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ホワイトについて② シルバーホワイト編

こんにちは、油絵科の関口です。
いよいよ私立美大の受験が始まりましたね。油絵科は武蔵野美術大学の試験日です。受験生の皆さんは緊張していると思いますが、本番でもリラックスして、楽しく描いてきてもらいたいと思います。
あと、芸大を受ける皆さんは、もう願書を出しましたか?私大の対策に追われて、出し忘れない様に気を付けて下さいね。

 

さて今日は前回に引き続き、ホワイトについて書きたいと思います。今回はシルバーホワイトについてです。
シルバーと言っても銀が入っている訳ではありません。化学的には、塩基性炭酸鉛といい、鉛から作られています。鉛には毒性があり、重さも他の絵具と比べるとかなり重いです。和名では鉛白と呼ばれています。日本では昔から白粉(おしろい)として使われていました。どう考えても肌には悪そうですけどね。
かつて海外では、フレークホワイトとか、クレムニッツホワイトという名称の絵具はシルバーホワイトの事を指しました。(現在同じ名前で売られている絵具はシルバーホワイトではないようです)鉛を使っているのでレドホワイトと言われる事もありますが、赤のレッドと混同され易いので、あまり一般的ではありません。(芸大とホルベインが共同開発した「油一(ゆいち)」のシルバーホワイトはレドホワイトという名前を採用しているようです)

ホワイトの中では一番乾燥が早く、厚さにもよりますが夏場で1?2日、冬場でも(気温によりますが)3?5日で乾く、とされています。
混ぜた時の白の強さや隠蔽力(下を覆い隠す力)は中位で、強過ぎず、弱過ぎず。色味は若干暖かみがあります。レンブラント拡大
レンブラントの「水浴する女」の拡大。
シルバーホワイトを大胆に使い、画面に力強さを与えています。不透明にも半透明にも使えるのがシルバーホワイトの利点です。画面上での混色も美しく、油絵らしい見事な仕上がりになっています。

 

用途としては下層の厚塗り、不透明層の形成、上層の描画などオールマイティーに使えます。厚塗りをした時の質感は「まるで陶器のような」と評されることもあり、非常に美しく、他の絵の具では作る事は出来ない表情だと思います。あと、糸を引く様な粘りがあるのもシルバーホワイトの特徴の一つです。モネ拡大
モネの「睡蓮」の連作の拡大。シルバーホワイトらしく、糸を引いているのが分かります。
乾燥後は若干黄ばむ(数ヶ月で少し黄色くなってきます)傾向にあり、寒色系統(特に青系統)の絵を描く人は、上層は違うホワイト(ジンクなど)を使う事を検討しても良いと思います。大気中の硫化水素と反応すると黒ずむと言われていますが、今のところそういう絵には出会った事はありません。

油絵具の中では最も少ない油の量で絵具になる顔料です。機械を使ってよく混ぜると、顔料の10%程度のオイルで絵具になるそうです。

あと、他にも経年変化として、少しずつ透明になって行く事も知られています。もっとも数十年単位なので、すぐ気になるほど透明になる事はありません。自分の死後、美術館に入った後、下からの色やタッチが透けて出てくるなんて事もあるかもしれませんね。バッカスの勝利
ベラスケスの「バッカスの勝利」
背景の所にあるタッチは、描かれた当時は不透明に塗りつぶされていて見えなかったといいます。ベラスケスには筆についた余った絵の具を背景に付けて拭う癖があった、という事が知られています。

シルバーホワイトはアルカリには弱く、フレスコ画(アルカリ性)には向いていません。テンペラ画(酸性)には使用出来ますが、水と混ぜるのが難しい(ダマになり易い)ので、テンペラに使う時には工夫が必要です。(専門家の話では卵白と混ぜると、簡単にペースト状になるそうです。卵白と混ぜた後に水と混ぜるとダマになりにくいとのこと。卵黄と混ぜると、どうしても黄色味掛かってしまいます)

毒性については、顔料のまま使用しなければ特に気にする必要は無いと思います。ただ、サンドペーパーをかける場合も粉になるので、防塵用マスクをするなどして気を付けた方が良いと思います。あと、ケガをしていたら傷口には入らない様に工夫した方が良いですね。ちなみに食べた場合の致死量は、大きなチューブ2本と聞いた事がありますので、余程根性のある人以外には自殺をする用途には向かないと思います(笑)。ちなみに海外では毒性のせいか、もう生産していない国が殆どです。古代から使われてきた由緒正しい顔料だけに、個人的には絶対無くなってほしくない色です。海外がダメとなると、日本は最後の砦のようです。日本の絵の具メーカーさん、是非頑張って下さい。

他にも、シルバーホワイトは硫黄が含まれている色と混色制限がある白として知られていますが、実際には殆ど影響はありません。(シルバーホワイトとバーミリオンは混ぜてはいけない事になっていますが、古典絵画では肌色を作るのによく混ぜられています。化学反応的には黒ずむはずですが、研究者によると油絵で変色したものは一例も無いとの事。他にもウルトラマリンブルーとの混色もいけない事になっていますが、僕はよく混ぜて使っています。今迄20年以上使ってきて、全く問題無いと断言できます)

鉛はX線を通さない為、修復家や研究者は絵画の技法解析にX線を使用しシルバーホワイトの厚みを観察する為、絵にダメージを与える事なく解析する事が可能です。
レンブラントX線
レンブラントの初期作品(部分)のX線写真(右側)。
左の画像が明るいのに白く見えない所(顔の所など)は下地の白さが透けている(薄塗りである)事を示します。肘の辺りは形を直したのが分かりますね。
僕の浪人時代の恩師であるM先生は、現在ブラジルで一年の半分を生活、向こうでも制作をしています。その先生は海外でシルバーホワイトが作られていない事を知っていて、日本から缶入りのシルバーホワイトを大量に持ち出そうとしたら「爆弾と間違えられて大変だった」と言っていました(笑)。何せX線を通しませんからね。スーツケースの中にズラッと並んだシルバーホワイトは、さぞかし危険な物体に映った事でしょうね(笑)。

基礎科デザイン・工芸生徒作品

基礎科デザイン・工芸の吉村です。

あっという間に2月ですね。
高校2年生は来年受験科へ行く心の準備は出来ているでしょうか?
冬期講習を終えて、新美の基礎科生達は気持ちが受験へ少しずつ向かっているところかと思います。

デザイン・工芸専攻の生徒は冬期講習から個人個人が志望の大学に合わせて課題を選ぶようにしています。
より多くの課題をこなすために、早く終わった生徒から別課題も用意してあります。

基礎科デザイン・工芸専攻の生徒の最近の作品を紹介します!

北島

川村

芹澤

セリザワ

 

中野

授業や講習会などで何枚も課題をこなし着々と実力が伸びてきています。
基礎力がついてきたことで自分らしく、質の高い作品が作れるようになってきました。

3学期も残りわずか。一課題一課題大事に制作をしていきましょう!

また、これから受験を考えている高校2年生や、美術に興味のある高校1年生のみなさん、
新美基礎科では毎日無料体験を実施しています。
また入学後は週単位で受講が可能です。
まずは無料体験入学から始めてみましょう!

先生1
先生2

東京芸大 出願期間です!!

こんにちは。
本日より、東京芸術大学の出願受付が始まりました。
締切まであっという間です。早めに準備し、出願忘れのないようにしましょう!(日程は必ず各自が募集要項で確認してください!)

校内生は、新美の受付に芸大の出願書類がありますので、まだの方は早めにもらいに来てください。

ホワイトについて①

こんにちは。油絵科の関口です。少し暖かい日が続いたと思ったら、また一段と寒くなってきましたね。試験も近付いてきましたし、受験生の皆さんは風邪やインフルエンザには十分に気を付けて下さい。

さて、油絵科の皆さん、並びに基礎科で油絵をやっている皆さんは、どんなホワイトを使っていますか?
最初油絵を始めた時、画材屋さんにはホワイトの種類が何種類も並べてあって、「こんなにあるんだ!」ってビックリしますよね。どのホワイトを買って良いのか分からず、とりあえず適当に「これで良いや」みたいな感じで選ぶ人も多いように思います。
ちなみに油絵具は全て顔料(平たく言うと色のついた粉)と、接着剤として乾性油(リンシードやポピーなど)を中心に作られています。色の名前の違いは、主に顔料の違いと考えて下さい。(例外もあります)クサカベ顔料
これはクサカベの顔料の写真。
顔料は乾性油と混ぜれば油絵の具に、アラビアゴムと混ぜれば水彩絵の具に、アクリルメディウムと混ぜればアクリル絵の具になります。

 

ちなみに油絵に使われる白は主に3種類です。
①シルバーホワイト(塩基性炭酸鉛)
②ジンクホワイト(酸化亜鉛)
③チタニウムホワイト(酸化チタン)

パーマネントホワイトや※セラミックホワイト、ファンデーションホワイトなどもありますが、殆どが上記の絵の具と同じ顔料で作られています。※ホルベインから出されているセラミックホワイトは、チタン酸ストロンチウムという顔料なので、厳密には違う顔料だと思います。

 

ホワイトに関して、僕のオススメは断然「シルバーホワイト」です。あとは用途に併せて使い分ける、というのがベターだと思います。後で特徴を書きますが、長くて読むのが面倒という人は、とにかく「シルバーホワイト」を買って下さい。※セットに入っているホワイトはパーマネントホワイトという事が多いと思いますが、個人的にはあまり勧められません。

シルバーホワイトは、油絵具の白の中では一番歴史の古い顔料です。ヨーロッパの古典絵画?近代絵画のホワイトは下地の白を除き、100%シルバーホワイトです。レオナルド・ダ・ビンチもレンブラントもゴッホもルノアールもみんな白はシルバーホワイトを使っていた事になります。

シルバーホワイトならメーカーはどこでも構いませんが、絵具の純度(顔料の含有率)という点で選ぶなら、マツダスーパーをオススメします。顔料の含有率は、同じ大きさの絵の具を持って重さを比べれば直ぐに分かります。シルバーホワイトは顔料が重いので、重い方が含有率が高い事になります。マツダスーパーのシルバーホワイトはズッシリと重いのが分かると思います。

マツダシルバーホワイト

但し、チューブを開けた一番最初は、油が分離している事がありますので、ティッシュを使って油を先に吸わせてから使う事が必要になります。面倒な作業ではありますが、最初の1?2回だけの儀式なので、慣れてしまえば問題ありません。

マツダ油吸い取り
上の画像は都合によりマツダスーパーではありませんが、マツダスーパーの場合はこうやってティッシュで油を吸わせてから使います。

 

絵の具として一番シルバーホワイトらしいのはミノーのシルバーホワイトです。粘り気が強く、糸を引く感覚は最もシルバーホワイトらしいと思いますが、初心者?中級者には扱い辛いかもしれません。あと乾燥後かなり黄ばみますので、それも計算に入れておく必要はありそうです。誤解を恐れずに言えば、ちょっとマニア向けです。
クサカベは軟練りと中練りのシルバーホワイトの2種類があります。厚塗りを考えるなら中練り、描画を中心ににしたいなら軟練りがオススメです。用途に合わせて作られているので、初心者にも使いやすいと思います。

クサカベ軟練り
軟練りのシルバーホワイト。他のメーカーと比べても、ちょっと柔らかめです。

クサカベ中練り
こちらが中練り。癖も少なく使いやすい硬さだと思います。

 
と、ここまで書いたら、前置きがかなり長くなってしまいましたので、次回に続きます。