カテゴリー別アーカイブ: 映像科

映像科:合格者インタビュー③・小論文/文章表現編

2020年春、新美映像科から志望校へ合格した人たちにインタビューする企画。
第三回は武蔵美映像学科の感覚テスト&小論文ともに約9割という高得点で合格した大作くんに聞きます。あまり情報がない「美大映像系小論文の秘訣」に始まり、映像を志望してから合格までの道のりを話してもらいました。これを読めば映像科の入試対策のすべてがわかる!
インタビュアー:森田(映像科講師、主に小論文担当)
進行:百瀬(映像科講師、主に鉛筆デッサン担当)

百瀬:今回は映像科の入試で特に重要な文章表現をメインテーマに、大作くんに聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。
大作:よろしくお願いします。

【入試での小論文について】

森田:これは武蔵美映像学科の小論文試験、過去3年分の問題をまとめた資料です。「小論文」という名称の試験ですが、モチーフが配布されるという特徴があります。さらに近年特徴的なのが「言葉で描写する」という問題文です。一般的な「小論文=自分の考えを書く」という前提からすると、かなり特殊な問題と感じられると思います。
大作くんはこの「モチーフを言葉で描写する」小論文に対して、どういう姿勢で挑みましたか。


[2018-2020武蔵美映像小論文問題/モチーフは新宿美術学院での入試再現制作用]

大作:この形式の小論文は、新美の課題で色々なモチーフで何度も練習しました。その中でも僕の場合は「石」や「水」など自然物の方が書きやすかったです。自由に考えを展開させることができたし、壮大なテーマについて書くことが単純に楽しかったので。逆に工業製品の場合は機能を説明することを意識したので、発想が硬くなることもありました。
なので、試験会場で貝殻が配布された時は「いける」と思いました。

百瀬:試験で書いた小論文がこちらですね。具体的に示すために赤で書き入れています。


[入試再現作品/小論文/武蔵野美大映像学科]

大作:貝殻というモチーフも新美の課題で一度制作したことがあって、その時に書いたのが「貝殻に生命を見いだす」という結論でした。ただし試験で出題された貝殻とは種類が違うので、同じ内容を書くわけにいかない。本番は「自分が書きたいテーマ」と「目の前のモチーフ」にどう折り合いをつけるか、と終了時間ギリギリまで苦労しました。

森田:この大作くんの小論文で良いなと思うのは、段落が①→②→③と展開されるにつれて、その「書きたいテーマ」へ一歩ずつ着実に向かっていることですね。①で貝殻の全体像を描き出し、②で細部に着目する様子からは、カメラで撮影するような視点も想起させられます。
注目したいのは「隆起」と「節目」という語です。モチーフの貝殻のほんの数ミリの細部を示して、言葉で描写しています。そしてその描写が最終的な「手の中の貝殻は命の一生を見せてくれる」という結論に繋がっていくんです。見事な構成だと思いました。

大作:この「節目」は迷いました。何という言葉を使えば、その部分を指し示せるんだろうと。

森田:適切だと思います。細かい表現に関してさらに言えば、最初は「節目の様なものが~」と書いて、次に「その節目は~」と書いている。これは読む側が「節目」という語を自然に受け入れられるように、言葉の「置き方」を工夫しているんですね。小論文も文章による「表現」であるからには、こういった細かい部分での言葉の扱いを大切にしてほしいと思います。

【美大の小論文って?】

百瀬:そもそも映像科で対策をする以前に、高校などで小論文を書いたことはありましたか?

大作:一度も書いたことなかったです。大学入試の小論文について漠然としたイメージは持ってましたが、映像科で小論文を書き始めて、それとは全然違う印象を受けました。小論文ってある程度は形式や解答に決まりがあると思っていたんですが、特に映像科の小論文は、発想したことを自由に書けるという意味で、別の種目だと感じました。
でもそのことがわかったからこそ、小論文を書くことに対しての迷いはなくなりました。

森田:・・・というと?

大作:うーん・・・。実は最初は小論文を選択すること自体に戸惑いがありました。美大に行くなら絵を描けるようになって入学したい気持ちがあったので。デッサンやらなくて本当にいいのか?と。でも映像科の小論文対策が単なる受験勉強じゃなくて、物の見方を鍛えることになるんだと気づいてからは、積極的に取り組めるようになったんです。制作中や講評会でアドバイスを貰う中で「どんな物にも面白いと思えるポイントがあるんだ」という発見がつねにありました。

森田:そのように発想を転換できるとレベルアップできるし、何より書いてて楽しいですよね。小論文を通して獲得した「物の見方」は、これからの制作にも必ず役立つと思います!

【感覚テストについて】

百瀬:感覚テストについてはどうですか? 大作くんは小論文で培った文章力を活かして、魅力的な場面を創作していた印象があります。

大作:感覚テストについては全然心配してなくて、試験でも落ち着いて制作できました。構想自体は新美でも何度か制作した、水族館を舞台とした息子と父親の関係を描いた作品です。僕の場合、ある時期から「魚を画面の中に登場させること」と「近しい人との微妙な心理をテーマとすること」が面白くなってきて、試験本番で「その先は」というキーワードを見たときに、この内容で行こうと思いました。


[入試再現作品/感覚テスト/武蔵野美大映像学科]

森田:確かに感覚テストは何度か制作すると、出題されるキーワードに関わらず、自分にしっくりくるモチーフやテーマが見えてきます。予備校での制作はそのきっかけの一つですね。
文章表現で注目したのは、作品中の巨大な魚の扱いです。この魚が何なのかは文中で明示されていません。ちなみにこれは・・・

大作:ジンベイザメです。「ジンベイザメが、」というふうにはっきり画面内に書かなかったのは、その方がこの作品の雰囲気ー少し神秘的な感じーを演出できると思ったからです。
客観的に考えてみると、魚自体がちょっと不思議な存在で、何を考えているかわからない。そのジンベイザメの存在を経由することで、父親の職場である水族館に来て、少し戸惑っている主人公の内面的なものを表現したかった作品です。

百瀬:なるほど。私がビジュアル部分でも優れていると思ったのは構図ですね。文章を書くために中央にスペースを空けていますが、画面の四隅にバリエーションがあるので単調に見えないんです。こういう絵づくりは、文章をしっかり読ませる上でも効果的にはたらいています。

【映像系志望のきっかけ】

百瀬:少し時間を遡って、対策をはじめたきっかけについて聞いてみます。大作くんは高2で新美の基礎科に入学しました。その時点で映像を志望することは決まっていましたか?

大作:はい。小さい頃から絵を描くことが好きで美術大学にも興味がありました。ある時自分の興味を挙げてみると「映画、CG、音響、ゲーム・・・全部映像だ!」と気づいて、美大の映像系に絞って新美の基礎科に入学しました。
部活が忙しかったこともあって週一日の土曜コースから始めたんですけど、デッサンを勉強することは新鮮で、本当に楽しかったです。

森田:映像に興味を持ち始めて、特に影響を受けた作品はありますか?

大作:映画だとクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』。アニメーション作品では今敏監督の『パプリカ』。SF的な設定を描いたフィクションが好きです。現実そのままじゃない、空想を見せる手段としての映像に興味があるんだと思います。特に人間が手を加えられない「時間」や「生命」をテーマにした作品に惹かれます。


森田:面白いですね。というのは、そうした「時間」や「生命」といったテーマは大作くんの小論文や感覚テストからも感じられたからです。
ところで冬期の短期の講習では、高2でありながら受験科の授業にも参加してくれました。他の受講生は入試が迫った受験生ばかりで・・・大変でしたか?

大作:本当に大変でした。それこそ小論文でモチーフを渡されても最初は全然意味が分からなくて脳味噌が熱くなる感じ(笑)。疲れすぎて家に帰った直後に玄関で寝てました。
でも周りの人たちの作品や制作に対する真剣な姿勢を見て「ああ、受験生ってこういう感じなんだ」ということを感じられたのは、高2の段階の経験として重要でした。

【映像科の授業について】

森田:高3になって4月からは木金日コースで対策をしてきました。どんな授業が印象に残っていますか?

大作:受験科だから毎回感覚テストや小論文をやると思ってたんですけど、実際は一学期に映像制作の実習や作品鑑賞の授業があって、ちょっとびっくりしました。予備校って感じじゃなさすぎて。

森田:そうかもしれません(笑)。でも「映像ってどういう表現手段なんだろう?」っていうところからスタートすることで、最終的に感覚テストや小論文の発想を深めてほしい、という意図があります。もちろん純粋に映像を作ることを好きになってもらいたいという気持ちもありますが。

大作:実際、映像制作実習はめちゃめちゃ楽しかったです。僕の場合は美術系の高校でもなく、それまで基礎科以外で作品制作を経験していなかったので、実習を通じて「制作する側の目線」を意識できるようになったと思います。普段から映像に対して「なんでここはこういう工夫をしているんだろう?」という意識で見られるようになったことは、大きかったと思います。


[映像制作実習での作品展示の様子]

森田:新美周辺のフィールドワークを元にした映像制作実習では、集合住宅をモチーフにしてプロジェクションマッピングのような投影を試みていましたね。とても印象的な作品でした。

【個人の経験から作品をつくる】

百瀬:では最後に、ちょっと抽象的な質問ですが、大作くんが映像科の受験対策をしていたときに大事にしていた考えって、何でしょうか?

大作:・・・(ちょっと考えて)・・・「個人の経験が作品を強くする」ということでしょうか。最初の面談で森田先生に「受験のために部活を早く引退した方がいいですか?」と質問したら「部活も経験として大切だからやり切った方がいいよ」って言われて。その時は「そういうものかな」としか思わなかったんですが、その後、感覚テストや小論文を制作していく中で、確かに自分自身のこれまでの経験が活かされていると感じることがありました。

森田:そんなこと言ったかな?・・・言いましたね(笑)。でも本当にそうです。美術や映像でなくとも何かに集中的に取り組んだ経験は、作品を、特に言葉の表現を強くすると思います。
とはいえ、部活と両立しながらしっかり対策を続けて、最終的に学科も含めて高得点で合格したのは、何より大作くんの力だと思います!

百瀬:そうですね。今回は聞けませんでしたが、学科対策についても本当に一生懸命取り組んでいました。大作くん、今日は本当にありがとうございました。
大作:ありがとうございました!


《2020.6 オンラインでのインタビュー/大作くん、ありがとうございました!》

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映像科:合格者インタビュー②・鉛筆デッサン編

2020年春、新美映像科から志望校へ合格した人たちにインタビューする企画。
第二回は武蔵美映像学科の鉛筆デッサン150点満点中145点という超高得点で合格した藤井さんに聞きます。「鉛筆デッサン編」と題していますが「感覚テスト制作のヒント」「総合型選抜と一般選抜の両立」など、前回よりさらに盛り沢山な内容になりました。映像系受験生、必読!!
インタビュアー:百瀬(映像科講師、主に鉛筆デッサン担当)
進行:森田(映像科講師、主に小論文担当)

【入試で描いた鉛筆デッサンについて】

森田:今回は藤井さんに鉛筆デッサンのことから聞いていきたいと思います。
その前にまずは百瀬先生、映像科のデッサンの傾向を教えてください。

百瀬:武蔵美映像学科のデッサンに関して言えば、特徴的なのはモチーフですね。しっかり観察しないと描けない物がモチーフとされる傾向にあります。2020年度の試験では、トゲのある巻貝が一人ひとつ手渡されました。
藤井さんは実際に試験会場でこのモチーフが配布されたとき、どう感じましたか?


[武蔵野美大映像学科 鉛筆デッサン問題/新宿美術学院での入試再現制作用]

藤井:試験会場では梱包されて中身がわからない状態で配布されたんですが、試験官の方が「怪我に気をつけて扱ってください」とアナウンスしていたので「何が配られるんだろう?」と思いました。私は工業製品よりも自然物を描く方が得意だったので、貝殻だとわかって「よかった!」と思ったのが最初の印象です。

百瀬:武蔵美の鉛筆デッサンは問題の条件にも特徴がありますね。この問題では「モチーフは2個以上描くこと」「そのうち1個を克明に描くこと」とありました。こういう少しひねった問題文を読むと驚いてしまう人もいると思うんですが、藤井さんはどう解釈しましたか?

藤井:「逆にデッサンで克明じゃなく描くってどういうこと?」とやっぱり最初は戸惑いました。でも落ち着いて問題を読み直して、カメラで撮影するように、画面の一点に焦点を合わせて、「克明に描く」部分を絞ればいいんだなと解釈しました。
構図については、触っているうちに貝殻が自立することがわかったので、画面中央に1個を描いて、脇役の2個をシンメトリーに配置したらかっこいいかなって思って。構図が決まってからは、最後まで焦らず進められました。

森田:こちらがそのデッサンですね。


[入試再現作品/鉛筆デッサン/武蔵野美大映像学科]

百瀬:細部までしっかり描写されていて、出題の条件にも明確に答えているので、高得点も納得です。でもそれ以上に堂々とした構図で、絵としての魅力に溢れていると思います。私はこのデッサンすごく好きなんです。貝殻が舞台の登場人物のようにも見えてくるんですよね。

藤井:ありがとうございます。ただ、この入試再現のデッサンを今見ると・・・試験本番の方がもっとよく描けたということは言っておきたいです。再現の手を抜いたわけではないんですけど(笑)。やっぱり当日はすごく気合が入ったし集中してたので。

森田:わかりました。それは書いておきましょう(笑)。150点満点の試験で145点を取った渾身の一枚ですからね!
合格者作品が掲載された武蔵美のページもご参照ください)

【新美でのデッサン対策について】

百瀬:デッサン上達のプロセスについて聞かせてください。藤井さんは美術系の高校に通っていたので、新美で本格的にデッサンの対策を始めた9月の段階で既に基本的なデッサンのルールは知っていましたね。しかし教室で課題を制作していく中で、どんどん絵が変わっていった印象があります。

藤井:最初はほんとにガサガサなデッサンでした。私は濃い鉛筆でタッチを活かして擦らず描くのが好きだったんですけど、講評で並べられたときに自分の絵を客観的に見て「これじゃ通用しない」と思って、意識的に鉛筆の使い方を変えていきました。

百瀬:H系の鉛筆とB系の鉛筆の使い分けを体感的に理解したことで、一気に成長した印象があります。二学期の後半に食パンをモチーフに出題したときに、すごくいい一枚を描いてくれましたよね。元々しっかり暗い色を乗せられるのが藤井さんの強みだったけど、この頃から繊細さも加わり、暗い中にもトーンの幅が出てくることで、さらに深みのあるデッサンになりました。


[授業作品/鉛筆デッサン課題/新宿美術学院映像科]

藤井:教室で一緒にデッサン対策をしていた人たちがみんな上手だったのも良かったと思います。盗める技術がたくさんありました。今思い返すと最初の頃、私は細部を描くことを面倒くさがってたんだと思います。でも上手い人の進め方を見ると一枚を仕上げる中にルールがあって、色んな作業をしていた。「これは手を抜いたらダメな競技なんだな」ってことに気づけた気がします。

百瀬:「手を抜かない」ことはデッサンの作業としては「省略しない」という意識に通じます。最初にも言いましたが、映像科のデッサンで配布されるモチーフって細部が入り組んでいる、つまり「見ようと思えばいくらでも見ることができる物」なんですよね。そういうモチーフを前にして、制限された時間内でどこまで描き尽くすことができるかという、そういう特殊な「競技」なんだと思います。藤井さんはそこに気づけたからこそ、密度のあるデッサンを描けるようになったんですね。

【感覚テストについて】

森田:さて、デッサンの印象が強い藤井さんですが、感覚テストについても聞いてみましょう。大きく分けて「絵」と「文章」で表現する試験ですが、それぞれどんなことを意識していましたか?

藤井:絵については「差し色」をいつも意識してました。まず地の色を決めた上で、画面の中で目立たせたいものは、地の色の反対色で描くというふうに。高校で「100枚ドローイング」という課題を制作したときに、私は映像科の入試を控えていたこともあって、色鉛筆とパステルで色々な描き方を試してみたんです。そのことで自分なりの画材の使い方を見つけられた気がします。パステルは混色できるので絵具のように使い、色鉛筆は画用紙の目を埋めるように一番目立たせたいところに絞って使うようにしてました。
あとは絵画を中心に、作家の作品を研究していました。たとえば、原美術館で展示を見たサイ・トゥオンブリー(※)や、Twitterで知人がシェアしていたことがきっかけで知ったピーター・ドイグ(※)の色の表現からは影響を受けていると思います。


[藤井さんのドローイング作品から]

・ピーター・ドイグ(1959-):イギリス出身。東京国立近代美術館で個展開催中(現在は休館)
・サイ・トゥオンブリー(1928-2011):アメリカ出身。日本では原美術館(2015)DIC川村記念美術館(2016)での個展など。

百瀬:それを聞いて、この入試再現の感覚テストを見ると、納得できる気がします。私はこの絵の、スカートのプリーツのほんのわずかな白い線など、とてもうまいなと思います。これは画用紙の白を残しているんですね。こういう洗練された描写の表現が画面の中に現れてくることで、感覚テストの完成度もぐんと上がって見えるのではないでしょうか。


[入試再現作品/感覚テスト/武蔵野美大映像学科]

森田:文章表現については何をヒントにしましたか?藤井さんの文章は物語の粗筋のような書き方ではなく、物の感触や重さについての記述が入れられていて、独特の魅力がありました。

藤井:参考にしていたのは、実は小論文の授業です。映像科の教室は半分が小論文の対策、もう半分がデッサンの対策をしているので、講評を聞くこともありました。小論文では目で見た情報や手で触れた感覚を言葉で表現する課題が多くあったので、そうした小論文の中に出てくる表現が、自分の感覚テストの文章に活かされたと思います。

森田:確かに役立つ部分はあると思います。様々なきっかけから感覚テストを創作していたんですね!

【総合型選抜と一般選抜について】

森田:では少し話題を変えて、どういうきっかけで志望校を決めましたか?

藤井:高1のときに武蔵美の卒展に行ったんですが、校舎の雰囲気が素敵で「ここに通いたい!」と思いました。最初は油絵での受験も考えていましたが、高校の途中から写真の作品を作りはじめたことや、実は小さい頃に映画監督に憧れていたことを思い出して、映像に興味を持ちはじめました。最終的には「映像系なら職業にも繋がりやすいかな」と考えて、武蔵美の映像学科を第一志望にして対策をはじめました。

森田:・・・これは、聞いてもいいでしょうか? 実は藤井さんの合格は「三度目の正直」なんですよね(注:藤井さんは一般選抜以前に総合型選抜入試、学校推薦型選抜で惜しくも不合格)。

藤井:そうですね・・・。でも総合型選抜の試験を受けたことは、自分にとってプラスだったと思っています。クリエイション資質重視方式でポートフォリオを作ったこともそうですし、ディレクション資質重視方式でディスカッションの練習をしたことも本当に勉強になりました。あとは自己推薦調書(※)を書いた経験が特に大きかったです。あれだけの長さの文章を本気で書いたことはなかったので、自分が美術や映像について考えてきたことが整理されたと思っています。
そして結果的にですが、一般選抜で合格したことで、デッサンや感覚テストも成長することができたので、良かったと思っています。


[ポートフォリオの作品から/映像作品《MOVE》の一部]

百瀬:総合型選抜はレベルも高く「チャレンジだ」という気持ちで受験しても、やっぱり不合格だと落ち込んでしまう人もいます。でもその結果に引っ張られず、次の入試に向かって切り替えられたことは藤井さんの力ですね。本当に凄いと思います。

※自己推薦調書:出願の際に提出する書類で自分の活動や関心について書く。

【現在の制作について】

森田:では最後に、今どんな制作をしていますか?

藤井:6/1(月)~6/9(火)まで(※6/4(木)はclose)代田橋にある写真集などのアートブックを扱うflotsam booksというお店で、ポートフォリオにも収録した映像作品《MOVE》や写真作品を展示させてもらえることになったので、今はその準備をしています。受験生の息抜きにもなると思うので、お時間があればぜひ足を運んでいただけたらと思います。

百瀬:活動的でいいですね。大学は課題で大変なときもありますが、自分でどんどん制作をして、チャンスがあれば大学の外で展示するといいと思います。これからも頑張ってください!

森田:展示前の忙しい時にありがとうございました!僕も観に行かせてもらおうと思います!


[zoomでのインタビューの様子]
《2020.5 オンラインでのインタビュー/藤井さん、ありがとうございました!》

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映像科:合格者インタビュー①・感覚テスト編

2020年春、新美映像科から志望校へ合格した人にインタビューする企画。
今回は武蔵美映像学科の試験で感覚テスト140点というハイスコアで合格した宮脇さんに
実技制作の秘訣から、日頃の生活におけるアドバイスまで、詳しく聞きました。
映像系での受験を考えている人は、ぜひ参考にしてください!
インタビュアー:森田、百瀬(ともに映像科講師)

森田:こんにちは。今日はよろしくお願いします。
宮脇:よろしくお願いします。
百瀬:お願いしまーす。

【感覚テストについて】

森田:早速なんですが、宮脇さんが武蔵美の試験で制作した「感覚テスト」について聞いてみます。感覚テストはキーワードから発想して絵と文章で映像的な場面を表現する問題ですね。2020年度入試の問題では「その先は」というキーワードが与えられました。まずはこの作品について教えてください。


[入試再現作品/感覚テスト/武蔵野美大映像学科]

宮脇:はい。私は感覚テストを制作する上でいつも「場所の面白さ」を伝えたいと思っていました。この作品はトンネルが舞台なんですが、実在する場所です。小さい頃に親とドライブをしたときに通ったトンネルなんですが、どこか普通のトンネルとは違う雰囲気がありました。記憶に残っていたその雰囲気を、この感覚テストで伝えられたらいいなと思って作りました。

百瀬:私はこの作品の2つ目の段落「トンネルの中へ入ると~音は鈍くなる」というところが良いと思います。この作品ではトンネルを水中と重ね合わせていますが、視覚だけじゃなくて聴覚で捉えた情報を言葉で表現してるんですね。別の箇所では、コンクリートの柱に触れてみる触覚的な描写もあります。作品における「感覚の言語化」ということは意識していましたか?

宮脇:意識してました。「場所の面白さ」を伝える上では、その場所に降り立った時の聴覚や触覚といった感覚ーそれを私は「五感の情報」と考えていましたがーを書くことが大切だと思っていました。そのことに気づいたことで、感覚テストを作る手がかりを掴んだ感じです。
文章の表現に関してもう一つ言うと、キーワードの「その先へ」ということを読む側に意識させるために、最初の段落の後に、2行ブランクを入れています。

森田:確かにそうですね。逆にこの部分以外はすべて1行ずつ空いています・・・どういうことですか?

宮脇:最初の段落は作品の導入のようなものとして、文章全体からは切り離すような構成にしています。この作品で問題のキーワードの「その先」というのは、トンネルの中でもあり、トンネルの柱の隙間から見える風景でもあります。でもまずはトンネルに「入る」ということを読む人に強調したいと思ったので、こういう工夫をしています。文章の区切り方については教室で制作をしていたときにも、講評でアドバイスを受けて、かなり気をつけていました。

森田:なるほど、ありがとうございます。・・・と、ここで新美で制作した課題作品も見てみましょう。実は宮脇さんのこの作品には、いくつかのプロトタイプがあります。


[授業作品/感覚テスト型/新宿美術学院映像科]

百瀬:懐かしいですね。課題は毎回違ったキーワードだけど、同じトンネルが舞台になっているんですね。

宮脇:最初の作品は「斜光」というキーワードで制作した作品です(①)。この課題の講評会の時に百瀬先生が「映像装置のように見える」ということを話してくれて。

百瀬:ゾートロープですね(※)。柱から差し込む光が明滅することで、風景の見え方が変化する。舞台設定が面白いと思いました。


※ゾートロープ(Zoetrope)…スリットの間から静止画を見ることで絵が動いて見える。アニメーションの原理が体感できる装置。

宮脇:そのお話を聞いて、あらためてこの空間の魅力に気づいたこともあって、少しレイアウトを変えてリメイク制作してみました(②)。二枚の絵で表現することは挑戦だったのですが、正直ちょっと違うなと思いました。でもこの作品を作ったことで、このトンネルが持っている雰囲気を伝える上では、やっぱり一枚絵の方がいいんだということに気づけました。
その後入試直前の課題で制作したのが③です。この時の課題は「もしも今この瞬間にあなたが旅をしているならば、その旅でどんな印象的な出来事に出会うか」というちょっと変わった問題文だったのですが、「印象的な出来事」という言葉から、やはりこのトンネルが浮かびました。

森田:これは入試の作品とほぼ同じレイアウトです。あ、でも絵と文章は区切られているんですね!

宮脇:はい。画面全体に鮮やかな色を乗せることは試験本番での新しい挑戦でした。ひとつのイメージとして見せることで、この場所の広さを感じさせられるんじゃないかと思って。あと絵と文章をはっきり区切った画面のレイアウトは一見整理されて見えるけど、ちょっと安易かなとも思いました。試験で作品を採点する教授に「簡単なレイアウトを選んでる」と思われたら嫌だなとか(笑)そんなことも考えました。

百瀬:実際に試験本番の作品では、トンネルの隙間から海を見ているということが、画面全体で表現されていますね。全体に入れられた白いタッチがエフェクトになって、トンネル=水中という空間が繋がるような効果が生まれています。

森田:授業で制作するたびに試行錯誤したことが、試験本番の一枚に活かされてることがよくわかりました!

【受験生活について】

森田:ここからは新美で対策した一年間について聞いてみたいと思います。いつ頃から美大の映像系への進学を考えてましたか?

宮脇:元々映画を作りたいという気持ちがあって、在学中に何本か友達と製作したり、映画甲子園に出品したりしていました。映像で受験をしようと思ったのは高二くらい、でしょうか。私の高校に武蔵美を卒業された講師の方がいて、お話を聞いて「武蔵美の映像学科で映画を作りたい」と考えるようになりました。

百瀬:最初に受講したのは通信教育科(注:現オンライン教育科)でしたよね。

宮脇:現役の時は高校が美術科だったので、おもに学校の先生に見てもらって、入試の直前は他のアトリエに行って対策をやりました。でも結果はダメで。もう一年となった時に、やっぱりちゃんと映像科がある予備校に入らないと無理かもしれないと考えて、まずは一学期に通信教育を受けたんです。
送られてきた課題を見て「こんな対策をやるんだ」「面白い…けどちょっと苦手な課題かも」と思ったのは覚えています。たしか最初の課題のテーマは「私の部屋」でした。

百瀬:たしかに映像科の課題って、いきなり「私」のことを聞かれるというか、作る側としては、自分の内面を見せるような部分があって、最初はびっくりするかもしれませんね。
夏期講習から上京して教室での制作になりましたが、その変化はスムーズでしたか?


[課題制作時のエスキース帳/下書きや講師からのアドバイスがびっしり!]

宮脇:高校やアトリエでの制作の経験はあったので授業にはすぐ馴染めましたが、一人暮らしということもあって環境自体の変化の方が大きかったかもしれません。入試の時期がちょうど好きなアーティストのツアー中だったので、その様子をチェックしながら「頑張ろう」と思ってました(笑)。
本格的に学科のスパートをかけたのは11月くらいからでしたね。新美の講習会の学科の授業も取りました。家では集中できないので、家から新美までの間に単語をやることだけは徹底しようと思ってました。あとは…運です。

森田:運も大事ですね(笑)。ところで今後大学では特にどんなことを学びたいですか?

宮脇:映画を作りたい気持ちもあるんですが、今は映像を使ったメディアアートに興味があります。今までは画面の中で成立する映像に取り組んできたので、その枠から映像を解き放つような空間的な表現をしてみたい、という気持ちが強いです。

森田:楽しみですね。じゃあ最後に、いまこれを読んでいる映像科の受験生へ向けて「普段の生活の中でこんなことをするといいよ」みたいなアドバイスがあれば、ぜひお願いします!

宮脇:自分が今まで経験したことを思い出して欲しいと思います。家族とのやりとりとか、些細なことであっても作品になる。それは感覚テストだけじゃなくて映像作品を作るときにも役立つと思います。自分の経験は他人は経験したことがないと思うので。あとは、自分が好きなことを感覚テストに落とし込むことでしょうか。私はどこか行くときに街の様子を見ることが好きだったので、受験の直前でも街の特徴をよく観察していました。日常生活の中に作品の手がかりを探しながら、一日一日を過ごして欲しいです。

森田:今日はたくさん聞けて楽しかったです。宮脇さんのこれからの活躍に期待してます。
百瀬:また新美にも遊びにきてください!


《2020.5 オンラインでのインタビュー/宮脇さんご協力ありがとうございました!》

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映像科:毎日どんな映像見てますか?

こんにちは、映像科です。
前回のブログにも書きましたが、自宅でできる映像科受験対策が始まっています。
オンラインでのグループ講評にも慣れてきて(zoomを使っています)、提出される作品も毎回充実した内容になってきています。今週末の講評では武蔵美の感覚テストのフォーマットの作品を講評する予定。楽しみです!

さて、自宅で過ごす時間が多いと思いますが、皆さん毎日何をしてますか?
気になって前回のzoom講評の最初に聞いてしまいました(「学科の勉強してます」や「制作してます」「映像見てます」などの答えがあり、映像科受験生としてはベストアンサーだと思います)。

さて、今回は映像作品ではなく、映像を見る環境についての話。
ご存知のようにこの期間は映画館も閉館しているところが多く、特にミニシアターと呼ばれるような映画館では、営業ができないことから存続の危機とも言われています。映像に関わる者としてはやはり気になる話題なので、チェックしていました。
このブログを読んでいる人の中にも「頻繁に映画館に行く」「ミニシアター系の映画が好き」という人もいれば「映像は大抵自宅や移動中に見る」という人もいると思います。これを書いている自分も、気になる映画を観に行こうとするとミニシアターと呼ばれるような単館の映画館が多く、利用することも多いです。

映像科のある新宿校の周りだけでもテアトル新宿や新宿武蔵野館、少し足を伸ばして渋谷のイメージフォーラムやユーロスペース、東中野のポレポレ東中野など。。
挙げればきりがないですが、そうした映画館で再び古今東西の様々な映画・映像作品を観られることを祈りつつ、、。同時にこのような映画館を支援する動きも気になっています。
宣伝の意図はないのですが、興味のある人は見てみてください。
ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金

自分の場合は、もう一度観たいけどソフト化や配信の予定がないと言われてきた『バンコクナイツ』や、去年観て印象に残っていた『ひかりの歌』といった映画が、このプロジェクトで観られるということに驚きつつ、しかしそもそもひとつの映像作品がDVDという物になって繰り返し観られることや、配信されてデータという形で視聴できるってどういうことなんだろう?と考えてみたりしています(ひとり自宅で)。
普段の生活の中では、自分が見ている映像がどういうルートを辿って目の前に映し出されているのか、あるいは誰にどういうお金を払っているのか、ということはあまり考えないかもしれません。大体がサブスクですし。
この機会に、家で映像作品を鑑賞しつつ、そうしたことを考えてみてもよいのではないかと思いました。

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映像科:新学期のご挨拶&自宅制作課題

こんにちは、映像科です。
既にお知らせしているように、新宿美術学院では4/9(木)からスタート予定だった一学期の授業を延期しました。教室での授業は5/7(木)からとなっています。(※その後5/14〜5/31まではオンラインでの授業になりました)またこの期間には「自宅制作課題」を出題して、授業開始後にスムーズに入試対策に取り組めるようにしています。

そのようなわけで春期講習終了後、映像科の実技対策でメインになる武蔵野美大の感覚テストや小論文の対策となる課題と制作用紙を準備して受講生の皆さんに郵送しています。
初回の課題は自己紹介的な意味も含めて以下の2課題。

実技課題:
「私の部屋」をテーマに思い浮かべたイメージを視覚的に表現しなさい。

文章課題:
「私が映像で表現したいこと」をテーマに400字以内で作文しなさい。

講評は学生のインターネット環境に応じてオンラインミーティングサーヴィスまたはメールで行います。写真は先週行ったオンラインでの課題説明の様子(顔をぼかしているのでわかりづらいですが・・・ちゃんと課題説明できました!)。

本来であれば毎年この季節は授業見学や相談などで、多くの方に足を運んでいただいていました。映像メディア系の受験を検討されている方は「自宅で受験相談」もぜひご活用ください。

生まれたての映像科Twitterアカウントもよちよち動いております。こちらではいつもなら教室でしている「あの映像見た?」「こんな作品あるよ」といった情報を共有できればと思っております。

教室で、またはオンラインで、映像科受験生の皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。

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