カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

ホワイトについて①

こんにちは。油絵科の関口です。少し暖かい日が続いたと思ったら、また一段と寒くなってきましたね。試験も近付いてきましたし、受験生の皆さんは風邪やインフルエンザには十分に気を付けて下さい。

さて、油絵科の皆さん、並びに基礎科で油絵をやっている皆さんは、どんなホワイトを使っていますか?
最初油絵を始めた時、画材屋さんにはホワイトの種類が何種類も並べてあって、「こんなにあるんだ!」ってビックリしますよね。どのホワイトを買って良いのか分からず、とりあえず適当に「これで良いや」みたいな感じで選ぶ人も多いように思います。
ちなみに油絵具は全て顔料(平たく言うと色のついた粉)と、接着剤として乾性油(リンシードやポピーなど)を中心に作られています。色の名前の違いは、主に顔料の違いと考えて下さい。(例外もあります)クサカベ顔料
これはクサカベの顔料の写真。
顔料は乾性油と混ぜれば油絵の具に、アラビアゴムと混ぜれば水彩絵の具に、アクリルメディウムと混ぜればアクリル絵の具になります。

 

ちなみに油絵に使われる白は主に3種類です。
①シルバーホワイト(塩基性炭酸鉛)
②ジンクホワイト(酸化亜鉛)
③チタニウムホワイト(酸化チタン)

パーマネントホワイトや※セラミックホワイト、ファンデーションホワイトなどもありますが、殆どが上記の絵の具と同じ顔料で作られています。※ホルベインから出されているセラミックホワイトは、チタン酸ストロンチウムという顔料なので、厳密には違う顔料だと思います。

 

ホワイトに関して、僕のオススメは断然「シルバーホワイト」です。あとは用途に併せて使い分ける、というのがベターだと思います。後で特徴を書きますが、長くて読むのが面倒という人は、とにかく「シルバーホワイト」を買って下さい。※セットに入っているホワイトはパーマネントホワイトという事が多いと思いますが、個人的にはあまり勧められません。

シルバーホワイトは、油絵具の白の中では一番歴史の古い顔料です。ヨーロッパの古典絵画?近代絵画のホワイトは下地の白を除き、100%シルバーホワイトです。レオナルド・ダ・ビンチもレンブラントもゴッホもルノアールもみんな白はシルバーホワイトを使っていた事になります。

シルバーホワイトならメーカーはどこでも構いませんが、絵具の純度(顔料の含有率)という点で選ぶなら、マツダスーパーをオススメします。顔料の含有率は、同じ大きさの絵の具を持って重さを比べれば直ぐに分かります。シルバーホワイトは顔料が重いので、重い方が含有率が高い事になります。マツダスーパーのシルバーホワイトはズッシリと重いのが分かると思います。

マツダシルバーホワイト

但し、チューブを開けた一番最初は、油が分離している事がありますので、ティッシュを使って油を先に吸わせてから使う事が必要になります。面倒な作業ではありますが、最初の1?2回だけの儀式なので、慣れてしまえば問題ありません。

マツダ油吸い取り
上の画像は都合によりマツダスーパーではありませんが、マツダスーパーの場合はこうやってティッシュで油を吸わせてから使います。

 

絵の具として一番シルバーホワイトらしいのはミノーのシルバーホワイトです。粘り気が強く、糸を引く感覚は最もシルバーホワイトらしいと思いますが、初心者?中級者には扱い辛いかもしれません。あと乾燥後かなり黄ばみますので、それも計算に入れておく必要はありそうです。誤解を恐れずに言えば、ちょっとマニア向けです。
クサカベは軟練りと中練りのシルバーホワイトの2種類があります。厚塗りを考えるなら中練り、描画を中心ににしたいなら軟練りがオススメです。用途に合わせて作られているので、初心者にも使いやすいと思います。

クサカベ軟練り
軟練りのシルバーホワイト。他のメーカーと比べても、ちょっと柔らかめです。

クサカベ中練り
こちらが中練り。癖も少なく使いやすい硬さだと思います。

 
と、ここまで書いたら、前置きがかなり長くなってしまいましたので、次回に続きます。

ライバルについて

こんにちは。油絵科の関口です。

 

さて突然ですが、皆さんにはライバルっていますか? 僕も浪人生の頃、お互いに意識し合ったライバルが二人いました。

一人は同い年のH君。超絶なデッサン力を持ち、その圧倒的な上手さは、周りの受験生と比べても群を抜いていました。

廣岡デッサン
H君浪人時代の作品。抜群に上手いです。

彼は看板屋の息子で、小さい時から父親の元で仕事を手伝わされていた所為か、新美に来た時点で既に素晴らしい技術を持っていました。

モチーフの中に印刷されたラベルやポスターなど、文字があった時には、フリーハンドで正確に直線を引き、曲線も歪む事がなく綺麗なカーブを描き、まるで印刷された様なレタリングをしていました。
色を混ぜれば、ほぼ一発で自分の必要とする色を作り出し、作った絵具は決して筆から垂らさないというのが彼の流儀でした。何でも子供の頃から何色に何色を何滴混ぜて色を作るかを感覚で覚えさせられ、筆を伝った塗料が垂れてしまうと、父親からこっ酷く怒られた事で、それらの能力を身につけたという事です。
デッサンの時は、いきなり部分からキッチリ描き始め、最終的には辻褄がちゃんと合わせられる能力も持っていました。そんな彼の仕事には只々驚かされるばかりでした。

 

もう一人のライバルは一つ歳上のSさん。彼は圧倒的なパワーを誇り、体力ではどんなに頑張っても敵わないと感じる事が多々ありました。彼は朝が大変早く、僕が朝の7時頃に新美に行くと、アトリエを綺麗に掃除した上で、既に制作を始めており、こちらを見てニヤリと笑い「関口くん遅いよ?(笑)アッハッハッハッ」と言うのです。当時の新美は、朝7時に表のシャッターが開くのを知っていた僕は、朝一番で制作を始められるものだ、とばかり思っていました。それより早く入る事が出来た理由を聞いたところ、守衛さんと仲良くなって、裏から入れてもらっている、と教えてもらいました。翌日僕も何とか頑張って、朝の6時頃に到着して彼より早く行って、笑顔で彼を迎えたのは言うまでもありません(笑)。まあ、何日も続きませんでしたけど…。
彼の超人的なパワーを思い知らされたのはデッサンの時です。彼のデッサンは木炭をベースにして、その上からキンキンに尖らせた鉛筆でハッチングを怒涛のように繰り返すのですが、絵が仕上がる頃にはハッチングで木炭紙が1cm以上伸びてしまうというのです。そんなバカな!と思った僕が新品の木炭紙を重ねてみると、確かに一回り大きくなっていました。まさにアンビリーバボー!!(笑)

伸びた木炭紙
伸びてしまった木炭紙(これはイメージです)

 

そんな彼等が僕の当時のライバル。まるでマンガでも見ている様な、彼等の現実離れしたエピソードは枚挙にいとまがありません。正直、凡人の僕がどんなに頑張っても、逆立ちをしても敵わない、という能力の持ち主達でした。当時の彼等が僕の事をどういう目で見ていたのかは分かりません。三人の中では僕が明らかに劣っている、と思っていましたので…。しかし、運良く三人の中で一番早く芸大に入る事が出来ました。
今考えると、あの超人達の中で切磋琢磨する事で、自分が磨かれた部分は大きいと思います。

 

廣岡くん海岸にて
H君実家近くの海岸にて佇むH君(2008年筆者撮影)

 

あれから20年以上の歳月が経ち、二人とは毎年年末にグループ展を一緒にやる仲が続いています。特にH君とは二人展をやったり、彼の実家に泊めてもらったり、ご近所の農家の方から頂いたというカボスをお裾分けしてもらったり、と今でも良い関係が続いています。

色紙展風景
H君との二人展の様子。背景が黒いのと、人や動物を描いているのがH君の作品(2012年)

 

「持つべきものは友」と言いますが、ライバルという関係を経て、かけがえの無い友になった二人には、今でも感謝しています。

ダルマさんのお話

こんにちは。油絵科の関口です。

?さて、今日はダルマさんの話です。

ダルマ集合

二号館の講師室を訪れた事がある人は、このズラッと並んだダルマさん達を見ていると思います。何だか異様な雰囲気ですから、初めて見た人はちょっとビックリしますよね?実はこのダルマさん達、旧校舎の時は色んな所にバラバラに置かれていたんですが、新校舎に移ってきた時にまとめて置くことになりました。引っ越しの際、ダルマ供養に出そうという話もあったんですが、このダルマさん達がいないとあまりにも殺風景で寂しいという事で、連れて来てしまいました。

ダルマさんには毎年私立美大の受験が始まる前に願かけをして、歴代の主任が片目を入れているんです。そして芸大合格発表の後、残りの片目を入れるというのが慣わしです。前主任の海老澤先生は筆ペンで、しかもフリーハンドで完璧な円を描いていました。昨年度は僕もそれに負けじと筆と墨汁で正円を目指して頑張ってみました。変なところが凝り性なもので…

ただ、曲面に描くのは意外と難しいものです。

ダルマ目

ちなみに今迄で一番の成績は、芸大合格者31人というもので、スゴい成績ですが、何とかこれを越えたいものですね。

?ダルマ後ろ姿

こういうのは縁起物なので、年々大きくして行くというのが普通ですし、実際にそうしてきました。ただ、大きくすればする程良い成績になるかというと、そうもいかない様で…。「ひょっとしたら小さくてもご利益があるのかな?むしろ小さい方が良いのかも?」な?んて事も考えたりしています。

今のところ10年連続で日本一の成績を収めていますが、昨年は目標の数字には遠く及びませんでした。学生の皆さんや先生方は充分頑張ってくれたと思っていますので、自分への戒めの気持ちを込め、こんなダルマさんになってしまいました(笑)。ちなみにこのダルマさんは講師室の中にある棚に飾ってあります。

?ダルマ目2

今年のダルマさんには、ちゃんと大きな目玉を入れたいと思っています。 油絵科の学生の皆さん、講師一同 心より合格を祈っておりますので、頑張って希望する大学に受かって下さい。

インプリマトゥーラと白色浮出

明けましておめでとうございます。油絵科の関口です。このブログは油絵科ではリレー形式でやっていましたが、松田先生が書いていた通り今年度は12月初旬で一旦終了しました。春までは僕が時々更新しますので、月曜日にはこのページを開いてみて下さい。可能な限りアップしようと思います。

さて、タイトルにある「インプリマトゥーラ」と「白色浮出(はくしょくふしゅつ)」という言葉はご存知でしょうか?一般の方にはあまり聞き覚えの無い言葉ですよね?

これが芸大油画専攻の在学生や50歳以下の卒業生になると、ほぼ100%の確率で知っている事になります。この言葉は、今年で定年を迎える芸大油画教授の佐藤一郎先生から、何回も繰り返し、繰り返し…それこそ耳にタコが出来るほど聞かされます。なので、芸大生でこの言葉を知らない人がいたら、その人は殆ど学校に行っていなかったんでしょうね。

インプリマトゥーラ

この聞き慣れないインプリマトゥーラという言葉は、イタリア語ですが、佐藤一郎先生は「地透層(じとうそう)」という、これまた聞き慣れない言葉に翻訳しました。確か佐藤先生の造語だったと記憶しています。読んで字のごとく、下地を透かせるように塗った透明な層の事を言います。

佐藤先生の翻訳した「絵画技術体系」という本がありますが、元はマックス・デルナーというドイツの研究者の著書になります。高校生の時にこの本を手に入れて読みましたが、分厚い上に難しい日本語が使われているのでとても読み辛く、これの翻訳が必要なのでは?と一部の人によく言われていました(笑)。

それはさておき、佐藤先生によると、西洋絵画は油絵具オンリーで描かれる事は無く、最初は水彩から始まり、次にテンペラ、その上から油彩という風に色んな材料をミックスして描くのが本来の油絵だと言います。

一番最初の層は白い「※白亜地」と呼ばれる炭酸カルシウムに膠を混ぜたもので地塗りを施し、そこに下素描(アンダードローイング)をします。その上から薄く透明な層を重ねるのがインプリマトゥーラ(地透層)と言う事になります。このイタリア語と日本語(造語)と英語が混ざった上に、ドイツ人の書いた技法書を訳してきたという離れ業が佐藤先生の真骨頂だと思います(笑)。

※イタリアなどは石膏地を施すのが一般的で、その土地によって使われる下地に使われる顔料が違います。

ほつれ髪の女
レオナルド・ダ・ヴィンチ作「ほつれ髪の女」 全面にインプリマトゥーラが施されている。

白色浮出

インプリマトゥーラを施すと、元の白い下地よりも若干暗いトーンになりますので、そこを白で描き起こしていくのが「白色浮出」という事になります。(これも佐藤先生の造語。元になった言葉は全く記憶していません。授業でも出てこなかったような気がします)

このプロセスこそ、西洋絵画の原点。というのが佐藤先生の持論です。デューラーなど、北方ルネサンスの画家や、ブリューゲルやルーベンスなどのフランドルの画家も(全てではありませんが)この様なプロセスを踏んでいる様です。

祈る手
デューラー作「祈る手(部分)」 デッサンだが、白色浮出が使われているのがよく分かる。

その佐藤一郎先生も今年で退任になります。本日1月6日(月)より1月19日(日)まで芸大美術館で退任記念展が行われます。
同時開催の「見ること、描くこと」?技法材料研究室とその周縁の作家たち に僕と学生講師の伊勢先生も出品しています。

佐藤先生退任記念展
お時間のある方は是非お越し下さい。

 

志望大学合格を勝ち取った先輩達の声をお伝えします。

こんにちは。新宿美術学院三上です。
そろそろ、寒さも身にしみる時期となってきました。
受験生の皆さんは入試が近づき、これからさらに受験勉強に身が入る時期ではないでしょうか。
これから数回に渡り、2013年度の合格者体験記をお伝えしていこうと思います。
今回は油絵科合格者体験をお伝えします。これから受験を迎える皆さんの参考にして頂ければと思います。

「思考とむきあう」
                   東京芸術大学 絵画科油絵専攻合格 平澤凪沙

 絵を描くことに、はっきりとした理由は持っていませんでした。しかし、その時はなにか理由がなくては絵を描いてはいけないような気がしていました。
 わからないことは質問したり考えたりしました。そうして色んなことを頭に入れていくうちに、課題としてしか向き合っていなかった絵が、自分に必要なものだとわかりました。描くことに目的ができ、絵を描いていっていいのかは考えなくなりました。絵が描きたくなったら、理由が後づけでも単純でも構わないのだと思いました。
 また、頑張っている風で満足したり、頑張ることについて悩むだけで満足したりして手や足が動かないのは、面倒に思ったり、どこかで人と比較して今更やっても遅いと思っていたからかもしれません。しかし、経験不足や知識不足を先生に何度も指摘してもらい、その次の日はたいがい、ちょっとがんばれました。頭で考えたら、ちょっと描いてみる、画集を見てみる、展覧会を見る等、行動に移す時のちょっとの力で得られることはたくさんありました。その「ちょっと」を決心するのに、性格上毎度骨を折りますが、つまりは反復して続けていくものなのだと思います。
 悩ますのも自分、後押しするのも自分、でも、もうひと押し必要な時は、人の助けをかりていいと思います。