日別アーカイブ: 2021年6月5日

人体彫刻は抽象彫刻?

彫刻科講師の新妻です。

突然ですが皆さん石膏像は好きですか?

僕は自分の作品制作でも石で人物を彫ることが多いので、いまだにやっぱりいい仕事してるなーと思って見てしまいます。むしろ受験してた頃よりも作品を作るほどにその完成度の高さに慄きます。

20世紀以降のあからさまに抽象化された人体彫刻だけでなく、石膏像になってるものを含む一般的には本物みたーいと言われる具象人体彫刻なるものも実はかなり彫刻家の目と手によって、身体の情報の中でいるものといらないものの要素の選別がなされていたり、逆に現実以上に協調して表現されている部分があったり、現実ではかなり厳しい動きをしているにもかかわらず自然な体勢に見せるといった離れ技ともいえる彫刻の中でのマジック、組み立て、操作が随所に散りばめられています。人間を3Dスキャンするのと彫刻家が人間を作るのとでは、人の目を通して再構成されたものに形が与えられるという点において差が生まれます。広義の意味ではどんなに写実的に作られた人体彫刻でも抽象化が施されていると言えます。だからこそ多くの美大の彫刻科が人体をあらゆる造形表現と構成の基礎となるモチーフとして位置付けているのではないでしょうか。ヘルメスやブルータスを受験課題としてだけ観るか、彫刻の大先輩の作品として観るかで興味の持ち方や発見がまるで違ってきます。

先人の残した作品はみんな何かしら学ぶべきものがあります。大学に入る前にその基礎となりえる人体彫刻を学べる石膏像を是非できるだけ興味をもって描いてみて欲しいと思います。毎日見てると慣れちゃうけどコピーとはいえ本物の彫刻家の仕事なんですよね。

では最近の秀作紹介に移ります。

そこに「いる」感が出てて、ずっとみてられるような作品だと思います。そして似てる!ゆるやかにつけた動きも効いています。後頭部側からもじっくり観れる造形の耐久度が上げてこれると良いですね。

時間をかけた制作の中で色んな試行錯誤ができた作品でした。単純に形を合わせるっていうところから作品としてどうかを考えながら作っていたのが印象的でした。こだわることって大事です。

難しい像ですが印象を掴みながら作っていけています。ここから密度をあげていってもなお全体の調和がとれるかがこの先の課題ですね。

一つ一つは何でもないモチーフですが3つが上手く機能することで新しい流れ、新しい価値が生まれていますね。構成塑像の醍醐味ですね!

上の作品とは違い重力のある静物的な構成ですが、台上の配置のリズムや見せ場の作り方がうまくいってます。構成塑像は自分が見つけた美しさを発信していく狙いが明確かどうかが重要です。

↓それぞれモチーフ室から描きたいものを見つけてきて、彫刻科だからとか関係なく、絵として良い物を描き上げることに奮闘するような時間も前期は設けています。

達磨です!思い切った構図ですが、どーんとしたインパクトを作者が感じてるんだなってことが素直に伝わります。が、まだまだイケます!達磨のピントのあい具合はさらに突っ込んでより絵の説得力を強めていきたいです。

チョイスが独特な世界観で面白いですね。扇子から壺、うさちゃんまでの一連の空間の見え方が綺麗です。手前のルービックキューブがくすんでしまったのが惜しかったですねー。

夜間部生の作品です。まだ陰影のつき方がキツかったり、ラインの見え方が強めだったりしますが、この位置から観たときのヘルメスの動きの全体感がよく掴めています。スタートから身体の内にある関係性を精査できれば修正の時間が減り、より落ち着いて完成度をあげていけます。

こちらも夜間部生作品。奴隷像の持つ激しくもゆったりとした動きの印象が伝わってきます。細部の密度を上げていくことと、後ろまで手を回せるような大きな立体感の両立を目指していきましょう。

今回は以上です!