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古典技法 ー テンペラについて

こんにちは。油絵科の関口です。今年も残すところあと僅かになりましたね。皆さんにとって2016年はどんな年でしたか?こうやって一年の終わりに振り返ると、良かった事、嬉しかった事、大変だった事、辛かった事…様々な事柄があったのではないでしょうか?

さて、皆さんはテンペラという画材をご存知ですか?
年が明けてすぐ、1月8日(日)に高校1?2年生を対象にした古典技法のNew Yearワークショップで、このテンペラを取り扱って行きますので、今日はこの事について書こうと思います。
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ボッティチェルリ「ヴィーナスの誕生」1485年頃 カンバスにテンペラ

まずこのテンペラとは何か?ですが、ザックリ言うと、卵を使ったメディウム(接着剤)で練られた絵具を指します。水溶性のため、乾きが早く、直ぐに重ね塗りが出来るのと、金箔や油性素材の上にも殆ど弾かずに描く事が出来るので、たいへん面白い素材です。img_5119
写真は卵のメディウムを作っているところです。ぬめりを取った卵黄をつまみ、針で刺して卵黄の皮を入れないようにします。

本来テンペラというものは「混ぜ合わせる」を意味するラテン語temperare(テンペラーレ)を語源とした絵具の事です。語源から考えると、水彩絵具や油絵具も含め、全ての絵具はテンペラという事になってしまいますし、実際に色んな種類のテンペラが存在しています。
まぁ厳密な定義はさておき、テンペラはルネサンス以前から使われていた描画材で、実は油絵よりも古い歴史のある絵具、という事を知ってもらいたいと思い、今回紹介させてもらいました。
以前も少しテンペラについて触れた回がありますので、そちらも併せてお読み下さい。
http://www.art-shinbi.com/blog/2014/09/08/
http://www.art-shinbi.com/blog/2014/09/15/

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上はどちらもデューラーのデッサン(白い部分にテンペラを使っていたと思われます)

本来古典技法というものは、制作にかなり時間が掛かるものです。ただ、今回やるのは1日で出来る内容に凝縮されています。実際に卵を使ったメディウム作りから行いますので、お料理教室みたいで、楽しいワークショップになると思います。対象は高校1?2年生という事になっていますが、保護者の方も含め、興味のある人は遠慮せずに申し込んでみて下さい。定員もありますので、お申し込みはくれぐれもお早めに。
申し込みはこちらから。
http://www.art-shinbi.com/event/workshop/workshop-005.html

最後になりましたが、2017年が皆さんにとって良い年になります様に。

好奇心の産物②

こんにちは。油絵科の関口です。あっという間に二学期も終わり、もうすぐ冬期講習という事になりますね。受験生の皆さんにとって、この冬期講習は大きく成長するタイミングでもあります。これまで沢山の受験生を見てきましたが、ここでキッカケを掴んだ学生が、希望の大学に受かっているという印象がありますので、是非一緒に頑張りましょう!

さて、前回に引き続き、今日のテーマも好奇心です。ちょっと長い文章ですが、どうか最後までお付き合いください。

 

11月の始めと12月の始め、二回に渡り根津美術館で開催されている、日本画の「円山応挙・写生を超えて」を観てきました。どれも素晴らしい作品で、深い感銘を受けました。
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例えばこの「雨竹風竹図屏風(前期のみ展示)」は、風と雨の存在を葉の形、筆致の方向、筆勢のみで表現しています。雨を描くのに雨粒を一切描かずに表現しまう力量に、思わず唸ってしまいました。ame
部分を拡大して見ると、その凄さが分かっていただけるかと思います。(↑雨竹)kaze
いや?ヤバいっすよ、この上手さ。(↑風竹)

 

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こちらの絵は今回の展覧会のポスターやカタログの表紙にもなっていて、応挙の代表作の一つ「藤花図屏風」です。藤の幹の表現は金箔の上に薄墨で非常に大胆なタッチで描かれています。描き直しや迷いは一切ありませんでした。「お見事!」としか言いようがありません。藤の花も白い胡粉の上に青い絵具と赤い絵具を重ねて表現していました。この絵はまだ展示されていますので、現物を見ることをお勧めします。下がって見ても、近くで見ても色んな発見がある筈です。

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そして興味深かったのは、画帖や巻物に描かれた様々なスケッチの数々。今回は「写生を超えて」というサブタイトルが付いていますが、その写生が本当に素晴らしかったです。身近にある色んなモチーフが克明に描かれており、そこには沢山のメモ書きも残されていました。これらはケースに入っているので、かなり近くから見ることが可能です。是非現物を見て頂きたいですね。油絵科の学生にはスケッチブックの参考になると思いますよ。img_5247
一つひとつのモチーフに好奇心を持ち、愛情を込めて描いてあるのが伝わってきました。これは巨匠の並々ならぬ好奇心が探究心に変わった良い一例だと思います。
自分にとって、日本画は専門ジャンルではありませんが、絵を描くという本質的な部分には、何ら変わりありません。
ただ、油絵とは違って、日本画の展覧会は作品保護の関係上、展示替えがある事が多いみたいですね。今回の展覧会も一度展示替えがあったので二回訪れたという訳です。

 

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そして二回目に訪れた時、フラッと美術館の庭に出てみたんですが、これがまた手入れが行き届いていて素晴らしい日本庭園でした。東京のど真ん中に、こんな素晴らしいところがあったとは…。%e5%ba%ad%e5%9c%92%e9%a2%a8%e6%99%af
ここのところ忙しい毎日を送っていたので、安らぎのひと時となりました。皆さんも晴れている日を見計らって、是非足を運んでみて下さい。ちなみに応挙の会期は来週日曜日までです。
根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp

 

前回も言いましたが、我々モノを作る人間にとって、一番大切なのは好奇心です。それさえあれば、技術や知識なんて後から勝手に付いてきます。
どんな障害だって乗り越えて、すごい事が可能になる…そんなエネルギーの源が好奇心です。自分の好きな事が見つかったら、例えどんなに些細なことやマニアックな事でも構いませんので、他人の目なんか一切気にせず、楽しみながら前に突き進んでいって欲しいと願っています。

 

最後に自分の展覧会の宣伝です。
80824053_10412/15(木)?24(土)横浜の石川町にあるギャラリーアークで約30人のグループ展を行います。ハガキサイズ以下の作品が100点以上も並ぶので、楽しい展覧会になると思います。僕の作品は普段制作している心象風景とは違い、今回はモチーフを水彩、色鉛筆、鉛筆で描写しています。以前紹介したハロウィンのシリーズの続きですね。会期は講習会とバッチリ被っていますが、興味のある人は是非見に来て下さい。
ギャラリーアーク
http://ark.art-sq.com

人物特訓 美術解剖学特別講習

こんにちは、油絵科の阿部です。
12月4日、日曜日に行われました
『人物特訓 美術解剖学特別講習』。
美術解剖学の専門の先生である、阿久津裕彦先生をお迎えして行われました。(ちょっと草薙似?)
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参加されたみなさん!
お疲れ様でした!
その講習で体験したことは、一生の中で本当に貴重な経験の1つではなかったでしょうか!

なにせ、みなさんの多くが目指されている、東京芸術大学の学生が、
1ヶ月ぐらいかけて制作する模型を、部位を限定したとはいえ1日で作ってしまうのですから。そしてまさにっ!大変だったと思います。

朝に軽く講義を受けてから、制作に入りました。

みなさんご存知でしたか?
「頭蓋骨の形は、なんでこんな形をしているのか?」
それはすべて、脳や目玉などを収めるうつわになっているのですね?。
実際頭蓋骨を逆さまにして、石膏などを流し込んで成形すると、脳の形ができるそうです。

みたいなことからはじまり
「頭蓋骨は、背骨の上に乗っています」
と1つひとつ丁寧に説明を受けながら、頭像芯棒に油土をつけていきます。
彫刻科の受講生は、さすがに慣れたものです。その一方
油絵科の受講生たちもなかなか・・・すでに、素晴らしい個性を発揮しておられました。

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こんな調子で、どんどん「人体頭部解剖模型」ができていきました。
後半、頭蓋骨の上に顔半分筋肉をつけていきます。せっかくつくった骨の形が筋肉で埋められていきます。「さようなら?」と言いながら先生は埋めていらっしゃいました。

そして終了!
どうにかこうにか、とうとう完成を見ることができました。

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先生も、多人数でこんな短い時間でつくってもらったのは、初めての経験だったそうで感動されていました。
後半、ちょっと、とばしぎみでしたが、みなさんついてきてくれて嬉しかったとおっしゃっていました。

終わった直後は、みんなひと山越えたような達成感?からか、気持ちが高鳴っていた感じを受けました。途中から違う山に行っちゃった人もいたようでしたが、それもやってみなければ 見えない新しい山でしょうから、良かったのでは ないかと思います。

おかげさまで総勢69人参加の大盛況でした。
阿久津先生 、そして受講していただいたみなさん!!
本当にありがとうございました!
また、ご協力いただいたスタッフの皆様にも御礼申し上げます

尚、自分のつくった模型に満足いかず引き続き制作したい受講生や、今回定員があり申込みたかったけど締め切られてしまった人も、このブログをみて興味の出た方も、今回講師を務めていただいた阿久津裕彦先生の出されている教本がありますので、参考にするとよいかと思います。

 

好奇心の産物

こんにちは。油絵科の関口です。
皆さんは、絵を描く人や、ものを創る人にとって、一番大切なものって何だと思いますか?
一言で言えば、それは「好奇心」だと思います。

 

「何これ?面白?い!」全てはそこからスタートし、その好奇心はやがて「もっと詳しく知りたい!」という探究心に変わっていきます。その時に発生する熱量が、作品を作り出すエネルギーになるのです。
好奇心は、そもそも人間…否、動物に備わった本能であり、産まれたての人間や動物は色んなものに興味を持ち、失敗を繰り返しながら学習していきます。

 

来週の日曜日、我々の好奇心を掻き立ててくれる様な、そんな面白い企画があります。それはズバリ、美術解剖学特別講習。item04_pc
芸大をはじめ、色んな大学でも講義をされてきた阿久津先生が指導して下さいます。
受講料は7000円という事で、ちょっと高いと思う人もいるかもしれませんが、1日フルに本格的な大学の講義を受けられると思えば、かなり安いと思いますよ。

 

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ちなみにこれはレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」という作品。彼が26歳の時に描いた作品と言われています。この絵では、好奇心に駆られ、身を乗り出して覗き込んでいる人が、ダイナミックな構図を生み出しています。本当に上手いですよね。・・・その内このブログでも独立したテーマとして書きたいと思いますが、この絵は当時の集団肖像画としても非常に興味深い作品です。

 

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こちらはレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたノートの数々。%e3%83%ac%e3%82%aa%e3%83%8a%e3%83%ab%e3%83%89%ef%bc%92
レオナルドは数々の解剖を行い、たくさんのスケッチを残してくれています。ここまでくると、好奇心を完全に通り越して、探究心に変わっていっているのがよくわかると思います。

 

おっと、話を元に戻しますね。今回の講習では実際に自分で粘土の骨格から作って、同じく粘土で作った筋肉を貼り付けていく…というもの。そして作った模型は、ちゃんとお持ち帰りできるそうです。この話しを聞いた時、僕もお金を払ってでも受けてみたい!と思いました。

 

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ちなみに油絵科講師の一部や学生達の好奇心に、早くも火が点いたようで、講習が始まるのを待てずに独自に骸骨を作り始めた人達がいます。しかも全て練りゴム製です(笑)。それぞれのクオリティはともかく、作っている人達の顔は皆イキイキとしていて、側で見ていると思わず微笑んでしまう程です。
既に彫刻科の学生と油絵科の学生が申し込んでいる様ですが、今回の異次元交流は、普段立体を扱うことの少ない油絵科の学生にとって、大いに参考になりそうですね。反対に彫刻科の人は、油絵科のハチャメチャぶりにかなりビックリするんじゃないでしょうか?(笑)

もし興味のある人は、今からでも間に合いますので、是非受講してみて下さい。
https://pro.form-mailer.jp/fms/42fb8ef180418

心の檻

こんにちは。油絵科の関口です。
皆さんは自分以外の作品が評価された時「え?????その絵は絶対に許せない!」「何であんな絵が評価されるんだ」と思った事はありませんか?僕も受験生の頃は、そういう体験がありました。
絵だけにとどまらず、世の中には許せない事って結構ありますよね?
「あの発言は許せない!」「あの行為は許せない」「あの人は許せない!」…

こんな風に他の人を許せない事もありますが、意外と多いのは「自分自身を許せない」という人。
強い気持ちが外側に向かっていく事が出来ず(或いは一度は外側に向い、ひと回りして)自分自身にその嫌悪感や罪悪感の様なものが沸々と湧き上がって、自ら出した怨念の毒牙にやられてしまうんですよね…。edvard-munch
そういう気持ちを放っておくと、ドンドン泥沼にはまってしまいます。
そんな時は、魔法の言葉を唱えましょう。それは…

ま、いっか」ただそれだけです。

絵を描く人というのは、元々何かに「拘り」のある人が多い様な気がします。
「拘り」という言葉は、今でこそ「職人の拘り」とか言って、肯定的な意味合いで使われる事がありますが、本来はあまり良い意味で使われる言葉ではありません。
「拘り」とは、別の言い方をすれば「執着」や「囚われ」であり、そこから解放してあげないと、ドンドン苦しくなってしまうものなのです。
「ま、いっか」は自分自身の何かを解放してくれる言葉なのです。

物事はこうあるべき。?でなければならない。?しなくてはならない。そんな事を考えてしまうと、苦しいばかり。
一体誰がそんな事を決めたのでしょう?
親からそう言われた?先生からそう教わった?
例えそうだったとしても、自分の中にあるルールというのは、最終的には自分で決めているものだと思いませんか?自分で決めたルールという杭を打ち、そこに縄で縛り付けて同じところをグルグル回っていても何も進展はありません。それでは牢獄に入れられているのと同じです。

美術の世界の住人なら、そういう心の檻を破って行くのが、私達の生き方だと思います。

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ムンク「フィヨルドに昇る太陽」1909年