カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

ダ・ヴィンチのデッサンに思う事

こんにちは。油絵科の関口です。台風の影響でこの連休は生憎なお天気になってしまいましたね。気温が一気に急降下して、僕も風邪をひいてしまいました。

さて、皆さんは三菱一号美術館で開催されているレオナルド×ミケランジェロ展をご覧になりましたか?僕も先日…と言いたいところですが、今回は色々と訳あって、まだ見に行けていません。ダ・ヴィンチとミケランジェロのデッサンが同時に見られる機会は滅多にありませんし、会期も9月24日迄なので、かなり混んでいると思いますが「まだ見ていない」という人は是非見に行ってくださいね。
これが今回の目玉作品「少女の頭部/〈岩窟の聖母〉天使のための習作」


「岩窟の聖母」(ルーブル美術館所蔵作品)この右側にいる天使の顔を描くために制作された、と言われています。今回来ているデッサンとは大分雰囲気が異なりますね。

 

僕がダ・ヴィンチのデッサンの本物を初めて見たのは、大学3年の春に友達と二人でイタリア旅行に出かけた時です。旅の後半にヴェネツィアを訪れたのですが、偶然にもそこでダ・ヴィンチのデッサン展が開催されていることが分かりました。「折角なので見ていこう」ということで、即決で美術館に直行。そこで見たのは、言葉を失うほどの見事なデッサンの数々…。ダ・ヴィンチの展覧会としては、かなりの作品数があったと記憶しています。そこでは、まさしく神の領域とも言える圧倒的な技量と、数百年経っても人の心を揺さぶり続ける巨匠の息遣いを目の当たりにし『自分は今まで一体何をやってきたのだろう?』と大きなショックを受けた事を今でも鮮明に覚えています。

ところで、当時のデッサンには様々な素材が使われていますが、時々金属尖筆(せんぴつ)と書かれているものを見かけます。英語ではmetal pointと表記し、イタリア語ではpunta metallica(尖った金属の意味)と表記します。
punta metallica↑ 画像はフィレンツェの老舗画材店Zecchi社のHPより。紙も特製らしいです。

ダ・ヴィンチのデッサンには、銀を使った銀筆(シルバーポイント)というものをよく見かけますが、この銀筆も金属尖筆の一つです。この頃はまだ鉛筆が発明される前の時代です。
金属の棒で紙に描く事をちょっと想像してみて下さい。例えば鉄の棒を使って紙に描いても凹むだけですよね。白い塗料が塗ってある壁に金属が当たって擦れると、そこに跡がつくのを見たことがありませんか?金属尖筆を描画材として使う原理は正にそれです。
普通の紙だと金属よりも柔らかいので金属が削れず、描くことができません。シルバーポイントを使うには、紙に白亜地などの下地塗料を予め塗っておく必要があります。
あとシルバーポイントは銀を用いているので、描いた直後と数ヶ月後では色が変わるそうです。僕は使ったことがないのですが、シルバーポイントを使用したことのある絵描きさんによると、いわゆる燻し銀のような、赤味がかった黒色になるそうです。

そしてこのシルバーポイントは、一度描いたら消すことができません。

デッサン(dissin)のことをイタリア語でディゼーニョ(disegno)と言いますが「印をつける、刻印する」という意味もあるそうです。「神が刻印した自然なるもの」を感じ取り、それを「紙に刻印する」という行為がデッサンというものの本質なのかもしれません。

『絵を描き続ける』という人生

こんにちは。油絵科の関口です。ここ数日は肌寒いくらいの陽気が続き、そうかと思うとまた暑さが戻って来たり…これでは身体がついて行けませんよね。皆さんも体調管理には十分気をつけましょうね。

さて、高校生は既に二学期がスタートしているところが殆どですよね。夏期講習は丸一日絵だけを描いていた人も多かったと思いますので、高校生活に戻って「ああ、そう言えば、こういうのが日常だったんだ…」と感じているのではないでしょうか?『絵を描く』という行為が、非日常的な行為であった事に気付かされる瞬間ですね。

そのうち皆さんも『絵を描く』ということが日常になって行きます。現時点では不安な事もあると思いますが、自分が『絵を描き続ける』という人生をイメージしてみて下さい。数十年後に振り返った時、今はそのスタート地点にいる状態なのです。

 

最近ふと「もし自分が『絵を描かない人生』を選んでいたら、どんな人生だったのだろう?」と思い、不安になる事があります。「一体自分には何が出来たのだろう?」と。…今の皆さんとは逆ですね(笑)。
僕は高校を卒業するまで、瞬間的には何かに興味を持つ事ができても、絵以外で何かに没頭できるものには出会えませんでした。当時は自分に才能があるかどうか?など、全く考えた事もなく、ただひたすら好きな『絵を描く』事に没頭し、上手くなりたい一心で、心配する親を説得し上京して来たのです。

自分が新美生だった頃、先生はこう言いました。「絵描きというのは職業の名称ではない。生き方なんだ!」と。

人生を歩んで行く中で、国籍、性別、年齢、立場も越えて色んな作家さんと出会い、美術に携わる人の純粋さや直向きさを目の当たりにして来ました。時には影響を受け、意見を交わし合い、楽しい想いも、辛くて苦しい想いも、沢山重ねてきました。そしてこれからも、それは続いていきます。
いろんな方から届くDMの数々。これは9月前半のものの一部。1週間で10枚以上来ることもあります。全てに足を運ぶのは難しいですが、なるべく見に行くようにしています。

自分が『絵を描き続ける』という人生を選択した事に、一切後悔はありません。それが自分の生き方なのですから。

無差別級石膏デッサン?!

こんにちは。油絵科の関口です。
夏期講習会も残すところあと一週間になりましたが、アトリエを回っていると、この夏で成長した人が多く見受けられます。この勢いを2学期に継続してもらいたいと思います。

さて、油絵科では年間を通して石膏デッサンをやる機会は、他の科と比べるとそんなに多くはありません。それは石膏デッサンが苦手な子が多いから(笑)…という訳ではなく、芸大入試においても静物、手渡し、イメージ…色んな課題が出題される可能性があるからです。

ところで、日本の石膏デッサンは、元を正せば18世紀からフランスのアカデミーで導入されていたものが基盤となっています。そこではギリシャ・ローマ時代の彫刻から模った石膏像をモチーフとしてデッサンを行うことがあったようです。そこに当時留学していた日本の画家達が「西洋的なものの見方」として導入したのが最初と言われています。しかし、当時のヨーロッパで行われていた石膏像のデッサンは、現在日本で行われている石膏デッサンとは大きく異なります。
以前このブログでもピカソがわずか11歳の頃に描いた石膏デッサン↓を紹介しましたが、今の受験生のものとは見た感じからかなり違いますよね。

19世紀中頃、フランスでは画学生が石膏像を描くための教本というものが存在し、それが次第にヨーロッパ中に広まっていったようです。当時の人はその教本をある程度マスターしてから実際の石膏像を描いていた様です。著者はシャルル・バルグという人で、石膏デッサンに興味のある人なら、名前を聞いた事があるかもしれませんね。実は今年の4月にこの教本の復刻版「シャルル・バルグのドローイングコース」が出版されたばかりです。値段は6,200円とちょっと高めですが「日本の受験生の描く石膏デッサンとは違うものを見たい」「受験とは関係なく自分もこんな風に描きたい」という人は、手に入れてみては如何でしょうか?
実は上のピカソのデッサンもこの教本の模写なんですよ。どおりでうまく描けているわけです。しかし…模写とはいえ、このクオリティーは小学生のものとは思えませんね。

※この教本の図版を見たらわかりますが、向こうでは石膏デッサンでも線を使うのが当たり前のように行われています。

日本における石膏デッサンは、戦後の混乱を乗り越え、1950年代には芸大受験で毎年のように出題されるようになります。そして受験者数の増加に伴い、過酷な受験戦争が繰り広げられた1970年代にかけて独自の進化を遂げていきます。線という概念を排し、調子と面によるデッサンが主流になっていくのです。バルール、フォルム、マッス、ムーブマンなど、今の油絵科の学生には殆ど死語になってしまい(笑)意味の通じない(では困るんですが…)キーワードが重要視されていた時代です。
年配の絵描きさんに聞くと、昔は年齢不詳の石膏デッサンの神様みたいな人もいたそうで、そういう人は同じ受験生の間でも尊敬の眼差しを向けられていたそうです。

独自の進化を遂げた石膏デッサンも、時代とともに少しずつ変化していきます。

最後になりましたが、新宿校では9月17日(日)~18日(月・祝)に全国石膏デッサンコンクールが行われます。このコンクールは浪人生、現役生(もちろん高校1~2年生も可です)の年齢を問わず、科の枠も取り払い、内部生、外部生も含め、全ての科の人が受講できる無料のイベントです。
皆さんがどんな石膏デッサンを描いてくるのか、今から楽しみにしています。上位の人には賞品も出ますので「我こそは・・・」と思う人は是非参加してみてください。詳しくはこちらから↓
http://www.art-shinbi.com/event/2017/drawing/

パレットハンター

こんにちは。油絵科の関口です。皆さん元気に絵を描いていますか?
さて、新美で指導していると、生徒のパレットが否が応でも目に入ってきます。このパレットは、画材の中でも脇役として扱われて、語られる事は少ないと思います。そこで今日はパレットに焦点を当てていきたいと思います。

これは王道のパレットの使い方。明度と色相が端から順番に並べられ、パレット上でグラデーションになるように色を置き、中央で色を混ぜて使用します。

ここから先は学生のパレットです。
油絵科は色んな意味で自由な科なので、そのパレットも実にバラエティに富んでいます。
ただ自由とは言え…思わず「おい!」ってツッコミを入れたくなるものも多数存在します(笑)。
例えばコレ。

チョビッと出すにも程があるんじゃない?って感じですが、本人は水彩と同じ感覚なんでしょうね。にしても色相は偏ってるし、白は5種類も出して拘ってる!いや、よく見ると左にもう一種類のホワイトがちょっと多めに出されていますね(笑)。謎が深まるパレットです。

そしてコレ。

上と同じくチョビッと派ですが、明らかに穴の穴の意味が分かってませんね(笑)。お?い、そこは親指を入れる穴ですよ?。しかも自分から見て手前に絵の具を出したら、色を混ぜにくいでしょ(笑)。まぁこの子は椅子の上に置いて描いてるんでしょうけどね。

余談ですが、キャンバスサイズのサムホールと言うのは、このパレットが語源だって知っていましたか?昔、持ち運び用の道具箱に入れる為、小さなパレットが流行したそうです。パレットには当然持つための親指の穴(thumb hole =サム・ホール)が開けられています。そのパレットに絵を描いた…という説が残っています。それなのにサムホールの木枠裏の刻印がSMっていうのが意味不明ですが…
おっと話が逸れましたね。


この人のパレットは一見そんなに変じゃないと思うかもしれませんが、彼は右利きです。という事は裏にして使っていたという事です。本人に聞いたら、指の周りが痛くなってしまい「どうも変だなぁ」と思っていたそうです(笑)。

あと段ボールでこんなのを作ってきた子がいました。
ちゃんと折りたたみ式だそうです(笑)。でもダンボールじゃ油が染み込んじゃうでしょ(笑)。

流石にこんなのばっかりじゃマズイので、良い意味で変わってるのも紹介しますね。

この人のパレットは、まるで荒々しい抽象絵画の様ですが、タッチの大きさやストローク、彩度の抑え方や鮮やかな色の利かせ方、絵の具の厚さに幅がありますね。結構上手に絵が描ける人だという事が伺えます。


この人のパレットもグレーの作り方がとても綺麗です。ところどころ紙パレットの白が覗いていたり、下から白い調子が透けているのも綺麗に見える要因です。これを見ただけでセンスが良いというのが伝わってきます。


この人のは何と形容したら良いのでしょうか?でもコッテリしたマチエールの作品になるんでしょうね。

あと、以前海老澤先生が課題でモデルさんに持ってもらう木製パレットを自作して来た事があったのですが、それがあまりにも素晴らしい出来でしたので、是非紹介したいと思います。

それなりの大きさのあるパレットなので、少し重量があります。そこで負担を軽くする為に持った時、身体にフィットする様に下方にえぐられたカーブがついています。一度持たせて貰いましたが、重心もバッチリで「これなら長時間持っていても疲れないだろうなぁ」と思いました。

それから、こんなのをメールで送って下さいました。グザヴィエ・ド・ラングレの技法書に載っているパレットだそうです。面白い形ですね。海老澤先生、貴重な資料をありがとうございました。

これより下は、名だたる巨匠達のパレットです。
カンディンスキー
ゴッホ
ゴーギャン

セザンヌ
ピカソ
マティス

こうやって色んな人のパレットを見ると、その人の性格が見えてくるような気がしますね。皆さんも隣で描いている友達のパレットを一度覗いてみてください。よく知っている人なら、その人らしさが滲み出ていて、思わずニヤッと笑ってしまう筈です。パレットハンティングというのは結構楽しいですよ。

アルチンボルド展で遊ぼう!

こんにちは。油絵科の関口です。
今日は芸大説明会の日ですが、このブログを読んで興味を持った人は、上野の西洋美術館で開催されているアルチンボルド展にも立ち寄ってみて下さい。

このアルチンボルド。1527年ミラノ生まれという事で、ルネサンスより少し後の時代、マニエリスムの画家に分類されるそうです。一番最初にこの人の絵を見た時、てっきり近?現代の作家だと思いました。

ただ、何回か画集などで作品を見ていく中で「技術的にはルネサンスの巨匠には遠く及ばない画家」と感じていましたので、今回はスルーしようと思っていました。ところがネットである動画を見たことで、行く気マンマンに…。思わず初日に行ってきてしまいました(笑)。
僕も動画をブログに載せようと思って撮影・編集までしたんですが、アップの仕方が分からず断念。今回はいつも通り画像での紹介とさせて頂きます。気になる人は僕の携帯に動画がありますので、気軽に声をかけてください。


何と言っても今回やってみたかったのは、入り口にあるモニタでの動画。自分がモニタ前に立つと、野菜や果物が集まってきて顔を作り、自分の動きに合わせて動き出します。こういうのもAR(拡張現実)の一種なのでしょうか?新しい技術に疎く、詳しい事はよくわからないのですが、とにかくやってみるとことをお勧めします。


初日にもかかわらず結構並んでました。


本人に似ているかどうかは分かりませんが、人によって顔を構成する野菜の配置が異なる様です。


この親子は、お父さんが赤ちゃんを抱っこしてモニタの前に。可愛らしい赤ちゃんの顔は、何と白い玉ねぎ1個(笑)。体はカボチャで、手はズッキーニ。お母さんも思わず「何これ?。顔が小ちゃ過ぎる?」と言いながら、笑って写真を撮っていました。大人は顔だけですが、赤ちゃんだと体まで表現してくれるみたいです。


そしてこのお父さんが赤ちゃんを少し下ろして、モニタの前に立つと…モジャモジャ頭も葉っぱで表現!何気に素晴らしい再現能力(笑)。


僕もモニタの前に立って、首を振ったり口を開けてみたりして楽しみました。僕に似て…ないですけどね。


最後は重力で野菜が落下して終了。結構楽しかったです。

これをやる為だけに、お金を払って入場したつもりですが、レオナルド・ダ・ヴィンチのデッサンにもお目にかかれました。正直なところ展示にはあまり期待していなかったので、ちょっとお得な感じがしました。是非皆さんも訪れてみて下さい。

最後になりましたが、新美の1階に出来たギャラリーで僕の展覧会を見て下さった皆様、ギャラリートークに来て下さった皆様、誠にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
次回はデザイン科の多田先生の展覧会です。僕もどんな展示になるか楽しみにしています。皆さんも色んな作品を見て、美術に対する興味をドンドン広げていって下さい。
http://www.art-shinbi.com/event/shinbi-gallery/