カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

無差別級石膏デッサン?!

こんにちは。油絵科の関口です。
夏期講習会も残すところあと一週間になりましたが、アトリエを回っていると、この夏で成長した人が多く見受けられます。この勢いを2学期に継続してもらいたいと思います。

さて、油絵科では年間を通して石膏デッサンをやる機会は、他の科と比べるとそんなに多くはありません。それは石膏デッサンが苦手な子が多いから(笑)…という訳ではなく、芸大入試においても静物、手渡し、イメージ…色んな課題が出題される可能性があるからです。

ところで、日本の石膏デッサンは、元を正せば18世紀からフランスのアカデミーで導入されていたものが基盤となっています。そこではギリシャ・ローマ時代の彫刻から模った石膏像をモチーフとしてデッサンを行うことがあったようです。そこに当時留学していた日本の画家達が「西洋的なものの見方」として導入したのが最初と言われています。しかし、当時のヨーロッパで行われていた石膏像のデッサンは、現在日本で行われている石膏デッサンとは大きく異なります。
以前このブログでもピカソがわずか11歳の頃に描いた石膏デッサン↓を紹介しましたが、今の受験生のものとは見た感じからかなり違いますよね。

19世紀中頃、フランスでは画学生が石膏像を描くための教本というものが存在し、それが次第にヨーロッパ中に広まっていったようです。当時の人はその教本をある程度マスターしてから実際の石膏像を描いていた様です。著者はシャルル・バルグという人で、石膏デッサンに興味のある人なら、名前を聞いた事があるかもしれませんね。実は今年の4月にこの教本の復刻版「シャルル・バルグのドローイングコース」が出版されたばかりです。値段は6,200円とちょっと高めですが「日本の受験生の描く石膏デッサンとは違うものを見たい」「受験とは関係なく自分もこんな風に描きたい」という人は、手に入れてみては如何でしょうか?
実は上のピカソのデッサンもこの教本の模写なんですよ。どおりでうまく描けているわけです。しかし…模写とはいえ、このクオリティーは小学生のものとは思えませんね。

※この教本の図版を見たらわかりますが、向こうでは石膏デッサンでも線を使うのが当たり前のように行われています。

日本における石膏デッサンは、戦後の混乱を乗り越え、1950年代には芸大受験で毎年のように出題されるようになります。そして受験者数の増加に伴い、過酷な受験戦争が繰り広げられた1970年代にかけて独自の進化を遂げていきます。線という概念を排し、調子と面によるデッサンが主流になっていくのです。バルール、フォルム、マッス、ムーブマンなど、今の油絵科の学生には殆ど死語になってしまい(笑)意味の通じない(では困るんですが…)キーワードが重要視されていた時代です。
年配の絵描きさんに聞くと、昔は年齢不詳の石膏デッサンの神様みたいな人もいたそうで、そういう人は同じ受験生の間でも尊敬の眼差しを向けられていたそうです。

独自の進化を遂げた石膏デッサンも、時代とともに少しずつ変化していきます。

最後になりましたが、新宿校では9月17日(日)~18日(月・祝)に全国石膏デッサンコンクールが行われます。このコンクールは浪人生、現役生(もちろん高校1~2年生も可です)の年齢を問わず、科の枠も取り払い、内部生、外部生も含め、全ての科の人が受講できる無料のイベントです。
皆さんがどんな石膏デッサンを描いてくるのか、今から楽しみにしています。上位の人には賞品も出ますので「我こそは・・・」と思う人は是非参加してみてください。詳しくはこちらから↓
http://www.art-shinbi.com/event/2017/drawing/

パレットハンター

こんにちは。油絵科の関口です。皆さん元気に絵を描いていますか?
さて、新美で指導していると、生徒のパレットが否が応でも目に入ってきます。このパレットは、画材の中でも脇役として扱われて、語られる事は少ないと思います。そこで今日はパレットに焦点を当てていきたいと思います。

これは王道のパレットの使い方。明度と色相が端から順番に並べられ、パレット上でグラデーションになるように色を置き、中央で色を混ぜて使用します。

ここから先は学生のパレットです。
油絵科は色んな意味で自由な科なので、そのパレットも実にバラエティに富んでいます。
ただ自由とは言え…思わず「おい!」ってツッコミを入れたくなるものも多数存在します(笑)。
例えばコレ。

チョビッと出すにも程があるんじゃない?って感じですが、本人は水彩と同じ感覚なんでしょうね。にしても色相は偏ってるし、白は5種類も出して拘ってる!いや、よく見ると左にもう一種類のホワイトがちょっと多めに出されていますね(笑)。謎が深まるパレットです。

そしてコレ。

上と同じくチョビッと派ですが、明らかに穴の穴の意味が分かってませんね(笑)。お?い、そこは親指を入れる穴ですよ?。しかも自分から見て手前に絵の具を出したら、色を混ぜにくいでしょ(笑)。まぁこの子は椅子の上に置いて描いてるんでしょうけどね。

余談ですが、キャンバスサイズのサムホールと言うのは、このパレットが語源だって知っていましたか?昔、持ち運び用の道具箱に入れる為、小さなパレットが流行したそうです。パレットには当然持つための親指の穴(thumb hole =サム・ホール)が開けられています。そのパレットに絵を描いた…という説が残っています。それなのにサムホールの木枠裏の刻印がSMっていうのが意味不明ですが…
おっと話が逸れましたね。


この人のパレットは一見そんなに変じゃないと思うかもしれませんが、彼は右利きです。という事は裏にして使っていたという事です。本人に聞いたら、指の周りが痛くなってしまい「どうも変だなぁ」と思っていたそうです(笑)。

あと段ボールでこんなのを作ってきた子がいました。
ちゃんと折りたたみ式だそうです(笑)。でもダンボールじゃ油が染み込んじゃうでしょ(笑)。

流石にこんなのばっかりじゃマズイので、良い意味で変わってるのも紹介しますね。

この人のパレットは、まるで荒々しい抽象絵画の様ですが、タッチの大きさやストローク、彩度の抑え方や鮮やかな色の利かせ方、絵の具の厚さに幅がありますね。結構上手に絵が描ける人だという事が伺えます。


この人のパレットもグレーの作り方がとても綺麗です。ところどころ紙パレットの白が覗いていたり、下から白い調子が透けているのも綺麗に見える要因です。これを見ただけでセンスが良いというのが伝わってきます。


この人のは何と形容したら良いのでしょうか?でもコッテリしたマチエールの作品になるんでしょうね。

あと、以前海老澤先生が課題でモデルさんに持ってもらう木製パレットを自作して来た事があったのですが、それがあまりにも素晴らしい出来でしたので、是非紹介したいと思います。

それなりの大きさのあるパレットなので、少し重量があります。そこで負担を軽くする為に持った時、身体にフィットする様に下方にえぐられたカーブがついています。一度持たせて貰いましたが、重心もバッチリで「これなら長時間持っていても疲れないだろうなぁ」と思いました。

それから、こんなのをメールで送って下さいました。グザヴィエ・ド・ラングレの技法書に載っているパレットだそうです。面白い形ですね。海老澤先生、貴重な資料をありがとうございました。

これより下は、名だたる巨匠達のパレットです。
カンディンスキー
ゴッホ
ゴーギャン

セザンヌ
ピカソ
マティス

こうやって色んな人のパレットを見ると、その人の性格が見えてくるような気がしますね。皆さんも隣で描いている友達のパレットを一度覗いてみてください。よく知っている人なら、その人らしさが滲み出ていて、思わずニヤッと笑ってしまう筈です。パレットハンティングというのは結構楽しいですよ。

アルチンボルド展で遊ぼう!

こんにちは。油絵科の関口です。
今日は芸大説明会の日ですが、このブログを読んで興味を持った人は、上野の西洋美術館で開催されているアルチンボルド展にも立ち寄ってみて下さい。

このアルチンボルド。1527年ミラノ生まれという事で、ルネサンスより少し後の時代、マニエリスムの画家に分類されるそうです。一番最初にこの人の絵を見た時、てっきり近?現代の作家だと思いました。

ただ、何回か画集などで作品を見ていく中で「技術的にはルネサンスの巨匠には遠く及ばない画家」と感じていましたので、今回はスルーしようと思っていました。ところがネットである動画を見たことで、行く気マンマンに…。思わず初日に行ってきてしまいました(笑)。
僕も動画をブログに載せようと思って撮影・編集までしたんですが、アップの仕方が分からず断念。今回はいつも通り画像での紹介とさせて頂きます。気になる人は僕の携帯に動画がありますので、気軽に声をかけてください。


何と言っても今回やってみたかったのは、入り口にあるモニタでの動画。自分がモニタ前に立つと、野菜や果物が集まってきて顔を作り、自分の動きに合わせて動き出します。こういうのもAR(拡張現実)の一種なのでしょうか?新しい技術に疎く、詳しい事はよくわからないのですが、とにかくやってみるとことをお勧めします。


初日にもかかわらず結構並んでました。


本人に似ているかどうかは分かりませんが、人によって顔を構成する野菜の配置が異なる様です。


この親子は、お父さんが赤ちゃんを抱っこしてモニタの前に。可愛らしい赤ちゃんの顔は、何と白い玉ねぎ1個(笑)。体はカボチャで、手はズッキーニ。お母さんも思わず「何これ?。顔が小ちゃ過ぎる?」と言いながら、笑って写真を撮っていました。大人は顔だけですが、赤ちゃんだと体まで表現してくれるみたいです。


そしてこのお父さんが赤ちゃんを少し下ろして、モニタの前に立つと…モジャモジャ頭も葉っぱで表現!何気に素晴らしい再現能力(笑)。


僕もモニタの前に立って、首を振ったり口を開けてみたりして楽しみました。僕に似て…ないですけどね。


最後は重力で野菜が落下して終了。結構楽しかったです。

これをやる為だけに、お金を払って入場したつもりですが、レオナルド・ダ・ヴィンチのデッサンにもお目にかかれました。正直なところ展示にはあまり期待していなかったので、ちょっとお得な感じがしました。是非皆さんも訪れてみて下さい。

最後になりましたが、新美の1階に出来たギャラリーで僕の展覧会を見て下さった皆様、ギャラリートークに来て下さった皆様、誠にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
次回はデザイン科の多田先生の展覧会です。僕もどんな展示になるか楽しみにしています。皆さんも色んな作品を見て、美術に対する興味をドンドン広げていって下さい。
http://www.art-shinbi.com/event/shinbi-gallery/

パスタ×版画?!

こんにちは。油絵科の関口です。先日より新宿校1階にギャラリーもオープンし、新美もイメージがガラッと変わりましたね。僕も新たな気持ちで授業に挑んでいます。

さて、皆さんは「版画」と言った時に連想するのは何ですか? やはり小学校の時にやった、彫刻刀で掘る木版でしょうか?中には年賀状を刷ったことがあるのでゴム版という人もいるかもしれませんね。昔の学校だとガリ版刷りのプリントというのもありましたが、それも版画です。でも今の学生には馴染みがないかもしれませんね。
美術を専門的に勉強しようと思った時、最初から版画を選択する人は少ないのは、今迄の人生の中であまり触れたことが無いからかもしれません。かく言う僕も、版画は殆ど未知の領域。
そこで今回は、基礎科講師の根本先生に話を聞いてみる事にしました。
根本先生は芸大油画専攻に入学。学部の途中から版画に興味を持ち、大学院では版画を専攻。今年大学院修了したばかりの先生です。

 

版画について
版画は中々馴染みがない人が多いと思うんですけど、実際やってみると奥が深くて結構楽しいんですよね。大学だと触れる機会があるのかもしれないですけど、一人でも多くの人に版画というメディアを体験してもらいたくて、今回のワークショップを考えました。

版画の種類について
版画は厳密には色んな種類や技法があるんですけど、すごい簡単に説明すると4種類になります。
①木版などの凸版。(出っ張った面にインクが乗る)浮世絵の北斎など


②銅版などの凹版。(引っ込んだ溝の部分にインクが乗る)ヤンセンなど


③シルクスクリーンの孔版。(シルクの穴を通ってインクが出る)ウォーホルなど


④リトグラフの平版。(石板や金属板などの平面に描いたものがそのまま版画になる)ミュシャなど

今回やるのは、原理的には②の銅版画に近いんですけど、より簡単に出来るようにツルツルの紙を版にしていきます。分類的にはペーパードライポイントって言います。多分皆もやった事の無い技法だと思うんで、是非体験して欲しいですね。

パスタマシーンについて
凹版は刷る時にプレス機が必要になるんですけど、大抵は大学とか設備の整っているところにしか無いですよね?そこでパスタマシーンの登場です。
このパスタマシーンが何とプレス機になるんです。金額も比較的安いので、自宅でも導入できて手軽に版画を楽しめるのが魅力ですね。結構ちゃんと刷れますよ。

版画の魅力について
版が間に入る事によって間接的な表現になったり、図像が反転したり、自分でも思い掛け無い事が起こるところですね。自分の手だけでは作り出すことの出来ない表現が可能になる事もあります。
作品が複数枚出来るのも良いですよ。同じ版でも紙の種類を変えるだけで、違う風合いになりますしね。
それに印刷だと4色のインクで表現できる色に限界があって、どうしても出せない色が出てくるんですけど、版画はそういう色に縛られないので、微妙な色や絶妙な色が出せるんですよ。こだわり派にはもってこいなんです。

あと版画と触れる機会が少ないと、気付きにくい事かもしれないんですけど、結構色んな表現が可能なメディアなんですよね。文字や写真、パソコンだって使えるんですよ。さっき関口先生が言っていたガリ版もジブリの「コクリコ坂から」にも出てたんですけどね…。
アナログからデジタルまで結構色んなことができるので、油絵、日本画、デザインを勉強している人はもちろん、イラストを描くのが好きな人にもオススメです。

 

版画について根本先生と話をしている内に、あっという間に1時間が過ぎていました。パスタマシーンで版画ができるなんて、ちょっと意外ですよね。聞いている内に興味が湧いて、僕もやってみたい気持ちになりました。
このブログを読んで興味を持った人は来週 6/18(日)に開催しますので、是非申し込んでみて下さい。
http://www.art-shinbi.com/event/2017/summer-workshop/workshop-W07.html

バベルの塔

こんにちは。油絵科の関口です。
陽射しが眩しく、汗ばむ様な気候になりましたね。

さて、皆さんは東京都美術館で行われているボイマンス美術館所蔵、ブリューゲル「バベルの塔」展はご覧になりましたか? 僕はつい先日、何とか時間を作って行ってきました。

この「バベルの塔」は実に24年ぶりの来日という事ですが、僕は前回の展覧会も見に行った記憶があります。その当時、池袋の西武百貨店に「セゾン美術館」という美術館があり、ブリューゲルのバベルの塔が来ているというので、それを目当てに見に行ったのです。当時はそんなに混雑しておらず、間近でじっくりと見る事が出来ました。


実はウィーン美術史美術館に、もう一点ブリューゲルの描いた有名なバベルの塔があり、当時こちらの方は図版で見た事があったのですが、ボイマンス美術館の方は知りませんでした。

本物を見た当時の印象は「かなり小さい作品なのにスケール感がすごくて、もの凄く緻密な作品だなぁ」という感じでした。
僕の中ではブリューゲルというと、風刺画や寓意画の様なイメージが強く、形もモコモコした印象が強かったので、余計に「かなりキッチリ描いている」という印象が残ったのかもしれませんね。

さて今回の展覧会、雑誌やネットなど様々なメディアで紹介されているせいか、場内はかなりの混雑でした。展覧会としては、ボッシュの油彩2点と、ブリューゲルのバベルの塔が目玉で、正直その他はオマケ的な感じでしたが、3DのCGを使った映像や、場内に設置された大きな曲面に貼られたバベルの塔の複製、東京藝術大学COI拠点による300%拡大の複製など、バベルの塔のプレゼンとしては興味深いものがありました。

あと、以前から個人的にこの絵の中でちょっと疑問に思っていた点がありました。「塔の左側にある赤っぽい部分と、白っぽい部分は何なんだろう?」「光の設定かな?」とか漠然と思っていましたが、実際は絵の中でレンガを運んでいる時、粉末になってあちこちに付いているところが赤く描かれ、漆喰を運んで袋から溢れているいる所が白く描かれているのだとか。う?ん、芸が細い!確かによく見ると、滑車の様な道具を使って何やら運んでいる様子が伺えます。白っぽく描かれた人は漆喰の粉を被っているんだそうです。その辺が場内の映像の中で解説されていて、長年の謎が解けてスッキリしました。

それから今回の展覧会に合わせて、漫画家の大友克洋さんがバベルの塔の内部を想像して描いたINSIDE BABEL(インサイドバベル)という作品を手掛けています。4月位にネットでその動画を見たのですが、「童夢」や「AKIRA」をリアルタイムで読んでいた世代として、大友克洋さんの動いている姿を見る事が出来て、それだけでちょっと感動してしまいました(笑)。気になる人はインサイドバベルで検索してみて下さいね。

 


あと、前回も少し触れましたが、6/5(月)から新美ギャラリーがオープンします。新美生は毎日そこを通って、暫くのあいだ僕の作品を見る事になると思います。…そう思うと、さすがにちょっと緊張しますね(笑)。大学生になって既に新美を卒業した人や、外部の方もご覧になれますので、興味のある方は気軽にお越し下さい。
あと6/18(日)の11:00よりギャラリートークも予定しております。どうかお楽しみに。