こんにちは。彫刻科の小川原です。今年は芸大に2名の合格者を送ることができました。また2021年度入試に向けて全力で取り組んでいきたいと思います!
今年の芸大の入試課題はジョセフに始まり、彫刻Ⅰでは身体をテーマにした彫刻。彫刻Ⅱではアバタの模刻が出題されました。ということで、僕がこれまで長年指導をしてきた中で特にお気に入りの3点を紹介します。
これは前回彫刻科でジョセフが出題された時の合格者の入試再現です。何より全てにおいて印象が良いと思いました。雑味なくジョセフを感じられる作品です。
これは去年の授業作品です。テーマは「狭い・広い」※両方の要素を含むこと
作品は見た通りタンポポをモチーフに構成しています。下手をするとファンシー的になり過ぎてしまいますが、形態のデフォルメの仕方がちょうど良く、構成作品として美しく見えるところが良いです。
模刻はベースの精度が上げられた上で密度を上げていき、具体的になっていく形がその寸前の土台の形と響き合っていないと作り込むほどに似なくなるという事態に陥ります。この作品は作り切った上でアバタとしての印象が素晴らしく良いですが、それは何より作者がモチーフの「形」だけでなく、「アバタの印象」に反応できているから成せる技なのです。
彫刻の入試では基礎力が充実して初めて勝負になるところがありますが、それだけでは足りません。ミスがないこと以上に、作品としてどうなのか。ということをビジョンに入れて日々の制作に打ち込んでいきたいです。
先日twitterにも上げましたが、僕の新しい作品が完成したので紹介します。
「水中花」
ブロンズ
H80×W40×D25cm
テラコッタから木彫に素材を変えて、さらにブロンズ鋳造を始めて数年が経ちました。30年くらい前はブロンズで作品をつくる作家も多かったようですが、近年はめっきり減りました。FRP(素材はプラスチックですが、色をブロンズ調にできる。安価で手軽。)が登場したことや、ブロンズに作品を置き換えるのは外注になるので、1つの作品を作るにも高額となるためだったり、単純に塑像作品でブロンズまでやるというストイックな作家がいなくなっていきているということもあると思います。
僕は大学時代から今までずっと誰の手も借りずに自分の作品は最初から最後まで自分で責任を持ってやりきるという思いでやってきました。それは単に自分の作品を自分以外の人が手を加える事への拒否反応みたいなもので、そんなこともあり、ブロンズ鋳造は習ったことはないですが自分で鋳造炉をつくり、原型から鋳造型、鋳込み、仕上げまで全て一人で行なっています。
ブロンズを始めた頃、どうしてもうまくいかなくて仕方なく業者に鋳造を頼んだこともありました。戻ってきた作品は完璧に鋳造がうまくいってるはずなのですが、「え?こんな形だったっけ?」とどうしても馴染めず、後悔したものです。今は鋳造まで全て自前なので、納得のいく完成を迎えられています。多分自分以外の人が外から見たら全然わからない差なのかもしれませんが、自分にとってはそれが全てなのだと思います。素材だってうまく着色したらブロンズとFRPの区別だってつかないくらいにできるでしょう。でもそれは何より自分に嘘をついているという意味で、「作品」とは言えなくなってしまうのです。こういうこだわり方をすること自体が今の美術界の中ではもはや時代遅れだと言われてしまいそうですが、結局は自分がこうしたいなと思ったことを迷わずやることが結果個々の特殊性に繋がっているのではないかなと思っています。
思えば浪人時代もそうでした。小川原のデッサンは彫刻的じゃないんだよな。と先生に言われ続けながらも、自分の理想のデッサンのあり方を一切曲げずに貫きました。というより自分の見ているビジョン以外に全く興味がなかったというのが本当のところです。「こういうものだ」ということには目もくれずにひたすら理想を高め続けました。僕のデッサンは僕一人だけのものでしたが、最終的には彫刻科のデッサンはこういうもんだ。という大勢が何も言えなくなるくらいのものにしたと思います。
大事なことは、自分で価値を見出すということが独り善がりであってはいけません。全ては基本を突き抜けた先にあるのだと思います。受験生の時から自分自身の意思を明確にしていくことが大事です。