カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

木炭について(芯抜き編)

こんにちは。油絵科の関口です。
既に何回か木炭について書いてきましたが、今回は描きはじめる前の段階に焦点を当てて書いてみようと思います。
木炭という描画材は特殊な要素が多いので、細かいところまで見て行くと、書く事が沢山あるんです。回を増すごとにマニアックになって行きますが、細かい事が気になる性分でして…


はじめに
木炭を箱から出したら、まず最初に木炭に巻いてある紙や銀紙を取り除きます。手が汚れてしまう事を気にする人もいると思いますが、木炭デッサンは手が汚れるものと割り切って下さい。そのままにすると、描く時の邪魔になります。
銀紙の糊が残っているのが気になる人は、この部分もカッターで削り取りましょう。
糊の跡


芯抜き
次に中心部にある色の違う「芯」があるので必ず抜いて使いましょう。
何故芯を抜くのか?と言うと、まず色が違うという点です。硬さや粒子の大きさ、重さも違うので、一緒に使うと微妙な調子が上手くコントロール出来ません。繊細な素材なので、しっかりと芯を抜く事が重要になります。

芯抜き
芯抜きは金色と銀色の二種類がありますが、金色のは太い木炭に使います。…とは言うものの、僕はこの金色の芯抜きは殆ど使った事がありません。殆どがこの銀色のブラシが付いた芯抜きでしたね。この銀色の芯抜き、色が目立たない所為なのか、すぐに無くしてしまいます。アトリエを掃除していると、必ず数本は落ちているくらいです。皆さんも芯抜きは既に何回も買っていて、気付いたら道具箱に入っているのは金色だけが数本という人も多いのでは?

芯抜きの使い方
この銀色の芯抜きの使い方ですが、まずブラシのついていない、ワイヤーの部分から入れて、回転させながら反対側まで貫通させ、最後にブラシを通します。この時、木炭の芯が細いとブラシが引っかかり、抜けなくなってしまう事があるので、注意しましょう。抜けなくなった芯抜きは、強引に引き抜くとグニャグニャに曲がってしまいます。僕も何本グニャグニャに曲げてしまった事か…それでも抜けない時は、新品の木炭を断腸の思いで折るしかありません。
さて、話を戻しましょう。ブラシまで貫通させた時に芯の粉が沢山出ますが、これで安心してはいけません。木炭を軽く持って10cm位のところから垂直に軽く落とす(投げる?)ようにして地面に当てる(この一連の作業を何と表記して良いか分からず悩みました)と、中からまだ沢山粉が出てきます。トントンする
更にその後、穴の開いた木炭に軽く息を吹きかけて、ようやく芯抜きの完成です。

 

番外編1
さて、芯抜きの話を講師室でしていると、海老澤先生が「我々の頃は綿棒が芯抜きの道具だった」と教えてくれました。そこにいた講師一同「綿棒??」という反応でしたが、よく聞くと当時は金属製の綿棒だったそうで、今の綿棒とは大分違うものだった様です。
耳垢の掃除にはその金属の細い方の先に自分で綿をつけて使用するんだそうです。見た事がなかったので画像で検索すると、「そう。これこれ。」と言って、見慣れない物体を指差しました。
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何だか必殺仕事人の殺し道具の様です(笑)。
海老澤先生によると、木炭より綿棒の方が短いので、両側から入れて抜くんだとか。これを使っていたらちょっとカッコいいかも・・・。

ところで僕と同世代の松田先生や山本先生と話していたら、自分たちの浪人時代には芯抜きは既に存在していましたが、ギターの弦を使って抜いている人を何人か見掛けた事があるという事で話が盛り上がりました。

 

番外編2
ちなみに僕が高校生の時、田舎では芯抜きが売っていませんでした。そこで美術の先生から教わった芯抜きは・・・
ホウキの穂
何とホウキの先っぽです。これをホウキからブチブチ抜き取って芯抜きに使っていたので、ウチの高校の美術室のホウキは、いつも中年のオジさんの様な哀愁が漂っていました(笑)。
これでも意外とちゃんと抜けるんですよ。ほら。
ホウキで抜いた芯
枝分かれした穂が、結構良い仕事をしてくれるんです。昔の人はこんなものを使って芯を抜いていたんですね。興味がある人は一度お試しあれ。

 

展覧会のお知らせ
現代美術展
今回の内容とは全く関係ありませんが、今日から新宿でグループ展に参加しています。現代美術展という仰々しい名前ですが、そんなに現代美術的ではないので構える必要は無いと思います。新美の帰りにちょっと足を伸ばして、お立ち寄りいただけたら幸いです。


ギャラリー絵夢
新宿区新宿3?33?10 新宿モリエールビル3F
?03?3352?0413
http://www.moliere.co.jp/galerie/

国立校 油絵受験科 授業&次回の土曜オプションについて

こんにちは、国立校 油画科講師の福本です。

先週の国立校油画科では「作家研究」の課題を行いました。

新美にあるたくさんの画集の中から自分の好きな作品や研究したい作家を一人選び参考にしながら
セットされた静物を描きました。
その作品から何を研究するか自分自身で分析し、そして自分の作品の中に取り入れていくプロセスを経て普段描いている視点やアイデアとは違ったアプローチで新たな表現方法を研究する授業です。

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油/油③

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新美にある画集の中で私が個人的にオススメする画集をご紹介します。

(上段の左から)
1: Painting today
2: PAINTING PEOPLE
3: ABSTRACT AMERICA: NEW PAINTING
4: Painting Abstraction : New Elements in Abstract Painting by Bob Nickas
(下段の左から)
5: New Perspectives in Painting
6: New Perspectives in Painting 2
7:?New Perspectives in?Drawing
8:?New Perspectives in?Drawing 2

これらの画集はいろいろなコンテンポラリーアーティストが載った画集で、その中でもペインターの作品がたくさん載っています。今活躍している現代のアーティストを調べたり、知るにはよい画集です。
3、4の画集は抽象絵画(抽象的な作品)だけを載せてある画集です。 ちなみに洋書なので受験生は英語の勉強をするのにも便利です。 リーディングは新しい単語の量を増やしたり、速読アップにもつながりますよ。

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国立校 今週の土曜オプション授業は

「油彩技法演習」です!

油絵具に慣れていない初心者・初級者を対象に用具説明から技法演習を行います。 以下の内容になっております。 外部生の方も参加できますので、どうぞご参加ください!
技法演習 のコピー 2?画材は学院購買部で購入できます。

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個人的な宣伝ですが、現在以下の展覧会に参加しています。
全国の美大の卒業制作展の中から選抜された30名の若手アーティストが展示されています。
アワード形式になっており、その中からさらに賞が決定されます。
私は、審査員賞の今村有策賞を受賞しました!
展覧会は5月25日(日)までやってますので是非見に来てください。

「アート アワード トーキョー 丸の内 2014」
会場:行幸地下ギャラリー(丸ビルの地下です) 東京駅 中央改札から徒歩5分 入場無料
詳しくはこちら http://www.artawardtokyo.jp/2014/ja/

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GRAVITY

こんにちは、油絵科松田です

 

今年の一月くらいでしょうか、どうしても映画館で観たい映画があると妻に誘われ、ゼログラビティという映画を観ました。

3Dで映画を観たのはアバター以来、3Dがこんなに進化しているとは、、、

 

 

以前の3Dは幾つかの階層が手前に出てくる不自然なもの、正直映画は2Dで良いかなと思ってましたが今は違うんですね、感心しました。

勿論手前にも映像は出てくるんですが、圧倒的な奥行きへと意識が引きずり込まれます。

舞台が宇宙空間というのもあるのでしょうが、重力軸も無く自分の位置感覚を失いそうになります。私も少し酔いました。

席まで動いた日には前の席のポケットに袋が必要だったはず、、

 

 

 

 

内容についてはネタバレになりますので書きませんが、最近のよくある娯楽映画とは全く違いました。

 

徹底的にリサーチされたリアリティと、少しのフィクションの境目が分からなくなるほど引きずり込まれますが、押し付けがましい内容ではなく、ストーリーはいたってシンプルです。

シンプルな故の隠喩が至る所に配置されてます。 この監督凄いです、、(脚本は親子で書かれてます)

 

最近DVDが発売されたので何回か見直してみましたが、特典映像をみてまたビックリ、、映像内容について尋常じゃないリサーチ量です。度を超えすぎてます。

 

少しのフィクションは入っているのですから適当に演出すればいいような場所、一度観たくらいでは気付かない場所まで徹底的に描き込まれています。

 

 

ストーリーや映像美だけでなく、制作者の思考を深く感じ取れる映画を久々に観ました。

 

映画館での上映は終わっていますので3Dで観ることはできないかもしれませんが、機会がもしあれば是非3Dでご覧になられては?

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GWが明けました。

油絵科の箱岩です。皐月の花も満開のGWも過ぎまして、不安定ながらいい天気が続いていますね。

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?昼間は汗ばむほどになってきて早くも初夏の気配がし始めましたが、皆さんいかがお過ごしですか?

油絵科は各クラス別々のペースで1学期の課題が進められているようです。

私の担当するクラスはオーソドックスに石膏を利用したデッサンの期間中です。週末はフォーンのトルソでした。この像の異常な肉付きは、インドア美術系の子には馴染みの無い大きさらしく、なかなか印象を捉えるのが難しかったようです。

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腕や頭部の欠損により像全体が持つムーブマンが把握し辛いということもあるのかもしれません。

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背後のこの突起も何を意味するのでしょうか?今回のブログは、なんとか全体像をイメージしてもらいたくて、フォーンのトルソについて少し検索してみた話です。

先ずは、ウフィツィ美術館 (フィレンツエ)にあるオリジナルのフォーンのトルソ「踊る牧神:ガッティトルソ」

トルソ

ギリシャ彫刻の完璧な様式美は本当に美しいですが、それにもまして完璧であったものが欠損し崩壊する状態は輪をかけて美しいと思います。

無作為に残された形の美しさ、人工的な物が自然に還るときの輝きは本当に観ていて飽きません。

さて、フォーンの本来の姿はどんな物だったのか?

ギリシャ神話を紐解いてみますと、フォーンまたはパーンは、ギリシア神話に登場するの一柱であるとされています。

アイギパーン古代ギリシャ語: Α?γίπαν, Aigipān, 「山羊のパーン」の意)とも呼ばれ、ローマ神話におけるファウヌスFaunus)と同一視されるとなっています。 このファウヌスが語源になりFaun(フォーン)と呼ばれているようです。長母音を省略して英語風にパンとも表記されます。また意訳して牧神、牧羊神、半獣神とも呼ばれるようです。

皆さんは、映画「ナルニア国物語」をご覧になったことがありますか?

先日、子供と観ていますと気になる人物が・・・・

narunia

劇中の、心優しく少々勇気の足りない山羊の半身を持つ彼こそが、牧神ファウヌスなんです。

さて、フォーンの正体が見えて来たところで、検索にヒットした画像を観ていきましょう。

?Jean-Baptiste Greuze

こちらはジャン=バティスト・グルーズ(Jean-Baptiste Greuze, 1725年 – 1805年)彼は、フランスの画家で市民生活に題材を求めた風俗画を多く描いていました。当時は絶大な人気を誇っていたようですが、その後18世紀の忘れられた画家として低い評価を受けています。この半神半獣の男の素描を観る限り、とても力のある作家だったようです。

Jacob Jordaens2

Jacob_Jordaens_-_Pan_and_Syrinx

この2作品はヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens、1593年 – 1678年)によって描かれました。少々年老いて荒々しい様子の牧神ですね。ヨルダーンスはフランドルバロック期の画家です。ルーベンスヴァン・ダイク同様、アントウェルペン派を代表する画家です。ヨルダーンスは画家アダム・ファン・ノールトに8年間師事し、後に芸術家ギルドの聖ルカ組合の一員となり、画家として揺るぎない地位を築くと、ルーベンスと同様に、祭壇画、神話画、寓話画を描き、1640年のルーベンスの死後、アントウェルペン最重要の画家となったとされています。

 

続いてはピーテル・パウル・ルーベンス: Peter Paul Rubens1577年1640年)は、バロック期フランドル画家外交官祭壇画肖像画風景画、神話画や寓意画も含む歴史画など、様々なジャンルの絵画作品を残しました。

Rubens, Faun und Maedchen

ルーベンスはアントウェルペンで大規模な工房を経営し、生み出された作品はヨーロッパ中の貴族階級や収集家間でも高く評価されていました。この作品では上半身が中心に描かれていて分かりにくいですが、筋骨たくましい男の不敵な笑みがフォーンの気性を表しています。

??ルーブル博物館

こちらは《牧神パン》ルーヴル美術館、パリ

?おしり、フォーン

こちらは出典が不明なアート画像。映画のワンシーンの様ですが、気になります。

お尻の毛が薄くデザインされた特殊メイク。尻尾の感じが面白いですね。あっ、これがフォーンのトルソの腰のところにある突起ですね。

皆さん、全身像が想像できてきましたか?

?さて、『牧神』というだけあって、彼の仕事は家畜の世話であります。

自慢の笛を吹きつつ、ヤギや羊、牛などの家畜の世話をしているパン。同時に、狩人に獲物を与える神でもあり、豊穣の神としての性質も兼ね備えていたのです。

下半身は毛むくじゃらの山羊、頭にも山羊の角(のような突起)、おまけに顎には長い山羊鬚を生やした、かなり粗野な容姿の異形の半獣神、彼のこの奇怪な姿は生まれつきのものでした。と言うのも、伝令神ヘルメスが山中で羊を飼っていた際、土地の王の娘を見初めて、山羊の姿で接近し口説き落として身ごもらせました。

乳母は産まれ落ちた赤ん坊の姿に仰天し、悲鳴を上げて逃げてしまったといいます。

なんと、フォーンはヘルメスの子供!!

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性格は父ヘルメスに似て陽気な子で、大喜びのヘルメスは、パンを獣毛皮にくるんでオリュンポスへと連れて行き、我が子の誕生を披露しました。

その変ちくりんな姿はすべての神々、特に酒神ディオニュソスを大いに喜ばせ、「すべての」を意味するパンという名がつけられたのだそうです。

パンはアルカディアの山中に棲まい、彼を拒んだニンフ(妖精)シュリンクスが姿を変えた葦で作った笙笛を手挟み、同じく彼を拒んだピュティスが姿を変えた松で編んだ冠をかぶった格好で、山野を逍遥してはニンフたちにちょっかいを出す。

しばしばディオニュソスにも付き従って、淫蕩な性豪ぶりを発揮し、あらゆるマイナス(狂乱したディオニュソス信女)たちと交わったとされます。なにしろ、ヤギ(ヤギは多産の象徴)ですからね。

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 明るく朗らかで快活な反面、気性が荒く、気難し屋。特に寝起きが悪く、岩陰で昼寝をしているところをうっかり起こそうものなら、不機嫌になるどころではない。

突如、不相応に激怒して、山々を轟かす雄叫びを上げ、これを聞く者、大抵は羊飼いたちや羊たちを恐慌に陥れた。この“パニック”という現象は、実はパンの名に由来するそうなんです。

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さて、フォーンの容姿やキャラクターは見えてきましたか?皆さんが目にする多くの石膏像がギリシャ神話の神々を模しています。ギリシャ神話は登場する神々の関係や巻き起こる事件がとても人間的で不完全なキャラクター像が設定されていて、知れば知る程面白くなります。

こういう不必要に脱線した所にある情報が、案外自分のこだわりを生むことがあります。

こだわりは表現のモチベーションを高くしてくれるカンフル剤のような物です。

是非皆さんも、好奇心を旺盛にして日々の制作に打ち込んでみてください。