日別アーカイブ: 2018年10月14日

ナイフの魅力

こんにちは。油絵科の関口です。
油絵科の皆さんなら「ナイフ」と言えば刃物ではなく、真っ先に思いつくのはペインティングナイフになるかと思います。きっと一度くらいは使った事はありますよね?え…?全部筆で描いていて、一度も使っと事がない?それはそれで珍しいタイプかもしれませんが、実は正統派です。というのも、油絵でペインティングナイフが一般的に使われる様になったのは、近代に入ってからです。古典絵画の大半は筆のみで描かれています。
しかし、ナイフは筆では得られないタッチと、極端な厚塗りも可能で、下の絵具が乾く前にドンドン重ねられるのも魅力です。
今日は描画材としてのペインティングナイフに焦点を当てて行きたいと思います。

ルネサンス初期に発明された油絵具ですが、当時の描画材は専ら筆になります。油絵が発明される前からあったテンペラやフレスコも筆でのみ描かれており、新しく開発された油絵具も筆で描くという行為が踏襲されました。
では、ペインティングナイフを最初に使った画家は誰でしょう?
僕は恐らくレンブラントではないか?と思っています。この「ユダヤの花嫁」という作品では、身篭った妻のお腹に手を当てる夫の腕、洋服部分にヘラの様なもので絵具が乗せているのが分かります。この時代に金属製のペインティングナイフというものは無かった筈なので、何を使ったか?までは分かりません。
同時代の巨匠であるルーベンスやベラスケスは、ナイフを使って描いた絵は一枚も残していません。レンブラントが独自に開発した技法である可能性が高いのです。レンブラントは肖像画の注文をたくさん受けていましたが、まず自分の顔=自画像で色んな実験をしていた、と言われています。

例えばこの自画像では、筆の持ち手である柄の部分で引っ掻いて髪の毛を表現しています。この技法は後に違う作品でも使われる様になりますが、それまでの絵画の歴史の中では「異端」の技法です。

近代になるとクールベ、ドガ、クレー、モロー、ルオーあたりもナイフを使って描いた作品が散見されます。マティスは絵の具を削り取る道具として使っているのをよく見かけます。

クールべ

第二次大戦後もデ・クーニング、フォートリエ、タピエス、ド・スタールなど様々な作家がナイフを使って魅力的な作品を作っています。

ド・スタール


タピエス

油絵具という物質感の強い絵の具を強調する描画材として、ナイフは大きく貢献してきました。機会があれば、技術的な側面からもナイフの事を語ってみたいと思います。

 

あと私事になりますが、10月17日?11月8日まで銀座並木通りギャラリーで個展を開催することになりました。JR有楽町駅、地下鉄銀座駅、銀座一丁目駅から歩いても5?6分の場所にあります。お時間のある方は是非お立ち寄りください。ちなみに土曜日は、ギャラリートークのある27日のみ開廊していますが、他の土曜日はお休みです。日曜と祝日もお休みです。お間違えのないよう、お願い致します。

http://namikidori-gallery.com