こんにちは。油絵科の関口です。
今回も芸大油画専攻に現役合格した山道くんのインタビューの続きです。
技術がないと自覚していた山道くんが、どうやって入試を乗り切って行ったのでしょうか?また、敢えて技術を教えない、という方針を取った僕の内心は…。
インタビューを受ける山道くん。入試も全て終わり、和やかな雰囲気で行われました。
関:でも技術を教えないって、こっちもストレス溜まるんだよ(笑)教えた方が楽だから…。本人的にも武器を身に付ける事で安心するだろうしね。
山:技術を教えないと、どうなるんですか?
関:自分で考える力が身につくでしょ?今の自分に出来ることは何だろう…って。だって何も武器を持ってないんだから。
山:確かにそうでしたね。
関:例えばさ、技術が無い分ハートで勝負する人もいると思うんだよね。でも山道くんは熱いハートで絵を描くってタイプじゃ無いじゃない(笑)?
山:そうですね(笑)自分はそういうタイプじゃないです。
関:そこで本人の個性やセンスが出てくるんだよ。でもさ。水泳教室に通ってて泳ぎ方を教えないみたいな感じで(笑)。溺れそうになるギリギリなのを見てて、自力で泳ぐ事を覚えさせるみたいな感じだからね(笑)。本当にヤバイ時にはちゃんと浮き輪投げてあげるから(ニヤリ)みたいなね(笑)。
山:(笑)二学期位にデッサンでローラーを使うのを教えてもらって、ずっとやってたんですけど、冬期講習とか武蔵美の前に「それを使わなくても良いんだ…」って、分かったんですけど「描く力も無いし、どうしよう…」みたいな感じになったことがあって。
こちらが二学期に描いていた、ベースに木炭の粉をローラーを使って乗せたデッサン。この時は少し技術的な事も教えていました。本人は「描く力がない」と謙遜していますが、ものを描く力は二学期の時点で結構付いていたと思います。
関:そうだったね。特に武蔵美なんか、試験時間が6時間しか無くて、山道くんは描くのも無茶苦茶遅いし、技術もない…そんな中で何が出来る?って、考えた時に、山道くんの中で「あ、これだったらイケるんじゃない?」っていうのを見付けられたと思うんだよね。
山:あのブロック(とH鋼)を描いた作品ですかね?
関:あれを見た時に、やっぱり一年間の中で力を付けたんだな…っていうのを実感できて…だから僕の中では全然焦りが無かったというか、山道くんの事を信じてた。完全に信頼してたよね。それで、もし本番で失敗したらそれは仕方がないというか、絵だからしょうがないよね?っていう。一年間そういう感じ(真剣勝負)でやってきたんだから、山道くんを信じて賭けてみようって。
山:そうなんですね。
こちらが武蔵美直前に描いたブロックとH鋼の作品。一般的な見方だと二学期の作品の方が良く描けていると思いますが、僕はこの作品を見て、荒削りながら可能性を感じました。
関:僕には確信があったけど、山道くん的には芸大の一次も二次も不安しかなかったと思うんだけど…
山:絵画とは何か?みたいな、自問自答に二次試験の時は描きながらずっとやってましたね。3日目も筆がずっと止まっちゃって、僕は何をすれば良いんだ?みたいな感じでしたからね(苦笑)。
関:それが絵に深みを与えたんじゃないかな?
山:そうなんですかね?…だからあんまり描かなかったんですよね。
関:考えてる時間が長かった?
山:そうですね。考えながらやってると、すごい時間が早く経っちゃって…
関:うん。でもそれって凄い大切な事だと思うよ。僕も作品を描いている中で、作品に触れてる時間よりも、考えてる時間とか、自分の絵を見てる時間の方が長いもんね。絵ってある一手を打ったら全然局面が変わってくるから、変わってきた局面に対して、こう考えたら良いんじゃないかな?とか、こういう手を打った方が良いんじゃないかな?とか、刻一刻と変わっていくものだと思うから。ただ作業をしていれば完成する…そういうもんじゃ無いと思うんだよね。
山:そうですね。
関:だから山道くんが試験の時に考えてる時間が長かったっていうのは、作品を作る上では重要なプロセスだったんじゃないかな?だって一手で全然変わってくるから…
山:そうですよね。見え方とかもそうですもんね。
関:この一手で、この前に置いた布石が効いてきた…とかね。で、丁度良いところに行ったんだろうな。って思ってるんだ。
山:そうなのかな…(照笑)?
関:自分としては手応えがなかったかな?
山:うーん。自分の世界にはなっていたかな?っていうのはあるんですけどね。多分世間からは評価されないだろうな…っていうのは分かってましたから。
関:それはでも良いんじゃない?
山:そこが難しいところですよね。これが絵だ!っていう(正解が)のが無いから。確かに自分のモノにはなってたけど、なんか汚いし(笑)、雑だし…こりゃあどうすれば良いんだ…みたいな感じですよね(苦笑)。
関:でも、そういうところも含めて、芸大の先生方はよく見ていたのかな?って思うけどね。例えばもっと表面的にはよく出来ている作品も多分一杯あったと思うんだよね。
山:そうですね?。自分の隣の人とかも…。
関:そういう中で山道くんの作品が選ばれて、もっと完成度の高い作品が落とされてしまったという可能性だってあるんだけれど、今の芸大の先生方が見ている所っていうのは、表面的な完成度だけでは無いな…っていう気はするよね。
山:むしろそこを見られたら…おしまいだっていう風には思ってました(笑)。
関:僕はある1つの確信があって、そこはそんなに見ないだろう。と思ってたから、敢えて技術は無しで行こうと(ニヤリ)。
山:そうですね。試験前に先生にそう言われて、僕もあんまり上手に描こうとは思ってなかったですね。自分の狙いが伝わる位なら良いかな?っていう。
ー次回(最終回)に続くー