日別アーカイブ: 2014年9月12日

映像科:感覚テストにおける色彩表現

こんにちは。映像科講師の野澤です。武蔵美映像学科の感覚テストでは、鉛筆に加えて色鉛筆やパステルを使うことができます。そこで今回は、デザイン系の学科とも、ファインアートの学科とも微妙に異なる、映像科の試験対策における、色鉛筆の使い方のポイントについて解説していきたいと思います。

デザインと映像で、色彩に対する考え方はビミョーに違う

それでは、デザイン系の学科と映像科で、色彩の使い方はどのように異なっているのでしょうか。非常におおざっぱに言ってしまえば、「モチーフに対する色使いの恣意性(自由度と言い換えてもいいでしょう)が、デザイン系では高く、映像科では低い」ということです。

デザイン系の実技試験では、モチーフのシルエットをトリミングしたり、抽象的な幾何学図形を組み合わせるなど、高い画面構成能力が求められます。つまりデザイン系では、色彩は画面構成の一要素であり、モチーフにどのような色を載せるかという恣意性は高くなります。

一方、映像科の学科試験では、映像的な「シークエンス(場面と言い換えてもいいでしょう)」を表現することが求められます。つまり映像科の試験において、自分が表現したいシークエンスに対して、どの色を主調色に持ってくるのかは「その出来事が起きている場所はどこなのか、季節や時間帯はいつなのか、その出来事を見ているのは誰の視点なのか、その人物は何を思っているのか」といったシークエンスの諸条件から決まる、ということです。明度-彩度-色相という技術的な面から発想した色使いは、しばしばシークエンスを表現するという目的からズレてしまうことに注意しましょう。

たとえば、リンゴの色を決める時、デザイン系では、形態と色彩をいかに構成するかという、抽象的な関係性から考えてゆきます。このとき、リンゴの固有色を使わないという判断も十分ありえます。それに対して、映像科では、たとえばリンゴの色を敢えて青くした場合、そのシークエンスに「青いリンゴ」が登場する根拠があるかどうかが、問われてくるということです。

映像科志望も押さえておいた方がいい、色相・明度・彩度という考え方

さて、いろいろ前置きが長くなりましたが、こうした違いさえ理解しておけば、色鉛筆は感覚テストで、シークエンスの雰囲気を表現したり、シーンの焦点を際立たせるための有効なスパイスとして使用できます。色相・明度・彩度という、3つの属性で色彩を考えられるようにしておくことは、映像科の対策でも憶えておいて損はないでしょう。

色彩は、色相・明度・彩度という3つの属性で考えることができます。

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・色相
色相は赤、黄、緑、青、紫といった色の違いのこと。この色相を並べたものを色相環と呼びます。色相環の反対側に位置する色同士は、反対色もしくは補色と呼ばれ、最も対比が際立つ色の組み合わせとなります。

・明度
明度は文字通り、色の明るさのことです。明度を上げていくと明るくなり、明度を下げていくと暗くなります。

・彩度
彩度は色の鮮やかさのことです。彩度を上げていけばビビッドな色になり、彩度を下げていけばカラーの無い白黒になります。絵具や色鉛筆は、異なる色を重ね合わせると、濁った色になり、彩度が下がることに注意しましょう。蛍光色は特に彩度が高い色です。

シークエンスを際立たせるために、補色を利用する

さきにのべたとおり、映像科の試験において重要なのは、たんに抽象的な関係性から色が設計されていることではなく、映像を表現するという目的に合わせて色が選ばれている、ということです。しかし、特に映像で焦点となるような人物やモチーフを表現する際、補色対比が使えることは、いざというときプラスになるでしょう。補色とは、色相環の反対色同士のことです。2つの補色を組み合わせることで、対比的な色の組み合わせを作ることができます。

fig2

色鉛筆でテクスチャを作る

色同士の組み合わせよりも重要なのが、鉛筆のタッチでつくるさまざまなテクスチャです。色鉛筆の尖り具合、描線の方向、画用紙の凹凸、ガーゼなどを生かして、いろいろな質感を表現できれば、感覚テストにおける色鉛筆の使い方はぐっとひろがるはずです。制作の中で実践していきましょう。

fig3