はじめまして、先端芸術表現科です。
これから隔週の日曜日、つまり月に2回のペースで、更新していく予定です。
ここでは、先端芸術表現科のことをもっと知ってもらえるように、授業のことや、私たち講師陣が考えていることを書いていきたいと思います。
ご存知のように、一般大学の入試と比べて、美大芸大受験は非常に特殊なものです。
そして、そのなかでも先端芸術表現科は、さらに特殊なところです。
先端表現科の入試では「個人資料ファイル」の提出が義務づけられています。
「個人資料ファイル」とは、自分の作品についての記録・資料や解説などをまとめたもので、簡単に言えば、あなたの「作品集」を提出する、ということになります。
つまり、新美の一年間で「作品集」ができるくらいの「作品」を制作する、ということなのです。おそらくこの点が、最も他科と異なる特徴だと思います。
入試の時点で、実技だけでなく「作品」も評価する、ということはつまり、あなたのことを「作品をつくる人」=「アーティスト」として見る、ということを意味しています。
もちろん、予備校の一年間で急に「アーティスト」になれるわけではありません。あくまでも、その素質、可能性を判断される、くらいに理解しておくとよいでしょう。
受験生が何を考え、何をやってきたのか、そしてこれから何をやろうとしているのか……そういったことを「個人資料ファイル」から読み取りながら評価してゆくのです。
したがって、新美の先端表現科では、一次試験の実技(素描と小論)と並行して、作品制作についての授業を重要視しています。
予備校の段階でいきなり作品制作に重点を置くという教育方針について、疑問の声が投げかけられることも多々あります。たとえば、「デッサンという基礎をおろそかにしたままでアーティストのマネゴトをさせるべきではない」「基礎がなけば応用も実践も無い」、といった意見は今もよく耳にします。
確かに、そういった主張は真っ当なものだと思います。デッサンを中核とした日本の美術教育は非常に高いレベルにあり、予備校の1?2年間にデッサンを集中して訓練することで得られる能力や感覚、考え方はかけがえのないものです。
とはいえ、すべてのアーティストにとってデッサンが基礎になるかと言えば、その限りではないでしょう。もちろん、多くの受験生にとってはデッサンが基礎であるべきだと思いますが、中には例外も存在するのです。実際に、現在国内外で活躍するアーティストを見渡してみれば、彼らの基礎となっている能力は実に様々です。ある人はシステムエンジニアの技術が基礎であったり、またある人は医学の知識が基礎であったりするのです。
先端表現科は、そのような例外的な才能を見落とすことなく、むしろその特殊性を活かした能力を育てることに力を注いでいる、といっても過言ではありません。
それから、これが最も重要なことなのですが、新美の先端表現科はけっして孤立したクラスではなく、他科との緊密な連携のなかで成り立っている科だということを知ってもらいたいと思います。
先端表現科の生徒であっても、個別指導のなかでもっとデッサンの特訓が必要だと判断すれば、空いた曜日に基礎科や油画のクラスを受講することを勧めますし、必要があれば他科の先生方とも面談をさせています。
つまり大切なのは、日々の授業のなかで、生徒それぞれの「適正」を観察することであり、必要なときに必要な技術を指導することができる、新美内での密な連携なのです。
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今回は先端表現科の第一回目ということで、少し抽象的な話をし過ぎたかもしれません。
次回からはもう少し踏み込んだ話ができればと思います。
さきほども書いたように、一般大学の入試に比べれば特殊な美大芸大入試のなかでも、さらに特殊なところが先端表現科です。
もしかしたら、先端表現科を目指そうと思っている受験生のみなさんは、その特殊さ故に孤独を感じたり、コンプレックスを抱えたりしているかもしれません。
このブログが、そんな受験生のみなさんひとりひとりにとって、前に進むためのヒントになり、励みになることを願いながら、書いていこうと思います。