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芸大油画現役合格者に聞く④

こんにちは。油絵科の関口です。今回も芸大油画現役合格した山道くんへのインタビューです。かなりの長編になりましたが、いよいよ最終回。今回は一人の受験生が、一人のアーティストとして歩み始める…そんなお話です。

 

関:山道くんの二次試験で描いてきた構図が良かったから、あれは凄く大きいな、と思ったよね。
山:そうですかね…?

関:ちなみに「校内で取材して」ってあったけど、アトリエからも出なかったんでしょう?
山:あ、はい。そうですね。全然出ませんでしたね(笑)。一回も外には取材に行きませんでした。

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山道くんの描いた二次試験の油絵のエスキース。モチーフの氷が溶けて、アトリエが水浸しになっているイメージ。ちなみに左側に入っているのはイーゼルの脚です。右上から画面を横切る影の形と、イーゼルの脚が反対側の傾きを持っているので、ダイナミックな構図になっています。

関:でもアトリエの中も…校内だもんね。だから、それは課題文から外れている訳じゃ無いし「まぁそういう考えもあって良いだろう」って思ったから、敢えて「取材だから出なきゃダメだよ」とも言わなかったし。「それで行ってごらん」って感じで。僕が提案したのは本当に微調整って感じだったから。殆ど山道くんが考えた事をそのままやって来れたと思ったから、そういう意味ではすごく良かったよね。
山:そうですかね。やっぱり技術が無かった事で、逆に薄く作ったところが出来てて、それで完成度を上げる事が出来なかったっていうのはありますよね。これ以上…手を加えられない…(苦笑)

関:それが良かったんじゃないかな?、まぁ、現役で入ったって事で不安もあると思うんだけどさ。でも芸大って入学の時からそんな感じだからさぁ。入ってからも決して技術的なところで評価してる訳では無いんだよね。
山:はあ。

関:まぁそうは言っても、国立大のさ、一応美術の中では最高学府っていうのはあるからね。自分的にはそういうの(技術)も無いと、それで良いのかな?って思いが頭をよぎる訳だよね?
山:他の人の眼がキツいですよね(苦笑)

関:でも、そんなのはそんなに気にする必要は無いかな?って思うんだよね。だってさ、こっち(表現者)は提供する側なんだからさ。それ(できた作品)を見て、受け取る側がどう感じるか?っていうのは、向こうの問題だと思うんだよね。こっちはどこに向けてどう発信していくか?っていう部分では、作る側が考えていかなくちゃいけない部分だと思うんだけど、あんまりそこばっかり意識していくのは芸術としてどうなのかな?って思うよ。
山:まあ、そうですよね。そういうのとも戦っていかなきゃいけないんですよね。

関:だからね。そのうち海外とかにも行ってね、外国の美術大学も見て欲しいなって思うよ。向こうはどういう教育をしているのか?まだ日本の美術大学は他の科に代表される様な、技術的な事やものの見方なんかを石膏デッサンとかやって、力を付けた人が受かって行く…っていう、そういうシステムが殆どだよね?でもそういうところはアジア圏を除いて、世界的には少ないって思うんだよね。
山:ああ、そうなんですね。

関:日本的な感覚でいうと、全然描く力も無い人たちが大学に入ってさ、それが立派なアーティストになって育って行くっていう…そういうのが何十年も前から当たり前に行われている世界なんだよね。今の芸大はそういうところに近づいて行こうとしてるんだろうな?って、個人的には思ってるよ。
山:

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こちらは一学期に描いたデッサン。課題は「鏡と手を組み合わせて描きなさい」というもの。この頃はデッサン的な甘さがあったり、技術的には拙かったりしますが、狙いや構図のセンスなどには光るものを感じていました。左上にある鏡の直線的なラインが、有機的な人体の形との対比されて、非常に効いています。

関:「上手くなりたい」って気持ちも分かるんだけど、それが芸術として正しいのかどうかは考えなきゃいけないよね。そういう問いは常にして行って欲しいよね。もちろん上手くなっても悪いことじゃないし、気持ちも分かるけど、少なくもと一般人に向けて力を付けようなんていうのは、僕は無くて良いかなって思うかな。
山:そうですね。僕もそれはそう思います。

関:こういう世界を作りたいっていうのが最初にあって、作り手が主体になって「自分はこういうのがやりたかった」っていうのを「どうだ!」って出していくのがこっちの仕事だと思うんだよね。
山:ん??!そうですね。

関:それで、評価っていうのは周りの人がしていくんだけど、こっちとしては、向こうに「ついて来てね」って言う側でさ。こっちが「合わせますよ」って事じゃないと思うのね。
山:そう言われてみると、自分の芸大の二次試験もそういう感じでしたね。自分がやりたい事をやるから、それが評価されるかどうかは分からない…言うなればギャンブルでしたけど、その姿勢が良かったのかな?思い切りにも繋がったのかな?って思えてきました。

 

関:ところで今、18歳?19歳?
山:はい。18です。

関:そっかぁ。…山道くんは、もう18歳という年齢のアーティストなんだよ。
山:ああ?

関:だからそういう自覚を持って行って欲しいよね。大学4年間、院まで行ったら6年、博士まで行ったら9年っていう…そういう長い学生生活があるんだけど、入る前に思い描いていた芸大のイメージっていうのを一回捨てて、本当にこれから勉強したい事とか、自分がやりたい事をやって、美術っていう世界に対しての携わり方を改めて考えて、自分で道を切り拓いて行ってもらいたいよね。
山:ん?。なるほど。難しいですね。

関:でも、それだけの能力は身につけたと思うんでね。
山:いやぁどうですかね?過大評価じゃないですか?

関:大丈夫でしょ(ニッコリ)。
山:まぁ今までも何とかなってますからね。

関:まぁこれから先も挫折したり、色んな困難とかもあると思うけど、何とか乗り越えて行ってもらいたいなって思ってるよ。甘やかして育ててきた訳でもないからね(笑)。
山:(笑)はい。

関:また何かあったら、何でも相談に乗るんで、いつでもおいでよ。
山:はい。ありがとうございます。

関:今日は長いことありがとうございました。
山:いえ。こちらこそ、ありがとうございました。

ー完ー

油絵科春期講習最初の一歩

こんにちは、春期講習会もはじまり
いよいよ、新しい年度の受験がスタートしました!!
初めて受験する現役生も、おしくも昨年度やぶれもう一度挑戦する浪人生も
意欲を持って、がんばりましょう!!

私が受験して合格した(5回目ですが)春は、一緒に学ぶ大学生よりも
残っている受験生のほうが、ライバルとして怖かった覚えがあります。

さて、春期講習では第1課題が終了し、最初の講評会が行われました。

油絵科では、講評のまえにカリスマ講師による講義をしました。
「どうすれば、そっくりに描けるのか?」
この講義によれば、そっくりに描くのは意外に簡単にできるそうです。
確かに、講義を聞いてみるといくつかの”ある”ことを理解すれば描けそうな気がします、
いやっ!必ず描けます!!
その”ある”ことというのは・・・・。

講義を聞けなかった人は残念でしたが、その講師の受け持つ油絵科昼間部にいけば
さらに詳しく聞くことができます。今回の講義は1時間15分程度でしたが、その昼間部の講義は3時間にわたるそうです。
是非、聞きたいものです。
さらに、毎年基礎科でもその講義を催しています。
是非、高校生の皆さんは基礎科で聞いてください!!
2017春期講習講義2

 

保護者ガイダンス開催。次回は4/2(日)です。

こんにちは。
本日、「保護者のための芸大美大受験説明会」「中学生のための美術系高校受験説明会」を開催しました。
雨の中、多数の方にご来場いただきました。ありがとうございます。
次回は4/2(日)に開催いたします。今回を逃してしまった方、ぜひご来場をお待ちしております。
http://www.art-shinbi.com/event/2017/start-event/event003.html

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全体説明の後は、合格者作品の展示会場に移動し、作品を見ながら各専攻講師による説明を行いました。
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こちらは別会場、中学生のための美術系高校入試説明会の様子です。
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こちらも次回は4/2(日)11:00より行います。
都立総合芸術高校など、特殊な美術系高校受験をできる限り分かりやすくご説明いたします。
ぜひお待ちしております。http://www.art-shinbi.com/event/2017/High-school-entrance-Examination/

春期講習会はじまりました!

こんにちは。
本日より春期講習会がはじまりました!
いよいよ受験の新高3生や再チャレンジの受験生、今日初めてデッサンをする初心者の方など、様々ですが、春は新しい空気があって、また1年が始まるな、、、という感じです。

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こちらは基礎クラスの様子

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デザイン科です。
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春期講習は、3/28~、3/30~と、途中からの参加も可能です。WEB申し込みもできますので、
ぜひご参加お待ちしています! http://www.art-shinbi.com/event/2017/spring/

合格者の作品も展示中ですので、ぜひご来場ください。(写真は新宿校の様子)
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芸大油画現役合格者に聞く③

こんにちは。油絵科の関口です。
今回も芸大油画専攻に現役合格した山道くんのインタビューの続きです。
技術がないと自覚していた山道くんが、どうやって入試を乗り切って行ったのでしょうか?また、敢えて技術を教えない、という方針を取った僕の内心は…。

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インタビューを受ける山道くん。入試も全て終わり、和やかな雰囲気で行われました。

関:でも技術を教えないって、こっちもストレス溜まるんだよ(笑)教えた方が楽だから…。本人的にも武器を身に付ける事で安心するだろうしね。
山:技術を教えないと、どうなるんですか?

関:自分で考える力が身につくでしょ?今の自分に出来ることは何だろう…って。だって何も武器を持ってないんだから。
山:確かにそうでしたね。

関:例えばさ、技術が無い分ハートで勝負する人もいると思うんだよね。でも山道くんは熱いハートで絵を描くってタイプじゃ無いじゃない(笑)?
山:そうですね(笑)自分はそういうタイプじゃないです。

関:そこで本人の個性やセンスが出てくるんだよ。でもさ。水泳教室に通ってて泳ぎ方を教えないみたいな感じで(笑)。溺れそうになるギリギリなのを見てて、自力で泳ぐ事を覚えさせるみたいな感じだからね(笑)。本当にヤバイ時にはちゃんと浮き輪投げてあげるから(ニヤリ)みたいなね(笑)。
山:(笑)二学期位にデッサンでローラーを使うのを教えてもらって、ずっとやってたんですけど、冬期講習とか武蔵美の前に「それを使わなくても良いんだ…」って、分かったんですけど「描く力も無いし、どうしよう…」みたいな感じになったことがあって。

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こちらが二学期に描いていた、ベースに木炭の粉をローラーを使って乗せたデッサン。この時は少し技術的な事も教えていました。本人は「描く力がない」と謙遜していますが、ものを描く力は二学期の時点で結構付いていたと思います。

関:そうだったね。特に武蔵美なんか、試験時間が6時間しか無くて、山道くんは描くのも無茶苦茶遅いし、技術もない…そんな中で何が出来る?って、考えた時に、山道くんの中で「あ、これだったらイケるんじゃない?」っていうのを見付けられたと思うんだよね。
山:あのブロック(とH鋼)を描いた作品ですかね?

関:あれを見た時に、やっぱり一年間の中で力を付けたんだな…っていうのを実感できて…だから僕の中では全然焦りが無かったというか、山道くんの事を信じてた。完全に信頼してたよね。それで、もし本番で失敗したらそれは仕方がないというか、絵だからしょうがないよね?っていう。一年間そういう感じ(真剣勝負)でやってきたんだから、山道くんを信じて賭けてみようって。
山:そうなんですね。

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こちらが武蔵美直前に描いたブロックとH鋼の作品。一般的な見方だと二学期の作品の方が良く描けていると思いますが、僕はこの作品を見て、荒削りながら可能性を感じました。

 

関:僕には確信があったけど、山道くん的には芸大の一次も二次も不安しかなかったと思うんだけど…
山:絵画とは何か?みたいな、自問自答に二次試験の時は描きながらずっとやってましたね。3日目も筆がずっと止まっちゃって、僕は何をすれば良いんだ?みたいな感じでしたからね(苦笑)。

関:それが絵に深みを与えたんじゃないかな?
山:そうなんですかね?…だからあんまり描かなかったんですよね。

関:考えてる時間が長かった?
山:そうですね。考えながらやってると、すごい時間が早く経っちゃって…

関:うん。でもそれって凄い大切な事だと思うよ。僕も作品を描いている中で、作品に触れてる時間よりも、考えてる時間とか、自分の絵を見てる時間の方が長いもんね。絵ってある一手を打ったら全然局面が変わってくるから、変わってきた局面に対して、こう考えたら良いんじゃないかな?とか、こういう手を打った方が良いんじゃないかな?とか、刻一刻と変わっていくものだと思うから。ただ作業をしていれば完成する…そういうもんじゃ無いと思うんだよね。
山:そうですね。

関:だから山道くんが試験の時に考えてる時間が長かったっていうのは、作品を作る上では重要なプロセスだったんじゃないかな?だって一手で全然変わってくるから…
山:そうですよね。見え方とかもそうですもんね。

関:この一手で、この前に置いた布石が効いてきた…とかね。で、丁度良いところに行ったんだろうな。って思ってるんだ。
山:そうなのかな…(照笑)?

関:自分としては手応えがなかったかな?
山:うーん。自分の世界にはなっていたかな?っていうのはあるんですけどね。多分世間からは評価されないだろうな…っていうのは分かってましたから。

関:それはでも良いんじゃない?
山:そこが難しいところですよね。これが絵だ!っていう(正解が)のが無いから。確かに自分のモノにはなってたけど、なんか汚いし(笑)、雑だし…こりゃあどうすれば良いんだ…みたいな感じですよね(苦笑)。

関:でも、そういうところも含めて、芸大の先生方はよく見ていたのかな?って思うけどね。例えばもっと表面的にはよく出来ている作品も多分一杯あったと思うんだよね。
山:そうですね?。自分の隣の人とかも…。

関:そういう中で山道くんの作品が選ばれて、もっと完成度の高い作品が落とされてしまったという可能性だってあるんだけれど、今の芸大の先生方が見ている所っていうのは、表面的な完成度だけでは無いな…っていう気はするよね。
山:むしろそこを見られたら…おしまいだっていう風には思ってました(笑)。

関:僕はある1つの確信があって、そこはそんなに見ないだろう。と思ってたから、敢えて技術は無しで行こうと(ニヤリ)。
山:そうですね。試験前に先生にそう言われて、僕もあんまり上手に描こうとは思ってなかったですね。自分の狙いが伝わる位なら良いかな?っていう。

ー次回(最終回)に続くー