カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

好奇心の産物

こんにちは。油絵科の関口です。
皆さんは、絵を描く人や、ものを創る人にとって、一番大切なものって何だと思いますか?
一言で言えば、それは「好奇心」だと思います。

 

「何これ?面白?い!」全てはそこからスタートし、その好奇心はやがて「もっと詳しく知りたい!」という探究心に変わっていきます。その時に発生する熱量が、作品を作り出すエネルギーになるのです。
好奇心は、そもそも人間…否、動物に備わった本能であり、産まれたての人間や動物は色んなものに興味を持ち、失敗を繰り返しながら学習していきます。

 

来週の日曜日、我々の好奇心を掻き立ててくれる様な、そんな面白い企画があります。それはズバリ、美術解剖学特別講習。item04_pc
芸大をはじめ、色んな大学でも講義をされてきた阿久津先生が指導して下さいます。
受講料は7000円という事で、ちょっと高いと思う人もいるかもしれませんが、1日フルに本格的な大学の講義を受けられると思えば、かなり安いと思いますよ。

 

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ちなみにこれはレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」という作品。彼が26歳の時に描いた作品と言われています。この絵では、好奇心に駆られ、身を乗り出して覗き込んでいる人が、ダイナミックな構図を生み出しています。本当に上手いですよね。・・・その内このブログでも独立したテーマとして書きたいと思いますが、この絵は当時の集団肖像画としても非常に興味深い作品です。

 

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こちらはレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたノートの数々。%e3%83%ac%e3%82%aa%e3%83%8a%e3%83%ab%e3%83%89%ef%bc%92
レオナルドは数々の解剖を行い、たくさんのスケッチを残してくれています。ここまでくると、好奇心を完全に通り越して、探究心に変わっていっているのがよくわかると思います。

 

おっと、話を元に戻しますね。今回の講習では実際に自分で粘土の骨格から作って、同じく粘土で作った筋肉を貼り付けていく…というもの。そして作った模型は、ちゃんとお持ち帰りできるそうです。この話しを聞いた時、僕もお金を払ってでも受けてみたい!と思いました。

 

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ちなみに油絵科講師の一部や学生達の好奇心に、早くも火が点いたようで、講習が始まるのを待てずに独自に骸骨を作り始めた人達がいます。しかも全て練りゴム製です(笑)。それぞれのクオリティはともかく、作っている人達の顔は皆イキイキとしていて、側で見ていると思わず微笑んでしまう程です。
既に彫刻科の学生と油絵科の学生が申し込んでいる様ですが、今回の異次元交流は、普段立体を扱うことの少ない油絵科の学生にとって、大いに参考になりそうですね。反対に彫刻科の人は、油絵科のハチャメチャぶりにかなりビックリするんじゃないでしょうか?(笑)

もし興味のある人は、今からでも間に合いますので、是非受講してみて下さい。
https://pro.form-mailer.jp/fms/42fb8ef180418

心の檻

こんにちは。油絵科の関口です。
皆さんは自分以外の作品が評価された時「え?????その絵は絶対に許せない!」「何であんな絵が評価されるんだ」と思った事はありませんか?僕も受験生の頃は、そういう体験がありました。
絵だけにとどまらず、世の中には許せない事って結構ありますよね?
「あの発言は許せない!」「あの行為は許せない」「あの人は許せない!」…

こんな風に他の人を許せない事もありますが、意外と多いのは「自分自身を許せない」という人。
強い気持ちが外側に向かっていく事が出来ず(或いは一度は外側に向い、ひと回りして)自分自身にその嫌悪感や罪悪感の様なものが沸々と湧き上がって、自ら出した怨念の毒牙にやられてしまうんですよね…。edvard-munch
そういう気持ちを放っておくと、ドンドン泥沼にはまってしまいます。
そんな時は、魔法の言葉を唱えましょう。それは…

ま、いっか」ただそれだけです。

絵を描く人というのは、元々何かに「拘り」のある人が多い様な気がします。
「拘り」という言葉は、今でこそ「職人の拘り」とか言って、肯定的な意味合いで使われる事がありますが、本来はあまり良い意味で使われる言葉ではありません。
「拘り」とは、別の言い方をすれば「執着」や「囚われ」であり、そこから解放してあげないと、ドンドン苦しくなってしまうものなのです。
「ま、いっか」は自分自身の何かを解放してくれる言葉なのです。

物事はこうあるべき。?でなければならない。?しなくてはならない。そんな事を考えてしまうと、苦しいばかり。
一体誰がそんな事を決めたのでしょう?
親からそう言われた?先生からそう教わった?
例えそうだったとしても、自分の中にあるルールというのは、最終的には自分で決めているものだと思いませんか?自分で決めたルールという杭を打ち、そこに縄で縛り付けて同じところをグルグル回っていても何も進展はありません。それでは牢獄に入れられているのと同じです。

美術の世界の住人なら、そういう心の檻を破って行くのが、私達の生き方だと思います。

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ムンク「フィヨルドに昇る太陽」1909年

ハロウィンという事で…

こんにちは。油絵科の関口です。
もうすぐハロウィンという事で、お花屋さんで売っているカボチャを買ってきて、家で描いてみました。
僕はいつも心象風景の油絵を描いているので、普段は何も見ないで描いているのですが、今回はモチーフを追いかけて描くのが新鮮で楽しかったです。
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こちらは鉛筆デッサン。サイズはA4くらいです。割りと軽い気持ちで描き始めたので、その辺に転がっていた鉛筆で描きました。%e6%9d%b1%e8%8a%9d%e9%89%9b%e7%ad%86
後でよく見ると、何とTOSHIBAって刻印されてます(笑)。少なくとも絵画用の鉛筆ではありません。それにしても東芝って鉛筆も作ってたんですね…。何かの記念品でしょうか?

 

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こちらは水彩と色鉛筆で描きました。サイズはF4号程度。
夜中から描き始めたのですが、気付いたら外で小鳥がチュンチュン鳴いていました。

 

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あと宣伝になりますが、11月23日(祝・水)に新宿校で油絵科の公開コンクールがあります。1日というスケジュールなので、素描のみになりますが「新美ならではのコンクール」が体験できると思います。内外を問わず、皆さんのご参加をお待ちしております。
http://www.art-shinbi.com/event/2016-contest/item-a.html

秋らしい天気ですね。

涼しい気温が続きますね。渋谷校の箱岩です。

すがすがしい気温で、アクティブに美術館見学やギャラリーめぐりをしている受験生も多いことでしょう。

大好きすぎる利根川沿いに居を構える私は、時間を見つけては利根川沿いの土手をお散歩してリフレッシュしたりしております。

 

しつこいですが、利根川好きすぎて散歩しながら本当に涙ぐんでしまう困ったおじさんですが、今日の景色も抜群でしたので是非ご覧ください。

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雨上がりの濃霧が、静かに日の出に照らされて薄らいでいく様子は生活の中で観るには

素晴らしすぎて心が躍ってしまいます。

水墨や、印象派の風景画のような空気遠近法をリアルに感じる、文字どうり絵に描いたような風景。

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こういうことに感激できるんだから、今の私は健全なんでしょうw

気分が乗らない日や、疲れている日は景色もどんよりくすんで、気が滅入るいっぽうですからね。

気分しだいで同じものが違って見えるのですから、心のもたらす影響は本当に計り知れません。

受験生だからといって「ガリ勉」みたいに心を無視して必死に画面にしがみついていたって人の気持ちを捉え、魅了する作品が作れるとは思えないんですよね。

日々の暮らしの中にあって、活き活きとした心の抑揚を感じながら画面に向かうことはとても重要だと考えています。

人の業を生み、日常の様々なトラブルを生み出す人間の心の動きは、同時に生きる喜びや幸福を生み出すもとでもあるわけですから、これほど興味深く、重要なものはないなと感じる日々です。

以前読んだ僧侶のお話ですが

質問する僧 「こころとは何を持って云うならん?」

答える高僧 「ころころと、ころがればなり。」

ひと時も留まることなく、瞬間瞬間に起きる状況変化の中で絶えず変化し続けるものが心の正体だということのようです。本質が見えるようで私はすごく気に入っている一節なんですよね。

描く者の心の動きは、ものの捉え方に作用し、描こうとする世界を照らし、筆致や絵具の抑揚を生み出し、微妙な色や形を生み出し、バイオリンのビブラートのような美振動となって、観る者の心に共鳴をもたらしすものだと思います。表現するということは、どんな形であれ心の作用なしには始まらないものなのだと思います。

そんな静かな美振動を感じられる作品を紹介しましょう。

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サイ・トゥオンブリー《無題》1968年
家庭用塗料、クレヨン、カンヴァス 200×259㎝
©Cy Twombly Foundation

川村記念美術館HPより

むむ、画像ではちょっと伝わらないかな~~~ww

千葉県佐倉市。都心からだと1時間以上。

ちょっと遠いけど、絶対に見る価値あり!

他にも現代美術に強い美術館なので、是非足を運んでみてください。

学校がめんどい。先生がめんどい。全部いやだってやさぐれてても、今目の前にある作品の問題は解決しません。

受験まで時間がないと焦るにはまだ早い。

今こそ自分の可能性を信じて、実直に素直に自分の気持ちと向き合ってみてはいかがでしょうか?

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近所で見かけた渋柿。このままでは渋くてとても食べれませんが、私のふるさと福島では、この時期盛んに焼酎で処理して樽抜き柿にしたり、皮をむいて霜の降りる季節まで日のあたる軒につるして干し柿にしたり、創意工夫で驚くほど甘い食べ物に変身するんですよね。

子供ながらに面白みを感じたものです。

伸び悩む皆さんだって、まだまだ捨てたものではありません。今後の創意工夫によって大きく変身するきっかけになるかもしれません。

2学期もまだ中盤、勝負はこれからですよ、頑張りましょう!!

 

絵の上手さについて②

こんにちは。油絵科の関口です。
前回に引き続き、絵の上手さについて書こうと思います。

僕が考える上手さは、一般の人には分かりにくいものが多いと思いますので、今回は少しとっつき易いものから入って説明していこうと思います。
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クリムトは一般人にも人気が高く、この絵は数年前 世界で一番高い値段を付けた肖像画として、ニュースを賑わせました。煌びやかで、まさに宝石箱をひっくり返した様な美しさ。人物を見れば、かなり写実的な表現が使われており、分かり易い上手さだと思います。

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では、クリムトでも少し変わった作品を紹介しましょう。こちらも上と同じく、肖像画のジャンルになりますが、背後に中国風の絵が描かれています。これだけの数の顔が画面に登場したら、普通はうるさくて中央の人物は目立たないと思いませんか?
実は、この絵には中央の人物をメインにするための工夫が、色んなところに散りばめられています。一番分かり易いのは、明度対比です。

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こちらの左右を見比べると、右側の絵は背景に完全に同化してしまっていると思いませんか?
顔の明るさに対して髪の毛の調子の黒、同じく靴の黒、この二つを取るだけでもかなり背景と同化してしまいます。更には腰の周りにある馬の暗さもウエストを引き締めるのに使われているのが分かると思います。
こういう工夫を全てを書いていたら、物凄く長くなってしまいますので割愛しますが、クリムトの絵は平面的な処理をしているだけに、こういう工夫が細かいところまでギッシリと詰まっているのです。
こういう操作も絵を描く上での上手さです。説明する上での難易度は低いですが、この能力をある程度身につけるのは、それなりの年月が掛かります。

 

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あと、クリムトのこのタイプのデッサンも、かなり上手だと思います。ただ、こちらの方が説明するのが難しいかもしれません。
これを見ても、ミミズが這いつくばった様なヘロヘロの線で、何が上手いんだ?と思うかもしれませんが、長年絵を描いている人間からすると、こういうのも上手なんですよ。
例えば、この絵には調子を全くと言って良いほど使っていませんが、お尻にはボリューム感があると思いませんか?普通は陰影をつけて量感を表現しますが、線のみで表しています。お尻から奥の方にある腿までの空間も感じられると思います。身体の捻じれも上手く表現されていますし、服装や髪の毛、肌の質感の差も線のバリエーションで表現しています。唇なんかもササッと描いていますが、とても表情豊かです。・・・ここまで書いていると、言葉では中々表すことが出来ず、自分の表現力の乏しさに限界を感じます。

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どちらもクリムトのデッサンですが、右側のデッサンなんか、もはや僕のボキャブラリーでは、上手さを説明するのが困難です(笑)。

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こちらのデッサンは表情が豊かですね。人形とは違い、意思を持った一人の人間として描かれており、今にも何か喋りだしそうな気配さえ漂っています。この絵からはクリムトのこのモデルに対する想いや、人間そのものに対する眼差しを感じます。
ここに挙げた数枚のデッサンは、描かれた時間は僅か数分だと思いますが、この領域に到達する為には、一朝一夕の訓練では不可能なのです。

 
このブログを通して「上手さと言っても色々あるんだ…」という事が分かって頂けたら幸いです。