カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

ナイフの魅力②(技術編)

こんにちは。油絵科の関口です。
前回に引き続き、ペインティングナイフについて書こうと思います。今回は技術編です。

まずはナイフ選びのポイントから。
①刃の長さ
ナイフの長さは平らにできる長さと関係があります。
ナイフの大きさを考えるときに、水色の部分で考えがちですが、実は①の赤い矢印で表したところが大切になります。(理由は後述します)

②幅
ナイフの幅の広さは絵具の量と関係してきます。この幅が広ければ広いほど、たくさん絵具を乗せることが可能になります。

③刃の終わり方に角があるかどうか
ナイフを選ぶ時に、ある意味大きさ以上に大切なのが、刃の終わりに角があるのか、それとも丸くなっているのか?という事です。角のあるナイフは、どんなに頑張っても筋が付いてしまうので、ナイフを使って平らに絵具を乗せたいという時には不向きです。
特殊な使い方をする人は別ですが、僕がお勧めするのは角の丸いタイプです。

さて、ナイフを吟味して手に入れたら、今度は使い方です。ナイフは筆よりも表現の幅を作り辛いという事もあり、慣れないと単調になりやすい危険な道具。文字通り「諸刃の剣」と化します。
そこで上手に使いこなすコツとして『ナイフを画面に当てる角度』に意識を持たなくてはいけません。

例えば、絵具を平らに乗せたい時には、Aの様にナイフをキャンバスに対して少し傾けて使うと上手くいきます。比較的薄く均一に絵具を乗せることが可能になります。

なるべく均一な力とスピードで、一気にやると綺麗に絵具が乗せることが可能になります。これは少し練習をすれば簡単にマスターできるでしょう。


反対に少し表情をつけて乗せたい時にはBの様にナイフを画面に対して平行に使うと、ムラを作ることが容易になります。

一見簡単そうに見えますが、綺麗に作るにはちょっとコツがいりますので、こちらはそれなりに練習が必要になります。

絵にちょっとしたアクセントが必要な時、ナイフは意外と効果的です。全ての人に必要な道具ではありませんが、色々と研究してみることをお勧めします。それでは今日はこの辺で。

2018全科合同コンクール

こにちは、全科総合部です。

只今、ご存知のように新美のギャラリーでは「全科合同コンクール」展示が行われています。

「わたし自身」を描きなさい、という課題で、新宿美術学院の学生たちが熱意を込めて描かれました。
今回は、その頂点を展示しております。

栄えある第一位は!!

おめでとうございます!!
素晴らしいデッサンですね。さわやかな光や空気を私は感じます!
同時に、工芸科主任高澤賞も受賞しています。

続いて第二位は!!

おめでとうございます!
画像がだいぶ明るくなってしまいました。(作者の方に申し訳ありません)
本物は、もっと良いです。現場に観に来れば一目瞭然!!
3位以降も、後日発表していければと思います。
1位、2位とも違う良さがあるデッサンです。楽しみにしてください!

展示は、予定より延長して今週末まで行っています。
まだ観られていない方は、ぜひこの機会に学生たちの成果を観に来ていただけると喜びます!!

ナイフの魅力

こんにちは。油絵科の関口です。
油絵科の皆さんなら「ナイフ」と言えば刃物ではなく、真っ先に思いつくのはペインティングナイフになるかと思います。きっと一度くらいは使った事はありますよね?え…?全部筆で描いていて、一度も使っと事がない?それはそれで珍しいタイプかもしれませんが、実は正統派です。というのも、油絵でペインティングナイフが一般的に使われる様になったのは、近代に入ってからです。古典絵画の大半は筆のみで描かれています。
しかし、ナイフは筆では得られないタッチと、極端な厚塗りも可能で、下の絵具が乾く前にドンドン重ねられるのも魅力です。
今日は描画材としてのペインティングナイフに焦点を当てて行きたいと思います。

ルネサンス初期に発明された油絵具ですが、当時の描画材は専ら筆になります。油絵が発明される前からあったテンペラやフレスコも筆でのみ描かれており、新しく開発された油絵具も筆で描くという行為が踏襲されました。
では、ペインティングナイフを最初に使った画家は誰でしょう?
僕は恐らくレンブラントではないか?と思っています。この「ユダヤの花嫁」という作品では、身篭った妻のお腹に手を当てる夫の腕、洋服部分にヘラの様なもので絵具が乗せているのが分かります。この時代に金属製のペインティングナイフというものは無かった筈なので、何を使ったか?までは分かりません。
同時代の巨匠であるルーベンスやベラスケスは、ナイフを使って描いた絵は一枚も残していません。レンブラントが独自に開発した技法である可能性が高いのです。レンブラントは肖像画の注文をたくさん受けていましたが、まず自分の顔=自画像で色んな実験をしていた、と言われています。

例えばこの自画像では、筆の持ち手である柄の部分で引っ掻いて髪の毛を表現しています。この技法は後に違う作品でも使われる様になりますが、それまでの絵画の歴史の中では「異端」の技法です。

近代になるとクールベ、ドガ、クレー、モロー、ルオーあたりもナイフを使って描いた作品が散見されます。マティスは絵の具を削り取る道具として使っているのをよく見かけます。

クールべ

第二次大戦後もデ・クーニング、フォートリエ、タピエス、ド・スタールなど様々な作家がナイフを使って魅力的な作品を作っています。

ド・スタール


タピエス

油絵具という物質感の強い絵の具を強調する描画材として、ナイフは大きく貢献してきました。機会があれば、技術的な側面からもナイフの事を語ってみたいと思います。

 

あと私事になりますが、10月17日?11月8日まで銀座並木通りギャラリーで個展を開催することになりました。JR有楽町駅、地下鉄銀座駅、銀座一丁目駅から歩いても5?6分の場所にあります。お時間のある方は是非お立ち寄りください。ちなみに土曜日は、ギャラリートークのある27日のみ開廊していますが、他の土曜日はお休みです。日曜と祝日もお休みです。お間違えのないよう、お願い致します。

http://namikidori-gallery.com

ボナールの見えざる技術

こんにちは。油絵科の関口です。それにしても今年は台風が多いですね。気温も乱高下して体調を崩している人も多いと思います。受験生の皆さんも風邪には気をつけましょうね。

さて先日、国立新美術館でやっているボナール展を見てきました。ボナールは19世紀末から20世紀中半に掛けて活躍し、ちょうど今から100年前位の画家になります。色彩豊かで穏やかな作風は、100年経っても色褪せることなく、世界中の人から愛されています。


今回の展覧会では、油彩だけでなく、リトグラフ、水彩、デッサン、写真(主にボナールが撮影)、プロジェクトマッピング(こちらは現代の技術なのでボナール作ではありません)まで幅広く展示されています。
油絵は大作や有名な作品も数点混ざっており「画集で見ていたあの作品が!」というものが間近で観られるチャンスです。

さて、入って最初の部屋には初期の作品がズラリと並んでいるのですが、初期の頃は日本美術の影響がいたる所から感じられる事でしょう。そして作品タイトルの素材のところにデトランプという表記があるものがチラホラ。デトランプって何だろう?と思った人もいるかと思います。厳密な定義は難しいのですが、テンペラの一種で、一般的には膠(又はカゼイン)をメディウムとして使った絵具という解釈がなされています。
「庭の女たち」デトランプ、カンバスに裏打ちされた紙

恐らく日本美術に興味があったボナールは、日本画と同じく膠で絵を描こうと思って絵具を作ったのではないでしょうか?まぁ画材から考えてる事を推察するというのは、ちょっとマニアックな推理ですがね…。


この初期の油絵を見ると、一筆ひと筆とても丁寧に描かれているのが分かります。近寄ってよく見ると、まるでペルシャ絨毯を編んでいくかの様な、複雑なタッチの重なりです。色相変化と彩度変化を絶妙に操っているので、色の響き合いがとても美しい作品だと思いました。

あと、ボナールは室内のモデルを多数描いていますが、いわゆる肖像画とは全く異なる趣の作品を多数残しています。

例えばこの作品、右側の身体を大胆に画面からはみ出させ、鏡の中の顔も半分しか映し出されていません。そしてその背後にある椅子は、かなりの暗さで描かれていて、まるで絵の主役であるかの様な振る舞いです。しかしこれは椅子を目立たせようとして描いているのではありません。実は周囲にある家具や壁紙などを巧く使って、椅子の主張を打ち消しています。その証拠に、この作品を初めて見て、最初に椅子をジックリと見たという人はまずいないと思います。


この作品でも左上にいる人物は脇役の様に描かれ、椅子の暗さの方が強く表現されています。(よーく見ると、猫ちゃん?もいるんですが、気付いた人が何人いるでしょうか?)その人物のすぐ後ろにある線は、こんな位置に入れたら、美術の先生とかに「こんな位置(目の近く)に線を入れたら強すぎるからちょっとズラした方が良い」と言われそうな位置にありますよね?
こういうのを気にならない様に組み立て、画面の中にある強さを打ち消す事が出来るバランス感覚と言うか、造形思考と言うか、画面力学と言うのが適切なのか…これがボナールの見えざる技術なんです。こうやって簡単な解説や種明かしをしても手品を見せられている様な感覚になりますよね。

フランス近代絵画をジックリと見ていくと、こういう技術を持った画家が沢山いました。折りを見て紹介していきたいと思います。長くなりましたので、今日はこの辺で。


P.S.
センター試験の受付が10/1(月)?開始されます。芸大や国公立を受ける人はもちろん、私立のセンター利用をする人も忘れずに申し込んで下さい。特に受け直しを考えている大学生、休みがちの浪人生、出し忘れにはくれぐれも気をつけて下さいね。ではでは。

新美工芸科イベント開催!

こんにちは、全科総合部です。

本日も新美は悪天候にもへこたれることなく、盛り上がっています!
通常の授業、各科保護者会、そして新美の工芸科ならではの
「パーフェクト描写ゼミ」の第一回目を開催しております!

今回は~レモン編~ということで、帰宅するときはレモンは完ぺきに描写できるように
なっていることでしょう!!

専門講師(ユーチューバー)の池谷先生も熱が入っております。

資料も充実しています。

先生の手元から受講生のみなさんは、目が離せません。
解説しながら実演していくので、とてもわかりやすい!!

これを参考にレモンを描けば、同じクオリティーをもったものが描けるでしょう。
他の受験生と、ここで差をつけておいておくのが得策ではないでしょうか。

今日、このゼミを逃してしまった方も第二回がございますので
是非、ご参加ください。損はさせませません!

予告「第二回パーフェクト描写ゼミ」10月14日(日)10:00~
受講料:4000円
申し込みは、新美窓口及びホームページから申し込みができるようになります。

よろしくどうぞ、パーフェクト描写ができるようになりましょう!!