日別アーカイブ: 2020年6月2日

映像科:合格者インタビュー②・鉛筆デッサン編

2020年春、新美映像科から志望校へ合格した人たちにインタビューする企画。
第二回は武蔵美映像学科の鉛筆デッサン150点満点中145点という超高得点で合格した藤井さんに聞きます。「鉛筆デッサン編」と題していますが「感覚テスト制作のヒント」「総合型選抜と一般選抜の両立」など、前回よりさらに盛り沢山な内容になりました。映像系受験生、必読!!
インタビュアー:百瀬(映像科講師、主に鉛筆デッサン担当)
進行:森田(映像科講師、主に小論文担当)

【入試で描いた鉛筆デッサンについて】

森田:今回は藤井さんに鉛筆デッサンのことから聞いていきたいと思います。
その前にまずは百瀬先生、映像科のデッサンの傾向を教えてください。

百瀬:武蔵美映像学科のデッサンに関して言えば、特徴的なのはモチーフですね。しっかり観察しないと描けない物がモチーフとされる傾向にあります。2020年度の試験では、トゲのある巻貝が一人ひとつ手渡されました。
藤井さんは実際に試験会場でこのモチーフが配布されたとき、どう感じましたか?


[武蔵野美大映像学科 鉛筆デッサン問題/新宿美術学院での入試再現制作用]

藤井:試験会場では梱包されて中身がわからない状態で配布されたんですが、試験官の方が「怪我に気をつけて扱ってください」とアナウンスしていたので「何が配られるんだろう?」と思いました。私は工業製品よりも自然物を描く方が得意だったので、貝殻だとわかって「よかった!」と思ったのが最初の印象です。

百瀬:武蔵美の鉛筆デッサンは問題の条件にも特徴がありますね。この問題では「モチーフは2個以上描くこと」「そのうち1個を克明に描くこと」とありました。こういう少しひねった問題文を読むと驚いてしまう人もいると思うんですが、藤井さんはどう解釈しましたか?

藤井:「逆にデッサンで克明じゃなく描くってどういうこと?」とやっぱり最初は戸惑いました。でも落ち着いて問題を読み直して、カメラで撮影するように、画面の一点に焦点を合わせて、「克明に描く」部分を絞ればいいんだなと解釈しました。
構図については、触っているうちに貝殻が自立することがわかったので、画面中央に1個を描いて、脇役の2個をシンメトリーに配置したらかっこいいかなって思って。構図が決まってからは、最後まで焦らず進められました。

森田:こちらがそのデッサンですね。


[入試再現作品/鉛筆デッサン/武蔵野美大映像学科]

百瀬:細部までしっかり描写されていて、出題の条件にも明確に答えているので、高得点も納得です。でもそれ以上に堂々とした構図で、絵としての魅力に溢れていると思います。私はこのデッサンすごく好きなんです。貝殻が舞台の登場人物のようにも見えてくるんですよね。

藤井:ありがとうございます。ただ、この入試再現のデッサンを今見ると・・・試験本番の方がもっとよく描けたということは言っておきたいです。再現の手を抜いたわけではないんですけど(笑)。やっぱり当日はすごく気合が入ったし集中してたので。

森田:わかりました。それは書いておきましょう(笑)。150点満点の試験で145点を取った渾身の一枚ですからね!
合格者作品が掲載された武蔵美のページもご参照ください)

【新美でのデッサン対策について】

百瀬:デッサン上達のプロセスについて聞かせてください。藤井さんは美術系の高校に通っていたので、新美で本格的にデッサンの対策を始めた9月の段階で既に基本的なデッサンのルールは知っていましたね。しかし教室で課題を制作していく中で、どんどん絵が変わっていった印象があります。

藤井:最初はほんとにガサガサなデッサンでした。私は濃い鉛筆でタッチを活かして擦らず描くのが好きだったんですけど、講評で並べられたときに自分の絵を客観的に見て「これじゃ通用しない」と思って、意識的に鉛筆の使い方を変えていきました。

百瀬:H系の鉛筆とB系の鉛筆の使い分けを体感的に理解したことで、一気に成長した印象があります。二学期の後半に食パンをモチーフに出題したときに、すごくいい一枚を描いてくれましたよね。元々しっかり暗い色を乗せられるのが藤井さんの強みだったけど、この頃から繊細さも加わり、暗い中にもトーンの幅が出てくることで、さらに深みのあるデッサンになりました。


[授業作品/鉛筆デッサン課題/新宿美術学院映像科]

藤井:教室で一緒にデッサン対策をしていた人たちがみんな上手だったのも良かったと思います。盗める技術がたくさんありました。今思い返すと最初の頃、私は細部を描くことを面倒くさがってたんだと思います。でも上手い人の進め方を見ると一枚を仕上げる中にルールがあって、色んな作業をしていた。「これは手を抜いたらダメな競技なんだな」ってことに気づけた気がします。

百瀬:「手を抜かない」ことはデッサンの作業としては「省略しない」という意識に通じます。最初にも言いましたが、映像科のデッサンで配布されるモチーフって細部が入り組んでいる、つまり「見ようと思えばいくらでも見ることができる物」なんですよね。そういうモチーフを前にして、制限された時間内でどこまで描き尽くすことができるかという、そういう特殊な「競技」なんだと思います。藤井さんはそこに気づけたからこそ、密度のあるデッサンを描けるようになったんですね。

【感覚テストについて】

森田:さて、デッサンの印象が強い藤井さんですが、感覚テストについても聞いてみましょう。大きく分けて「絵」と「文章」で表現する試験ですが、それぞれどんなことを意識していましたか?

藤井:絵については「差し色」をいつも意識してました。まず地の色を決めた上で、画面の中で目立たせたいものは、地の色の反対色で描くというふうに。高校で「100枚ドローイング」という課題を制作したときに、私は映像科の入試を控えていたこともあって、色鉛筆とパステルで色々な描き方を試してみたんです。そのことで自分なりの画材の使い方を見つけられた気がします。パステルは混色できるので絵具のように使い、色鉛筆は画用紙の目を埋めるように一番目立たせたいところに絞って使うようにしてました。
あとは絵画を中心に、作家の作品を研究していました。たとえば、原美術館で展示を見たサイ・トゥオンブリー(※)や、Twitterで知人がシェアしていたことがきっかけで知ったピーター・ドイグ(※)の色の表現からは影響を受けていると思います。


[藤井さんのドローイング作品から]

・ピーター・ドイグ(1959-):イギリス出身。東京国立近代美術館で個展開催中(現在は休館)
・サイ・トゥオンブリー(1928-2011):アメリカ出身。日本では原美術館(2015)DIC川村記念美術館(2016)での個展など。

百瀬:それを聞いて、この入試再現の感覚テストを見ると、納得できる気がします。私はこの絵の、スカートのプリーツのほんのわずかな白い線など、とてもうまいなと思います。これは画用紙の白を残しているんですね。こういう洗練された描写の表現が画面の中に現れてくることで、感覚テストの完成度もぐんと上がって見えるのではないでしょうか。


[入試再現作品/感覚テスト/武蔵野美大映像学科]

森田:文章表現については何をヒントにしましたか?藤井さんの文章は物語の粗筋のような書き方ではなく、物の感触や重さについての記述が入れられていて、独特の魅力がありました。

藤井:参考にしていたのは、実は小論文の授業です。映像科の教室は半分が小論文の対策、もう半分がデッサンの対策をしているので、講評を聞くこともありました。小論文では目で見た情報や手で触れた感覚を言葉で表現する課題が多くあったので、そうした小論文の中に出てくる表現が、自分の感覚テストの文章に活かされたと思います。

森田:確かに役立つ部分はあると思います。様々なきっかけから感覚テストを創作していたんですね!

【総合型選抜と一般選抜について】

森田:では少し話題を変えて、どういうきっかけで志望校を決めましたか?

藤井:高1のときに武蔵美の卒展に行ったんですが、校舎の雰囲気が素敵で「ここに通いたい!」と思いました。最初は油絵での受験も考えていましたが、高校の途中から写真の作品を作りはじめたことや、実は小さい頃に映画監督に憧れていたことを思い出して、映像に興味を持ちはじめました。最終的には「映像系なら職業にも繋がりやすいかな」と考えて、武蔵美の映像学科を第一志望にして対策をはじめました。

森田:・・・これは、聞いてもいいでしょうか? 実は藤井さんの合格は「三度目の正直」なんですよね(注:藤井さんは一般選抜以前に総合型選抜入試、学校推薦型選抜で惜しくも不合格)。

藤井:そうですね・・・。でも総合型選抜の試験を受けたことは、自分にとってプラスだったと思っています。クリエイション資質重視方式でポートフォリオを作ったこともそうですし、ディレクション資質重視方式でディスカッションの練習をしたことも本当に勉強になりました。あとは自己推薦調書(※)を書いた経験が特に大きかったです。あれだけの長さの文章を本気で書いたことはなかったので、自分が美術や映像について考えてきたことが整理されたと思っています。
そして結果的にですが、一般選抜で合格したことで、デッサンや感覚テストも成長することができたので、良かったと思っています。


[ポートフォリオの作品から/映像作品《MOVE》の一部]

百瀬:総合型選抜はレベルも高く「チャレンジだ」という気持ちで受験しても、やっぱり不合格だと落ち込んでしまう人もいます。でもその結果に引っ張られず、次の入試に向かって切り替えられたことは藤井さんの力ですね。本当に凄いと思います。

※自己推薦調書:出願の際に提出する書類で自分の活動や関心について書く。

【現在の制作について】

森田:では最後に、今どんな制作をしていますか?

藤井:6/1(月)~6/9(火)まで(※6/4(木)はclose)代田橋にある写真集などのアートブックを扱うflotsam booksというお店で、ポートフォリオにも収録した映像作品《MOVE》や写真作品を展示させてもらえることになったので、今はその準備をしています。受験生の息抜きにもなると思うので、お時間があればぜひ足を運んでいただけたらと思います。

百瀬:活動的でいいですね。大学は課題で大変なときもありますが、自分でどんどん制作をして、チャンスがあれば大学の外で展示するといいと思います。これからも頑張ってください!

森田:展示前の忙しい時にありがとうございました!僕も観に行かせてもらおうと思います!


[zoomでのインタビューの様子]
《2020.5 オンラインでのインタビュー/藤井さん、ありがとうございました!》

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