油絵科の箱岩です。皐月の花も満開のGWも過ぎまして、不安定ながらいい天気が続いていますね。

?昼間は汗ばむほどになってきて早くも初夏の気配がし始めましたが、皆さんいかがお過ごしですか?
油絵科は各クラス別々のペースで1学期の課題が進められているようです。
私の担当するクラスはオーソドックスに石膏を利用したデッサンの期間中です。週末はフォーンのトルソでした。この像の異常な肉付きは、インドア美術系の子には馴染みの無い大きさらしく、なかなか印象を捉えるのが難しかったようです。
?
腕や頭部の欠損により像全体が持つムーブマンが把握し辛いということもあるのかもしれません。
?
背後のこの突起も何を意味するのでしょうか?今回のブログは、なんとか全体像をイメージしてもらいたくて、フォーンのトルソについて少し検索してみた話です。
先ずは、ウフィツィ美術館 (フィレンツエ)にあるオリジナルのフォーンのトルソ「踊る牧神:ガッティトルソ」

ギリシャ彫刻の完璧な様式美は本当に美しいですが、それにもまして完璧であったものが欠損し崩壊する状態は輪をかけて美しいと思います。
無作為に残された形の美しさ、人工的な物が自然に還るときの輝きは本当に観ていて飽きません。
さて、フォーンの本来の姿はどんな物だったのか?
ギリシャ神話を紐解いてみますと、フォーンまたはパーンは、ギリシア神話に登場する神の一柱であるとされています。
アイギパーン(古代ギリシャ語: Α?γίπαν, Aigipān, 「山羊のパーン」の意)とも呼ばれ、ローマ神話におけるファウヌス(Faunus)と同一視されるとなっています。 このファウヌスが語源になりFaun(フォーン)と呼ばれているようです。長母音を省略して英語風にパンとも表記されます。また意訳して牧神、牧羊神、半獣神とも呼ばれるようです。
皆さんは、映画「ナルニア国物語」をご覧になったことがありますか?
先日、子供と観ていますと気になる人物が・・・・

劇中の、心優しく少々勇気の足りない山羊の半身を持つ彼こそが、牧神ファウヌスなんです。
さて、フォーンの正体が見えて来たところで、検索にヒットした画像を観ていきましょう。
?
こちらはジャン=バティスト・グルーズ(Jean-Baptiste Greuze, 1725年 – 1805年)彼は、フランスの画家で市民生活に題材を求めた風俗画を多く描いていました。当時は絶大な人気を誇っていたようですが、その後18世紀の忘れられた画家として低い評価を受けています。この半神半獣の男の素描を観る限り、とても力のある作家だったようです。


この2作品はヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens、1593年 – 1678年)によって描かれました。少々年老いて荒々しい様子の牧神ですね。ヨルダーンスはフランドルのバロック期の画家です。ルーベンス、ヴァン・ダイク同様、アントウェルペン派を代表する画家です。ヨルダーンスは画家アダム・ファン・ノールトに8年間師事し、後に芸術家ギルドの聖ルカ組合の一員となり、画家として揺るぎない地位を築くと、ルーベンスと同様に、祭壇画、神話画、寓話画を描き、1640年のルーベンスの死後、アントウェルペン最重要の画家となったとされています。
続いてはピーテル・パウル・ルーベンス(蘭: Peter Paul Rubens、1577年 – 1640年)は、バロック期のフランドルの画家、外交官。祭壇画、肖像画、風景画、神話画や寓意画も含む歴史画など、様々なジャンルの絵画作品を残しました。

ルーベンスはアントウェルペンで大規模な工房を経営し、生み出された作品はヨーロッパ中の貴族階級や収集家間でも高く評価されていました。この作品では上半身が中心に描かれていて分かりにくいですが、筋骨たくましい男の不敵な笑みがフォーンの気性を表しています。
??
こちらは《牧神パン》ルーヴル美術館、パリ
?
こちらは出典が不明なアート画像。映画のワンシーンの様ですが、気になります。
お尻の毛が薄くデザインされた特殊メイク。尻尾の感じが面白いですね。あっ、これがフォーンのトルソの腰のところにある突起ですね。
皆さん、全身像が想像できてきましたか?
?さて、『牧神』というだけあって、彼の仕事は家畜の世話であります。
自慢の笛を吹きつつ、ヤギや羊、牛などの家畜の世話をしているパン。同時に、狩人に獲物を与える神でもあり、豊穣の神としての性質も兼ね備えていたのです。
下半身は毛むくじゃらの山羊、頭にも山羊の角(のような突起)、おまけに顎には長い山羊鬚を生やした、かなり粗野な容姿の異形の半獣神、彼のこの奇怪な姿は生まれつきのものでした。と言うのも、伝令神ヘルメスが山中で羊を飼っていた際、土地の王の娘を見初めて、山羊の姿で接近し口説き落として身ごもらせました。
乳母は産まれ落ちた赤ん坊の姿に仰天し、悲鳴を上げて逃げてしまったといいます。
なんと、フォーンはヘルメスの子供!!
?
性格は父ヘルメスに似て陽気な子で、大喜びのヘルメスは、パンを獣毛皮にくるんでオリュンポスへと連れて行き、我が子の誕生を披露しました。
その変ちくりんな姿はすべての神々、特に酒神ディオニュソスを大いに喜ばせ、「すべての」を意味するパンという名がつけられたのだそうです。
パンはアルカディアの山中に棲まい、彼を拒んだニンフ(妖精)シュリンクスが姿を変えた葦で作った笙笛を手挟み、同じく彼を拒んだピュティスが姿を変えた松で編んだ冠をかぶった格好で、山野を逍遥してはニンフたちにちょっかいを出す。
しばしばディオニュソスにも付き従って、淫蕩な性豪ぶりを発揮し、あらゆるマイナス(狂乱したディオニュソス信女)たちと交わったとされます。なにしろ、ヤギ(ヤギは多産の象徴)ですからね。
?
明るく朗らかで快活な反面、気性が荒く、気難し屋。特に寝起きが悪く、岩陰で昼寝をしているところをうっかり起こそうものなら、不機嫌になるどころではない。
突如、不相応に激怒して、山々を轟かす雄叫びを上げ、これを聞く者、大抵は羊飼いたちや羊たちを恐慌に陥れた。この“パニック”という現象は、実はパンの名に由来するそうなんです。
?
さて、フォーンの容姿やキャラクターは見えてきましたか?皆さんが目にする多くの石膏像がギリシャ神話の神々を模しています。ギリシャ神話は登場する神々の関係や巻き起こる事件がとても人間的で不完全なキャラクター像が設定されていて、知れば知る程面白くなります。
こういう不必要に脱線した所にある情報が、案外自分のこだわりを生むことがあります。
こだわりは表現のモチベーションを高くしてくれるカンフル剤のような物です。
是非皆さんも、好奇心を旺盛にして日々の制作に打ち込んでみてください。