アーカイブ

ターナーについて思うこと

こんにちは。油絵科の関口です。
今年の5月は気温の乱高下が激しく、体調を壊した人も多いのではないでしょうか?

さて今回は新宿の損保ジャパンで行われているターナー展についてお話しようと思います。僕もつい先日展覧会を見てきました。今回の展示では水彩を中心という構成でしたが、ターナーは水彩の扱いがとても上手なので、興味のある人は必見です。

ターナーはイギリスを代表する風景画の巨匠です。
イギリスはヨーロッパの大国の1つですが、大陸から切り離されているせいか、ルネサンス、バロック、ロココという美術界の大きな流れに取り残されてきた様な印象があります。
そんな中で、ターナーは彗星の如く現れ、19世紀イギリスロマン主義の画家として活躍しました。印象派の先駆けと言っても良いような作品を数多く残しています。
今でもイギリスは国立の美術館がターナー賞というものを設立し、50歳以下のイギリスで活躍する美術作家を表彰しています。イギリス人にとってターナーは特別な存在なんでしょうね。

このターナーも、初期の頃はかなり緻密に描いています。10代後半には既にかなりの力を身につけていた様子でした。近くでよく見ると、鉛筆ではなく、薄い茶色いインクの様なもので下描きをして、その上に水彩を使って描いているのが分かりました。
初期の頃に描かれた下描きの茶色は、セピア(イカ墨)のインクか、没食子(もっしょくし)と言われる、ブナ科の植物に出来たコブ(蜂が木の若芽に卵を産み付ける事でできる)から取れた汁を化学反応させて作られたインクだと思われます。どちらも劣化や退色などで保存や扱いが難しく、現代では殆ど描画材として使われていません。

それから、よく見ると初期の頃と晩年では、青の色味が違います。これは1824年に人工ウルトラマリンが発見された事に起因するのかもしれません。天然のラピスラズリは高価だったので、丁度この頃に安価な人工ウルトラマリンが絵具に採用されたのではないか?と僕は思っています。

1817年の作品

1827?28年の作品

あともう一つ。僕が作品を見て考えたのは、日本でターナーの人気が高い理由です。水彩画が多く、親しみやすいというのもありますが、作品の中に空気遠近法が多用されているのが原因ではないか?と思いました。湿度が高い日本人の感性と、どこかシンクロする部分があるのかもしれませんね。
これから先、鬱陶しい梅雨空になった時に、ふとターナーの事を思い出してみるのも一興かと思います。それでは今日はこの辺で。

追記:5月25日(金)?6月3日(日)
新宿のギャラリー絵夢さんでグループ展を行います。出品は2点の予定ですが、お時間のある方は是非お越しください。
http://www.moliere.co.jp/galerie/