カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

黒の魔術師

こんにちは。油絵科の関口です。
今日は何やら怪しげなタイトルが付いていますが、ちゃんと絵のお話ですので安心して下さい。

先日、国立新美術館でやっているルノワール展を見てきました。他科の人からすると意外に思われるかもしれませんが、油絵科の受験生にはルノワールが苦手な人も結構多いんですよね…。皆さんは如何でしょうか?
「ルノワールはどうも苦手だ」という人も、今回のルノワール展は必見ですよ。何せ代表作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(日本初公開)や晩年の傑作「浴女たち」(日本初公開)そして「陽光のなかの裸婦」「草原の坂道」「田舎のダンス」「都会のダンス」など、教科書や画集で見たことのある様な名作が目白押しです。恐らく、日本では今後二度と見る事のできないクオリティーのルノワール展だと思います。田舎のダンスと都会のダンス
ルノワール「田舎のダンス」と「都会のダンス」1883年

このルノワール、巨匠と呼ばれる人の中でも抜群に黒の使い方が上手いんです。実は油絵の中で黒という色は、数ある色の中でも非常に扱いの難しい色です。(無彩色なので色と表現するのも少し変ではありますが…)ルノワール曰く「黒は全ての色の女王」だそうです。

僕の見た中で黒の魔術師として双璧をなすのが、マネとルノワールの2人。どちらも黒を陰の色には使わず、一つの色彩として完璧に使いこなしていますが、使い方が全く異なります。

フォリー・ベルジェール劇場のバー
マネ「フォリー・ベルジェール劇場のバー」1882年

ちなみにマネの黒は非常に歯切れが良く、黒があることで画面がビシッと引き締まって見えます。これを食べ物に例えるなら、皮付きウィンナーに勢いよくかぶり付いた時の「パリッ」とした食感の心地良さ…といったところでしょうか。
 

対してルノワールの黒には、豊かな階調表現の中に独特な含みがあり、まるで口溶けの良い高級チョコレートをジックリと味わっている様な感覚に陥ります。溶けて無くなった後も芳醇なカカオの風味が余韻として残っている様です。
今回の展覧会には出品されていませんでしたが、傑作の一つ「桟敷席」に使われているドレスの黒は、言葉を失ってしまう程の美しさと、巨匠の持つ圧倒的な力量を感じる事のできる作品です。これは図版や画像では絶対に伝わらない凄さだと思います。もしまた日本に来る機会があったら、是非もう一度観てみたい作品です。
桟敷席
ルノワール「桟敷席」1874年
 

今回の目玉は何と言っても「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」ですが、この作品には殆ど黒は使われていませんでした。この絵は明暗の構成が複雑で、かなりコントラストの強いドレスやタキシードを着た人達が彼方此方で踊っています。黒は明度の一番低い色ですから、沢山使ってしまうとMaxの調子が色んな場所に散らばってしまい、散漫で見辛い画面になってしまいます。木漏れ日を上手く利用する事で固有色の呪縛から解き放たれ、黒い服にも黒い絵具を殆ど使わずに、画面上の関係で色を表現しています。本物を見たら、どんな場所に黒を使っているのかを探してみるのも一興かと思います。ムーラン・ド・ラ・ギャレット
ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」1876年
ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会の部分
作品に近寄ってみると、殆ど黒が使われていないことが分かります。

 

あと、今回は滅多に見る事の出来ない、ルノワールのデッサンが複数来ていました。これがまた素晴らしい出来栄えで、そこからは巨匠の鋭い眼差しと生々しい息遣いが感じられました。これも図版や画像では伝わりにくいものですので、是非本物を見に行ってみて下さい。
デッサン
ルノワール「水のほとりの3人の浴女」1882?1885年

オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵?ルノワール展 ?8/22(月)
http://renoir.exhn.jp

油絵科 展覧会のすすめ

油絵科の関口です。
日本画の佐々木先生に続き、僕も展覧会を紹介したいと思います。

①奥村土牛
・山種美術館?5/22まで
http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html
日本画の展覧会ですが、油絵科の生徒さんも興味がある人は是非観に行って下さい。奥村土牛の作品は暖かみのある色彩と上品で、穏やかな雰囲気が好きな人は引き込まれるのではないでしょうか?時間を忘れてずーっと見て入られますよ。
今回はまだ観ていませんが、出品リストを見ると、これは行かなくては…と思わされる展覧会です。
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中でもこの「鳴門」は絶品です。10年以上も前に山種美術館(今とは場所が違いました)で本物を見てその時は「凄げ?」って、まるで素人さんみたいな感想しか出ませんでした(笑)。

あと、国立近代美術館では安田靫彦展もやってますね。こちらは?5/15まで。日本画好きな人は、こちらも是非。
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/yasudayukihiko/

②カラヴァッジョ
・国立西洋美術館?6/12まで
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2016caravaggio.html
以前もこのブログで紹介しましたが、このカラヴァッジョも油絵科の中では好きな人がいるかもしれませんね。
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ちなみにこのモデル、何回もカラヴァッジョの絵に登場してきます。どうやら今で言うBLって言うんですか?(笑)怪しい関係だったとか…実際はどうなんでしょうね?
カラヴァッジョの作品自体は10点ほどらしいですが、本物を見る機会は滅多に無いと思いますので、興味がある人は是非観に行って下さい。メドゥーサもちょっと笑えますよ。

③ライアン・マッギンレー
オペラシティアートギャラリー?7/10まで
http://www.operacity.jp/ag/exh187/
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いま丁度新美近くのオペラシティアートギャラリーで開催しています。写真の作家さんですが、油絵科の生徒さんには、こういう展示も是非観に行ってもらいたいですね。

油絵科を受験するには幅広い視野が必要になりますので、ジャンルを問わず色んなものを見た方が良いと思います。ゴールデンウィークを利用して、是非本物を観に行ってみて下さい。

 

※番外編
僕もゴールデンウィークに展示をやっていますので、興味がある人は是非観に来て下さい。

●現代作家美術展ーこれからの美術界を見据えてー
・ギャラリー絵夢5/3(火)?11(金)
http://www.moliere.co.jp/galerie/index.html現代作家美術展

●公募団体ベストセレクション美術2016
・東京都美術館5/4(水)?27(金)※学生以下無料
http://www.tobikan.jp/exhibition/h28_bestselection2016.html2016_bestselection2016_a

油絵科夜間部より

こんにちは。油絵科の関口です。
今日は新宿校の夜間部より、今年の芸大合格者の写真をお届けします。

合格発表
こんなに嬉しそうな表情を見せてくれると、こっちも嬉しくなりますね。これは一年間を通して頑張ってきた努力の賜物だと思います。
新美ではこの23年間、一度も途切れることなく連続して芸大に現役合格者を出し続けてきました。

新学期も始まり、新たなスタートを切り出した皆さんも、現役合格を目指して一年間一緒に頑張りましょう!新美でしか体験できない未来が待っています。

渋谷校も春季講習真っ只中です。

こんにちは。渋谷校の箱岩です。

やっと暖かい日が続き、各地から桜の頼りが届く頃となりました。

受験生の皆さんも、新学期に向けて準備を進めている頃でしょう。

渋谷校も、新学期に向けてレベルアップをしようという新3年、2・1年生にむけた春季講習の真っ最中でございます。

2年目ということで、持ち上がりの新高三生を中心に白熱の授業が展開されています。

と申しますのも、新校舎でありながら、国立、私立、油絵科・デザイン科共に多数の合格者が出ました。

(大学生になった渋谷校の皆、本当におめでとうございます!!)

3年の先輩たちが、受験に向けて頑張っていた姿や、目標を達成していった姿が、基礎科にいた後輩たちにもいい刺激があったためと感じています。

これも、渋谷校のワンフロアというアトリエ環境がプラスに働いたからなのかもしれません。

現在、渋谷校でも、合格者作品展示にて合格者の再現作品を見ることが出来ます。

期間は3月18日~4月26日までとなっています。

(*渋谷校は新学期の生徒数により早期展示終了の可能性もあります。)

残念ながら、web上では、刺激が強すぎますので、芸大油画に現役合格したK君の二次試験油彩再現の部分のチラ見せで失礼します。

彼は、3年生の春に美術大学進学希望に切り替え渋谷校にやってきました。

経験もなく、デザイン系かファイン系かも決めないままデッサンから描き始め、気づくと油絵科に馴染んでいました。

いつも楽しそうに絵を描く子で、集中するとすごくセンスの光る絵を描く子でした。彼の好奇心と物怖じしないハートの強さは大物を予感させるなと思っていたら、本番でもやってくれました。彼も発表の日に感想を聞いていたら話してくれましたが、「俺の絵がわかるなんて、芸大すげぇぇぇ!」です。

http://www.art-shinbi.com/blog/20160314/

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おそらく彼の再現作品の現物は、今回を逃すと、みられる機会がないかもしれません。

新美油絵科の、キャパシティーの広さ、個性を重視して一人一人と対話して見ていく指導の先にあるものを実感できると思います。

合格の道筋を見失い、芸大受験の樹海を彷徨う皆さんには、ぜひとも見て欲しい作品となっています。

お気軽にお立ち寄りください。

 

大人の油絵、モランディ

こんにちは。油絵科の関口です。
ようやく桜も咲き始めたと思ったら、ここ数日は冬の様な寒さが戻って来てしまいましたね。

さて、先日東京ステーションギャラリーで行われている「モランディ展」を見に行ってきました。見た目はかなり地味な絵ですし、パッと見て上手さが伝わってくる絵ではないので(言い換えるなら通好みで、大人の絵なんです)受験生の皆さんが見て、どう思われるかは分かりません。ただ、本当に素晴らしい展覧会でした。
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展覧会カタログより

モランディの作品はものすごく禁欲的で、感情に抑制を効かせた・・・それらを漢字で表すなら、「静謐」「安寧」という表現がシックリきます。
まるで何かの修行僧か、それを通り越した仙人のようなストイックさがあります。その一方で、本人は飽きずにずっと静物(今回の展覧会では風景も出品されていますが)を描き続けていた訳で、それには何か秘密があるに違いない…と考えてみました。
1952年の作品
左上の作品は今回の展覧会出品作(これは絶品でした)で、その他は同年の別作品

今回の展覧会では「変奏(バリエーション)」というテーマが掲げられています。生涯に渡ってモランディの意識の殆どは「モチーフを利用した画面の構成」に向けられていた様に思います。モチーフの配置を僅かに動かし、まるで画面上でチェスをするかの如く、何かを考えていた事が伺えます。モチーフや画面の関係が作り出す、僅かな違いに喜びを感じ、一人悦に入っていた可能性は否定できません。
ある意味で偏執狂的で変態的と言っても過言ではないかもしれません。いや言い過ぎかな(笑)。しかし絵を前にしてニヤリとほくそ笑むモランディの姿を想像すると、それはかなり人間的で、実際には仙人とは程遠いイメージなのかもしれません。

モチーフ写真1モチーフ写真
モランディの愛したモチーフ達。時には溶接までして自作したり、ペンキを自分で塗るなど、かなりの拘りようです。

 

ところで、以前「モランディが初めて日本で大々的な展覧会をやる」というので見に行った事があり、その時の記憶は今でも鮮明に覚えいます。
実はその展覧会、今から27年も前のもので、僕がまだ浪人生の頃に見た事になります。
神奈川県立近代美術館
今年で閉館になってしまった神奈川県立近代美術館の鎌倉館で1989年に開催。

モランディ展カタログjpg
その時に買ったカタログ。

モランディポスター
この絵のポスターは、学生時代に何年もアパートの壁に貼って、ずっと眺めていました。近くで見ると全然描き込んである訳ではないし、形もかなり歪めているのに、離れて見ると質感と空間がリアルに浮かび上がります。どこか魔術的な魅力に溢れ、完璧なバルールの作品だと思いました。
※バルールについては以前に書いたこのブログをご覧下さい。
http://www.art-shinbi.com/blog/20151004/

モランディ展は滅多に日本には開催されないので、まだご覧になっていない方や、一度大人の絵を味わってみたい。という人は必見です。
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