カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

油絵具の色ついて(赤色編)

こんにちは。油絵科の関口です。

今回から油絵具の色について、書きたいと思います。・・・が、すべての色について書くと凄?く長くなってしまいますので、今回は赤色について書きたいと思います。

 

ところで皆さんが使っている赤色の絵の具は何を使っていますか??カドミウムレッド? ブライトレッド? ピロールレッド? クリムソンレーキ? カーマイン?…実はこれらの色は油絵具が使われ始めたルネサンスの頃には存在しない色でした。

ファン・デル・パーレの聖母
ヤン・ファン・エイク作「ファン・デル・パーレの聖母」1431?1436年

当時あった赤色はたったの2色。バーミリオンとマダーレーキのみです。(厳密に言えば、あと何色かは赤は存在しました)この絵の赤がたったの2色で描かれたというのは驚きですね。

 

 

・バーミリオン

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顔料として使われる粉の状態では、赤色というよりも橙色に近い不透明な色で、顔料は硫化水銀から出来ています。
辰砂
結晶の状態では透明感があるようですね。色味もかなり違います。これを粉になるまですりつぶして行くと、上の写真の色に近付いて行くというのが何だか不思議です。現在の油絵の具の顔料は化学合成で作られたものを顔料として使用しています。

硫化水銀ということで、元は硫黄と水銀ですから、当然毒性の強い絵具です。(逆に漢方では薬として処方される事があります。専門的な事は分かりませんが、分量によって毒にも薬にもなるという事なんでしょうね)その毒性の所為か、現在ヨーロッパでは廃色になっているメーカーもある様です。

このバーミリオン、今の日本の油絵具の中では一番高価な部類になります。深みとずっしりと重みのある朱色で、カドミウムレッドとはかなり異なる趣を持っています。ちなみにバーミリオンチントとかバーミリオンヒューというのは安価ですが、バーミリオンに似せて数色を混ぜて作った色になります。そもそもチントというのは「染める」という意味を持っていますので、○○チントという名前の付いた色は、安価な絵の具同士を混色して作られた色になります。「本物は使った事が無い」という人は、一度お金を貯めて買ってみて下さい。違いがハッキリと分かると思います。

朱肉
バーミリオンは日本でも辰砂、丹砂、丹沙と言って昔から朱色として使っていました。神社にある鳥居の朱色、朱色の漆、朱墨、高級な朱肉、日本画の朱色の顔料として今も現役です。日本画の岩絵の具は、今でも上の写真の様な鉱石をすり潰して使っているいるそうです。

 

 

・マダーレーキ

西洋茜の根から抽出される染料で、暗い赤褐色の色が抽出されて、それを油絵の具の色材として使っていました。西洋茜
西洋茜 の根

マダーレーキは、残念ながら現在では油絵具としては作られていません。現在使われているローズマダーは、合成染料を体質顔料に着色して使用しています。総じて天然の染料より合成染料の方が耐光性が良く、大抵は発色も良いようです。ちなみにこのマダーレーキは現在もヴァイオリンのニスの色として現役だそうです。ヴァイオリン
ヴァイオリンの赤褐色はマダーレーキだったんですね。油絵の具として使われていた色と同じかどうかまでは分かりません。

 

赤い色を表現するに当たり、下の層に朱色のバーミリオンを使い、明るさにはシルバーホワイトを混色したものを使用して描いていきます。まずはこの状態で一旦乾燥させます。

この絵の具が乾いた後、マダーレーキを薄くグレーズ(透明に薄く色を重ねる技法)していきます。暗い所は乾いたらマダーレーキを重ねて、乾いたら重ねて…を何回も繰り返していくのです。図版では分からないかもしれませんね。暗いところが少し盛り上がっているんですよ。

ファン・デル・パーレ部分
ファン・デル・パーレの聖母(部分)

実質的にこの2色だけで、色んな赤い色をこれ程までに巧みに表現していたというのは、絵を描いている人にとっては驚きですね。恐らく重ねて色を表現していくのには、かなりの時間と根気が必要だったと思います。
現代では、画材屋さんに行けば赤だけでも数十色あるのですから、当然表現できない色なんか無い筈!!・・・なんですが、皆さん如何でしょうか?

まあ修行あるのみです(笑)。是非頑張って下さい。

ちょっと、息抜き、謎解きまんがリニューアル。

こんにちは、油絵科夜間部です。今年からは、入試に限らず、アートの世界を笑って見過ごしてやって下さい。パロディーではなく、その作家の作品のオマージュです。

 

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どなたの作品かおわかりになりましたか?今回の解説は、次回行ないたいと思います。

表現すること。

渋谷校の箱岩です。

本来なら10日水曜に更新なんですが、ありがたいことに月火水の生徒が多くなっていまして、ちょっぴり忙しかったりで余裕がありませんでした。うっかりしていて、すみません。

いよいよ梅雨の声が聞こえてきましたが、体調管理はできているでしょうか?

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油絵科の授業は、ものを観察する基本を学ぶ為の普っ通~のデッサンからスタートして、

今週は、自分の考えや気持ちを画面を通してどのように訴えるべきか?

俗に言うところの構図の問題へと進んできました。

写真は、通称「構図ドリル」でお勉強中の油絵の生徒さんです。

その昔、東京芸大の斉藤教授や私が受験生だったころに熱心にやっていた、巨匠の作品から明暗を抜き出す遊びを、文字通り超コンパクトにして大量にこなすドリル形式のトレーニング。数式の問題や単語のトレーニングと同じくコツコツやるのがコツ。

でも、単純だけど意外におもしろいと思います。

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油絵科は、曜日によってばらついていますが、ゆっくりと人数も増えています。講習会からは更に生徒が増えて、一段と活気が出てくるのではないでしょうか。

プレ夏期講習もございますので是非興味が有る人は、ご参加を。

さて先週末は、受験科デザイン工芸科・油絵科共に保護者会が開催されました。

生徒の御父母とお話しすると、いろいろなご意見や御要望に出会います。一つ一つのお話を聞きながらも御父母のお子さんへの期待や、心配する親心が伝わってきまして、中学3年生の受験生を持つ親としましては共感しきりでした。勉強熱心な御父母の様子に、親としても見習うところがたくさんございました。今後の指導にもしっかり取組みたいと思います。

現役生の指導は、背後で支えるご家庭や高校の先生方の思いごと受け止めながら、本人の可能性を最大限に伸ばすことなんだと実感しました。

一方で生徒の気持ちも経験が浅いせいもあって、日替わりでころころと表情が変わっていきます。なるべく多くの対話をしながら一人一人のモチベーションを引き上げていこうと心がけていますが、全部の気持ちを拾えているのか?なんてことが、気になってしょうがないってところが油絵科らしさですかね。

けれど、日替わりの気分の斑が連続して、自分のリズムが作られ、間合いが作られ、表現の基となる今の自分が形づくられると思います。「心とはコロコロと転がればなり」です。絵画の世界は手先の上手、下手なんてどうでもよくて、気分や気持ちが伝わるか否か。共感を呼ぶか否か。それは、描写力達者なほうが良い場合もあれば、あきれるほどの脱力の中で語られる場合もあると思います。

まとめるなら 「描写力 < 思いの強さ」 これはとっても大事だということ。

もし絵を描いていて、何かしっくり来ないことが有るとすれば、それは受験の為にという理由で無感情に筋トレをさせられているからであり、絵画の本質とは違う物差しをあてがわれているからかも知れません。

「自分を表現すること」

もし、美術の世界に足を踏み入れ、それを望むなら、新美の油絵科を一度覗いてみるべきだと思います。絵画の懐の深さを味わってみてください。

それでは、渋谷校でお待ちしております。

 

 

新美の「雰囲気」

こんにちは学生課です。
今日は新美を紹介します。

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正面玄関。
エレベーターで各アトリエとつながっています。

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スロープを挟んでもう一つ入り口があります。
こちらは総合受付で、申込みなどの窓口です。

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エレベーターで2階にあがると学生課と基礎科のアトリエがあります。
各美術館のチラシや割引券、招待券もあったりするので気軽に来てください。

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自習室や学科の教室

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5階には画材店のtoolsがあります。
画材だけでなく、お菓子にも力を入れてくれています!

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新美の油絵科には大量の書籍があり
授業後は学生たちが日々研究をしています。

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デザイン、工芸、日本画アトリエ

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彫刻科の道具たち。

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ざっくりですが紹介してみました。
これからも新美の「雰囲気」を紹介していきます!
では。

デューラー

こんにちは、油画科昼間部の仲間です。
授業の参考としてデューラーのエッチング(銅版画)を使用したのですが、面白いものを発見したので紹介したいと思います。

アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)(1471年 – 1528年)はルネサンス期に活躍したドイツ人の画家です。ダヴィンチより19歳若いといえば分かりやすいでしょうか。
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こちらの自画像がとても有名なのでご存知かもしれません。精巧な画面で威厳がありますが、どこかほにょんとした人間らしさも感じます。少し離れた眼球は鑑賞者を見つめているのかその奥を見ているのか、神秘的な雰囲気を醸し出しています。

Adam and Eve
こちらが授業で使用したエッチングの『アダムとイブ』です。木炭紙大に拡大して見せたのですが実際は24.92×19.21cmと、小さな作品です。拡大してもものすごい密度でした。

この作品は、旧約聖書の一節で蛇がイブを誑かし、アダムと食べてはいけないと言われている知恵の実を食べようとしている場面を描いています。アダムさんネズミのしっぽを踏んでいますね。よく見ると色々な動物を発見することができます。右上の空が見えているところにはヤギが、その右下の3つの点々は鳥が飛んでいる様子です。知恵の実のなる林にしたのかと思いきや真ん中の木は他の木の葉っぱと違いイチジクの葉に似た形になっていますね。さりげなく植えられていて私なら間違って食べてしまいそうです。
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部分を拡大してみると、蛇の頭に何やらついていますね。これはなんでしょうか。針か何かを刺されていじめられているのでしょうか、実はアンテナで後ろに操作している奴がいる?いやいや、、ぶすぶすと痛そうですね。とても細かい絵で実は蛇の頭の長さが1cm程度です。見えないところでデューラーが遊んだのでしょうか。

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気になって他の作家のアダムとイブを調べてみました。
こちらはハンス・バルドゥングのアダムとイブに登場する蛇です、やはりなにやら頭についています。こちらの蛇はすごい顔ですね。

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こちらはどうでしょう、デューラーの別作品ですが、どうやら針ではないように見えます。頭飾り?なのでしょうか。
調べてみると実は聖書の世界の蛇はもともと足と翼と王冠を持っていたそうで、イブを誑かした罪でそれらを取り上げられ地を這う生物になってしまったそうです。針やら何かが刺さっているのではなく生えていたのですね。話は逸れてしまうのですが、ゴジラに出てくるキングギドラはよく考えると足と翼そして王冠っぽいものをもっています。罪を犯していない立派な蛇なんでしょうかね?

技術的なことの参考に探してきたのですが、面白い発見があると見ていて楽しくなってしまいます。人の心を動かすことってすごいですね。勉強も重要ですが新鮮に作品を感じていきたいものです。

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