カテゴリー別アーカイブ: 油絵科

巨大なデッサン、カルトーネ

こんにちは。油絵科の関口です。
芸大の募集要項で、一次素描が倍版の木炭紙による素描という事がが発表され、油絵科の受験生はさぞかし戸惑っている事と思います。今日はそれに伴い、大きなサイズのデッサンについてお話したいと思います。

美術史の中に出てくるデッサンは、紙に描かれるという事もあり、どの時代を見ても比較的サイズの小さなものが主流です。しかし、中には巨大なサイズのものが登場します。


これはロンドンナショナルギャラリーにあるレオナルド・ダ・ビンチの「聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ」という作品です。デッサンながらレオナルドの中でも最高傑作の一つとも言えます。
大きさは142×105cmというサイズで、デッサンとしてはかなり大きな部類に入ります。さすがにこのサイズになると、紙は複数枚を繋ぎ合わせて作られています。今よりも紙が貴重な時代…ということもありますが、大きな紙というのは漉くのが大変なんです。

拡大すると表情の美しさや、木炭で描かれたと思われる大胆な線描も見えてきます。こういう大きなデッサンはカルトーネ(イタリア語で原寸大のデッサン、下絵の意味)と言います。ちなみにこのカルトーネを元に描かれた作品は存在していません。


こちらはミケランジェロのカルトーネ。システィーナ礼拝堂の隣にあるパオリーナ礼拝堂の壁画の為に制作されたデッサンで、こちらもかなり巨大です。こちらの方が継ぎ目がしっかりと見えますね。ちなみにこの作品は一度日本に来た事があり、僕が高校生の時に西洋美術館で見ました。海老澤先生もよく「この作品は凄かった」と感想を述べています。確かに良い作品ですね。本番のフレスコの作品よりもこっちの方が魅力的です。
この壁画の左下部分のデッサンです。


こちらは足の部分になりますが、デッサンを転写する為の穴が開いています。ここに顔料を擦り込んで転写していく技法をスボルヴェロといいます。但し、頭部にはこの穴が開いておらず、これを使ってミケランジェロが下絵を転写したとは思えません。お弟子さんか、後の画家が模写をする為に開けかけた(けど叱られてやめた?)のではないでしょうか。

システィーナ礼拝堂の時から既にミケランジェロは「スポルヴェロ無しにフレスコを描いていた」と言われていますし、他の部分は見つかっていないので、一体何の為に描かれたカルトーネなのか?は謎ですね。

そしてカルトーネの最高峰とされているのは、ミラノのアンブロジアーナ絵画館にあるラファエロの作品でしょう。原寸大なので超巨大ですよ。

この作品はバチカンにあるフレスコ画の傑作「アテネの学堂」の為に描かれています。カルトーネには何故か「ミケランジェロをモデルにした」とされるヘラクレイトス(赤丸で囲まれた人)が描かれていません。

残念ながら僕はこのカルトーネを見ていませんが、見た人は口を揃えて「凄い作品だった」「デッサンのほうがフレスコより凄かった」と言います。死ぬまでに一度は見ておきたい作品の一つです。

最後に宣伝です。年末恒例のアニマート展が横浜のギャラリーアークで開催され、そちらに僕も出品しています。この展覧会は小さなサイズなので、今回のブログとは正反対ですが、興味がある方は是非お越し下さい。会期は12月15日(土)迄です。
http://ark.art-sq.com

画家の王、ルーベンス真の実力②

こんにちは。油絵科の関口です。

前回はルーベンスの真の実力について語りましたが、今日はその続編です。ルーベンスの本当の実力と魅力について、もう少し掘り下げていきましょう。


ところで、ルーベンスはその実力に反して、意外にも日本ではあまり人気のない作家の一人かもしれません。豪華絢爛で明るく健康的な雰囲気と、ダイナミックな画面構成というのは、情緒的な雰囲気を重んじる日本人の感性とは正反対に位置するものなんでしょうね。


同時代のバロックの巨匠であるレンブラントは、どこか物憂げで情緒的な雰囲気を身にまとい、波乱万丈の人生を送りました。絵以外のエピソードも含め、こういう人が日本人のハートをガッツリと掴む…という典型的なパターンなのかもしれません。

でもルーベンスにも柔らかく、情緒的な雰囲気を醸し出すことは可能でした。実は変幻自在で、器用に色んなことがこなせる画家だったようです。実際のところ柔も剛もお手の物と言った感じです。

しかしルーベンスの真骨頂は、どんなに大人数を画面に入れてもゴチャゴチャさせないことができるということです。その能力は驚愕するに値します。
群像表現において、これほどの能力を発揮できる人はルーベンスの右に出る者がいない…と言っても過言ではありません。強弱の扱い方が絶妙で、あまりにも自然に見えるので見過ごしてしまいそうですが、この能力は決して一朝一夕で身に付けられるものではありません。「絵の中での見せるところと見せないところの割り振り」をこれ以上ないくらい上手く操り、観客の目にスーッと染み込むように入っていくのです。人間がどのようにものを見て、脳がどのように認識しているかを知らないと、これ程までに巧みに強弱をコントロールすることはできません。


この絵なんか、一体何十人描かれているのでしょう?よく見ると、力強く描いているところも多いのですが、フワッ、フワッと強さが打ち消され、画面の中にある大きな流れの中に吸収されていくような錯覚すら感じてしまいます。この絵を見ていると、全くジャンルは違いますが、合気道の達人、塩田剛三さん(故人)の動画を見ているような気持ちになります。※知らない人は是非YouTubeで検索してみてください。必見です。


さすがにここまで来ると、達人のみが到達し得る領域です。しかし絵を勉強する人なら、せめてこういう技術を読み取るくらいの能力は身に付けたいものです。

プレ冬期講習会

こんにちは、全科総合部です。

11月25(日)より12月2・9日と、冬期講習会前のプレが始まります。
平日は、普段の予備校や高校の授業もありますが
いずれも日曜日なので、一足先に受講してみてはいかがでしょうか?
各科冬期講習会の課題に先行した内容になっているので、きっと差がつくはずです。
詳しい内容は、こちらからご確認ください。

そのひとつに、全科対象の油絵科・日本画科・彫刻科合同企画の「人物強化特訓」があります。

美術解剖学特別講習

いまや美大入試では、人物表現は必須!人物は、顔が命。
この1日限定!人体頭部を解体!

自画像、人物画の実力アップ!!

当日は、粘土で人体の頭部を、芯材から1つひとつ説明を受けながら骨や筋肉を組み上げていきます。それぞれの形や働き、表面上の影響など実践的に詳しく理解することができます。更に、出来上がった模型を持ち帰り、永久保存版的に人物頭部を描いたり作ったりする時に、役立てることができます。

あのレオナルド・ダ・ヴィンチも、人体を描くため、理解するため、自らの手で人体を解剖した事実は、有名な話です。その時の素晴らしいスケッチも、数多く残されています。
また、その成果は、彫刻、絵画だけにとどまらず、建築や夢を実現させる装置にまで、幅広く生かされているでしょう。

現在の美大入試においても、人物を課する大学、科が多いのも事実。

例えば、「動いているモデルを描きなさい」とか、「想像で人物を描きなさい」とか、その課題も多様になってきています。
目の前にモデルがいなければ描けないという人、いても形が不自然になってしまう人も、骨格から筋肉、表面の見え方まで理解することができさえすれば安心です。描けるようになります!

果たして?!あなたは、人体の骨の髄まで理解しているのか?

東京芸術大学美術解剖学の専門講師が指導!

自分で作る、自分だけの人体頭部があなたの手に!!

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ひと足先に、芸大生気分!

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明日のギャラリートーク

こんにちは、全科総合部です。
現在、20日まで新美ギャラリーにおいて「渡辺護展」を
開催しています。

今回は、映像などの媒体を通して人間の知覚に訴えかける作品を展示してくれています。

プロジェクターで投影されているノイズのような動きが、鑑賞者の足音に反応するのにもおどろきましたが、他の作品では、モニターの表面に2つのファンが回っています。思いっきり画面を遮っています。
鑑賞者が近づくと・・・・。

明日、新美ギャラリーで16:30より、作家によるギャラリートークがあります。
ゲストに映像ディレクターの宮川貴光さんをお招きして対談をしてくれます。
宮川さんは、藤元明さんというアーティストなどと作品を作っていて、美術と映像の両方で作品づくりをしているということで、今回の渡辺さんの作品の一つのテーマである「境界」という部分で色々話していただけるのではないでしょうか。

興味のある方は、是非お越しください。損はしません。
通りすがりの新美生の方、少し早めに登校して、トークを楽しんでみてはいかがでしょうか?
また、講評会の終わった昼間部生の方々も、帰る前に新しい美術の一片を覗いてみてください。

よろしくおねがいします。

画家の王、ルーベンス真の実力

こんにちは。油絵科の関口です。
西洋美術館でルーベンス展をやっていますが、皆さんはご覧になりましたか?先日僕も見てきました。ただ今回は展覧会とはちょっと離れたところのお話が中心になります。

ルーベンスは絵の実力もさることながら、非常に多才な人物でした。人文主義の学者で美術品収集家。7ヶ国語を自由に話し、外交官も務めたそうです。凄いですね。
この作品は「フランダースの犬」でネロがずっと見たがっていたルーベンスの作品。これを見たい人はネロの様にアントウェルペン大聖堂まで行かなくてはなりません。

当時ルーベンスの実力はヨーロッパ中に知れ渡り、他国からの注文も殺到しました。王族や貴族からも大人気だったんです。作品は彼がお頭を務める工房で制作し、その作品はヨーロッパ中に収蔵されています。「ルーベンス作」となっている作品はかなりの数に上りますが、実際のところはほとんどがお弟子さんとの合作です。まずは下の絵を見比べてみてください。


美術館に収蔵されると、どちらも「巨匠ルーベンスの作品」ということになりますが、実際は左がルーベンスのオリジナル。右はお弟子さんとの合作です。違いがわかりますか?ルーベンス自身が一人で描いた作品は、殆どが小さな板切れ。それを使って「今回〇〇国王から注文を受けた絵は、こんな風に仕上げるから、お前たちはこの下絵に則って、大体のところを描いておく様に」と、お弟子さんに指示を出す訳です。
実際に収める作品は、宮廷や貴族の豪邸に入る為、高さが数メートルにもなる大きな作品…ということが殆どです。お弟子さんを何人も雇って、殆どの作業を彼らに任せてしまいます。お弟子さんもそれなりに優秀な人たちを雇っているので、絵を描いていない人には「巨匠ルーベンスの作品」として享受したと思われます。


一見良くできているんですけどね…。これもお弟子さんとの合作と思われます。

25年ほど前、ヨーロッパに旅行に行ったある芸大生が「どこの美術館にもルーベンスのデカイ作品がこれでもかっ!てほど飾られててさ、もうお腹いっぱいで、見たくないな?」と言っていました。まあ、わかりますけどね…。お弟子さんの作品を沢山見せられたら、そりゃそう思いますよ。

ここだけのお話ですが、ルーベンスの真筆を簡単に見分ける方法をお教えしましょう。
①小さな作品であること。(大抵は10号以内)
②高い絵具を使っていないこと。(当時の絵具は鮮やかな色が高い絵具です)
③意外とざっくりと描いていること。
④絵に沢山人物がいてもゴチャゴチャ見えないこと。
⑤板に描かれていること。(例外はありますが、ルーベンスは板好きです)
⑥画面全体に刷毛目が残っていること。
⑦自分の家族を描いていること。


⑥に書いた刷毛目がわかりやすい例。下塗り(インプリマトゥーラ)の刷毛目ををわざと残すのがルーベンスの大きな特徴。影のところに残っている場合が多いです。


これぞルーベンスの真骨頂。さすが画家の王!ムチャクチャ巧いです。