カテゴリー別アーカイブ: 新宿校

クロッキーのススメ

こんにちは。油絵科の関口です。
さて、新宿校では1?2学期の毎週木曜日の夜にヌードクロッキー会(有料で主に昼間部生対象)を行っています。

ホックニー
ホックニーのデッサン

 

僕が受験生の頃、先生からクロッキーの重要性を耳にタコができるくらい聞かされていました。その先生曰く「クロッキーは1,000枚位やると、少し上手くなって、その中で数枚鑑賞に耐えられるものが出来るようになる」「その後も大体1,000枚単位で少しずつ上手くなって、10,000枚やると、どこに出しても恥ずかしく無いレベルのものになる」「感覚的な枚数の目安は、自分の身長を越えるくらい」との事でした。それを聞いて、身長の高い奴は不利だろう…とか思ってました(笑)。10,000枚というのは口で言うのは簡単ですが、実践するには毎朝8時前に来て友達同士で描きあったり、家で巨匠のデッサンを模写したりしないと、一年では達成するのは難しい枚数なんですよね…。当時の僕らはそれを当たり前の様に受け止めていましたが、これは25年前の話で、流石に今の学生には、求める事が出来ない枚数です。

ルーベンス
ルーベンスのデッサン

でもこのクロッキー、枚数と比例して上手くなる事は間違いありません。毎年様子を見ていると、年間通してほぼ同じ顔触れになっているのですが、春に見た時と冬頃に見た時では、まるで別人の様になっている事も珍しくありません。

ロダン
ロダンのデッサン

シーレ
シーレのデッサン

ポーズ時間も10分、5分、2分という風に変化があり、その時間の変化をどういう風に捉えるのか?を考える様に作ってあります。特に2分の時は短い時間で描く事になるので、普通にやっていてはまず時間が足りないと思います。その事実に直面した時に、どうやってクリアしていくのか?何故こんな時間設定なのか?皆さんもよく考えてみて下さい。

あと、実は数年前から僕がモデルさんのリクエストをしています。普通の女性モデルだけでなく、マッチョな男性モデルが来たり、面白キャラの黒人モデルが来たり、音楽付きのムービングの会もあったりして、変化に富んでいます。毎回受講している人も、次は一体どんなモデルさんが来るんだろう?と、サプライズを楽しみながら、上達してもらえたらな?と思っています。陰ながら応援していますので、是非頑張って下さい。

映像科:映像科の小論文って?

こんにちは。映像科の講師の森田です。最近は日も長くなって初夏の陽気ですね。新学期が始まって一ヶ月半。大分授業にも慣れてきた頃だと思います。

今日は映像科の小論文について紹介します。小論文の課題を実技の授業の時間に制作するのは映像科(と先端芸術表現科)くらいだと思います。映像科の場合、武蔵美では「小論文と鉛筆デッサンどちらかを選択」、日芸の映画学科では必須。その他の大学の一般入試や推薦入試でも、小論文や作文を課せられることは非常に多いです。

ちなみに武蔵美の映像学科では毎年、何か発想のきっかけとして日用品(僕たちはこれを「モチーフ」と呼んでいます)が手渡されて、それを観察したり、実際に使ってみることから原稿用紙に文章を書く問題が出題されています。…と言っても、この説明だけだとわかりづらいですね。去年の実際の試験はこんな問題でした。

【2016年度 入学試験問題 映像学科 小論文(2時間)】
問題:着席した状態で手の届く範囲のものを配付されたメジャーを用いて測りなさい。その結果から導き出されたテーマについて論じなさい。(600字以内)
条件:タイトルを付けること

メジャー
※実際に配付された物とほとんど同じ形のメジャー

試験会場では問題文を読んだら、実際に机とか、シャーペンとか、問題文が書いてある用紙とか、自分の頭の周囲とか、色々測ってみるのだと思います。そしてそこから気がついたことを“論”(その文章で主張したいこと)として、まとめていきます。武蔵美のこの問題に限ったことではないですが、映像科の小論文では特別な(例えば映像についての)マニアックな知識などが必要なわけではありません。むしろ「今」「この場所で」「(初めて)発見した」という姿勢が大切です。以下は新美映像科の学生の合格者再現作品から。

河島小論文

どうでしょう。ちょっと伝わりづらいところもありますが、モチーフであるメジャーを元に発想しているということがわかると思います。ちなみにこの小論文は150点満点の試験で140点(!)だったそうです。かなりの高得点だと思います。

この問題で重要なのは、あくまでもその時提示されたモチーフから発想するということです。そういう意味で(参考に挙げておいてなんですが)この合格者の解答例にとらわれず、普段から身の回りの日用品を観察して(目で見るだけでなく実際に扱ってみて)、それを言葉にしてみたりすると良いと思います。

こんにちの彫刻科

或る日のこと、或る若い娘をデッサンしたいと思っていたとき、ピンときたことあった。
つまり、常に生き続けている唯一のもの、それは眼差しだと言うことが突然分かったのだ。
残りのもの、頭蓋骨に成り変わってしまう頭部は、死人の頭蓋骨とほとんど同じものになってしまった。死者と生者の違いをなしていたもの、それは彼の眼差しであったのだ。
その時、私は思ったー死人の頭蓋骨を彫刻することは、本当は望ましいことではないのではあるまいかと。
だれしも生きている者を彫刻したいと思う、しかし生きている者のなかで彼を生かしめているものは、疑いもなく、その眼差しなのだ。

今年度、1回目の記事になります、彫刻科の氷室です。
上記の文章は、有名な彫刻科、アルベルト ジャコメッティのものです。

直接眼差しを思うわけではないが、眼差しは眼を取り囲むものによって出来ており、眼の形そのものを、形の現れようを心がけている。
眼の形が捕らえられれば、眼差しに似た何かが現れるだろう。

そんなジャコメッティの言葉に、みなさんも感じる所があるかもしれません。
受験では、今日の実技が求められて早いスピードで日々が流れていきます。本来、作品を作るにはとても時間がかかりますし、長い歴史から素材であったり作ることは、変化していません。
受験で通用する実技は基本中の基本ではあるので最低限必要ではありますが、そのスピードゆえに伸び悩んだ時や、ふと実技に集中できなくなった時に、合格の先にある自分を励ましてくれる目標や作家、作品、または作家の言葉などを見つけてみるのも、1つの突破口になるかもしれませんね。

なんのために目に見えぬものを理解しようとこんなに夢中になるのか。かくも頭を描いたり、彫刻しているとはどういうことなのか、ジャコメッティもたくさん考えていたのかなと思うと何だか近くに感じませんか?

さて前置きが長くなってしまいましたが、生徒の近況秀作を紹介します。
去年や一昨年を遡って新美ニュースを見返してみましたが、この時期の実力としては、高いのではないかと感じました。
新美の講師陣は、妥協無く辛口で指導が入るので、そこに心が負けず、ついてこれると、さらに伸びて行くことは間違いないなと個人的に感じています。

昼間部では、5月は木炭紙倍判でのデッサンに挑戦しました。
生徒の皆さんはその課題意図など考えてみましたか?
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脇腹付近はまだ整理ができていませんが、本人の求めるクリアなデッサンが、描くことと共に叶っている魅力のある1枚です。

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頭部や足の形態感は弱いですが、本人が様々な発見をしながら、そこにある空気を感じてマルスのリアリティーに迫れたデッサンです。色幅も綺麗ですね。

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構造を意識しながら、とにかく目の前に在る円盤の持つ形を木炭で表現できてきました。ここからさらに、らしさを探ってもう一歩魅力を引き出せると良いですね。

ジョジョの模刻2点は、夜間部生の作品です
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ジョルジョの印象を引き出すのは難易度が高いですが、とても似ています。第一印象が良いですね!計り知れない力を持っていることを感じます。さらに心棒や切り口に気をつけながら、今回得たことをつなげていってください。

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こちらの作品も底知れぬ実力を感じます!量感を捉えながら、良く印象を感じ、それを手に伝え表現ができています。似ていますね。次回は。粘土の質感もジョルジョの動きや骨格に会わせて探求してみてください。

このクロッキーは彫刻科の課題以外で、夜間に行われる新美のクロッキー会を自ら利用して、普段できない表現に挑戦した1枚です。こういった場を利用すると、他の科のデッサンも見れますし、刺激を受けひと味違ったチャレンジができるので、センスを磨く訓練にもなりますね!
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描くこと楽しみながら、瞬時にモデルさんの持つ雰囲気に彫刻科として反応して行く姿、両方を感じ取れる1枚です。

ジャコメッティは、こうも綴っていますー
いつでも成功よりも私の失敗のほうが一層大きでしょう。
偉大な冒険とは、同じ顔の中に日ごと見知らぬものが現れるのを観ることだ。

みなさんも日々同じようなデッサンと塑像ではありますが、挑戦し試行錯誤をし、自分なりの捉え方を発見していってください!

今回はこれで以上です。次回は稲田先生の担当です!

新美の中学生コース!

お久しぶりです!
皆様いかがお過ごしでしょうか。
中学生コースでは冬の受験シーズン?春期講習?新年度スタートを経て、新学期開始と共に新たな仲間達と毎週のびのび制作をしています。

さて、昨年度もたくさんの良い作品が出来上がっていたので、ここでは一部ですが、紹介したいと思います。
今では新高校1年生になった皆…。一年間本当にたくさん描きましたね!

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さあどんどん暑くなってきていますが、暑さに負けず今年も頑張りましょう!

黒の魔術師

こんにちは。油絵科の関口です。
今日は何やら怪しげなタイトルが付いていますが、ちゃんと絵のお話ですので安心して下さい。

先日、国立新美術館でやっているルノワール展を見てきました。他科の人からすると意外に思われるかもしれませんが、油絵科の受験生にはルノワールが苦手な人も結構多いんですよね…。皆さんは如何でしょうか?
「ルノワールはどうも苦手だ」という人も、今回のルノワール展は必見ですよ。何せ代表作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(日本初公開)や晩年の傑作「浴女たち」(日本初公開)そして「陽光のなかの裸婦」「草原の坂道」「田舎のダンス」「都会のダンス」など、教科書や画集で見たことのある様な名作が目白押しです。恐らく、日本では今後二度と見る事のできないクオリティーのルノワール展だと思います。田舎のダンスと都会のダンス
ルノワール「田舎のダンス」と「都会のダンス」1883年

このルノワール、巨匠と呼ばれる人の中でも抜群に黒の使い方が上手いんです。実は油絵の中で黒という色は、数ある色の中でも非常に扱いの難しい色です。(無彩色なので色と表現するのも少し変ではありますが…)ルノワール曰く「黒は全ての色の女王」だそうです。

僕の見た中で黒の魔術師として双璧をなすのが、マネとルノワールの2人。どちらも黒を陰の色には使わず、一つの色彩として完璧に使いこなしていますが、使い方が全く異なります。

フォリー・ベルジェール劇場のバー
マネ「フォリー・ベルジェール劇場のバー」1882年

ちなみにマネの黒は非常に歯切れが良く、黒があることで画面がビシッと引き締まって見えます。これを食べ物に例えるなら、皮付きウィンナーに勢いよくかぶり付いた時の「パリッ」とした食感の心地良さ…といったところでしょうか。
 

対してルノワールの黒には、豊かな階調表現の中に独特な含みがあり、まるで口溶けの良い高級チョコレートをジックリと味わっている様な感覚に陥ります。溶けて無くなった後も芳醇なカカオの風味が余韻として残っている様です。
今回の展覧会には出品されていませんでしたが、傑作の一つ「桟敷席」に使われているドレスの黒は、言葉を失ってしまう程の美しさと、巨匠の持つ圧倒的な力量を感じる事のできる作品です。これは図版や画像では絶対に伝わらない凄さだと思います。もしまた日本に来る機会があったら、是非もう一度観てみたい作品です。
桟敷席
ルノワール「桟敷席」1874年
 

今回の目玉は何と言っても「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」ですが、この作品には殆ど黒は使われていませんでした。この絵は明暗の構成が複雑で、かなりコントラストの強いドレスやタキシードを着た人達が彼方此方で踊っています。黒は明度の一番低い色ですから、沢山使ってしまうとMaxの調子が色んな場所に散らばってしまい、散漫で見辛い画面になってしまいます。木漏れ日を上手く利用する事で固有色の呪縛から解き放たれ、黒い服にも黒い絵具を殆ど使わずに、画面上の関係で色を表現しています。本物を見たら、どんな場所に黒を使っているのかを探してみるのも一興かと思います。ムーラン・ド・ラ・ギャレット
ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」1876年
ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会の部分
作品に近寄ってみると、殆ど黒が使われていないことが分かります。

 

あと、今回は滅多に見る事の出来ない、ルノワールのデッサンが複数来ていました。これがまた素晴らしい出来栄えで、そこからは巨匠の鋭い眼差しと生々しい息遣いが感じられました。これも図版や画像では伝わりにくいものですので、是非本物を見に行ってみて下さい。
デッサン
ルノワール「水のほとりの3人の浴女」1882?1885年

オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵?ルノワール展 ?8/22(月)
http://renoir.exhn.jp