日別アーカイブ: 2013年10月8日

芸術の秋!イベントの秋!

こんにちは。彫刻科の小川原です。今月の13日、14日は彫刻科の公開コンクールがあります。芸大を第一志望にしている人はぜひ受けてみてください。学外生は個別に面談も行う予定ですので、作品等講評希望の方は当日持参してください。日程は13日はデッサン、14日は塑像となっています。この時期でのコンクールの結果がそのまま入試につながっていく訳ではないですが、現時点での実力を検証し、本番当日までの指針をしっかりと立てることが重要です。
さらに20日には、原則高校生対象ではありますが、彫刻科で1日オープンスクールを行います。今回は「塑像を徹底攻略 モデル首像を1日で完成」と銘打って、芸大入試でも出題されるモデル首像に焦点を絞り、講師によるデモンストレーションと解説を交えながら制作にあたってのポイントを学びます。参加費は無料です。学内、学外、経験の有無は問いません。人数によっては締め切りもありますので、早めの申し込みをお願いします。新美のホームページのトップにバナーがありますのでご覧ください。

さて、今回も日々の制作の中で出てきた完成度の高い作品をいくつか紹介したいと思います。
まずは昼間部からです。1学期に行った実在ゼミ、今年はテラコッタでした。夏に窯で焼成、台座の制作を行い、2学期に入ってから仕上げを行いました。テラコッタ作品は素材として魅力を引き出せる可能性に溢れていますが、焼いたそのままだと深みがなく、スカスカして軽い印象を受けてしまいます。少し色をのせたりすることで作品に質感と抵抗感を与えていきます。ただしあくまで素材の魅力を失わない程度にとどめておく必要があります。
R.Y君の作品。信楽土での制作。台座は楠。
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迫力があり、生き生きとした表現が魅力的な作品です。カッティングや台座の形もこだわり、一つの「作品」として向き合えていることに好感が持てます。細部や髪の表現方法に関してはさらに研究を深めていきたいです。

K.S君の作品。黒泥での制作。台座は楠。表面を焼いて焦がしています。
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全体と細部の関係性が無理なく自然に捉えられていて、端々にリアリティを感じさせる気の利いた造形がなされています。非常に完成度が高く、一つの彫刻作品として鑑賞するに値する内容になっていると思います。これからは短時間でも、この作品を超えていくくらいの意識で取り組めると良いです。

R.A君の作品。マルス+水色のタスキ。
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炭の発色が独特で魅力があります。全体にマルスらしさが良く捉えられていて、目を引く作品になっています。全体に完成度が高いですが、欲を言うと体の陰側の回り込みと、あごの下の構造の表現がより考えられるとさらに隙のないものにできたと思います。次回のデッサンも楽しみです。

T.Y君の作品。
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調子が美しくコントロールできています。実物のモチーフの持つ印象に素直に忠実に、そして実直に取り組んだ結果の賜物だと思います。一つ一つの形を表現するための探りがとても丁寧で、遠目の印象だけでなく、近くで見ても説得力のある表現ができていることに作品としての完成度の高さを伺えます。下地で時間を使っているようなので、出だしで素早く的確な見切りができるようになってくるとより短時間でもこのレベル、あるいはそれ以上のものが描けるようになると思います。

K.S君の作品。
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気迫が感じられるデッサンになっています。制作のプロセスや、セオリーに縛られる事無く、モチーフから感じた感動と自分の世界観を画面の中で魅力的に形にする事が出来ました。堂々と、揺るがない理想を持って制作に取り組む事は上達するための最短コースなのではないでしょうか。受験生はしばしば不安からいわゆる「描きかた」に走りがちですが、結局それだとある程度までやれてもそれ以上の高みは望めません。自分の目指すものが「美術」の世界であり、その本質は魅力の追求である事を忘れてはいけません。それはやり方を学ぶ事で出来ることのずっと先にあるものです。

K.Oさんの作品。
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静物デッサンとして、石膏像が置かれた状況を丁寧に表現出来ています。床に落ちた影の微妙な変化の捉え方も良いです。非常に明解で見やすく、落ち度の無い完成度の高さが目を引きますが、形の探りにはもう1段階複雑さが出てくると尚良いです。事によっては探り不足でスカスカな内容になってしまう危険性も含んでいるので、意識的にコントロール出来るよう経験を積んでいけるといいと思います。

Y.M君の作品。
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空間を包み込むように全体的な探りがなされていて、量感や奥行きの感じられる作品になっています。全体にバランスよく作業を進める事によって、ひとつながりの形という点では効果を成しているのですが、逆に強い意志を持って手前を引き出す作業も盛り込んでいかないと雰囲気は良くても実体感を感じられないものになってしまいます。今回は意識的にそうした作業が出来たので、元々出来ていた事が一層引き立つ内容に仕上がっています。

ここから夜間部、現役生の作品です。
T.U君の作品。
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宿題で描いてきた自画像です。背景を含め、非常に完成度の高い作品に仕上げてきてくれました。欲を言うと、腕や、胴(腰)が短くなってしまっている事でバランス面に違和感を残している事と、頭部に表現の浅さが感じ取れるという事が上げられますが、そうしたマイナス要素もある程度補ってしまうほどの説得力がこの作品にはあります。どんなにありふれた課題であっても、作品として最高のものを出す。これは一瞬大変な事のように聞こえますが実はそうでもなくて、本来好きで始めた「美術」であるので、それを楽しんでやればいい。ただそれだけの事なのです。受験の為の勉強だと思って日々のデッサンが義務的になってしまったり、興味が持てなくなってしまうとそれだけ成長も遅くなってしまいます。惰性でやれるほど美術は単純ではないし、嫌々やるものでもありません。皆さんには是非、目的と目標を明確にして、楽しんで制作に取り組んで欲しいと思います。

T.Dさんの作品。
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彫刻科では珍しく、絵画的に作品を追求しています。彫刻科だからといって「彫刻」らしくないデッサンがダメという事ではなく、結局は作品として魅力的であるかどうかが重要(芸大で言うと特に2次素描)なので、むしろ自分のオリジナリティを大事にしていく事は最終的に武器になります。この作品は頭部が魅力的に描けている分、手前の腕が弱くなってしまっているのがもったいないです。細部の表情が無いところほど(形や色の変化の少ないところ)、調子だけで説得力を出すのは難しいので、しっかり時間をかけて表現していく必要があります。

K.Kさんの作品。
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ブルータスを包帯でぐるぐる巻きにして、細部にとらわれない大きな量感や空間を掴む。というのが今回の課題の趣旨でした。この作品は後半までなかなか構造感が見えてこず(形と陰の関係が整理出来ない)具体的に量感を説明するのに苦労していましたが、最終的に、実際通りの色を忠実に追うというこれまでの作業から、光源の設定は安定させたまま、面と調子の関係を自分でコントロールする事が出来ました。デッサンでは実際通りに描くというのは基本ではありますが、それだけだとどうしても作品の中で実際の印象が出るところまで中々到達出来ないというジレンマに陥ってしまいます。デッサンでは紙の(空間の)中にモチーフを自然に見えるように組み立て直すという事が求められています。その為にはどうしてもある程度創作が必要になってくるので、どうしたらどうなる。この場合はどうすべき。という経験に基づいた対処法を地道に身に付ける事が重要です。

T.U君の作品。
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ダビデの顔パーツと耐火煉瓦と布の構成課題です。構成では様々な見せ方の方向性がありますが、この作品のように現実にあり得る配置の状況を再現するような構成も一つです。この場合はどんなに置き方に気を使ってもそれだけでは、アクロバットな配置をした作品など、構成にこだわった作品に魅力負けしてしまいます。では何で勝負するかですが、「形の精度」と「密度」これに尽きます。構成にこだわればこだわるほど単純に密度を上げる時間が少なくなるので、そこを逆手に取って誰よりも完成度と言い切りを徹底して「つくり込む力」で評価を勝ち取る作戦です。逆に言うとこのタイプの構成で密度がずば抜けてなければアピール出来るものが何も無くなってしまうのでそこはメリット、デメリットを分かった上で選ぶ必要があります。この作品はレンガの刻印や、マスクの完成度の高さに好感が持てます。写真では分かりにくいですが、布の表現がさらに追求出来ると尚良いです。

K.Kさんの作品。
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こちらは上の作品とは対照的に、アクロバットな構成になっています。3つのモチーフの特徴から最大限効果的な「役割」を見つけ出せています。こうした方向性での構成で勝負していく場合、折角時間をかけて心棒をつくるのと、その後もつくりにくい形(時間がかかる)になるので、出来るだけ他の人の作品と似てしまう事無く、オリジナリティを訴えられるものを出していく事が必要です。似た作品が連発してしまう状況では、時間をかけただけ損をする、という事になり兼ねません。この作品では、レンガの上に目を点で立たせています。ここまではかなり多くの人が同じような事をすると予想出来ますが、この作品は布の扱いが非常に良く、魅力を一層引き立てています。そして何より驚かされるのが、難しい形に挑戦しているにもかかわらず、密度感がずば抜けて感じられる事です。(レンガの刻印もしっかりつくられています)構成課題は模刻や首像、動物などと違ってスピーディな決断と進行が求められます。しっかり経験を積んで完成までのリズムを掴んでおきたいところです。

T.U君の作品。
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非常に完成度の高い作品です。癖っぽさが無く、素直で丁寧な描写に好感が持て、それが質の高い魅力に繋がっています。頭部の描写も見事です。顔はパーツは似ているのですが、やや表情が寄ってしまって見えるので、さらに客観的に見比べられるようになると良いです。入試は1度限りなので、隙のないデッサンを目指すのは大切な事と言えます。ただしそれが先行してしまって守りに入ってしまうと途端につまらない作品しか描けなくなってしまうので、目指すものは常に1ランク上を捉えておいて欲しいです。

K.Kさんの作品。
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今回も高い実力の感じられる作品を見せてくれました。まだまだ感覚に任せて確信の無いまま描き進めてしまっている時が見受けられますが、そうした部分を無くしていく方向性ではなく、感覚はむしろ大事にしながらも、それを意識的にコントロール出来るようになれたら良いと思います。感覚で描いているときは部分的になってしまいがちで、全体で見るとギクシャクしてしまい、はまってこない事が多いですが、探っているもの自体は実は魅力的だったりします。描き始めから完成まで一息で走りきってしまうのではなく、段階ごとに作品を自分なりにしっかり評価して、その後の指針をしっかり立て、改善すべき点とその対処法を明確にしながら進められると良いです。対処法(応用力)は経験に応じて増えていくので、毎課題で試した事を次回に生かしていくつもりで取り組みましょう。もちろんこれまでの経験は作品にしっかり反映出来ているので、どんどん良くなっています。

2学期は落ち着いてじっくり制作に取り組める最後の期間と言えます。今のうちに自分の上限をどんどん更新していきたいです。一課題一課題、自分が納得のいくレベルまでしっかり持っていく事。これが大事です。うまくいったかいかなかったかで終わらせてしまうのではなく、過程を充実させ、結果を反省して下さい。今足踏みしている余裕はありません。来年の入試で勝ち残る為に、与えられた時間を無駄にしないよ、全力で取り組んで悔いの残らない2学期にしていきましょう!