こんにちは。油絵科の関口です。
前回に引き続き、クリムトのお話です。今回は作品だけでなく、描かれたコスチュームの秘密にも迫っていきたいと思います。
クリムトは優れた観察力、美しい色彩、煌びやかな装飾性が作品の特徴で、上流階級の人達からも大変人気がありました。そのため豪華な肖像画を多数残しています。
モデルになった人の写真も残っているので、見比べてみるとソックリに描かれているのが分かりますね。
絵を描いている人の中には「クリムトみたいに模様を作品の中に取り入れてみたい」と、試してみた事のある人もいると思います。しかしやってみると、意外と難しくて大抵は失敗に終わってしまう筈です。その原因は「見て描いた部分」と「模様」との差があまりにも大きく、分離してしまうからです。では何故クリムトの絵は描写と模様が喧嘩せずに同居できるのでしょうか?
理由はいくつかありますが、僕なりにこの作品を利用して分析してみたいと思います。
①敢えて立体感が出ないようにモデルの正面から光を当てている。
②モデルを挟むように模様を配置しながら「手前の椅子」「奥の壁」という、平面でありながらも三次元的な空間設定を与えている。(地面のひし形も同様に三次元空間上の模様という設定になっている)
③背景の黒い色面と、モデルの髪の毛の黒がリンクしている。
④コスチュームの白っぽいグレーと、背景にある模様の白っぽいグレーがリンクして散りばめられている。
⑤コスチュームの中にある柄(この絵の場合はリボンと裾の一部など)を利用し、模様とリンクした部分がある。
⑥オレンジ色の背景とコスチュームのタッチがリンクしている。
こうやって分析してみると、模様と描写を絡めるための工夫が、至る所に散りばめられているのが分かります。
そして、これらの表現を容易にしているのが「コスチューム」である事に気付かされます。このコスチュームを担っていたのが、クリムトのモデルであり、愛人でもあったエミーリエ・フレーゲという衣装デザイナーです。
ところでクリムトのアトリエには、多い時で10数人のモデルが寝泊まりし、複数のモデルとの間に数人の子供がいた、とされています。
クリムトの映った写真には、こういうスモッグを着ている写真が多く見受けられますが、実はこの下はいつもスッポンポンだったとか(笑)。なるほど、そういう事でしたか…(笑)。そういえば顔付きもワイルドな感じですよね。
それはさておき、エミーリエの衣装が、クリムトの作品を作る上で重要な役割を果たしていたのは間違いありません。
こうやってみると確かに面白い衣装ばかりです。彼女の存在が、クリムトに多くのインスピレーションを与え続けてくれていた事でしょう。
クリムトは1918年にスペイン風邪で亡くなりますが、今際の言葉も「エミーリエを呼んでくれ…」だったとか。そのエミーリエも生涯独身を貫いたそうです。ちょっと素敵なお話ですね。それでは今日はこの辺で。