カテゴリー別アーカイブ: 新美

こんにちの彫刻科

或る日のこと、或る若い娘をデッサンしたいと思っていたとき、ピンときたことあった。
つまり、常に生き続けている唯一のもの、それは眼差しだと言うことが突然分かったのだ。
残りのもの、頭蓋骨に成り変わってしまう頭部は、死人の頭蓋骨とほとんど同じものになってしまった。死者と生者の違いをなしていたもの、それは彼の眼差しであったのだ。
その時、私は思ったー死人の頭蓋骨を彫刻することは、本当は望ましいことではないのではあるまいかと。
だれしも生きている者を彫刻したいと思う、しかし生きている者のなかで彼を生かしめているものは、疑いもなく、その眼差しなのだ。

今年度、1回目の記事になります、彫刻科の氷室です。
上記の文章は、有名な彫刻科、アルベルト ジャコメッティのものです。

直接眼差しを思うわけではないが、眼差しは眼を取り囲むものによって出来ており、眼の形そのものを、形の現れようを心がけている。
眼の形が捕らえられれば、眼差しに似た何かが現れるだろう。

そんなジャコメッティの言葉に、みなさんも感じる所があるかもしれません。
受験では、今日の実技が求められて早いスピードで日々が流れていきます。本来、作品を作るにはとても時間がかかりますし、長い歴史から素材であったり作ることは、変化していません。
受験で通用する実技は基本中の基本ではあるので最低限必要ではありますが、そのスピードゆえに伸び悩んだ時や、ふと実技に集中できなくなった時に、合格の先にある自分を励ましてくれる目標や作家、作品、または作家の言葉などを見つけてみるのも、1つの突破口になるかもしれませんね。

なんのために目に見えぬものを理解しようとこんなに夢中になるのか。かくも頭を描いたり、彫刻しているとはどういうことなのか、ジャコメッティもたくさん考えていたのかなと思うと何だか近くに感じませんか?

さて前置きが長くなってしまいましたが、生徒の近況秀作を紹介します。
去年や一昨年を遡って新美ニュースを見返してみましたが、この時期の実力としては、高いのではないかと感じました。
新美の講師陣は、妥協無く辛口で指導が入るので、そこに心が負けず、ついてこれると、さらに伸びて行くことは間違いないなと個人的に感じています。

昼間部では、5月は木炭紙倍判でのデッサンに挑戦しました。
生徒の皆さんはその課題意図など考えてみましたか?
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脇腹付近はまだ整理ができていませんが、本人の求めるクリアなデッサンが、描くことと共に叶っている魅力のある1枚です。

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頭部や足の形態感は弱いですが、本人が様々な発見をしながら、そこにある空気を感じてマルスのリアリティーに迫れたデッサンです。色幅も綺麗ですね。

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構造を意識しながら、とにかく目の前に在る円盤の持つ形を木炭で表現できてきました。ここからさらに、らしさを探ってもう一歩魅力を引き出せると良いですね。

ジョジョの模刻2点は、夜間部生の作品です
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ジョルジョの印象を引き出すのは難易度が高いですが、とても似ています。第一印象が良いですね!計り知れない力を持っていることを感じます。さらに心棒や切り口に気をつけながら、今回得たことをつなげていってください。

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こちらの作品も底知れぬ実力を感じます!量感を捉えながら、良く印象を感じ、それを手に伝え表現ができています。似ていますね。次回は。粘土の質感もジョルジョの動きや骨格に会わせて探求してみてください。

このクロッキーは彫刻科の課題以外で、夜間に行われる新美のクロッキー会を自ら利用して、普段できない表現に挑戦した1枚です。こういった場を利用すると、他の科のデッサンも見れますし、刺激を受けひと味違ったチャレンジができるので、センスを磨く訓練にもなりますね!
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描くこと楽しみながら、瞬時にモデルさんの持つ雰囲気に彫刻科として反応して行く姿、両方を感じ取れる1枚です。

ジャコメッティは、こうも綴っていますー
いつでも成功よりも私の失敗のほうが一層大きでしょう。
偉大な冒険とは、同じ顔の中に日ごと見知らぬものが現れるのを観ることだ。

みなさんも日々同じようなデッサンと塑像ではありますが、挑戦し試行錯誤をし、自分なりの捉え方を発見していってください!

今回はこれで以上です。次回は稲田先生の担当です!

イベント満載の5月

デザイン総合の滝口です。
デザイン科昼間部では、総合コース、工芸コース、私大コースとの交流や合同デッサン/平面/立体課題や、校外授業など多彩なカリキュラムを1学期に行います。
1学期ならではの楽しい課題を通して、共に頑張る仲間との表現を通じた色々な刺激を与えあって行きます。

昨日は、デザイン科昼間部全科で、新木場の植物園の見学と葛西臨海公園での親睦会をしました。
5月の中旬にもなり少し新学期の新しい生活にも慣れて来て、より新美生活での仲間たちとの交流によって、共に頑張る気持ちや新しい科との出会いがあったと思います。

今日の総合コースの課題は、「デザイン・ディスカッション」ワークショップ。
総合コースで所有する沢山のデザイン書籍の中から、各自好きなデザイン作品を選び、それらをグループに分かれて意見を出し合います。自分が発見した視点やそのデザインの良さを、より深く分析して発見する事によって、今までよりももっと深くデザインについて考えたり理解出来たりしていきます。自分だけでなく、他の人の意見も聞く事によって、自分では発見出来なかった新しい視点も生まれると思います。
とっても充実した時間を過ごす事が出来ました。


その後、新美近くの初台オペラシティーギャラリーで開催されている写真展「ライアン・マッギンレー」展へと見学に行きました。
普段あまり目にする事が無いかもしれない写真の展示で、また見方や感じ方も違うと思いますが、みんな真剣に作品を見て、写真も撮れたので記録していったりして、1日でもデザインから写真、常設展示の絵画も含め、すごく密度の高い刺激になったと思います。


何と明日は新美の身近な「新宿」の街を歩いてみて、野外彫刻や都庁から見る東京の町並み、西新宿ビル群や新宿駅を見学して、実際に足を使って新しい視点を得て行く課題をします。それを元にして「新宿」をテーマとした色彩構成の課題をする予定です。

他にも私大との合同デッサン/平面課題や、工芸科との合同石膏デッサンレクチャーも5月から6月頭にかけて企画しています。
1学期にしっかりとした基礎力の習得と、発想を柔軟にしていく様々なイベント課題を通して、実りある時期へとして行きます!!
6月の梅雨時期に入ってしまうと、なかなか外に出れなくなりますからね。

新美の中学生コース!

お久しぶりです!
皆様いかがお過ごしでしょうか。
中学生コースでは冬の受験シーズン?春期講習?新年度スタートを経て、新学期開始と共に新たな仲間達と毎週のびのび制作をしています。

さて、昨年度もたくさんの良い作品が出来上がっていたので、ここでは一部ですが、紹介したいと思います。
今では新高校1年生になった皆…。一年間本当にたくさん描きましたね!

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さあどんどん暑くなってきていますが、暑さに負けず今年も頑張りましょう!

黒の魔術師

こんにちは。油絵科の関口です。
今日は何やら怪しげなタイトルが付いていますが、ちゃんと絵のお話ですので安心して下さい。

先日、国立新美術館でやっているルノワール展を見てきました。他科の人からすると意外に思われるかもしれませんが、油絵科の受験生にはルノワールが苦手な人も結構多いんですよね…。皆さんは如何でしょうか?
「ルノワールはどうも苦手だ」という人も、今回のルノワール展は必見ですよ。何せ代表作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(日本初公開)や晩年の傑作「浴女たち」(日本初公開)そして「陽光のなかの裸婦」「草原の坂道」「田舎のダンス」「都会のダンス」など、教科書や画集で見たことのある様な名作が目白押しです。恐らく、日本では今後二度と見る事のできないクオリティーのルノワール展だと思います。田舎のダンスと都会のダンス
ルノワール「田舎のダンス」と「都会のダンス」1883年

このルノワール、巨匠と呼ばれる人の中でも抜群に黒の使い方が上手いんです。実は油絵の中で黒という色は、数ある色の中でも非常に扱いの難しい色です。(無彩色なので色と表現するのも少し変ではありますが…)ルノワール曰く「黒は全ての色の女王」だそうです。

僕の見た中で黒の魔術師として双璧をなすのが、マネとルノワールの2人。どちらも黒を陰の色には使わず、一つの色彩として完璧に使いこなしていますが、使い方が全く異なります。

フォリー・ベルジェール劇場のバー
マネ「フォリー・ベルジェール劇場のバー」1882年

ちなみにマネの黒は非常に歯切れが良く、黒があることで画面がビシッと引き締まって見えます。これを食べ物に例えるなら、皮付きウィンナーに勢いよくかぶり付いた時の「パリッ」とした食感の心地良さ…といったところでしょうか。
 

対してルノワールの黒には、豊かな階調表現の中に独特な含みがあり、まるで口溶けの良い高級チョコレートをジックリと味わっている様な感覚に陥ります。溶けて無くなった後も芳醇なカカオの風味が余韻として残っている様です。
今回の展覧会には出品されていませんでしたが、傑作の一つ「桟敷席」に使われているドレスの黒は、言葉を失ってしまう程の美しさと、巨匠の持つ圧倒的な力量を感じる事のできる作品です。これは図版や画像では絶対に伝わらない凄さだと思います。もしまた日本に来る機会があったら、是非もう一度観てみたい作品です。
桟敷席
ルノワール「桟敷席」1874年
 

今回の目玉は何と言っても「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」ですが、この作品には殆ど黒は使われていませんでした。この絵は明暗の構成が複雑で、かなりコントラストの強いドレスやタキシードを着た人達が彼方此方で踊っています。黒は明度の一番低い色ですから、沢山使ってしまうとMaxの調子が色んな場所に散らばってしまい、散漫で見辛い画面になってしまいます。木漏れ日を上手く利用する事で固有色の呪縛から解き放たれ、黒い服にも黒い絵具を殆ど使わずに、画面上の関係で色を表現しています。本物を見たら、どんな場所に黒を使っているのかを探してみるのも一興かと思います。ムーラン・ド・ラ・ギャレット
ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」1876年
ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会の部分
作品に近寄ってみると、殆ど黒が使われていないことが分かります。

 

あと、今回は滅多に見る事の出来ない、ルノワールのデッサンが複数来ていました。これがまた素晴らしい出来栄えで、そこからは巨匠の鋭い眼差しと生々しい息遣いが感じられました。これも図版や画像では伝わりにくいものですので、是非本物を見に行ってみて下さい。
デッサン
ルノワール「水のほとりの3人の浴女」1882?1885年

オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵?ルノワール展 ?8/22(月)
http://renoir.exhn.jp

大型連休も終わり、、、。

久々の快晴。素晴らしい青空。
受験生のみんなも、日々の生活も順調に慣れてきた頃でしょうか?
渋谷校の箱岩です。

渋谷校はGWを利用し、各科で宿題が出ていました。
受験科油絵コースも、絵画を学ぶ上で重要な要素の一つについて宿題を出しました。それは、、、、

構図!!

待って、いま「げっ、苦手」とページを閉じようとしたそこのアナタ!
構図なしに、表現はありえませんよ。
表現じゃない絵画は、現代美術の観点からは趣味の絵でしかありません。
大学が求めるのは表現者の卵です。
表現しようとする想いを形にし伝えるのは構図です。
構図の勉強なしに、いくら写実的な描写を鍛えても、それは英文法のない骨抜きの英単語の羅列。

目を背けないで、今からしっかり構図の勉強をしていきましょう。
とはいえ、結局のところ特効薬的に効く、お手軽な構図攻略法はないのがホントのところです。
ですが、エンドレスに美術館で絵画を眺め見ているだけでは、限られた時間の中で受験に望む皆さんには
ちょっと大変。

そこで、私が受験時代に暇つぶしにやっていた簡易模写を、より実のある実践的な課題にしたのが

「構図ドリル」

です。(名前へのダメ出しやツッコミはいりませんよw)

無心になれて意外におもしろいんです。

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簡単に説明すると、「学」とは真似るという語彙が変化した単語、美術も模写は大変有効な勉強方法だと思いますが、正直、ちょっと根気がいるんですよね。
名画は、切手サイズでもICカードサイズでも、やっぱり立派に見える。
構図を学ぶだけなら、文明の利器に頼って縮小白黒コピーをとって、おおまかな白黒グレーの3色に分け作者の明度計画を読み取るだけでも、学習としては充分。
ということで、大量の図版を配布して片っ端から写して3色分けをしていきます。
あとは作者の気持ちになって、制作意図を想像するだけ。

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なぜそれを描いたか?
どんな想いを絵に託したか?
どんな時代背景や、境遇の中に置かれていたか?
見る人を絵の中に誘引する様々な企て、、、

作者の真意が読み取れると本当にたのしい。
まるで難解なパズル。読み取れるか否か、まさに、絵画は至上の遊びだと思うのです。

見て分かる ⇒ あなたも描ける ⇒ 大学受かる