カテゴリー別アーカイブ: 彫刻科

新年度スタート!1年頑張ろう!

こんにちは。彫刻科の小川原です。新年度に入り、1ヶ月が経ちました。といってもまだまだ始まったばかり。しっかり先を見据えて地に足つけてどんどん吸収していきましょう!少しでも上達が早まるように講師一同全力でサポートしていきます!
さて、4月からの課題の中でいい作品が幾つか出たので紹介します。

T.Uくんの作品。_MG_5409
空間に溶けこむようにコントロールされた調子が魅力的です。逆を言うと調子に意識が行き過ぎて、形(構造)についての説得力が足りなくなっています。色としては正解でも、それを「形」として強く認識して作業できているかどうかで結果はだいぶ違ってくるはずです。この作品の場合、一連の制作の流れは本人の完成のイメージに向かって無駄なく進んでいるので安定感があるという意味ではとても良いです。そこに調子と構造を関係付けた探りを新たに入れていくことが出来ると更に内容を高めていくことが出来ます。まだ1年のはじめなので、崩れることを恐れず、守りに入らないで最終的に到達するべき目標を見失うこと無く取り組んで欲しいです。

R.Yくんの作品。
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指導なし6時間制作のコンクール作品です。実直に形と向き合い、簡単に省略してしまうこと無く複雑に像を捉えていこうという意識が感じられる作品です。模刻も慣れてくると短時間でそこそこのものが出来るようになりますが、それだと本来の模刻の意味合いには到底追いつくことは出来ません。全体としてみるとシンプルな構造に収まっている石膏像も、その表面の全てが圧倒的に複雑なフォルムを持っていて、しかもそれは断片的なものではなく、全体の構造の中に全く無駄なく理想的に収められているのです。謙虚にそれを取り入れようとする努力ができるかどうかでその後の成果は大きく変わってくるでしょう。

Y.Mくんの作品。
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こちらもコンクール作品です。上の作品に対し、土付が形の張りを表現するのに一役買っていて、また違った魅力を感じることが出来ます。粘土そのものは色が同じですが、作り方次第でその「色味」は大きく変わります。そういった意味で好感が持てる土付けができるということは単純に「形」以外でも評価が得られるという点で大きな武器になるということでもあります。但し、逆にこの作品の場合は形の探りに迫りきれていない部分があり、パッと見よく見えるけど突っ込んで見ていくと浅い。という印象が残ってしまいます。今の表現を生かし、さらに一歩進んだ追求ができるようになると評価がグッと上がりそうです。

T.Uくんの作品。
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春期講習の続きでマルスの模刻を完成させてもらいました。途中首の動きがなかなか合わずに苦戦しましたが、最終的には内容の詰まった完成度の高い作品に仕上がったと思います。(まだ頭部は動きに違いがあります 笑)彫刻でやるべきことはまさに形の追求に尽きる、というのは当然のことですが、それが当たり前すぎてたまに見えなくなってしまうこともあるんじゃないかなと思います。そこに妥協や諦めが入ってしまった瞬間に「彫刻」になろうとしていたものは「無意味なもの」に変わってしまうのです。少なくとも僕は自分の作品を作っている時には常にもっと「いい形」を目指しているので基本的に「これでいいかな?」とかはありません。どうやってもこれ以上のものはないというところまで詰めることは自分の想像を超えることでもあって、そこに自分に返ってくる強い感動があったりします。彫刻を志す人にはたとえ模刻であっても作業的になってしまうのではなく、モチーフに近づく為に努力を惜しまない人になって欲しいと思います。

作品数が多いので2回に分けたいと思います。4月の作品紹介は次回に続きます。

制作の為の道具。

こんにちは。彫刻科の小川原です。新学期が始まりました!目標を持って着実に実力を高めていきましょう!

さて、今日は僕が普段制作に使っている道具について紹介します。今後僕の制作の進展状況を載せていく予定ですが、どんな道具を使って作業しているのか知っているとまた見方も変わるのかなと思います。
僕は現在木彫を専門に制作をしていますので、主には木彫用の鑿や彫刻刀を使用します。
一部ですがこんな感じです。
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種類は多ければ多いほど作業がはかどります。場所ごとに適した鑿を選んでいくと必然的に数は増えていきます。鑿は研いで使い続けるので一生ものと思えばそんなに高い買い物ではないと(自分は 笑)思います。
下の写真左の二本はタタキノミといって基本ハンマーで叩き込みながら使う鑿です。その隣のは彫刻刀です。これは叩いて使うのには適していません(場合によってはゴムハンマーで叩きます)。細かな作業に使います。そして右のものはちょっと変わった形をしていますが、これは僕が改造した鑿です。どうやって使うものかと言うと…。
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元々瓦を割ったり、コンクリートを削ったりする建材加工の為の道具としてエアーを動力としたチッパーと言うものがあるのですが、これを石彫で使うことは一般的です。それを木彫に応用する為にチッパーの軸と鑿の刃先をカットして溶接したわけです。
↓下がチッパーです。右端にエアーのホースをつなぎます。レバーを握ると高速で鑿が打撃運動を連続します。チッパーにも種類があって、僕は1分間に5000回の打撃が出来るものと、20000回出来るものを持っています。
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つくり方はこうです。
まずはチッパーの軸と鑿の軸を高速カッターで切って繋げたときにちょうどいい長さにします。鑿は刃物屋さんに注文する時に柄はいらないと言っておくとちょっと安いです。柄の中はこんな軸が入っています。
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次に早速溶接ですが、ズレないようにバイスクリップ(固定できるペンチみたいなやつです)で固定しておきます。
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軸の中心まで溶け込ませる為に電圧は高めにします。溶接にもいろいろ種類がありますが、これはアーク溶接といいって一番オーソドックスな溶接法です。放電する熱によって金属を溶かしながら同時に溶接棒を溶かし込んでいきます。下の写真では棒を持っていますが、この棒がだんだん溶けてなくなっていきます。
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溶接面は必須です。これをしないと失明します!あと、火花が危険なので半袖で作業するのは絶対にやめましょう!光は強力な紫外線なので日焼け必至です(笑)
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溶接直後はこんな感じです。
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これで冷めれば完成!!
ではありません…。鉄は高温で熱して急冷すると非常にカタくなる性質があります。今この鑿は3000度で熱せられた直後に25℃の常温で急冷されている状態。つまり焼きが入ってしまっています。焼きが入ると対衝撃性が弱まり、折れやすくなってしまうので、このあとこの部分を柔らかく(といってもカタいはカタいです)戻す必要があります。
そこで使うのがガス溶接機と言うものです。アセチレンと言う可燃性のガスを酸素で火力を高めた溶接機です。この溶接機では火力と酸素の勢いを使って分厚い鉄板を切断する(溶かし切る)ことも出来ます。この機器を使って溶接部を再度熱し、冷まし、熱し、冷ましを徐々に温度を下げながら繰り返します。すると分子の結合が緩くなり、めでたく折れにくい鑿が出来るのです。
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小豆色くらいの温度帯?赤みが消える温度を繰り返します。
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冷めた後ボコボコしてる部分はグラインダーで削ります。これで完成!
ただ、当然ですが使っているといずれ金属疲労でまた折れます。折れてくっつけてを繰り返して骨折が治るように元の太さより段々太くなっていきます。
ちなみに。
コンプレッサーはエアーツールを使うには200Vでないと十分な空気量を得られないですが、僕は100vのコンプレッサーを2台から(↓両端のもの)サブタンクにエアーを集めてそこから引いています。これでエアーが途切れることはありません!
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このチッパーは一気に量を落としたいときに使います。手仕事より早いです!でも微妙なコントロールは出来ないので、形を決める作業は当然手仕事でないと出来ません。適材適所っていう感じですね!
あんなこといいな!できたらいいな!ってことは自分で開発する。彫刻は、新しいことをやろうと思ったら常に技術的に壁にぶつかるので、それをどう乗り越えていくかと言うのは割と日常的なことかもしれません。

彫刻科春期講習 ベルベデーレ

こんにちは、彫刻科の小川原です。春期講習最後の課題、浪人生はベルベデーレを選択して描きました。さすがに去年一年間の蓄えがあり、素晴らしい出来の作品です。
T.U君の作品。
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像を取り囲む空間が美しく描けています。このように石膏像を静物的に捉えて描く方向性は、見方が浅かったり表現力が乏しかったりすると面白みの感じられないカタい作品になりがちですが、このレベルまで来ると一つの作品としての「完成」と言えるのだと思います。目の前にある物をただ「描く」ということだけに一生懸命になるのではなく、そこになにかしら自分の世界観を残せると見る人の心も動かせるのではないでしょうか。

Y.S君の作品。
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ベルベデーレのもつ岩の塊のような量感を、躍動感溢れる炭使いで魅力的に仕上げることが出来ました。彼の持つ潜在的な表現力の強さには毎回驚かされます。
ここが受験予備校であり、入試に備えて日々特訓を重ねていくことは当然のことで、入試に受かる、ということは疑う余地のない大前提の目標であります。しかしそればかりを追いかけてしまうと、自分の作品を「受験」という狭いくくりの中だけで評価することしか出来なくなってしまいます。受験の為の練習作の域を出ないのか、それとも美術作品となり得るのか。何を理想とするのかで大分意味は違ってきます。この作品からは後者のような作家性を感じました。この一年、見失うこと無く追求していってほしいです。

今回は社会人講師の氷室先生も指導の合間を見て描いてくれました。
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炭使いが生き生きとしていて、短時間ながら全体を捉えているのが分かります。僕も氷室先生も内田先生も全く違うタイプなので、それぞれの良さを生かした指導が出来たらと思っています。新学期が楽しみです!

彫刻科春期講習会

こんにちは。彫刻科の小川原です。彫刻科での春期講習会はベーシックな課題に加えて、経験者にはマルス胸像の模刻やベルベデーレのデッサンなど、一部臨機応変に変更しながら生徒のニーズに合った内容にしています。

ヌードデッサンでは良い作品が出ました。
U君の作品。6時間描きです。技術が高いだけに表面的になりがちでしたが、構造的なリアリティについて1段階レベルを上げることが出来ました。

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今年度から講師として迎える内田先生も描いてくれました。内田先生は芸大の博士課程を修了されています。10年ぶりのデッサンです。同じく6時間。良く描けるなあ。人体の柔らかさ、しなやかさが魅力的に表現されています。
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そして僕も描きました?。
当たりから人体の自然な立ち振る舞いを捉えます。
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光源設定をします。特に脚の前後関係はここで出しておきたいところです。
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色を重ねて幅を増やし、厚みと空間をつくります。
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部位の形態感を具体的にしていきます。
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肌の色味を整理しつつ、密度を上げて完成です。
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彫刻科のブログは新年度から僕小川原と、社会人講師の氷室先生、内田先生で順番に書いていきます。それぞれの個性を生かしたおもしろい内容に出来たらいいねと話しているので楽しみにしていて下さい。
僕は普段彫刻作品を制作しているのでその制作過程を紹介しようと思います。
現在は複数の作品を同時進行で進めていますが、主たる作品はこれです。
写真はマケットです。マケットとは模型のことを指します。あくまで模型なので作品的な完成度を重視しないのが一般的(立体の設計図としてつくるので、大まかな形が分かればマケットとしては十分)ですが、僕はマケットも一つの作品として制作しています。これはテラコッタと言って焼き物で出来ています。高さ80cmくらい。
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原型はもちろん粘土なのですが、僕は色の下地を土の種類によって切り替えているので、原型の段階で数種類の粘土を使い分けます。頭部、手、足は信楽土(薄い肌色)シャツは白彫土(白い)ズボンは黒泥(グレー)。焼成後に胡粉や日本画用の絵の具で彩色します。
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焼成の為に体を複数パーツに分けながら、均一な厚みにしていきます(中を空洞にする)。厚みが厚いままだと焼成時に破裂してしまいます。
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焼成前に腰を境に上下のパーツは再度接合して仕上げます。腰もつけてしまいたいところですが作品を台座に立たせる構造をつくる為に腰に穴があいていないといけません。
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窯で焼成します。素焼きなので800℃。僕は830℃くらいまで引っ張って、中まで素焼きが通るようにしています。ガス窯と電気窯とあるのですが、電気窯はこの作品には大きすぎて燃費もかかるので今回はガス窯を使います。電気はオートで焼いてくれるので楽なんですけどね?。
焼成後に組み立てて彩色してマケットは完成です。
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本制作の素材です。楠を使います。おそらく九州の方の木。まだ切って間もないので水分を含んでいてとても重いです。2トン以上あるかも。完全に水分が抜けると3分の1くらいの重さになります。
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作品の底面になるところをチェーンソーで面出しします。使っているのは電気チェーンソーです。
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フォークリフトで吊って材木を立てます。ちなみに元の木は大きすぎるので余分な分は事前にカットしています。
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材木の側面にデッサンを入れます。このチョークで描いた線より外は不要な量です。

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余分な量をチェーンソーで荒取りします。電気チェーンソーでは両側から切っても真ん中が残ってしまうので、今回はエンジンチェーンソーで切り離します。ちなみに僕の持っているチェーンソーは電気の物はブレード長が40cm弱で、エンジンの物は75cmくらいあります。エンジンのは重いし、跳ね返ってきたときに危険なのであまり高い位置では使えません(頭上より高い位置など)。

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大型のチェーンソーが無ければこういった部分は細かく崩していくしか無いのですが、こうやって切断して分離させることで取れた材は後々素材として使えるので無駄が無いです。

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同じ要領で背面もカットします。現在ここまで進んでいます。また次回、進んだ状況を紹介できたらと思います。

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2013年度彫刻科入試再現 芸大 制作プロセス

1次試験はジョセフでした。構造や光源設定など、基本的なことはもちろん外せませんが、それ以上に結果的にその像の印象がしっかりと出せているかどうかが評価のポイントとなってきます。ポイントを「外さないこと」も大事ですが、だからといって守りにはいってしまうのではなく、しっかり攻めて印象を引き出すことが求められます。ジョセフとしての魅力がしっかり伝われば必ず評価されます。
Kさん(現役)の作品。
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Nさんの作品。
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2次素描はこれまでアルシュ紙だったものが木炭紙に変わりました。描画材はこれまで通り鉛筆、コンテです。課題はアルミホイルで任意の幾何形態(形歪んでいてよい)をつくり、両手で持った状態を描きなさい。でした。近年素材を造形させて描かせる課題が続いていますが今回もそれに近い物でした。今回の課題は結構手間のかかる課題だったので3時間の中でしっかり完成度を上げるのは大変だったと思います。2次素描では単純に技術を見るだけでなく、作家としてのセンスも見てきます。それを短時間で言い切る(密度を上げる、ということだけが答えではない)力を養っておきたいです。
Kさん(現役)の作品。アルミホイルで三角錐をつくりました。
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Nさんの作品。多面体2つです。
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2次塑像はゲタの模刻でした。これまで出題されたことが無かったので驚いた人も多かったと思います。彫刻科の入試での決めてはやはり塑像と言えるでしょう。1次が高得点で合格しても、塑像が十分でなければ最終合格は掴めません。しっかりと彫刻そのものを理解し、構造を分析できる力が必要です。
Kさん(現役)の作品。
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Nさんの作品。
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芸大受験においては基礎力がしっかり身に付いているかどうかが最も重要です。そういった意味で、これから彫刻を始める人ではダメで、彫刻家としての最低限の力がすでにある人でないといけません。大学に入って基礎練習などしません。すぐ作品をつくれるレベルでないといけないのです。そう考えると予備校で学ぶ1年間って、とても重要なんだなと思いませんか?近年少子化で、受験生の現象によって大分倍率も下がってきまた。この10年で半分になりました。今年は22名合格した内8名が現役生だそうです。今や芸大は誰にでも合格するチャンスのある時代です。立体造形に興味があって、頑張って学ぶ気持ちがある人はぜひ挑戦してほしいです。