日別アーカイブ: 2017年9月17日

ダ・ヴィンチのデッサンに思う事

こんにちは。油絵科の関口です。台風の影響でこの連休は生憎なお天気になってしまいましたね。気温が一気に急降下して、僕も風邪をひいてしまいました。

さて、皆さんは三菱一号美術館で開催されているレオナルド×ミケランジェロ展をご覧になりましたか?僕も先日…と言いたいところですが、今回は色々と訳あって、まだ見に行けていません。ダ・ヴィンチとミケランジェロのデッサンが同時に見られる機会は滅多にありませんし、会期も9月24日迄なので、かなり混んでいると思いますが「まだ見ていない」という人は是非見に行ってくださいね。
これが今回の目玉作品「少女の頭部/〈岩窟の聖母〉天使のための習作」


「岩窟の聖母」(ルーブル美術館所蔵作品)この右側にいる天使の顔を描くために制作された、と言われています。今回来ているデッサンとは大分雰囲気が異なりますね。

 

僕がダ・ヴィンチのデッサンの本物を初めて見たのは、大学3年の春に友達と二人でイタリア旅行に出かけた時です。旅の後半にヴェネツィアを訪れたのですが、偶然にもそこでダ・ヴィンチのデッサン展が開催されていることが分かりました。「折角なので見ていこう」ということで、即決で美術館に直行。そこで見たのは、言葉を失うほどの見事なデッサンの数々…。ダ・ヴィンチの展覧会としては、かなりの作品数があったと記憶しています。そこでは、まさしく神の領域とも言える圧倒的な技量と、数百年経っても人の心を揺さぶり続ける巨匠の息遣いを目の当たりにし『自分は今まで一体何をやってきたのだろう?』と大きなショックを受けた事を今でも鮮明に覚えています。

ところで、当時のデッサンには様々な素材が使われていますが、時々金属尖筆(せんぴつ)と書かれているものを見かけます。英語ではmetal pointと表記し、イタリア語ではpunta metallica(尖った金属の意味)と表記します。
punta metallica↑ 画像はフィレンツェの老舗画材店Zecchi社のHPより。紙も特製らしいです。

ダ・ヴィンチのデッサンには、銀を使った銀筆(シルバーポイント)というものをよく見かけますが、この銀筆も金属尖筆の一つです。この頃はまだ鉛筆が発明される前の時代です。
金属の棒で紙に描く事をちょっと想像してみて下さい。例えば鉄の棒を使って紙に描いても凹むだけですよね。白い塗料が塗ってある壁に金属が当たって擦れると、そこに跡がつくのを見たことがありませんか?金属尖筆を描画材として使う原理は正にそれです。
普通の紙だと金属よりも柔らかいので金属が削れず、描くことができません。シルバーポイントを使うには、紙に白亜地などの下地塗料を予め塗っておく必要があります。
あとシルバーポイントは銀を用いているので、描いた直後と数ヶ月後では色が変わるそうです。僕は使ったことがないのですが、シルバーポイントを使用したことのある絵描きさんによると、いわゆる燻し銀のような、赤味がかった黒色になるそうです。

そしてこのシルバーポイントは、一度描いたら消すことができません。

デッサン(dissin)のことをイタリア語でディゼーニョ(disegno)と言いますが「印をつける、刻印する」という意味もあるそうです。「神が刻印した自然なるもの」を感じ取り、それを「紙に刻印する」という行為がデッサンというものの本質なのかもしれません。