カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

新紙幣

こんにちは、油絵科です。

今年4月に新紙幣のデザインが発表されましたね。渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎と紙幣の顔も世代交代ですね。油絵科では新札のトーンがきれいだと話題になりました。

ところで今使用している紙幣は銅版画(どうばんが)で刷られていることをごぞんじですか?じつは国立印刷局に務める工芸官が原図を描き、銅板にビュランと呼ばれる道具で線刻をして原版を製作しています。手作業で作られていると知ったときは驚き、お金をおろしに行ってしばらく鑑賞しました。

(上写真)ビュラン

工芸官は普段からデッサンや版画などを行って技術の研鑽を積んでいるそうです。工芸官には、シンビから芸大の版画を出て務めている人もおり、その方の参考作品が図書室の作品棚に入っています。

この間、フロッタージュ技法を試しているなかで、興味本位でお札を使ってみたのですが、面白いことに透かしの凹凸や目の不自由な方のためのマークなどが浮き出てきました。

レリーフとしても非常に優れた紙幣ですね。

 

実は美術でも、お金をモチーフに制作された作品があります。

※めくるめく現代アート(フィルムアート社)の裏表紙

赤瀬川原平は「宇宙の罐詰」も有名ですが、ゼロ円札等、お札を題材にしている作品もあります。原寸の200倍に拡大した「復讐の形態学」や案内状の片面に印刷、零円札なども作っていました。

美術手帖でも付録として、千円札を半分に割った印刷物(くつけてはいけない)を出版しています。

残念ながら赤瀬川原平は、千円札の作品で有罪となってしまい、作った原板を没収されてしまっています。

零円札の作品は、最近ネットで45万円の値段がついていました。

 

新紙幣の発行はまだ先ですが。楽しみですね。

画材と仲良くなろう!!Pebeoワークショップ☆

こんにちは、油絵科です。
日曜日、記事の上げ方がわからないという失態…1日遅れてしまいました(◞‸◟)

今回は6月8日土曜日に行われるPebeoワークショップ(ミクストメディアセミナー)についてです。Pebeoってなんだ?という方も多いと思います。Pebeoとはフランスの創立100周年を迎える画材メーカーさんです。
何故今回新美でワークショップをしてもらうことになったのか。
それはなんと言っても特殊で楽しい素材にあふれているから!

受験まで時間のある今の時期、難しいことを考えずただただ素材の美しさ面白さを知って、少しでも画材との距離が縮まればと思っています。

女子美、造形大などで行われた、Pebeoワークショップの様子がこちら↓↓↓

皆さん中山智介先生の実演を食い入るように見てますねー。

美しい!この画材も当日さわれるかな?

マットピュブ、ヴィトラーユ、またパミスストーンモーター、ファンタジームーンにファンタジープリズムなど魔法の名前かな??と思うような未知の画材盛りだくさんです。
油絵科が中心の参加となりますが、アクリル系画材の説明から始まり、ミクストメディアへ移っていくので誰でも楽しめる物になっています!申し込んだ人は当日をお楽しみに〜(^ ^)

画材と仲良くといえば、過去の合格者で、絵の具を固く練りすぎてペインティングナイフでは混ぜられず、まるで陶芸でも始めるかのように手で絵の具を捏ね出した人、泡立て器で絵の具を攪拌しだした人、和紙をチミチミさきだした人、様々な生徒がいました。(もちろん全員がそうではこまるのだけど!笑)皆それはそれは真剣!!真剣なら真剣なほど見てて面白いのですが(笑)

一昨年の現役合格をした女の子で、油はぬるぬる~とした質で楽しく描けるのに、デッサンになると突然、『描写しなきゃ!!』っと、カチンコチンになってしまう子がいました。
とても苦しそうにデッサンを描いていたので、自分の好きなテクスチャーに寄せられるよう素材の使い方を伝授したところ、眉間にシワを寄せながら描いていたはずのデッサンを、『楽しい!!』と笑顔で描くようになりました。
木炭と仲良くなってからは、良くなり方のスピードが凄かったのが印象的です。
そしてそのまま見事に芸大現役合格!!
今の時期から皆さんも画材と仲良くなるためにフットワーク軽くいきたいですね!

今回のPebeoワークショップは完全内部向けですが、6月16日(日)には内外問わず参加できる)無料のワークショップがあります。各科で実施され毎年豪華な内容になっています。
今年の油絵科は下地について。下地材って色々あるけどなんなんだろう…効果あるの…そもそも下地って何…とピンと来ていない人は必見です!
油絵科ツイッター(https://twitter.com/shinbiabura)新美HPで随時情報は更新していくのでチェックしてみてくださいねー。

関口より「重大?」なお知らせ

こんにちは。油絵科の関口です。

さて、重大と言ったら大げさですが、皆さんにお知らせです。
次回より他の講師にブログをバトンタッチし、僕は暫くの間充電したいと思います。というのも2013年よりずっと油絵科のブログを担当してきましたが、さすがにネタ切れです。この5年半もの間、色々とあちこちネタを探し回って、無い頭を絞りながら書いてきました。反対に言えば、自分でもよくこれだけネタが続いたものだ…と感心しています。
もし僕の記事を楽しみにしていた方がいらっしゃったら、たいへん申し訳ありません。過去の記事を読んで頂いたり、新たなネタが集まるまで、暫くの間お待ちください。なお充電期間中は、他の講師が僕とは違ったテイストの記事を書いてくれると思いますので、そちらをお楽しみいただけたら幸いです。

もう一つ個人的なお知らせです。5月24日(金)〜6月5日(水)新宿のギャラリー絵夢さんでのグループ展に参加しています。出品点数は2点ですが、今回はいつもの心象風景ではなく、静物を展示予定ですので、興味のある方は是非ご高覧ください。
http://www.moliere.co.jp/galerie/2019/gendaisakkabijutsu.html

あともう一つ、新宿から丸ノ内線でもう少し足を伸ばし、四谷三丁目から5分程度歩いたところに美術愛住館という美術館があり、5月19日までアンドリュー・ワイエスの展覧会が開催されています。先日僕も見てきましたが、あの有名な「クリスティーナの世界」の初期エスキースや、名作が生まれたオルソンハウスで制作されたデッサン・水彩が40点ほど見ることができます。画集に載っている作品が多く、本物を見る良い機会だと思いました。まだご覧になっていない方は、あと1週間ありますので是非訪れてみてください。
http://aizumikan.com

「クリスティーナの世界」(この作品は来ていません)

長い間ありがとうございました。またお会いしましょう。

クリムトについて③風景編

こんにちは。油絵科の関口です。今年のゴールデンウィークは10連休ということで、旅行に出かけたり、家でノンビリしたり、皆さんも色々と計画を立てていることと思います。以前も書きましたが、都内では2箇所の美術館でクリムトの作品を見ることができますので、まだ連休の予定が決まっていないという人は、この機会に是非訪れてみて下さい。

さて、クリムトといえば煌びやかな人物画が有名ですが、実は風景画もたくさん描いていて名作が多いんです。クリムトの風景は彼の描く人物と同じように、平面的で装飾的な要素も絡めながら独特な世界を作り出しています。
タッチを使いながら、モザイクのように色を並べながら描いていますね。画面全体を覆う緑系統のグレーの中に、補色に当たるポピーの赤い花を散りばめ、見る人の目を楽しませてくれます。よく見ると数種類のお花が描かれていて、ボッティチェルリの「春(ラ・プリマヴェーラ)」の地面を彷彿させてくれます。


こちらの作品は細かいタッチで描かれた木の部分と、艶やかな水面の対比が美しい作品です。水面はクリムトが得意としていたモチーフの一つで、他の作品にもいくつか登場してきます。技術的な側面で捉えると、最初は上の方にある木と同じようにタッチを使って(ボカすことを前提に描いているので、少し粗めに描いている可能性大)油絵具を置いていき、乾く前に絵具のついていないハケ等で軽く撫でてボカしたのではないか?と推察されます。


こちらの作品も水面を狙って描いていますが、木のシルエットの他に映っているのは、森の奥にある夕日(朝日?)に照らされている雲でしょうか?オレンジ色の反射がとっても綺麗な作品です。前述した作品とは異なり、水面にはタッチをある程度残し、奥の方にある森を少しシットリとした表現で描いています。水面から生えている手前の植物には、少し長めのタッチを用い、抽象的でリズム感が心地よい作品に仕上がっています。


この作品はちょっと奥行き感はありますが、クリムトの作品の中ではかなり抽象的な作品と言えるのではないでしょうか?大胆なタッチでモネの有名な作品「印象・日の出」や日本画の福田平八郎の作品「漣」を彷彿させます。
左:モネ「印象・日の出」 右:福田平八郎「漣」


こうやってクリムトの風景を見ていくと、彼が意識的に正方形の作品に取り組んでいることがわかります。
僕も自分の作品で風景を描いているのですが、個人的に正方形というのは、あまり風景画に適したフォーマットでは無いように思います。ちなみにキャンバスのサイズに「Pサイズ」というものがありますが、これはフランス語の”paysage”(風景)に由来します。これは人物画に適したと言われる「Fサイズ」”figure”よりも細長く、横長に使うのが一般的です。(もちろん風景を描くのにPサイズを縦に使っても問題ありませんし、Fサイズだからと言って人物を描く必要もありません)
なお正方形は「Sサイズ」”square”で、「Mサイズ」は”marine”で海を描く用に作られ、一番細長いフォーマットになっています。
ただ、クリムトは好んで正方形というフォーマットに挑戦しているようです。平面的で装飾的なスタイルと正方形が彼の感覚の中でシックリいった…ということだと思っています。今の時代ならInstagramにピッタリなサイズ感ですね。

新宿校の6階には、クリムトの風景だけを集めた画集もありますので、他校舎の人や他科の人でも「クリムトの画集が見てみたい」という人は、是非6階の面接室を訪れてみてください。
長くなりましたので、今日はこの辺で。

クリムトについて②コスチュームの秘密

こんにちは。油絵科の関口です。
前回に引き続き、クリムトのお話です。今回は作品だけでなく、描かれたコスチュームの秘密にも迫っていきたいと思います。

クリムトは優れた観察力、美しい色彩、煌びやかな装飾性が作品の特徴で、上流階級の人達からも大変人気がありました。そのため豪華な肖像画を多数残しています。


モデルになった人の写真も残っているので、見比べてみるとソックリに描かれているのが分かりますね。

絵を描いている人の中には「クリムトみたいに模様を作品の中に取り入れてみたい」と、試してみた事のある人もいると思います。しかしやってみると、意外と難しくて大抵は失敗に終わってしまう筈です。その原因は「見て描いた部分」と「模様」との差があまりにも大きく、分離してしまうからです。では何故クリムトの絵は描写と模様が喧嘩せずに同居できるのでしょうか?


理由はいくつかありますが、僕なりにこの作品を利用して分析してみたいと思います。

①敢えて立体感が出ないようにモデルの正面から光を当てている。
②モデルを挟むように模様を配置しながら「手前の椅子」「奥の壁」という、平面でありながらも三次元的な空間設定を与えている。(地面のひし形も同様に三次元空間上の模様という設定になっている)
③背景の黒い色面と、モデルの髪の毛の黒がリンクしている。
④コスチュームの白っぽいグレーと、背景にある模様の白っぽいグレーがリンクして散りばめられている。
⑤コスチュームの中にある柄(この絵の場合はリボンと裾の一部など)を利用し、模様とリンクした部分がある。
⑥オレンジ色の背景とコスチュームのタッチがリンクしている。

こうやって分析してみると、模様と描写を絡めるための工夫が、至る所に散りばめられているのが分かります。

そして、これらの表現を容易にしているのが「コスチューム」である事に気付かされます。このコスチュームを担っていたのが、クリムトのモデルであり、愛人でもあったエミーリエ・フレーゲという衣装デザイナーです。

ところでクリムトのアトリエには、多い時で10数人のモデルが寝泊まりし、複数のモデルとの間に数人の子供がいた、とされています。

クリムトの映った写真には、こういうスモッグを着ている写真が多く見受けられますが、実はこの下はいつもスッポンポンだったとか(笑)。なるほど、そういう事でしたか…(笑)。そういえば顔付きもワイルドな感じですよね。


それはさておき、エミーリエの衣装が、クリムトの作品を作る上で重要な役割を果たしていたのは間違いありません。
こうやってみると確かに面白い衣装ばかりです。彼女の存在が、クリムトに多くのインスピレーションを与え続けてくれていた事でしょう。

クリムトは1918年にスペイン風邪で亡くなりますが、今際の言葉も「エミーリエを呼んでくれ…」だったとか。そのエミーリエも生涯独身を貫いたそうです。ちょっと素敵なお話ですね。それでは今日はこの辺で。