カテゴリー別アーカイブ: 映像科

映像科・デッサンができる人は「前半の姿勢」が違う!

こんにちは、映像科講師の野澤です。

さて、今回は美術予備校のみなさんが避けて通れない、デッサンについて話したいと思います。デッサンを描くとき、みなさんは普段どんな指導を受けていますか? 「全体をよく見ろ」とか「細部までしっかり観察しなさい」とか、色々言われては試行錯誤していると思います。

見えるものを見えるままに描くことは、なぜこんなにも難しいのでしょう? それはデッサンが、裸の眼で素直に自然を見ればおのずと描けるようになる、などといったものではなく、ヨーロッパリアリズムの歴史が作り上げてきた、きわめて特殊な身体技能だからです。

ちょうど最近、デッサンの制作過程を3Dモーションキャプチャーで計測した野中哲士さんの研究論文(野中 他, 2010)を発見しました。そこで今回はデッサン中の「姿勢」に焦点をあて、画家がデッサンを描くあいだどのような姿勢を取っているのかを解説します。

さて、デッサンを体得した画家の「姿勢」は、どこにポイントがあるのでしょう? その答えは、前半・中盤・後半での「姿勢の切り替え」にあります。今回は特に、初級者にとって重要な、デッサンの前半場面にしぼって解説しましょう。

身体の芯を動かさずに、自分とモチーフと画面の位置関係を描き込む

デッサンを成立させる上で、最も重要なのが、モチーフの全体的な形を取り、地面の陰影を描き込む、前半段階です。この段階は、デッサンで最も難しい局面だと言っていいでしょう。なぜなら、画用紙の上にまだ何も描かれていないので、身体を少し動かしただけで、画家自身が、画用紙とモチーフの位置関係を見失ってしまうからです。画家はモチーフの形を取ることで、自分がそこでデッサンを描くための土台を、画面の中に築き上げてゆきます。

野中さんの計測によれば、画家の姿勢は前半で、体幹(背骨の通っている胴体の芯)の位置をほとんど動かしていないそうです。席から立ったり、頭を揺らしたりせず、身体の芯の位置を一定に保ったまま、モチーフの輪郭や形を、画用紙に描き込んでゆきます。

ここで「モチーフの全体的な形をとる」ことの隠れた役割が、明らかになります。最初に言った通り、画用紙に何も描かれていない前半段階では、身体を少し動かしただけで、画用紙とモチーフの位置関係を見失ってしまいます。つまり画家はデッサンがはじまってすぐ、たとえ自分の身体が動いてしまっても、身体が元あった位置を発見できるように、画用紙に痕跡を残しておかなくてはならないのです。

画用紙にモチーフさえ描いてあれば、それをヒントに元の身体の位置に戻ることができます。デッサンにおいて「モチーフを描くこと」は、画面の中に「モチーフ – 画用紙 – 自分自身」の相互位置を構築することなのです。ここがデッサンの我慢のどころだと言ってもいいでしょう。

上手い人ほど、モチーフを見る視線と利き手はシンクロして動いている

さらに計測によれば、画家の視線は前半段階で、非常に素早くモチーフと画用紙の間を行き来しており、なおかつ視線と利き手がシンクロしていました。視線は1分間に約20回、モチーフと画用紙を往復しており、視線がモチーフを離れた瞬間には、すでに鉛筆をもった利き手が動きはじめていました。つまり画家は、体幹を一定の位置に保ったまま、まるで視線と利き手をヒモで結んでいるように細かく連動させて、モチーフの形をスキャニングしているのです。

モチーフと画用紙を視線が往復する周期は、デッサンに熟練した者ほど早く、デッサンの写実性と周期の速さは比例することが、別の研究でわかっています。さらに、短時間で描き上げる時ほど、画家は何度もモチーフを確認します。5時間で人物を描く場合は12回/分、2分間で人物をラフスケッチする場合は22回/分、40秒でラフスケッチの場合はなんと35回/分です。体幹を安定させつつ、視線と利き手をシンクロさせる技術は、クロッキーの際にも重要なことがわかりますね。

中盤と後半の姿勢:身体を大きく画面から離して、チェック!

もしみなさんが、前半の姿勢を体得しているなら、中盤と後半は、もう解説の必要がないでしょう。モチーフの大まかな形を取り、モチーフと画面と身体の相互位置さえ構築しておけば、あとは画板を動かしても、顔を思い切り画面に近づけても大丈夫。ちゃんと元の位置に戻ってくることができます。ただし、ひとつだけアドバイスするなら、後半の仕上げ。身体を大きく画面から離して、デッサンの形や、トーンの調子を、何度もチェックする習慣をつけて下さい。

絵画を描く「姿勢」は、絵画と画家の関係から絞り出される

さて最後に、絵画と画家を結びつけている「姿勢」が、受験のみならず、作品を制作する上でどのような意味を持つか、ぼくなりの考えを書いてみます。

今日解説した、デッサンを描く際の「姿勢」は、人工的な訓練で動作をひとつひとつ叩き込んで身についたものではありません。左側にモチーフがあり、右側に画用紙があり、その真ん中に自分自身の身体があり、モチーフから乱反射する光の粒を、白い紙に写し取らなくてはならない、というデッサン特有の「制約」が、画家の身体を長い年月のうちに縛り上げて、このような「姿勢」をかたちづくったのです。

絵画を制作するとき、画家はかならずしも、「自由」に自分の身体を動かすことができるわけではありません。画家の周囲をとりこかんでいる広大な光、樹や、海や、人、そしてなにより眼前の絵画が、画家の肉体を拘束しています。そして、これらの「制約」と折り合いをつけ、自らの絵画を成長させてゆくにしたがって、画家の身体は、新しい水脈を見つけるように、新たな動きの可能性を見つけ出してゆきます。「自由」とは、「制約」から発見されてゆくものなのかもしれません。それではまた!

●引用文献
野中哲士, 西崎実穂, 佐々木正人:デッサンのダイナミクス, 認知科学 17(4), 691-712, (Dec. 2010). ※Figure2. には高校生にわかり易く、改変を加えた上で掲載しました。

映像科・2014夏期講習、始まります。

こんにちは。映像科の森田です。
梅雨も明けてすっかり夏本番の日々ですね。映像科の夏期講習は来週の火曜日、29日にスタートします。中期と後期合わせて計24日間。朝から夕方までのカリキュラムは受験の一年の中でも一番ハードかもしれません。(過去ログを確認したところ去年もほぼ同じことを書いていましたが)しっかり体調管理をして乗り切りましょう!

■中期【EA】7/29~8/10 私立美大映像総合Ⅰ+推薦入試対策コース:
武蔵美映像学科や、東京造形大映画専攻・アニメーション専攻、日芸の映画学科などの一般入試対策と並行して、9月以降に各大学で行なわれるAO入試、自己推薦入試や公募制入試の対策をするコースです。前回の記事でも書きましたが、特に今年から始まる武蔵野美大の「クリエーション資質重視型」は、映像作品を提出するという新しい形式なので、受験を考えている人は早めに対策を始めましょう!中期では、映像実習や、プレゼンテーション課題、映像鑑賞課題などを行ないます。

■後期【EB】8/12~8/24 私立美大映像総合Ⅱ+一般入試特訓コース:
後期は特に一般入試の「実技」「小論文」の強化対策を行ないます。映像の試験問題は例えば同じ「小論文」でも、大学によってかなり傾向が異なるのが特徴です。武蔵美、東京造形大、日芸などの併願を考えている人は、実技だけでなく小論文の対策もしっかり考えておきましょう。また小論文の日には古今東西の映像作品を紹介するプログラムも予定しています。映像作品を鑑賞することで生まれる新しいアイディアもあるはず。お楽しみに。

*去年の夏期講習の記録

p1_001 のコピー

映像科推薦対策③ のコピー

p3_003 のコピー

映像科:ICCの『OPEN SPACE 2014』

映像科講師の森田です。梅雨真っ盛りで湿度高めな日が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。普段新美に通っている人は新宿駅から徒歩の人が多そうですが、雨の日は初台駅を利用するという人もいると思います。初台駅と言えばオペラシティそしてオペラギャラリーが有名ですが、そのひとつ上のフロアの「ICC」の存在は意外と知られていません。もちろんとっくに知ってるよという人もいるとは思いますが、映像系の学生だけでなく、知らない人にはぜひ足を運んでみて欲しいので、あらためて紹介を。

去年の新美の学生には「perfumeの展覧会をやってる一風変わった美術館」として認知されていたICCですが、オフィシャルのページによれば「ICC=Inter Communication Center」はNTT東日本が運営している文化施設」で「ヴァーチャル・リアリティやインタラクティヴ技術などの最先端電子テクノロジーを使ったメディア・アート作品を紹介」、「従来の形式や分類を超えた企画展を開催してきました」とのことです。開館したのは1997年だそうですが、それから十数年に渡って、美大の映像系、メディア系、情報系の学生(の一部)にとっては、聖地のような場所でもあるような気がします。

そんなICCでは6/22からは『OPEN SPACE 2014』と題された展示が始まっています。この『OPEN SPACE』では毎年常設の作品も含めた新しい作品を無料で観ることができます。僕も早速行ってきましたが、個人的にはメディアアートの歴史に必ず登場する、ジョフリー・ショーというアーティストの『レジブル・シティ』という作品を初めて体験したのが印象的でした。展示室に置かれた自転車に乗りペダルを漕ぐと、それに従ってスクリーンの映像の中を進むという、1988年頃に制作されたインタラクティブな(体験型の)作品なのですが、決して悪い意味ではなく、2014年にこれをアートとして体験するというのはどういうことなのか…と、ちょっと考えてしまいます。ゲームやアトラクションとどう違うのかとも。

あるいはメディアアートの作品では、制作からしばらく時間が経つとその作品を展示できなくなるということがあり得るそうです。それは制作時のシステムやプログラムを走らせるためのソフトウェアやアプリケーションが、今のコンピュータに対応していないからという理由からですが、考えてみるとこれも興味深い話です。一般的には物質ではないデジタル・データの作品だからこそ保存も楽なのでは…?と思いきや、ちょうど携帯電話をスマートフォンに変えたら画像が読み込めなくなるように、展示自体ができなくなってしまう。もちろんその中で『レジブル・シティ』のように歴史的に貴重だとされた作品は、データを変換したりし続けることで何とか再現可能な作品であることを保つわけですが、こういったことも美術の「保存」や「修復」に関わる問題なのだと思うと、なかなか不思議な気持ちになります。

制作されたその時代の最先端の技術と結びついた「メディアアート」だからこそ感じた印象なわけですが、どうでしょう。ともあれこの作品に限らず皆さんもぜひ行って体験してみてください。

140618_openspace

Shaw_MG_9190

映像科:武蔵美映像学科入試の変更点まとめ

こんにちは。映像科の講師の森田です。

既に進学情報センターからもお知らせの記事がありましたが、先週末に武蔵美の入学試験の変更点が発表されました。すべての学科、専攻に関係のある内容ですが、映像科は特に武蔵美を第一志望に考えている学生も多いと思うので、映像学科に関する主な変更点をまとめておきます。(*映像学科の変更点です。ご注意ください!)

■センター入試A方式の選択科目の変更
…去年までのセンター入試の募集人数15人は変更ありません。ただし選択科目にこれまでの「小論文」「鉛筆デッサン」「数学」に加えて「感覚テスト」が入り、4科目から選択することになります。一般入試では必須科目である感覚テストが選択に加わることで、しっかり感覚テスト対策をしている人にとっては、一般入試とセンター入試W合格を狙いやすくなったとも考えられます。

■センター入試B方式
…上記のセンター入試A方式に加えて今年から新たにセンター3科目のみで合否が決まるB方式が導入されました。こちらは募集人数が5人ということで、やや狭き門ですね。学科で得意科目があるという人は、このB方式でも合格を目指しましょう。

■公募制推薦入試の方式の変更
…一番大きな変更点が推薦入試での新たな方式です。昨年度の「写真感覚資質型」が「クリエーション資質型」に改められました。HPの情報によれば「すでに志をもって写真や映像を使って表現を始めている人」「写真表現・映像表現の置かれている今日的状況に強く関心を抱き、理論と表現活動を通じて現代的課題を探求する意欲のある人」を求めているということで、これまでの入試とは異なる受験内容も考えられます。そして出願時の評定平均を問わないということで、これまで武蔵美の推薦の基準3.8に届かないことから受験を考えていなかった人にもチャンスが生まれそうです。この方式での募集人数は8人と発表されています。

以上の内容はまだ大学のHPで発表されている段階です。また学科(国語)でも変更点が発表されていますね。詳しくは今週末14(土)と15(日)のオープンキャンパスでしっかり確認しましょう!

http://www.musabi.ac.jp/open14/

DM4.22入稿

映像科:金土日コースの近況とオススメ展覧会

こんにちは。映像科の森田です。あっという間に5月も後半、一学期も折り返しとなりました。金土日コースですが、今日の金曜日の授業では人物クロッキーを行いました。映像科というとデッサンやクロッキーをやる印象がないかもしれませんが、そんなこともありません。実写/アニメーション問わず、映像とは本来「光と影の芸術」あるいは「動きと時間の芸術」でもあるわけで、モチーフをしっかり観察したり、人物の特徴的な動きや些細なしぐさを捉えようとすることは、大切です。

ちなみに明日からは実写映像の実習授業(日曜日は新宿御苑へ…天気は今のところ良さそうなのでひと安心)が始まり、来週以降もコマ撮りアニメーションの実習、映像作品研究(プレゼンとディスカッション)、さらにオープンキャンパス見学…、と一学期後半は特別授業が続きますが、もちろん受験に向けた対策もしっかり始めています。

P1050145

そんな梅雨入り前のさわやかな季節にオススメ展覧会情報を。竹橋の東京国立近代美術館で開催されている『映画をめぐる美術 マルセル・ブロータースから始める』は、ぜひ行ってみて欲しい展覧会です。概要には「マルセル・ブロータース(1924-1976)はベルギーの美術家で、詩人として出発しながらも1964年以降は美術の領域でオブジェや写真、短編映画の製作などを行った…」と書かれていますが、この展覧会は過去現在問わず、そうした「美術の分野で映像を扱う作品」または「美術と映像/映画の領域を横断して活動する作家」を紹介する企画展になっています。

この展覧会の見どころのひとつは、展示フロアの構成にあるかもしれません。会場全体が(シネコンのように)いくつかの展示室から成っていて、中央のロビーにあたる空間には、それぞれの展示室のテーマを示唆する16mmフィルムの映画が映写されています。「16mmのフィルム」とか「映写」と言ってわかる映画大好きな人もいるとは思いますが、しかし普通に生活していて16mmフィルムの映写機を見る機会は今やなかなかありません。フィルムという物質でもあり、なおかつ光という現象でもある映像の不思議、さらに映画の歴史を知るにはベストな展覧会と言えるのではないでしょうか。

もちろん展示されている作品ひとつひとつからも色々なことを考えられます。しかも高校生以下は無料(!)というところも良い。ただし会期は6/1(日)までということなので、偶然この新美NEWSを読んで、なおかつ土日の予定がまだ空いているという人は、ぜひどうぞ。

00082477