日別アーカイブ: 2018年11月25日

画家の王、ルーベンス真の実力②

こんにちは。油絵科の関口です。

前回はルーベンスの真の実力について語りましたが、今日はその続編です。ルーベンスの本当の実力と魅力について、もう少し掘り下げていきましょう。


ところで、ルーベンスはその実力に反して、意外にも日本ではあまり人気のない作家の一人かもしれません。豪華絢爛で明るく健康的な雰囲気と、ダイナミックな画面構成というのは、情緒的な雰囲気を重んじる日本人の感性とは正反対に位置するものなんでしょうね。


同時代のバロックの巨匠であるレンブラントは、どこか物憂げで情緒的な雰囲気を身にまとい、波乱万丈の人生を送りました。絵以外のエピソードも含め、こういう人が日本人のハートをガッツリと掴む…という典型的なパターンなのかもしれません。

でもルーベンスにも柔らかく、情緒的な雰囲気を醸し出すことは可能でした。実は変幻自在で、器用に色んなことがこなせる画家だったようです。実際のところ柔も剛もお手の物と言った感じです。

しかしルーベンスの真骨頂は、どんなに大人数を画面に入れてもゴチャゴチャさせないことができるということです。その能力は驚愕するに値します。
群像表現において、これほどの能力を発揮できる人はルーベンスの右に出る者がいない…と言っても過言ではありません。強弱の扱い方が絶妙で、あまりにも自然に見えるので見過ごしてしまいそうですが、この能力は決して一朝一夕で身に付けられるものではありません。「絵の中での見せるところと見せないところの割り振り」をこれ以上ないくらい上手く操り、観客の目にスーッと染み込むように入っていくのです。人間がどのようにものを見て、脳がどのように認識しているかを知らないと、これ程までに巧みに強弱をコントロールすることはできません。


この絵なんか、一体何十人描かれているのでしょう?よく見ると、力強く描いているところも多いのですが、フワッ、フワッと強さが打ち消され、画面の中にある大きな流れの中に吸収されていくような錯覚すら感じてしまいます。この絵を見ていると、全くジャンルは違いますが、合気道の達人、塩田剛三さん(故人)の動画を見ているような気持ちになります。※知らない人は是非YouTubeで検索してみてください。必見です。


さすがにここまで来ると、達人のみが到達し得る領域です。しかし絵を勉強する人なら、せめてこういう技術を読み取るくらいの能力は身に付けたいものです。