかもしれませんが、今は前よりもっと要素を感覚的に捉えて感覚的に手に伝えているのではないでしょうか?このクロッキーはどのくらい時間をかけたかわかりませんが、1時間かけた描きだし自画像よりずっとリアリティがあり、作品としての重みがあります。じゃあもしこの感覚がうまいことじっくり描くデッサンにも反映できたら…。めちゃすごいの描けるようになるでしょう!&塑像も同じです!小川原

僕も同意見です。クロッキーのやり方みたいなことからどんどん自由になっている感じがあり、とても良いと思います。今はどんなものでも絵になる!っていう感覚があるんじゃないかな。新妻

いいですね!
グッと見る人を引き込む力があります!
描画材は木炭でしょうか?
洋服周りの質感とか髪の毛の濃淡とか
ゾクッとするくらい、かっこいいと言うか魅力があり、眺めてしまいたくなります◎
全然関係はないですが
ドガのクロッキーか浮かびました!
ドガは、人体の捉え方も素晴らしい作家なので
良かったら、チェックしてみてください!
氷室

前回よりだいぶ詰めてこれたと思います。通常の自刻像でこのくらいの完成度が全体に行き渡った上でバランスが自然だったら芸大も受かると思います!ほんの些細なことですが、瞳に落ちる陰の濃さが違うのは見え方としてばらつきを生むので気をつけましょう。小川原
かなり改善されていますし、今回は両目にした事も、良かったのだと思います◎
質感にも迫れているし、目の作りも丁寧に精度を上げられているなと感じました。
ここまでの観察力と作り込みが、色々この先活かせていけると良いですね!
氷室
若干鼻筋のラインや目の平行が怪しい感はありますが、密度は前回のものに比べてかなり上がってきましたね!目もかげの落とし方や、ハイライトをモリエールのように形として盛り込んでしまったりいろんな表現があるので瞳だけいろいろ試すのもありかなと思います。新妻
よくなってます!左右の歪みがこれ以上いくとちょっと不自然になるかもしれないので気にしといてください、今は自然です!あと目線がすこし合うようなかんじがあるといいかなと思います。齋藤

流石に上手いですね。欲を言うと服(白い部分)と背景の重なるところがやや似てぼやけて見えてしまうこと(結構服自体は描いてあるのに。背景がもう少し鈍くくらいグラデーションでも良いかも)と、顔、手の質感、抵抗感は服以上にやれると最高だったくらいでしょうか。気合い入っているなと言う1枚を見せてもらえて嬉しかったです。小川原

氷室です
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素敵なモチーフで、上手です!!
こんな素描が描けるのは力が感じられます◎
視点、空気、描写、絵作り、興味がバランス良く出せています!
特に指導する必要ないレベルですが、前髪のアーチにもう少し立体感があれば、最高です◎ずっと見ていられるデッサンです!
ちょっとやそこらの気合いじゃ描けないレベルまで持ってきてて良いですねー。
前髪から帽子あたりが気持ち空間が奥に引き気味な気がする以外はけっこう良いと思います。新妻
いいですね!服の描写とかやばいです。思わず見入ってしまいます。モチーフ選びも絵作りで不思議な面白さでてると思います。齋藤
一部紹介しました!次回も力作を期待しています!