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プラド美術館とベラスケス

こんにちは。油絵科の関口です。ここのところ急に暖かくなって来ましたね。春の訪れが間近に迫っているのを肌で感じます。

さて、上野にある国立西洋美術館では「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」という展覧会が開催されています。入試で忙しかったのでまだ見に行っていませんが、スペインを代表するバロックの巨匠、ベラスケスの作品が7点も来日しているということで、少し時間ができたら見に行きたいと思っています。(ベラスケスの作品が日本に来ること自体が珍しいのです)

個人的な話になりますが、今から20年以上前にプラド美術館を訪れたことがあります。そこで見たスペイン絵画の黄金期と言われる1600年代の作品群…。中でもベラスケスの作品は圧倒的な存在感を放っており、今でも鮮烈な記憶として僕の中に残っています。その中でも一枚を挙げるとしたら、代表作である「ラス・メニーナス(宮廷の女官たち)」でしょう。

ベラスケス作「ラス・メニーナス」(1656年)※今回の展覧会には来ていません。
この作品はスペインでも国宝級の扱いで、残念ながら門外不出ですので、本物を見るには現地に行くしかありません。これを見た時の衝撃は、まさしく「筆舌に尽くしがたい」ものでした。何がそんなに凄いのか?を知りたい人は、とにかく現地に行って本物を見て見てください。


中央にいる王女マルガリータの部分。

今回の展覧会では、これほどの作品が来るわけではありませんが、ベラスケスの技術の一端を垣間見ることは出来ると思います。まだ見ていなくて「これから見に行く」という人の為に、ちょっとマニアックな見方を紹介したいと思います。

まず注目してもらいたいのは初期の作品「東方三博士の礼拝」(1619年制作ということは、何と20歳で描いたことになります。2?3浪の人と同い歳!?上手過ぎます)キッチリ描いているので、近くで見ても晩年の様なタッチが殆ど見られない筈です。背景もかなり暗く、闇から浮かび上がる様なそのスタイルは、カラヴァッジォからの影響が強く伺えます。


カラヴァッジォ作「キリストの埋葬」(1602?3年)※今回の展覧会には来ていません。

初期の頃は明らかにカラヴァッジォの影響(あるいはカラヴァジェスキというカラヴァッジォの追随者の影響)を受けていたのですが、それから16年後にはこんな作品を描くようになります。ポスターになっているので、街で見かけた人もいるでしょう。明るくて躍動感に溢れ、軽やかさすら感じる作品ですね。
ベラスケス作「王太子バルタザール・カルロス騎馬像」(1635年)

もしかすると、ティツィアーノのこの作品を土台にして、もっとダイナミックにアレンジしてみようと考えたのかもしれません。実際ベラスケスは1629年?31年に掛けてイタリアに美術品収集と旅行に行っているそうです。ヴェネツィアではティツィアーノの作品にも触れているのではないかと思います。
ティツィアーノ作「カール5世騎馬像」(1548年)※今回の展覧会には来ていません。

そしてベラスケスと言えば、この人無くして語ることができません。当時のスペイン国王フェリペ4世です。彼は政治には全く興味を持たなかったそうで、無能王などという不名誉な呼び名が残っていますが、才能のあるベラスケスのことを深く寵愛していたようです。ベラスケスも若い時から生涯に渡り、何十枚も彼の肖像画を描き続け、二人の間にはある種の友情のようなものが見て取れます。
ベラスケス作「狩猟服姿のフェリペ4世」(1632?34年)
ここでは身体の右側のラインに描き直しの跡が見られますね。描いた当時は完全に隠れていた筈ですが、油絵具のシルバーホワイトは100年以上の長い年月が経つと、少しだけ透明になって行く性質がある為、下に描いたラインが透けてきています。ちなみに手に持った猟銃はフリーハンドで描かれていますが、精密なマシンの様にまっすぐに引けてます。

ベラスケスの作品は比較的大きいものが多いので、美術館に見に行く時は単眼鏡か双眼鏡を持って行くことをお勧めします。近寄って見た時と、離れて見た時の違いを味わうと、一層面白く見えると思いますよ。
皆さんも春休みを利用して、是非美術館に出かけて見てください。

秋葉原校開校イベント 山口つばさ先生トークショー

こんにちは、先日のブログにもありましたように
いよいよ、今週末に
新宿美術学院 秋葉原校が開校いたします!

その際ゲストとして、月刊アフタヌーンで連載中の「ブルーピリオド」の作者
山口つばさ先生をお迎えします。

山口先生は、新美出身の芸大卒生で、受験時のお話から漫画家への道のりなどをお話しいただこうと思っております。
そして、「いつ漫画家になろうと思ったのか?」「どうして美大からなのか?」「美大でよかったことは?」等々
「質問コーナー」を設けますので、何やらご質問等ありましたら当日でも構いませんし、
こちらに山口先生がweb上に質問箱を用意してくれましたので、こちらからの質問も受け付け、当日お答えしていただく予定です。

https://peing.net/28_3

2月17日(土)17:00~18:00 山口つばさ先生トークショーでお待ちしております。
先着20名様には、単行本をプレゼントいたします。

詳細は、新美のホームページもご参考ください。
http://www.art-shinbi.com/event/akihabara

他にも、13:00~19:30作品展示、15:30~16:30保護者のための芸大・美大受験説明会など、イベントがありますので
是非お誘いあわせの上、ご来場ください!

天才たちのノート

こんにちは。油絵科の関口です。早いもので私立美大の入試がもう少しで終わりますね。僕は不覚にも風邪をひいてしまいましたが、皆さんもあともう一踏ん張りして、芸大入試まで頑張りましょうね。

さて、先日油絵科の夜間部では取材課題を行い、上野にある国立科学博物館に行ってきました。訪れた時に「南方熊楠ー100年早かった智の人ー」という企画をやっていましたので、今日はその紹介をしたいと思います。

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皆さんはこの南方熊楠(みなかた くまぐす)という方をご存知でしょうか?博物学、生物学、民俗学など、幅広いジャンルで活躍した、日本の生んだ天才の一人です。今年は生誕150周年ということで、この企画展示を行った様です。僕は生物学にも興味があったので、密かに今回の展示を楽しみにしていました。
この冊子には熊楠が採集した標本がビッチリと貼り付けられている様で、上から見ると紙がボコボコになっているのが分かります。う?…。ページをめくってジックリ見てみたい。


生物学者という事もあり、かなりの数のスケッチを残しています。結構上手ですね。

今の菊皿とは違いますね。梅皿と言ったほうが良さそうです。こういうのを見ていると、美術と科学というのは、かなり近いところにあるのが分かります。

そこで思い出されるのはレオナルド・ダ・ヴィンチです。
レオナルドも美術と科学の領域を行ったり来たりしていた天才です。


これはニュートンのノート。


こちらはコペルニクスのノート。

天才と言われる人たちのノートには、イメージ(図像)と文字がごちゃ混ぜに描(書)かれているのが特徴なんだとか。右脳と左脳を同時に使うことによって、脳の領域を広く活用させていることが、彼らを天才たらしめている…という説もあるそうです。好奇心のあるジャンルなら、誰でも天才になる可能性を秘めているはずです。
落書きやイタズラ書きだらけの皆さんのノートやクロッキー帳も、もしかしたら天才になるためのトレーニングなのかもしれませんね(笑)。

私立大学受験も目前

受験生の皆さんこんにちは。渋谷校箱岩です。

私立大学の試験日程があと少しになってきましたね。渋谷のボルテージもかなり揚がってきてます。ワンフロアの手狭なスペースに静物あり、人物あり、卓上の平面など様々なモチーフがひしめいて世の大寒波の寒さを忘れる活気です。

油絵科は、今年の3年生は少しばかりマイペースな子が多いので、和気あいあい笑いが絶えない感じで和みます。インフルエンザの大流行も、大雪も熱気で吹き飛ばして、志望校現役合格めざしてがんばりましょう!!!がんばれ受験生!!!

さて、日曜日から東京芸術大学の卒業・終了制作展が上野校地各棟、東京都美術館にて開催しています。僕も空き時間を使って観に行きました。

 

学部4年生、大学院修士ともに、とても思い入れのある、濃い新美出身者が多数展示していました。一人ひとりの成長を見れてとてもうれしく思いました。

お会いできた皆さん、お相手ありがとうございました。

彼らが受験せいだったころ、話題にしていた2020年東京五輪が近づいています。

いろいろ問題もありはしますが、日本の文化を世界に発信する良い機会となるはず。

みんなが華々しく日本を代表する若手アーティストに成長するのを期待しています。

今後も全力で応援しています。頑張ってください!!!

 

 

 

 

 

筆職人のこだわり②

こんにちは。油絵科の関口です。ここのところ本当に寒い日が続いてますね。寒さもある一線を越えると、痛みに感じてしまうんですよね…。

さて前回に引き続き、ナムラの筆工場見学のレポートを書きたいと思います。前回は豚毛の筆作りの前半をザックリと見てもらいました。
そして豚毛のフィルバート「HF」シリーズの品質が、他社の筆と比べると別次元という話まではしましたが、何故そこまで品質に違いがあるのか?までは説明できませんでした。今回はその辺にメスを入れていきましょう。


ちなみに筆の形で「フィルバート」と言われているものは、中央部分が端よりも長くなっているのですが、実は毛先をハサミなどで切っているのではありません。

一般的に使われている筆というものは、毛の先端の方が細くなっています。動物の毛は美容院や床屋で切ることが無いので、毛先は全て尖っています。しかも豚毛は毛先が程良く枝毛になっていて、そこに絵具やオイルを含ませる事でタップリと絵の具が乗せられるのです。

逆光で少し見辛いですが、この右側にある木の棒で後ろから押す事で、フィルバートの筆は真ん中が盛り上がる様に調整しているのだそうです。

 

あと、実は筆というものは消耗品で、キャンバスに絵を描いていくことで、少しずつ擦り減ってしまうのです。「フィルバート」の形は平筆が擦り減って来た時にできる自然な形で、絵を描いている人が手に馴染んで「描きやすい」と感じる事が出来るのです。ただ、毛が擦り減るという事は、毛先が磨耗しているので、散髪した髪の毛の様な断面になってしまう…という事でもあります。


そこでナムラさんが独自に開発し、HFシリーズに採用したアイデアが、毛の中に敢えて短いものを混ぜておくというもので、擦り減った毛の中から毛先が尖った新しいものが顔を出すのです。まるで折れても新しい尖った歯が出てくる、サメの様な感覚です。

敢えて短い毛を混ぜる、というプロセスが加わるので、他の筆よりも手間が掛かっています。それに使い込んだ感じを最初から味わってもらいたい為、毛量も他の筆と比べるとわずかに少なめにしているのだとか。筆先がビシッと尖って、キワをしっかりと極められるのは、こういう理由があったんですね。少し値段が高いのも納得です。
上の写真は違う長さの毛を手に取ったもの。下の写真は前回ナイフを使ってクルクルっと見事に丸めていくのを紹介しましたが、一度毛の根元を揃えてから、異なる長さの毛が満遍なく混ざる様にする作業でもあるのだそうです。

ただ残念なことに、近年は中国から入ってくる原毛の質が著しく低下してきているのだとか…。もともと食用に豚を育てていて、筆はその毛を利用しているわけですが、昔の数倍も無理矢理早く成長させる様に品種改良をし、飼料を調整しているのが、筆に使う毛の品質を落としている理由だそうです。その辺に関しては、職人さん達の腕ではもうカバーしきれないのだとか…。原毛のお話をする時の目は、どこか悲しそうな表情をしていました。

筆職人さん達のこだわりを色々と聞いていくと、奥が深いものです。我々描く方もちゃんと筆の手入れをして、良い仕事をしなくては失礼ですよね。今日も良い作品を作れる様に頑張りましょう!