こんにちは
ena美術(旧新美)国立校の山内です。
今回のテーマは“クロッキー“です。
このブログを読んでいるひとは、おもに受験生のみなさんでしょうか。
受験生のみなさんは『あのねぇ、デッサンは1日2日で、上手くならないの!うまくなりたければ、毎日こつこつクロッキーしなさい!』と言われたことあるんじゃないですか?
デッサンのうまさは描いた枚数に比例する…継続は力なり…千里の道も一歩から…とかなんとか。
まあ、それもそうなんですけど、やみくもにやっては意味が薄い。
例えば、腕立て伏せは上腕三頭筋や大胸筋を鍛えるトレーニングで、スクワットは大腿四頭筋やハムストリングスを鍛えるトレーニング。
じゃあクロッキーは?
クロッキーをしていたら、デッサン力の全てが鍛えられるわけではありません。なにを鍛えるトレーニングなのかを理解してクロッキーしたほうが効果的でしょう。
クロッキーはなんのトレーニングか...それは↓↓
①形をはやく正確にとるためのトレーニング
②少ない手数に複数の意味をもたせるためのトレーニング
上記を説明するためにオススメのクロッキー方法を紹介します。
オススメのクロッキー方法はズバリ『消せない画材で、下書きも修正もしない一発描き』です。
モチーフの輪郭線を一本の線で強弱をつけて描きましょう。輪郭の複雑性や光を意識するためです。
影を描く必要はありません。
画像はGペンで手をクロッキーしたもので、所要時間は5分程度です。
それでは①『形をはやく正確にとるためのトレーニング』の説明です。
クロッキーはデッサンと違います。デッサンは練り消しで何度も修正しますが、クロッキーは一発描きをオススメします。つまり、一度で形を取る練習です。
クロッキーは作品作りというより、習作なんで、練習効率に特化したほうがよろしいでしょう。
こんな話を聞いたことありますか?アナログ作画とデジタル作画の違いで、アナログのほうが絵が上達しやすいという説があります。デジタルはアンドゥ(やり直し)前提で、すぐやり直せるから緊張感がない。ある程度、緊張感と責任感をもって一筆入魂したほうが、絵の上達がはやいんじゃぁ!という説です。
また、アンドゥは絵描きにとってはチート行為に等しいくらい最強のコマンドなので、絵のクオリティーを上げるのに大活躍ですが、自力で形合わせするという筋力はつきにくくなるのかもしれません。
ともかく、形をスピーディーかつ正確に合わせる筋力を鍛えるには、下書きなし修正なしの一発描きで形を合わせることが効率的な練習方法です。
コツとしては、常に少し先のことも考えて描く。表側と裏側、左側と右側、光面と影面など対称性を意識しながら描く。部分的に描きながらも、全体の見え方を意識しながら描く。自分のクセ(得意不得意など)を理解して描く。片目で見る(これは人によるかも)…etc…。
次に②『少ない手数に複数の意味をもたせるためのトレーニング』の解説です。
消せない画材で、下書きも修正もしない一発描きをするということはもの凄く難しく感じるかもしれませんが、慣れてくればある程度できます。
難しいのは、線に意味を持たせることです。
単純に形を合わせるのは習得しやすい技術です。
そこにセンスを上乗せするのが難しい。
センスという言葉が嫌いな人も多いでしょうが、理論だけで描かれた絵はつまらないのでしょーがないです。絵にセンスは必要です。
今回のセンスとは、線に強弱や濃淡をつけることによって、モチーフの質量、質感、リズム感、生命感(無機質感)、硬さ(柔らかさ)、緊張(弛緩)、などなど複数の意味を持たせることです。これが難しい。
センスと言っても、後天的に鍛えることが出来るタイプのセンスなので、意識してトレーニングしましょう。
最後に、習作じゃないクロッキーについて。
いままで解説したのは美大受験のために修行と割り切って描くクロッキーです。(修行といっても、楽しんで描いて欲しいケド)
僕の場合、大学に合格したあとも、たまにクロッキーしてました。
デッサン力向上を目的としたクロッキーではなくクロッキーの画法でいい作品を描きたいという健全な(?)モチベーションでした。
そのときの作品がこちらです。
これらの作品は左手で描いてます(僕の利き腕は右です)。
なぜそんなことをしたかプレゼンさせてください。
みなさんは『完全情報ゲーム』と『不完全情報ゲーム』を知ってますか?
完全情報ゲームとは囲碁や将棋などの盤面が全て開示されているゲームで、不完全情報ゲームとは大富豪やポーカーみたいに情報が全ては開示されていない(相手の手札が見えない)ゲームのことです。
完全情報ゲームのほうが運の要素が弱く、自分より強い実力者に勝ちにくいです。
不完全情報ゲームは運や偶然の要素が強く、下剋上が起きやすいです。
察しの良いひとは、僕がなにを言いたいのかもう理解されたかもしれません。
僕にとって、利き手の右手で描くのは完全情報ゲームで、左手で描くのは不完全情報ゲーム…ということです!
右手で描けば、普通に描けるけど、ただ対象物をそのまま観て描くだけなので、純粋なクロッキー力が見えてしまう。シンプルな絵の上手さ、実力の階梯は無限です。上には上が無限にいる。自分より形合わせが上手くて早い人に勝てない。完全情報ゲームです。
左手で描くことは、予想外のブレやリズムが生まれるので、運の要素が強い。右手で描くよりも手元に集中しなければならないので、観察が疎かになる。観察が疎かになるのは普通デメリットですが、観察力を鍛えたくてこの作品を描いてるわけではない。観察が減ったぶんを自分のイマジネーションで補完している。ここに対象を愚直にトレースする写真のような絵との違いが発生します。偶然の力を借りて、自分の本来の実力以上にいい絵が描ける可能性がある。不完全情報ゲームっぽいでしょう。
長くなりましたが、クロッキーにおける最も大事なことは、楽しんで継続的に描くことだと思います。
難しいことをつらつら語りましたが、単純すぎることはすぐ飽きてしまうでしょう。
クロッキーは単純じゃなく色々考えて難しがって、その難しさを楽しむとよろしいんじゃないですかね?
おしまい