日別アーカイブ: 2014年4月28日

バルテュスのマニアックなお話

こんにちは。油絵科の関口です。最近はかなり暖かくなってきましたね。

さて、上野の東京都美術館で開催されているバルテュス展はもうご覧になりましたか?今日はそのバルテュスについて書こうと思います。

若き日のバルテュス若き日のバルテュス(マン・レイ撮影)

実はバルテュスというのは本名ではなく、通称だそうで、本名は「バルタザール・クロソウスキー・ド・ローラ伯爵」と言います。フランスで生まれていますが、ポーランド貴族の流れをくむ家柄の伯爵で、由緒ある家系に育ったようです。
父親のエリックは美術史家、画家、舞台美術をやっており、母親のバラディーヌも芸術家だったそうです。兄のピエールは小説家として活躍していましたし、彼は画家(素描家)という側面もありました。

ピエールの作品
バルテュスの兄、ピエールの作品

以前、全く予備知識が無い状態で、ピエール・クロソウスキーという画家のデッサン集を見ました。「かなりヤバい感じの絵を描く人だな?」と思っていたら、後日バルテュスのお兄さんという事が判明し、ビックリした覚えがあります。(このブログに載せられるのはこれが精一杯です。どんな風にヤバいのか興味がある人は、是非検索してみて下さい)

ちなみにバルテュスは独学で絵を学んでいるそうですが、幼少の頃から実家にマティスやボナールがよく夕食に訪れたそうです。他にも作曲家のストラヴィンスキーやバレエダンサーのニジンスキー、詩人のリルケといった大物芸術家達も家を訪れていたようです。一般の家庭では考えられない様な幼少期を過ごしたに違いありません。

ところで、このバルテュスの展覧会、以前も東京駅のステーションギャラリーで見た事がありました。その時のカタログに書いてある年数を見ると、1993年とあります。あれから20年以上も経っているという事実にビックリしてしまいました。

今回の東京都美術館に於けるバルテュス展は、初期の作品やアトリエを再現したセットまで展示してあり、一見の価値はあると思います。

中でも初期の「夢見るテレーズ」は、良い作品だと思いました。頭上に乗せられた両手辺りのマチエールには、かなり苦労した跡が見受けられます。写真では分かりにくいと思いますが、何度も何度も描き直して、納得いくまで弄り続けないと、こういう表情にはならないのです。マチエールを付けようと思って出来たマチエールでは無く、自分の理想とする内容を追求した結果得られたマチエールなので、リアリティがあります。

夢見るテレーズ1938
バルテュス 「夢見るテレーズ 」1938年

個人的に面白かったのは、バルテュスのアトリエを再現したコーナーです。彼の使っていた筆や使いかけの絵具、顔料の瓶、パレット、椅子、イーゼル、作業着、描きかけの作品、絵具の付いた床…油絵を描いている人なら、一つひとつの痕跡から彼の制作していた姿が想像出来るのではないでしょうか?

それから、写真を見てバルテュスの使っている絵具のメーカーも興味を持ちました。ブロックス、レンブラント(ターレンス)、シュミンケ、マイメリ…愛用していた絵具からも彼の好みが分かります。

?あと、先程「独学で絵を学んだ」と書きましたが、それを実感できたのはアトリエに置かれたパレットです。パレットには描いている人其々の性格が出るものですが、ああいうパレットを見たのは初めてです。

パレットカタログに載っていたアトリエの写真。僕としては面白いものが沢山あります。

細かいところをじっくり見ていくと、面白さ満点です。皆さんもゴールデンウイークを利用して、見に行ってみてはいかがでしょうか?