日別アーカイブ: 2016年10月16日

絵の上手さについて②

こんにちは。油絵科の関口です。
前回に引き続き、絵の上手さについて書こうと思います。

僕が考える上手さは、一般の人には分かりにくいものが多いと思いますので、今回は少しとっつき易いものから入って説明していこうと思います。
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クリムトは一般人にも人気が高く、この絵は数年前 世界で一番高い値段を付けた肖像画として、ニュースを賑わせました。煌びやかで、まさに宝石箱をひっくり返した様な美しさ。人物を見れば、かなり写実的な表現が使われており、分かり易い上手さだと思います。

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では、クリムトでも少し変わった作品を紹介しましょう。こちらも上と同じく、肖像画のジャンルになりますが、背後に中国風の絵が描かれています。これだけの数の顔が画面に登場したら、普通はうるさくて中央の人物は目立たないと思いませんか?
実は、この絵には中央の人物をメインにするための工夫が、色んなところに散りばめられています。一番分かり易いのは、明度対比です。

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こちらの左右を見比べると、右側の絵は背景に完全に同化してしまっていると思いませんか?
顔の明るさに対して髪の毛の調子の黒、同じく靴の黒、この二つを取るだけでもかなり背景と同化してしまいます。更には腰の周りにある馬の暗さもウエストを引き締めるのに使われているのが分かると思います。
こういう工夫を全てを書いていたら、物凄く長くなってしまいますので割愛しますが、クリムトの絵は平面的な処理をしているだけに、こういう工夫が細かいところまでギッシリと詰まっているのです。
こういう操作も絵を描く上での上手さです。説明する上での難易度は低いですが、この能力をある程度身につけるのは、それなりの年月が掛かります。

 

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あと、クリムトのこのタイプのデッサンも、かなり上手だと思います。ただ、こちらの方が説明するのが難しいかもしれません。
これを見ても、ミミズが這いつくばった様なヘロヘロの線で、何が上手いんだ?と思うかもしれませんが、長年絵を描いている人間からすると、こういうのも上手なんですよ。
例えば、この絵には調子を全くと言って良いほど使っていませんが、お尻にはボリューム感があると思いませんか?普通は陰影をつけて量感を表現しますが、線のみで表しています。お尻から奥の方にある腿までの空間も感じられると思います。身体の捻じれも上手く表現されていますし、服装や髪の毛、肌の質感の差も線のバリエーションで表現しています。唇なんかもササッと描いていますが、とても表情豊かです。・・・ここまで書いていると、言葉では中々表すことが出来ず、自分の表現力の乏しさに限界を感じます。

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どちらもクリムトのデッサンですが、右側のデッサンなんか、もはや僕のボキャブラリーでは、上手さを説明するのが困難です(笑)。

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こちらのデッサンは表情が豊かですね。人形とは違い、意思を持った一人の人間として描かれており、今にも何か喋りだしそうな気配さえ漂っています。この絵からはクリムトのこのモデルに対する想いや、人間そのものに対する眼差しを感じます。
ここに挙げた数枚のデッサンは、描かれた時間は僅か数分だと思いますが、この領域に到達する為には、一朝一夕の訓練では不可能なのです。

 
このブログを通して「上手さと言っても色々あるんだ…」という事が分かって頂けたら幸いです。