日別アーカイブ: 2014年10月13日

故郷に流れる遺伝子

こんにちは。油絵科の関口です。
今週も台風が直撃ですね。2週連続で来るのはちょっと勘弁してもらいたいものです。

 

さて、今日はこの作品から見てもらおうと思います。作者が誰か分かりますか?
ヒント:この作者はエコール・ド・パリの画家で、イタリア人です。?15歳のデッサン
これは自画像という事なんですが、顔立ちには まだあどけなさが残っています。彼がこれを描いたのは何と15歳!日本だと中学3年か高校1年の年齢ですね。しかもデッサンを勉強し始めたのが14歳の頃とか。こんなのを描き始めて1年目の子に描かれたら、周りの人は嫌になってしまいますよね?

さて、僕がこの作品を見て特に感心するのは、顔の描写力はさることながら、この身体の表現の素晴らしさです。客観的な観察力というのは、訓練である程度何とかなるものだと思っていますが、この省略の仕方やタッチの使い方は観察だけではどうにもならないものです。よくぞここで筆を止めたものだと思います。完全に脱帽です。作者は素晴らしい感性を持った子供だったんですね。

さあ、勿体ぶってしまいましたが、そろそろ答えを言いましょう。
この作品の作者は夭折の画家、モディリアーニ(1884?1920年)です。ありゃ、デッサンにサインが入っていたのでバレバレでしたね(笑)。

 

さてモディリアーニというと、目の青いこんなタイプの絵を思い浮かべる人が多いと思います。モディリアーニらしい作品

以前モディリアーニの作品を見ていると「誰かの作品に似ているな?」と漠然と思っていました。最初は誰の作品に似ているか、ハッキリと分からなかったのですが、ある時ピンと来ました。
タマゴ型の頭に流線形にデフォルメされたその身体・・・僕が結びつけたのは、前回このブログでも取り上げたボッティチェルリでした。

類似作品
どうですか?作風はかなり違いますが、横に比べると結構近い感じがしませんか?

 

ところで、僕が新美の講師を始めた頃、海老澤先生がボッティチェルリの図版を出してきて「ボッティチェルリの作品は、目の高さが段違いになってるのが多いんだけど、身体全体で見ると全く違和感を感じさせないんだよね。身体の動きに合わせて高さを変えてあるから、目の高さを合わせると、逆に凄く変になっちゃうんだよね」と教えてくれました。

ヴィーナス顔1
実際よく見てみると、かなり段違いになっているんですが、言われてみるまで全く気付きませんでした。恐らく皆さんも今まで気になった人は殆んどいないんじゃないでしょうか?
当時はパソコンなど無い時代でしたので、海老澤先生はハサミで図版を切り抜いて試したものと思われます。確かに顔だけでよ?く見ると変な気もしますが、絵全体で見ると全く違和感を感じません。

段違いの目
段違いコレクション(ボッティチェルリ編)
※前回のブログで「ボッティチェルリの作品は殆んど日本に来ない」と書きましたが、一番右の絵は東京都美術館で12月14日まで見ることができます。次に日本に来るのはいつになるか分かりませんので、興味のある方は是非見に行って下さい。ちなみにこの作品はカンバスにテンペラで描かれています。
http://www.tobikan.jp/exhibition/h26_uffizi.html

 

さて、もう一度モディリアーニの話に戻りましょう。どうですか、この段違い!ボッティチェルリに負けず劣らず、かなりずらしていますね。

段違いの目
段違いコレクション(モディリアーニ編)
気が付かなかった人も多いと思いますが、実は上の帽子をかぶった絵も、よく見るとかなりの段違いっぷりです。段違いに気付かなかった人は、もう一度スクロールして確認してみて下さい。

 

モディリアーニはイタリア人として生まれて、フランスで活躍した画家ですが、遥か故郷の画家を尊敬し、時空を超えてその遺伝子を受け継いだ…と考えると、ちょっと面白いと思いませんか?