カテゴリー別アーカイブ: 先端芸術表現科

雨の美

こんにちは、先端科の冨樫です。

じめじめとした日が続いていますね。みなさん、体調など崩していないでしょうか。
こうも毎日雨降りだと、なんだか気持ちまで鬱々としてきますね。洗濯物は乾かないし、外へ出れば靴は濡れるし、なるたけ早く梅雨が明けないものか。
なんて僕なんかも切に願ってる人たちのひとりなんですが、今週の週間予報もぱっとしないようですし、そういつまでも塞ぎ込んでもいられないようです。
ということで、今日は美術の中で、雨が描かれた作品をいくつかアト・ランダムに紹介しようかなと思います。

まずはこれ。なにが描かれているかわかりますか?

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画家熊谷守一(1880~1977)の「雨滴」(1961)という作品です。(画像が悪くてごめんなさい)守一は、1932年(昭和7年)に豊島区の庭付きの一軒家に引っ越します。その家で、彼は昆虫や植物、鳥なんかをじっと観察し、絵に描きます。守一は雨が好きだったらしく、この「雨粒」という作品も、庭先に落ちる雨の粒をじっと観察しながら描かれたものだそうです。守一の自宅だった所は、現在熊谷守一美術館として、守一の作品を収蔵・公開しています。残念ながら、「雨滴」は木村定三コレクションとして愛知県美術館に所蔵されているのですが、他の作品からも守一独特の具体性と抽象性のバランス感覚が存分に楽しめるので、ぜひ足を運んでみてください。

さて、次は皆さんご存知クロード・モネの雨です。

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1886年の「雨のベリール」という作品です。八重洲にあるブリジストン美術館が所蔵しているので、観たことのある人もいるかもしれません。モネの作品は日本の他の美術館にもたくさん収蔵されているので、普段美術館に足を運んでいる人だと、なにかと目にする機会が多いと思います。これはごく個人的な実感なんですが、モネの実物をいくつか見ていると、ウマい作品とヘタな作品がわりとはっきりしているような気がします。この「雨のベリール」という一枚は、どちらかというとヘタな作品に見えます。でもなぜか、この絵はモネの中でも惹かれる一枚なんですね。ウマい/ヘタなんて随分と乱暴な分け方をしてしまいましたが、これをもう少し丁寧に言い直すと、苦労の跡が見えるか見えないかということになるのかもしれません。モネの中でも、まるで魔法使いみたいな手つきで重ねられた絵の具から、或る風景が魔法のように立ち現れてくるような絵があります。これはもう、ウマいと言うしかない・・・。それに対して、あんまり上手く魔法が使えずに、いつまでもぐずぐずしているような絵があります。絵の具の積み重なりから、いつまでも風景が立ち上がってきてくれない。この絵も、どちらかと言えばそんな一枚に見えます。理由はごく単純です。それまで、「雨」なんて描いたことがなかったからです。雨を描く方法なんて、誰も教えてくれなかったのです。(これは単にモネの個人的な問題ではなく、いわゆる「西洋絵画史」の問題です。長くなってしまうので、ここでは割愛しますが、興味のある人は調べてみて下さい。もちろん、新美に尋ねにきてもらっても構いません。)
さて、モネはどうしたか。この絵の上方、空の部分をよく見ると、画面の左上から右下へ、斜めに筋がつけられています。筋は、岩にも及んでいます。(加えて、同じ方向に白波が立っています。)モネのこの絵では、雨は直接描かれてはいませんが、斜めにつけられた「筋のようなもの」によって、よくみると、絵の中で雨が降っていることがわかるのです。

ところで余談ですが、モネの雨の「筋のような」表現、どこかで見覚えがあるような気がするのですが、みなさんはどうでしょう。「雨のベリール」のマチエールを観て、僕はなぜか枯山水の庭園を思い出してしまいます。

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これはいわゆる枯山水庭園のうちのひとつ、大徳寺黄梅院の庭園です。枯山水では、池ではなく白砂によって海(または川)が表現されます。このとき、白砂が掃き清められる際につけられる筋は、波紋を表現しているようにも見えます。「雨のベリールル」の空の部分の手跡をじっとみていると、どこか枯山水の白砂の筋を似て見えてきませんか?

話が逸れてしまいましたが、モネやゴッホなど、印象派の画家たちが活躍していた時代、日本からはヨーロッパに浮世絵がもたらされます。この時代のヨーロッパの絵の背景には、こぞって日本の絵や工芸品なんかが描かれるようになります。いわゆるジャポニスムの時代です。印象派の画家たちは、はじめて観る異国の文物、自分たちの知らない絵画のスタイルに驚きます。その中には、広重の雨の浮世絵も含まれていました。左は歌川広重の名所江戸百景のうちの一場面「大はし あたけの夕立」、右はゴッホによる摸写です。モネが苦労して油絵具をこねくり回していたちょうどその頃、「極東の島国では思いもよらない優美な雨が描かれていた!」、ゴッホによる摸写を見ても、当時の印象派の驚きの声が聞こえてきそうです。

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お次は、次は日本画から、福田平八郎の1953年の作品、その名も「雨」です。

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「この絵のどこが雨なんだ?むしろ、瓦じゃないか!」なんてつっこみが今にも聞こえてきそうです。この絵は東京国立近代美術館に収蔵されていて、僕も常設展ではじめて観たのですが、展示室に入って、まず何よりも大胆に切り取られた瓦のミニマルなパターンが眼に飛び込んできます。近づいてタイトルをみると、「雨」と書いてある。「あれ?おかしいぞ」と思ってもう一度よく絵を見てみて、ようやく気付くといった具合です。屋根瓦に、ぽつぽつと雨の染みがついているんですね。これから夕立が来るんでしょうか。乾いた地面に最初にパラパラと落ちてくる雨って、匂いがしませんか?雨の匂いってやつです。これから本降りになられても困るけれど、僕はあの雨の「匂い」はけっこう好きですね。福田平八郎の「雨」には、そういう匂いまで描かれているようです。

いかがだったでしょうか?少しは、雨が好きになりましたか?まだまだ紹介しきれない絵以外の作品、映画や俳句なんかが残ってるんですが、今日はこの辺で。次回までに、まだ梅雨が明けていなければ、後編を書きたいと思います。とは言いつつも、次回までには梅雨が明けてくれることを願っています!気持ちよく晴れた、夏期講習会でお会いしましょう!

先端科_食べられないお弁当

こんにちは、先端科の冨樫です。

忘れないうちに宣伝をひとつ。今月21日(日)に、プレ夏期講習会があります。「はじめての総合実技対策」ということで、総合実技を意識しながら、WSに近い課題を用意しています。参加費無料ですのでぜひ。先端科を受験しようか迷っている人も、こういう機会に雰囲気をつかみに来てみるといいと思います。

ところで、先端科の1次試験は、素描か小論文、どちらか得意な方を選択することが出来ます。デッサンにしろ小論文にしろ、まずは対象をよく見ることが重要だとよくいわれますね。でも、ものを「見る」ってどういうことでしょう?ましてや、「よく見る」って、どういうことなのでしょう。

僕自身は普段、映像メディアをつかって作品をつくることが多いので、今回はすこし遠回りをして、映像ってなんなのかという視点から、「よく見る」ことについて考えてみたいと思います。

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ここで唐突ですが、みなさんは「みにくいアヒルの子」ってご存知でしょうか?

といっても、かの有名なアンデルセンの童話ではなく、96年にフジテレビで放映された岸谷五朗主演のドラマの方です。96年というと、予備校生のみなさんの中にはまだ生まれてもいない人もいますから、リアルタイムで観ている人はいないかもしれません。かく言う僕も、たまたま実家にあったVHSで観たのでした。岸谷五朗演じるちょっぴり破天荒な「ガースケ先生」と、それぞれに悩みをかかえた小学生たちとの交流を描いたドラマで、涙無しには観られないシーンのオンパレードです。

なかでも僕がほとんどトラウマ的な記憶になっているほどよく覚えているシーンがあります。(僕自身小学生だった頃の記憶を頼りに思い出しているので、細部が間違っている可能性大です。)第6話は「日本一のお弁当」という回なんですが、ガースケ先生が、お母さんのいない「優子」ちゃんに、お弁当を作ってあげるんですね。料理の苦手なガースケ先生は、七転八倒しながら、それでもなんとか頑張って工夫をこらしたお弁当を完成させます。翌日、河原で写生大会のあとのお弁当の時間です。優子ちゃんはガースケ先生が作ってきてくれたお弁当の蓋を期待と不安の入り交じった気持ちで開けます。

するとどうでしょう、弁当箱一杯にびっしり敷き詰められたご飯の真ん中に、紅一点、梅干しがひとつ乗っかっています。見事なまでにシンプルな、これぞ日の丸弁当です!(もちろん、それが優子ちゃんをどれほど落胆させたかはもはや言うまでもないでしょう。)優子ちゃんはあんまりかなしくって、がっかりして、怒って、そのお弁当を河原に投げ捨ててしまいます。投げられたお弁当は逆さまに河原に転がって、白いご飯はもう草まみれ、泥まみれです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、もう一度だけ、河原に転がったガースケ先生のお弁当をよく観てみましょう。ひっくり返ったお弁当には、ガースケ先生が苦労して作ったタコさんウインナーや、卵焼きやなんかのおかずが、びっしり並んでいます。もうお分かりですね?ガースケ先生は、おかずをご飯の下に隠しておいたのです。先生は、喜びを倍にしようと思って、工夫を凝らしたつもりだったのですね。喜びの前に、がっかりのワンクッションをひとつ置くことで、お弁当の中身そのものは変わらないにもかかわらず、喜びはずっと大きくなります。でも、優子ちゃんには惜しくもそれが伝わらなかった。

哀しい場面です。ガースケ先生の愛情は、伝わらなかった。無駄になってしまった。でも、ほんとうにそうでしょうか。お弁当は埃まみれで、たぶんもう食べられないでしょう。でも、食べられなくなったとしても、優子ちゃんは、ひっくり返ったお弁当の、ぎっしりつまったおかずを「見る」ことでなら、ガースケ先生の愛情を感じ取ることができます。そしてここがポイントです。あたりまえのことですが、ドラマを見ている私たち観客は、優子ちゃんのように、お弁当を実際に食べることはできません。しかしいま、お弁当は、優子ちゃんにとっても食べられなくなってしまいました。すると何が起きるでしょうか。食べられないそのお弁当をただ見つめることしかできない優子ちゃんの眼差しが、このとき、観客の眼差しと等しくなっていることがわかるでしょうか。こうして、私たち観客は、優子ちゃんと「同じように」、ガースケ先生の愛情を感じ取ることができました。

簡単にまとめてみましょう。目の前のものをよく見もしないで決めつける優子ちゃんが悪いのだ、という非難は間違ってはいないでしょう。ただ、見事な日の丸の裏に、おかずが隠してあるなんてことを見抜けるかと言われると、もし僕だったらと考えると、まったく自信がありません。よほどの好奇心か、ひねくれた根性がなければ、そんなこと思いつきもしないと思うのですが、みなさんはどうでしょう?もし観客である自分が優子ちゃんの立場だったにしても、やはりお弁当は食べることができないものになってしまっただろうと思います。何が言いたいのかというと、つまり、ガースケ先生の愛情は、「食べる」ことではなく「見る」ことによってしか伝えることができないものなのではないかということです。なぜなら、映像は、食べることができないからです。映像で食べることも、映像を食べることもできません。ただし、映像は、「見る」ことができるのです。

さて、最後にもうひとつだけ。「見る」ための手段といえば、映像の他にも、たとえば絵画がありますね。ちょっと考えてみて下さい。今日話した<ガースケ先生の愛情>を、絵で描くことはできるでしょうか?

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新美の「雰囲気」

こんにちは学生課です。
今日は新美を紹介します。

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正面玄関。
エレベーターで各アトリエとつながっています。

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スロープを挟んでもう一つ入り口があります。
こちらは総合受付で、申込みなどの窓口です。

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エレベーターで2階にあがると学生課と基礎科のアトリエがあります。
各美術館のチラシや割引券、招待券もあったりするので気軽に来てください。

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自習室や学科の教室

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5階には画材店のtoolsがあります。
画材だけでなく、お菓子にも力を入れてくれています!

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新美の油絵科には大量の書籍があり
授業後は学生たちが日々研究をしています。

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デザイン、工芸、日本画アトリエ

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彫刻科の道具たち。

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ざっくりですが紹介してみました。
これからも新美の「雰囲気」を紹介していきます!
では。

先端科_ネタの仕入れ

こんにちは。先端科の冨樫です。

梅雨入り前のこの季節、おでかけ日和の過ごしやすい気候が続いていますね。

寿司屋が毎朝市場へ仕入れに出かけるように、アーティストも常におもしろいアイデアや素材を仕入れるものです。美術館やギャラリーに出かけて、古今東西のアーティストの作品を観ることは、よい刺激になります。他科の先生方のブログでも、いくつか展覧会情報が載っていましたので、参考にしてみて下さい。

さて、ここから少し個人的な話です。僕ももちろん展覧会は常にチェックしてるのですが、優柔不断の性格ゆえに、また、どうも「イベント」的なものに対する反射神経が鈍いのか、件の展示に行こうか行くまいか迷っているうちに、気がつけば会期が終わっていた・・・なんてことが実はよくあります。(注:決して褒められたことじゃないので、みなさんマネしないで下さいね。)それで、大学4年間を振り返ってみたときに、いまの僕のインプットの蓄積になっているのは、どうやら本や映画が多いのですね。あたりまえですが、本屋やビデオレンタルショップは、いつでもあいてるので、いつ行ってもいいわけです。本やDVDは、いつでもそこにあって、いつ開いてもいい。さらには、何度も見返せるというのが、なによりいいですね。なんて書くと随分怠惰なようですが、それはさておき、ということで今日はおすすめの古本屋をいくつか紹介したいと思います。

ボヘミアンズ・ギルド

美大生なら誰でも知ってる神田神保町の有名店ですね。池袋には、夏目書房があります。画集が豊富なので、覗きに行くだけでも行く価値ありです。近くにある新刊書店、東京堂書店もおすすめです。周りは東京随一の古書街で、喫茶店、カレー屋さんも多いので、休憩しながら気がつくと一日コースになります。

東塔堂

渋谷駅南口を出て線路沿いを恵比寿方面に向かうとあります。写真集に強いです。写真に興味のある人は是非のぞきに行ってみて下さい。

smoke books

東京都現代美術館に向かう商店街の途中にあります。展示を見る前に入ってしまうと、うっかり開館時間を逃すなんてこともあるとかないとか。近くのしまブックス、ちょっと足を伸ばして、森下にある古書ドリスもオススメです。場所柄、美術系の本につよく、掘り出し物によく出会います。

ささま書店

荻窪の名店です。ジャンルは幅広く扱ってますが、他の古書店では見ないような美術書に出会うことがあります。むかし誰かが、ささま書店に行って興味のある本がなかったら、お前の勉強が足りないのだみたいなことを行ってましたが、それも納得の充実した品揃えです。

よみた屋

吉祥寺の言わずと知れた名店。おなじく吉祥寺には「百年」もありますが、僕はどちらかというとよみた屋派。もちろん、はしごしますが。よみた屋も幅広い品揃えですが、個人的には展覧会カタログコーナーがおすすめ。見逃したあの展示、過去の知られざる名展覧会のカタログに出会えます。

CLARIS BOOKS?

下北沢の比較的新しい古本屋さん。某有名古書店の元店員さんが始められたお店だけに、品揃えはさすがです。雑誌のバックナンバーなんかも充実してます。最近ここでイサム・ノグチの回顧展のカタログを格安で入手しました。

 

ほかにもまだまだありますが、きょうはこのあたりで。比較的余裕をもってインプットできるいまのうちに、未知の物事にたくさん出会っておきたいですね。映画の話が出来なかったのが悔しいので、最近観て面白かった映画をいくつか。

『マイレージ・マイライフ』監督:ジェイソン・ライトマン

『ゴースト・ドック』監督:ジム・ジャームシュ

『きっとここが帰る場所』監督:パオロ・ソレンティーノ

 

 

 

6月21日(日)先端科 プレ夏期講習会のお知らせ

こんにちは、先端科です。

6月21日に行う「プレ夏期講習会」のお知らせです。
無料で受講できますので、是非この機会に試してみてください。

《はじめての総合実技対策》

先端プレ夏期ブログ

試験と言われると、何だか緊張しますね。能力を試されているように感じてしまいます。
先端科の試験では、与えられた課題や素材から、自分なりのアイデアをかたちにできるかどうかが鍵になります。
アイデアはひとつではありませんし、どんなに小さくても構いません。
一息になにか大きなものがつくられるわけではなく、小さな発見や工夫の積み重ねが大切です。
たとえば一般的なテストでは、こたえのが正誤がそのまま点数として結果になりますが、先端科の試験はそれとは少し異なります。
最終的なこたえに辿り着くまでのアイデアの積み重ねが評価の対象になります。
重要なのは、実際に課題や素材に触れ、考え、試してみないことには、そもそもアイデアは出てこないということです。
まずはこのプレ夏期講習会からはじめてみましょう。

時間9:00~18:00

タイムテーブル 
9:00~9:30 イントロダクション
9:30~12:00 ドローイング+ディスカッション
13:00~16:00 造形課題(個人面談)
16:30~18:00 ディスカッション+講評会
※時間内に芸大・美大入試ガイダンス、面談も行います。

【ゼミ内容】
二次対策(総合実技)を想定した内容の課題に取り組みます。
これまで対策をしてきたひとは、試験の雰囲気を知る機会になります。
また、先端科に興味はあるけど受験をするか迷っているひとは、一通り試すことで受験をするか判断できる良い機会だと思います。
外部生対象で個人面談も予定しています。
はじめての方でも気楽に参加してください。
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持参するもの:鉛筆などの筆記用具、色鉛筆、はさみ、カッター、定規1本(60cm以下)、のり

道具の他に、今まで制作した作品の写真、ファイル、小論文など個人を表現する資料があれば持参してください。