日別アーカイブ: 2014年3月17日

誰が自然を殺したのか?②「スペイン編」

こんにちは。油絵科の関口です。
芸大の合格発表も終わりましたね。皆さん本当に一年間お疲れさまでした。

さて、前回に引き続き、静物画=natura?morta(死んだ自然)という解釈を巡り、誰が自然を殺したのか?推理を働かせ、容疑者を洗ってみようと思います。

 

bodegón(ボデゴン)について
ところで、静物画というジャンルはいつから単独で描かれるようになったのでしょうか…?
17世紀のスペインでは、bodegón(ボデゴン)と呼ばれる静物画が流行します。
ボデゴンとして有名なのはファン・サンチェス・コターンですが、一般の人には馴染みのない作家名だと思います。しかし名前は知らなくても「この絵なら見た事がある」という人はいるかもしれません。コターンの作品は構図が独特で、規則的で数学的な配置が特徴です。ある意味ボデゴンらしいスタイルを確立した一人だと思います。MBAGR-bodegoncardo
コターン作「食用アザミのある静物」

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コターン作「マルメロの実、キャベツ、メロン、胡瓜」

さて、本題に戻りましょう。ボデゴンを洗ってみると、一人の容疑者に辿り着きました。

 
容疑者②スルバラン
フランチェスコ・デ・スルバランはスペインのバロック時代に活躍した画家で、カラバッジォの影響を強く受けた一人です。カラバッジォについては前回触れましたが、人間性はともかく、スペインのバロック絵画に大きな影響を与えました。特に極端に強い明暗の使い方は、陽射しの強いスペインの風土に合っていたのでしょう。スルバラン静物
スルバラン作「レモン、籠のオレンジ、茶碗」

スルバランの静物画の特徴は、漆黒の中から浮かび上がる、キッチリ整然と並んだモチーフ。動きが極端に少なく、静寂を感じさせる構成と、感情の起伏が殆ど感じられない冷たい描写にあります。
そのスルバランの描いた一点が目に止まりました。
羊が描かれているこの作品。スルバラン/羊
スルバラン作「神の子羊」

無表情で顔色一つ変えず、手足を縛り、、、まさかあんな大人しそうな人が…この男が自然を殺した犯人なのか?

しかし前述した通り、スペインではbodegónという名称で静物画を表現しています。このbodegónという言葉はスペイン語で「酒蔵」を意味するbodega(ボデガ)の増大辞(ニュアンスとしては大きいという意味)だそうです。日本ではbodegónを「厨房画」と訳し、それ自体が独立したジャンルのように扱われています。言われてみれば確かに厨房にあるものばかりです。スルバランは羊も食べ物として描いた可能性がありますね。
ちなみにスペインにもnaturaleza?muerta?というイタリア語やフランス語と同じ「死んだ自然」という解釈の言葉が存在しますが、殆ど使われていないそうです。

うーん、どうやらスルバランもどうやら犯人ではない様ですね。
という事で次回に続きます。

 

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番外編 ベラスケス
卵を調理する老婆
ベラスケス作「卵を調理する老女」

スペインを代表するバロックの巨匠、ベラスケスの描いたこの作品。単独の静物ではありませんが、当時スペインで流行していたカラバッジォとボデゴンの影響が強く表れています。ちなみにベラスケスがこの作品を描いた年齢は、何と19歳!!
ちなみに僕は19歳の時、この作品を何枚も模写しましたが、少ない色数の中で幅を出したり、一つひとつの静物の質感を描き分けたり、当時の自分にはたいへんに勉強になりました。僕にとっては非常に思い出深い一枚です。