日別アーカイブ: 2013年8月20日

日本画科- 夏期講習会&石膏像よもやま話&雑記?

日本画科講師の金子です。

立秋とは名ばかり。暦の上ではすでに秋ですが、猛暑厳しい今日この頃、夏期講習会もいよいよラストスパート!日本画科「後期総合コース」、「後期私大対策コース」の2コースも大詰めです。引き続き、熱中症には充分注意を払っていきましょう。

日本画

― 今夏は、受講生からしばしば「石膏デッサンが苦手」、「石膏像が嫌い」との相談を受けました。

この石膏デッサン。日本画科の受験では共通一次に石膏デッサンを課している大学も少なくなく、避けて通ることの出来ない課題と言えるでしょう。

そもそも石膏像は、古代及びルネサンス彫刻など西洋彫刻の複製に用いられていますが、今日のように図版や映像で美術品を簡単に閲覧できない時代、デッサンや考古学の資料として、また美術館の展示物として重要な役割を果たしてきたようです。日本では外国人が持ち込んだ石膏像や、東京美術学校が輸入した石膏像が、日本国内で流通するきっかけとなったようですね。

東京藝大絵画科日本画では、一次試験の石膏像出題率が高く、そんな私もまた受験生時代に、多くの石膏像をデッサンしました。その延長で、西洋彫刻にも大変興味がありました。中でもミケランジェロの「瀕死の奴隷」の石膏半身像は、その力強い生命表現に魅力を感じたものです。腕を下げた側からの動勢を静とするならば、腕を上げ頭部が傾く方向に仰け反る動勢は動と捉えることが出来ます。そして逞しい肉体表現と、繊細な衣のレリーフ表現に感銘を覚えます。行き届いたディテールは、下半身の造形表現にも及びます。

瀕死の奴隷←囚われ人(瀕死の奴隷)(15世紀)

この点においては、日本の古典彫刻にも共通した意識を感じます。特に下半身の造形には、行き届いた観察が見られます。

― 興福寺金剛力士像(鎌倉時代)は、視覚で伝わってくるものばかりではなく、気迫や士気など、目には見ることができないものも伝わってくるものを感じ取ることが出来ます。怒気迫る作品であるにもかかわらず、繊細な表現性を感じます。

阿形像が154.0㎝、吽形像は153.7㎝で、木造彩色の寄木造。阿形と吽形は互いに共鳴し、阿吽と言われるように、二体で一つの完成を見ることが出来ます。この像は、鎌倉時代、運慶の弟子である定慶によって作られ、それまでの力士像が甲冑で表現されていたのに対して、初めて裸体で芸術的な肉体表現を行ったものであると言われるものです。

興福寺金剛力士像←興福寺金剛力士像(鎌倉時代12世紀)

眉をつり上げ、むき出すような眼は、憤怒の形相をさらに力強いものにし、そして何よりも、肩・腕・足・手と、筋肉の隆起する様子が、大げさと思えるほど巧みに表現されていますよね。肋骨から首筋の筋肉の表情が強調され、両手の動きから生じる動勢が、腰、脚から裳裾まで伝わり、体全体に躍動感を与えていることが分かります。そう、憤怒の形相は、全身の躍動感と力強さと連動し、さらに気迫に満ちた表情となっているのです。絵画と彫刻、表現そのものは全く違うように見えるが、実は共通点が多い。表現の手法は違っても、表現の本質は共通しているからでしょうか。

東大寺戒壇院四天王像(天平時代)もお薦め。この四天王像は、興福寺の金剛力士像にはない表現を持ち合わせた天平時代の彫刻で、その名の通り、東方を守護する持国天、南方を守護する増長天、西方を守護する広目天、北方を守護する多聞天の四体の像からなります。東大寺戒壇院四天王像では、鎧兜まで行き届いた繊細な写実が、像全体の緊張感を生んでいます。深く静かに表現されたその美は、四体でつくり出されていることで、さらに緊迫したものになっているのかもしれません。

それぞれ鎧を身にまとった姿をしているにもかかわらず、体全体の動きがやわらかく、動勢が美しいのは、やはり下半身のしっかりした造形‐腰と足の造形表現と捉えることが出来ます。

戒壇院←東大寺戒壇院四天王像 広目天(天平時代8世紀)

まさしく日本の古典彫刻も侮ることなかれ、ですね。

時には素晴らしい美術作品に触れ、「目」を養い、また「思考」し、さらに「感性」を磨いていくことも大切なことです。自分の制作に結びつく発見があるかもしれません。それには、まず興味を持つこと。これがとても大切なことだと思います。苦手意識を抱いているものも同じなのかもしれません。興味の入口は何でも良いのです。石膏像の場合は、本物を間近で見ることが一番なのですが、まず全身像の図版を見ることをお薦めします。

新美は夏期終盤に3つの増設講座「石膏デッサンゼミ」、「解剖学ゼミ・ヌードクロッキー」、「美大学科増設ゼミ」を設けています。「石膏デッサンゼミ」、「解剖学ゼミ・ヌードクロッキー」が興味への入口になってくれたら素晴らしいことだと思います。是非、受講をお薦めします。

― 最後に。

私事ながら、8月1日(木)から8月17日(土)まで個展を開催し、さらに中日にあたる11日(日)には2部構成イベント(絵画と詩のコラボ、座談会)を開催しました。その座談会ゲストに、デザイン科総合コース主任 滝口浩史先生を招かせていただきました。

■「金子朋樹 展 -飛天-」 至2013年8月1日(木)~8月17日(土)
東京九段 耀画廊/東京都千代田区九段南2-8-5

2013年8月11日(日) 『絵画と詩歌-その衝動のありか-』

◇第Ⅰ部(13:00-)「絵画と詩歌の共調-詩の朗読」 金子朋樹×岡田ユアン(詩人)
◇第Ⅱ部(14:30-)「座談会-イメージをはぐくむ-」 金子朋樹×岡田ユアン(詩人)×滝口浩史(写真家)

デザイン科総合コース主任 滝口先生は、私金子の地元中学校同期(静岡県御殿場市立南中学校)であり、東京藝大同期でもあります。格別示し合わせたわけでもなく共に新美で同じ年数だけ浪人生活を送り、また、共に学生時代から新美の講師を勤め、現在は主任デスクを共にするという不思議な縁。何故か藝大の合格発表当日、待ち合わせてもいないのに門前で鉢合わせてしまったという間柄でもあります。

イベントではその滝口先生を招き、創作における根源的な共通項を互いの創作の現場から掘り下げていきました。特に滝口先生の「イメージの組み立て方~シリーズ化」、「イメージの連鎖~コラージュ、編集、アレンジ」という話はとても参考になりました。

滝口先生とは初めての座談会でしたが、結果、とても充実した内容となりました。このように、自分とは違う視点で創作活動を行う友人もまたとても大切なものです。

― というわけで、そろそろ夏の疲れも溜まってきた頃だと思いますが、晩夏を乗り切っていきましょう!

尚、新美日本画科では全受験生としっかり向き合うことを大切にしています。日本画科に興味ある受験生がいらっしゃいましたら是非見学にいらしてください。また、日本画科受験についても質問があれば講師がお答えします。お気軽にどうぞ。