カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

故郷に流れる遺伝子② スペイン編

こんにちは。油絵科の関口です。
さて、今回はピカソ初期の代表作「アヴィニョンの娘たち」を取り上げてみようと思います。

 

ピカソは1881年生まれのスペイン人。20世紀を代表する巨匠です。

ピカソは幼少の頃から天才ぶりを発揮し、スタイルもダイナミックに変化させながら数々の名作を残してきた事でも知られています。

ピカソ11歳16
11歳頃のデッサン、16歳頃の油絵

青とバラ色
青の時代、バラ色の時代

20歳前には客観的な描写に区切りをつけ、20世紀の幕開けと共に刺激的で実験的な作品を作り始めます。

キュビズム
分析的キュビズムの作品、総合的キュビズムの作品

新古典、泣く女
新古典の時代、泣く女シリーズ

 

アヴィニョンの娘たち
「アヴィニョンの娘たち」 1907年
中でもこの「アヴィニョンの娘たち」はセンセーショナルな作品として世に知れ渡りました。ピカソがこの作品を描いている時、アトリエを訪れた友人は「ピカソは気が狂った」と勘違いしてしまったという逸話が残っています。ピカソはこの作品を描く為に、夥しい数のドローイングを描きました。この作品は言うまでもなく、アフリカの彫刻やマスクなどの原始的で素朴な作品に強く影響を受けているのが分かります。

他にも影響を受けていると思われる画家がいます。

 

 

それはエル・グレコです。

 

エル・グレコは1541年生まれのギリシャ人ですが、若い頃にイタリアのヴェネツィア派の工房で修行し、その後スペインで活躍し、人生を全うしました。ちなみにグレコという名前は本名ではなく、イタリア語でギリシャ人を意味するそうです。本名はドメニコス・テオトコプーロスと言います。

実はグレコもかなり器用な画家で、写実的な表現もの他に、この時代にしては珍しい程度のデフォルメも行っています。

聖衣剥奪1577-1579
この絵では写実的な表現が顕著に見られます。

第五の封印1608-1614
この絵ではかなりデフォルメされていますね。かなり現代絵画的です。

トレド風景1595-1600年
これは有名な作品「トレド風景」(当時としては珍しい、単独の風景画です)

ラオコーン1610-1614
さて、これはどうでしょう?どことなくピカソの描いた「アヴィニョンの娘たち」に似ていると思いませんか?

ピカソとグレコ

スペインで生まれたピカソは、幼少の頃からグレコの絵を見て育ったのかもしれませんね。そしてグレコ同様、自分の生まれた土地ではなく、故郷から遠く離れたフランスで制作活動をし、人生を全うしました。

 

ちなみに前回のこのテーマでは、イタリアに故郷を持つ画家達を取り上げました。興味のある方は、是非こちらもご覧下さい。

?http://www.art-shinbi.com/blog/20141013/
故郷に流れる遺伝子

オイル(画用液)について③ テレピン編

こんにちは油絵科の関口です。

今回はオイルについてお話します。中でも皆さんもよく使うテレピン油についてです。前回オイルについてお話したのは12月になりますので、興味のある方はこちらを参照して下さい。

オイル(画用液)について①
http://www.art-shinbi.com/blog/20141215/

オイル(画用液)について② ?カテゴリー編
http://www.art-shinbi.com/blog/20141222/

 

テレピンは、オイルのカテゴリーでは「揮発性油」というジャンルになります。揮発性油というのは、読んで字のごとく揮発する油です。お皿とか浅い容れ物に入れておくと、時間の経過と共に大気中に揮発してしまうので、放って置くと無くなります。水彩で例えるなら、水みたいなものだと思って下さい。
テレピン大

用途は幾つかあります。
①絵の具の濃度や粘度を薄めたり、他のオイルを希釈する。
②乾きが早いので、描き出しの時に全体を捉えるのに使う。
③溶解力が高いので、ダンマル等の樹脂を溶かして樹脂溶液を作ったり、溶かす力を利用して、描いた絵の具を拭き取ったりするのに使う。(実は筆に溜まった絵の具もテレピンで洗うとかなり落ちます)

これらの理由で、結構便利なオイルですが、単独で使うのは描き出しのみに留めておかなくてはいけません。何故ならテレピンは固着力が無く、単独で描くと画面に定着し辛いのです。

 

揮発性油には、他にもペトロール(別名ミネラルスピリット、ホワイトスピリットとも言う。石油系でテレピンより若干乾きが遅い)とスパイクラベンダーオイル(別名アスピックオイルとも言う。植物系で揮発性油の中では一番乾きが遅い)があります。
テレピンはこの揮発性油の中では一番揮発が早く、早く乾きます。

あと、テレピンの主成分であるαピネンというオイルがホルベインとクサカベから出ていますが、テレピンより若干乾きが早いみたいです。少しでも乾きを早くしたいという人は使ってみる価値があるかもしれません。

αピネン

テレピンは結構サラサラしているオイルです。匂いは独特で、程良い刺激臭。好きな人には堪らないものですが、油絵科でこの匂いが嫌いな人は辛いかもしれませんね。
ところで、皆さんの中には画材屋さんや塗料を売っているホームセンター等で「ガムテレピン」なる商品を目にした事があるかもしれません。ガムテレピンとは、精製する前のテレピンの事です(厳密に言うと別物も存在します)。安価ですが、匂いはテレピンと比べると圧倒的に臭いです。僕も学生の頃にガムテレピンを一斗缶で購入し、友達とペットボトルに分けて使っていましたが、樹脂分が残っていて少しベタベタが残り、匂いが強くて服や髪の毛にも匂いが染み付いてしまうので、最近では全く使わなくなりました。

ちなみにホームセンターで売っているガムテレピンには注意が必要です。少しでもテレピンが混ざっていれば、ガムテレピンと表記ができるそうなので、ガムテレピンと表記されていても、テレピンの含有率が少ない粗悪品もあるようです。安いからと言って安易に手を出さないで、ちゃんとしたテレピンを買って下さい。

 

テレピン大中小

あと、テレピンを大量に使う人には大瓶で買うのをお勧めしますが、普通の人は中瓶、ほんのちょっとしか使わない人は小瓶をお勧めします。何故かというと、空気と触れると酸化して行くので、時間の経過で少しずつ劣化して行きます。僕の経験では、数年放置したテレピンを使うと、何日経っても乾かないベタベタな感じになりました。イメージとしては、炭酸飲料をちょっとだけ残しておいたら、数日後には甘くてベタベタものだけが残る感じありますよね?あんな感じです。え?飲んだ事無いから分からない?そういう人はベタベタのテレピンを使う事が無いと思うので大丈夫です(笑)。

4/5(日) 推薦入試説明会

こんにちは。
4/5(日) 16:30より、新宿校にて「美大 推薦入試説明会」を実施します。

近年、推薦入試やAO入試を実施する美大が増えましたが、その入試内容は多岐にわたります。
場合によっては一般入試よりも難易度が高いこともあり、正確な情報をもとに準備することが求められています。
新美では、早くから推薦入試対策に取り組み受験生を指導してきました。
当日は全体説明から個別相談、合格者の作品ファイル(ポートフォリオ)等の展示も行います。

受験生、保護者様、高等学校教員の皆様を対象としています。
申し込み不要ですので、ぜひご来場ください。

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芸大油画専攻・一次試験の歴史

こんにちは。油絵科の関口です。

さて、タイトルにもある芸大一次試験ですが、今は当然の事ながら上野校地で行われています。ところが6年前迄は、17年間に渡って両国国技館で行われていました。我々講師としては、ちょっと前の出来事ですが、今の受験生で国技館の受験を経験していた人は、もう少数派だと思います。
当時を振り返ると、国技館の入試は色々な問題がありました。まず、元々絵を描く環境として全く考慮された場所では無く、お相撲を観戦する為の施設です。そこで試験が行われていたので、問題がない訳がありませんよね。

国技館
まずは座席。普段中央に設置されている土俵や矢倉は無く(矢倉は天井まで上がる仕組みになっているんです)そこはちょっと広めの空間が空いていました。受験生は一階席が※升席に一人。(赤い絨毯が引かれていて、相撲の観戦の時は座布団が敷いてあり、4人が座れる様に設計されています。升席の区切りはステンレス製で低めの柵で覆われていました。観戦しやすい様に雛壇になっていて、後ろの方が少しずつ高くなって行きます)二階席は椅子席で座る時に座面を倒して開ける映画館や大学の講義室の様な椅子。やはり観戦しやすい様に前列とは段差が付いており、受験生は前後左右を一人分ずつ開けて座りました。つまり、一階席と二階席ではかなり状況が違います。しかも中央部は照明が強く、二階席の下の升席はかなり暗い座席でした。

枡席
※枡席。試験のときは当然の事ながら座布団はありませんでした。二階席の下の暗い感じの雰囲気は伝わってくるでしょうか?

 

国技館での試験の特徴として上げられるのは、鉛筆素描だったという事。用紙もTMKポスター紙という、比較的キメの細かい紙でした。

国技館初期(今から20年位前)は素材に関しては規制が少なく、かなり色んな素材を使う受験生がいました。鉛筆だけでなく色鉛筆、木炭、モデペ、顔料…挙げ句の果てにはスプレーまで使う人が現れる始末。升席ではイーゼルや自前の椅子を持ち込んだり、中にはテントを持ち込んだり・・・そんな強者の受験生もいたようです(笑)。今の受験生には意味が分からないでしょ?

会場全体を見渡せる試験の為、一人の受験生がやった奇抜な行為が、翌年には色んな所で発生し、ドンドンエスカレートして行く事になります。新美でも次々と面白い作品や奇抜な表現をやっている人を見掛けました。今振り返ると懐かしい時代です。

ーこの項つづくー

油絵の具について(色彩編)

こんにちは。油絵科の関口です。
少し暖かくなって、花粉症の人には辛い季節になりましたね。

 

さて今日は油絵具の色の話をしようと思います。
油絵具の色って沢山種類があって、初めての人は何を買ったら良いか分かりませんよね?長くやっている人でも、意外と色は何となく選んでいる人も多いのではないでしょうか?

10年くらい前に新美の油絵科講師陣で、基本色とは何か?という話になった事がありますが、驚くほどバラバラでビックリした覚えがあります。

「えー、これは必要でしょ?」
「いやー、それは無いよ」

議論したら、今でもそんな声が聞こえてきそうです。拘りの強い講師陣は、好みのメーカーもバラバラで、色によってメーカーを変えている人が多い、というのが特徴的でした。

僕の考える基本色というか、絵を描く上で最低限必要と思う色は以下の通りです。


・シルバーホワイト

黄系統
・カドミウムイエロー?※
・オーレオリン
・イエローオーカー

赤系統
・バーミリオン
・カドミウムレッド※
・クリムソンレーキ(又はローズマダー)

青系統
・ウルトラマリンブルー
・コバルトブルー
・セルリアンブルー

緑系統
・ヴィリジャン
・カドミウムグリーン※2
・テールベルト

紫系統
・コバルトバイオレット

茶系統
・バーントアンバー
・バーントシェンナー
・ローアンバー
・ローシェンナー


・ピーチブラック

 

※ カドミウム系の色は数色ありますが、緑以外は混ぜて作るのが難しいので、好きな色を数色揃えても良いと思います。

※2 カドミウムグリーンはカドミウムイエローとヴィリジャンの混色で作る事が可能です。

 

パーマネント?とか、コンポーズ?とか、?チントとか、?ヒューとかが名前に付いていない色である事が重要です。茶色系統や白と黒、あと数色を除いて、高い絵の具が多いですね。一度に全部揃えたら軽く1万円は超えると思います。
何で高いのかと言うと、絵の具の元になる顔料(色のついている粉)が高価なんです。

油絵の具1

 

基本色以外もありますが、オススメの色
・フレンチウルトラマリン(マツダスーパー)絶品!
・コバルトグリーンペール(マツダスーパー)
・ブルーコンポーゼNo2(マツダスーパー)
・スーパールビー(マツダスーパー)
・コバルトバイオレット(マツダスーパー)絶品!
・カドミウムグリーンペール(マツダスーパー)絶品!
・オキサイドオブクロミウム(マツダスーパー)
・オーロライエロー(マツダスーパー)
・テールヴェルト(マツダスーパー)
・ローアンバー(マツダ専門家用)絶品!
・ヴァーミリオン(マツダ専門家用)
・コバルトターコイズ(ホルベイン)
・コバルトブルー(ホルベイン、ヴェルネ)
・カドミウムレッドミドル(クサカベ)絶品!

 

 

僕は基本的に油絵具はマツダスーパー派で、カドミウムレッド系はクサカベを使っています。

使用顔料

この二つのメーカーは、ラベルの脇に使用している顔料の名称が書いてある、というところがポイントです。色の名前には様々なものが付けられていますが、使用している顔料はある程度限られています。ラベルをよく見ると、違う色の名前なのに同じ顔料を使っているものが多く存在しているのが分かります。

色数は沢山使っているのに、画面全体が似たような色になってしまうという人は、ラベルの脇をよく見て買いましょう。特に?チントとか、パーマネント?という名前が使われている絵の具は、数色の顔料を混ぜて作られた色です。

 

 

絵の具を購入する時、参考にしてもらえたら幸いです。