日別アーカイブ: 2013年7月30日

夏期講習開始。実材実習の台座制作。

彫刻科の小川原です。夏期講習が始まりました。前期が終わり、中期に入ります。前期は8日間と短い期間ですが、多くの事を学べたんじゃないかなと思います。かなり力をつけてきましたが、まだまだこれからです。さらにグッと上達してもらえるよう、講師一同全力で指導していきますので、皆さんも負けずについてきて下さい!
前期では昼夜1人ずつ現役芸大生にデモンストレーションに入っていただきました。非常にレベルの高い作品を間近に見る事が出来て、生徒の皆さんも多いに刺激を受けた事と思います。こうした機会は滅多に無いことなので、このチャンスにしっかり見て感じ取って欲しいです。
前期昼間部のデッサンのデモンストレーション。T.Aさんの作品。
新井
強引になる事無く、的確に、計画的に、そして着実に探りを重ねていたのが印象的でした。特に今のみんなに必要なものの見方と言えるのではないでしょうか。あらゆる角度からモチーフを分析し、しっかり理解してから手を動かす。当たり前と言えばそれまでですが、意外と意識出来ていない人は多いんじゃないかなと思います。自分で形を割り切ってしまうのではなく、あくまでモチーフの魅力に素直に向き合う事は表現活動において基本中の基本であり、同時に最も難しい事であるとも言えます。この作品はどの部分を見ても簡単に済ませてしまったところは無く、深みがあります。さらにそれらが全体で響き合っている事が素晴らしいです。

前期夜間のデッサンのデモンストレーション。R.Iさんの作品。
今井
開始と同時にすぐに描き始めるのではなく、しばらくの間像を眺めて制作の計画を練っていたのが印象深かったです。画面の中に像をどのようにつくっていくのか、その最終的なビジョンがしっかりしている事でブレの無い制作工程を踏む事が出来ます。像のイメージをしっかり自分の中に落とし込めていれば、今描いている内容の中で印象を外している部分にすぐ気づけるし、直していく方向性も迷わず見つける事ができます。計る事に頼りすぎている(計る事は良い事だが、他の見方があまり出来ていない)人は、一旦狂いが生じると混乱して手が付けられなくなってしまうのではないでしょうか。また、割と合わせたつもりでも何となく似てない。という事も多いと思います。計って合わせるというのはあくまで補助的な方法論でしかないので、まずはモチーフの魅力を見切る目と、それをそのまま出力出来る腕を養う努力をする事、これが大切です。この作品は端々まで非常に触覚的に形を感じ取れる内容に仕上がっていて、具体的に形や空間がどうなっているのか、再現性の高い作品に仕上がっています。

中期以降も全部で8回のデモンストレーションを見る事が出来ます。見逃す事無く、役立ててもらえたらなと思います。
生徒の皆さんもかなり頑張ってくれて良い作品も多く見る事が出来ました。特に良かった2点を紹介します。
浪人生、K.S君の作品。
アバタ2
アバタのヴィーナスは小振りな作品ですが、動きが単純ではないので本当の意味で印象を引き出すのは非常に難しい像です。この作品はアゴからおでこまでの捻れの面展開がよく表現出来ています。全体のバランスや印象も良く、完成度もしっかり上げられました。自分で終わりを決めてしまうのではなく、最後までアバタを捉え続けた丁寧な探りに好感が持てます。今回はサイズの小さい像でしたが、大きなものになっても全体での印象合わせを怠らずに取り組んで欲しいです。

昼間部もう一人のK.S君の作品。
IMG_0720
全体に印象よくまとめられています。特にバルールに対する意識が高く、空間的なモチーフの魅力が上手く捉えられています。組み石膏では単体石膏デッサンに比べて形も色も確認しなければいけないポイントが非常に多くなります。しかしだからといって計り倒すように描き進めるのではなく、むしろ絵画的に、画面全体を包み込むように描写していく事が非常に重要になります。この作品ではそうした捉え方に着眼点を置く事で成功している事が沢山あります。逆に全体を大切にすればするほど一つ一つを具体的な形に置き換えていく事が難しくなり、客観的な構築性が不十分となって雰囲気に偏ってしまいがちです。この作品では特にマルスが形にし切れませんでした。まさにそれは「何を取るか」というジレンマであり、その時点での作者の技術と与えられた時間の中で、最大限良い作品にする為にいろいろな事を取捨選択した結果の産物であると言えます。

現役生K.Kさんの作品。組み石膏

特に現役生にとっては難しい課題だったんじゃないかなと思いますが、彼女は元々広い視野の持ち主で、高いバランス感覚も持ち合わせているのでブレる事なく持てる力を出し切って表現し切れたのだと思います。炭使いが独特で、深い味わいを出しています。単純に「絵」として魅力的に見えるのが素晴らしいです。浅いところで結論を出してしまうのではなく、魅力的なモチーフにひたすら素直に向き合った結果と言えます。欲を言えばマルスの頭部に明るさが足りないのと、背中の反射光部分に形がなくなってしまっている事が惜しいところです。

中期以降も生徒の皆さんの頑張りに期待しています!体力的にはとても負担が大きいところがあると思いますが、前向きに集中して取り組めばそれだけ実力もアップする事間違い無いです。体調管理には万全を期して、やりきった夏にして欲しいです。経験も、実力も、自信も身につける夏期講習にしましょう!

ところで彫刻科昼間部は1学期に実材実習ということでテラコッタの自刻像の制作をしました。1学期中に原型の制作と土の掻き出し、乾燥まで進めておき、夏期講習までの休みの間に台座の制作と窯で作品の焼成を行ったので紹介します。
窯は今回はガス窯を使用しました。8つあるバーナーを低いガス圧で順次点火していき、全部点火したら圧を上げていく事で温度を上昇させます。最終的には800℃まで温度を上げて、土を素焼きの状態に変化させます。
下の写真は窯内部の温度を示したものです。右が窯上部の温度。熱は上に上がるのでやや温度差が出ます。
800
温度が下がってから窯のフタを開けて作品を入れ替えます。作品数が多いので複数回に分けて焼成しました。
焼き上がり
台座は木かセメントで制作しました。まずはセメントでの台座づくりからです。セメントは建物などの基礎工事と同じように、型枠をつくってそこに詰める形を取りました。まずはコンパネ(裏側がコーティングしてあるもの)に型枠の寸法を書き入れて、電動丸鋸や手鋸でカットします。
線入れ
次は型枠の組立てです。ガムテープで繋げていくのですが、角に金折れを入れて直角を出します。
型枠
首像に差し込む心棒は最初から台座に埋め込む形をとりました。これをひっくり返してセメントを詰めます。
型枠2
セメント(モルタル)を水と混ぜて撹拌機で混ぜ合わせます。今回は最初からセメントと砂がバランスよく混ぜてあるドライモルタルを使用しました。水は多すぎても少な過ぎても良くないです。流すというより手でもって詰め込むくらいがいいです。
セメント
最後にモルタルを逆さにした型枠に詰めていきます。隙間が出来ないよう気をつけます。急激な乾燥を防ぐ為にビニール袋で養生して硬化を待ちます。
セメント2
次は木での台座づくりです。使う木は楠です。木彫用の素材として一般的なもので、僕の制作での余り物を使いました。
最初に材料に線を書き入れます。
線描く
次に希望のサイズより少し大きいサイズにチェーンソーで荒取りします。荒取り
実際のサイズを測り、面の基準を決めながら電気カンナで荒削りしていきます。削りすぎて量が足りなくならないように、全ての面が90°の関係になるように気をつけます。
線入れ2

カンナがけ
ほぼ電気カンナで形は作ってしまいます。その後ベルトサンダーで面を整えます。
ベルトサンダー
最後はランダムアクションサンダーやオービタルサンダーで仕上げます。
仕上げサンダー
心棒をさす為の穴をつくります。心棒は2x3の小割りを使うので四角い穴をあけます。まずは中心に2x3の四角を書き、ボール盤でその内側を穴だらけにします。
穴空け
穴だらけになった残りの部分を鑿で崩していきます。小割りがうまく差し込めるか確認しながら進めます。
鑿
基本は木地での仕上げですが、バーナーで焙って黒く木目を出した人もいました。
バーナー
台座も完成し、焼成も無事全員うまくいきました!2学期に作品の仕上げを入れてもらって完成になります。

たまにはこうして実際に作品がどのようにつくられているのか体験してみるのもいい経験になります。結構大変だったと思いますが、皆楽しかったんじゃないかな。また完成が楽しみです。最後まで自分の作品に責任を持つ事。作家のたまごとして、そこを学んでもらえたらなと思います。
完成