日別アーカイブ: 2014年2月17日

ホワイトについて③ ジンクホワイト編

こんにちは。油絵科の関口です。
2月に入って何回か雪が降りましたね。電車が動かなかったり、靴がびしょ濡れになったり、入試と重なったり・・・大変な思いをした人も多かったのではないでしょうか?
実は油絵具にはこの雪を表すのに適したホワイトがあるんですよ。知っていましたか?
今回は雪を表現するのに適しているという、ジンクホワイトについて書こうと思います。

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これは僕の生まれ故郷、新潟県の雪景色。晴れるととても奇麗です。(2005年撮影)

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でも実際に暮らしてみると奇麗なんて言っていられません。何せ3mも積もる豪雪地帯です。

 

ジンクホワイトについて
ジンクホワイトは比較的歴史の浅い色で、18世紀後半に初めて作られました。絵具としては19世紀に使われている例もあるようです。
ジンクホワイトは日本語では亜鉛華(あえんか)と言います。化学的には酸化亜鉛の事を指します。そういえば、最近では油絵具だけでなく、アクリル絵具でもジンクホワイトを出しているメーカーさんもありますね。実際これを読んでいる皆さんの中にも、使った事がある人もいるのではないでしょうか?

 

ジンクホワイトの特徴
ジンクホワイトは、青味のある寒色系の白として知られています。人間の目には青味がある白をより白く感じるという習性があるので、色としては純白に近いイメージになります。この為、雪を表すのに適しているホワイトという事になります。(ちなみに油絵具メーカーのマツダでは、寒色系のグレーはほぼ100%ジンクホワイトと混色されています)
反面、ホワイトの中では一番着色力と隠蔽力が弱く、他の色と混ぜた時には効きが悪く、時間が経つと更に色が食われていく傾向にある様です。他の白と比べると若干透明感があり「あなたの色に染まります…」的な奥ゆかしい女性の様な(笑)、日本的で優しい白と言っても良いかもしれません。
シルバーホワイトとは違い、毒性も無く、どの色と混ぜても化学変化を起こさないので、混色制限もありません。

亀裂、剥落という問題
日本では、ジンクホワイトは素晴らしい絵具として一時期脚光を浴びた事があります。初心者の絵具セットには必ずと言って良いほどジンクホワイトが入っていた時代がある位です。
しかし、ジンクホワイトには他のホワイトにはない大きな欠点がありました。それが絵具の亀裂と剥落です。優しい素振りをして、とんでもない一撃を喰らわす、恐ろしい一面を持っているんです。この辺もやはり女性的です(笑)。いえいえ、決してこのブログを読んでいる貴女の事ではありませんから(笑)。

油絵具のジンクホワイトは、乾燥の過程で油と反応し、金属石鹸というものを形成します。乾燥後も金属石鹸は作り続けられるため、その分の体積が増え、固まった絵具がヒビ割れ、終いにはジンクホワイトの層から根こそぎゴッソリと剥落してしまう、というのです。
もう一つはあまり知られていない事実ですが、ジンクホワイトは乾燥の過程で薄いガラス状の膜を形成し、その上から乗せた絵具が滑ったり、その層から剥がれやすいという事が判明しています。
要するに下の層には適していないという事です。
特に厚塗りをしてしまった場合は、剥落のリスクが高くなります。
よってジンクホワイトは「一番上の層に使う」「厚塗りをしない」「寒色系の色と混ぜる時に使う」というのが正しい使い方だと思います。

今では毛嫌いしている作家さんも多く「ジンクは使わない方が良い」と言っている方もいる様です。多分痛い目に遭ったんでしょうね?実際はそんなに酷い絵の具という事ではありませんが、扱いの難しい色なので、気持ちは分からないでもありません。

 

雪を描いた画家
新潟県出身で富岡惣一郎(1922?1994)という画家がいます。その方は雪を表現するのにどうしてもジンクホワイトを使いたくて、独自に改良しヒビ割れや黄変の無い、美しいジンクホワイトを作ったそうです。

20140214202701-0001富岡惣一郎 1976年制作 「妙高山A」

 

どうやってその絵の具を作ったのかはわかりませんが、雪の冷たさを出すのに徹底的にジンクホワイトに拘った様です。ヒビ割れないようにするための苦労は、恐らく並大抵の事では無かったと思います。シンプルで美しく、独自の世界を築き上げたそのホワイトには「トミオカホワイト」という名前が付けられています。20140214203108-0001富岡惣一郎 1984年制作 「信濃川-卯の木D」

 

更に、絵具を厚塗りして冷たい雪の表情を描く為、特大のペインティングナイフも日本刀の刀鍛冶に特注したと言われています。また、後に富岡さんは「取材には雪上車、漁船、モーターボート、船、セスナ機、ヘリコプターを惜しみなく使った」と語っています。ハイアングルの絵は、ヘリかセスナで取材したものなんでしょうね。

20140214202602-0001富岡惣一郎 1981年制作 「雪山並みB」

富岡惣一郎4
富岡惣一郎? 1976年制作 「北アルプス槍ヶ岳A」

僕も同じ雪国・新潟県出身者として、10年ほど前に南魚沼にある富岡惣一郎さんの美術館「トミオカホワイト美術館」を訪れ、白銀の世界に感銘を受けた事があります。
皆さんも新潟県を訪れた際には、是非一度トミオカホワイト美術館へ行ってみて下さい。ちょっと不便な所にありますが、行ってみる価値はあると思いますよ。

トミオカホワイト美術館
〒949-7124 新潟県南魚沼市上薬師堂142
TEL/ 025-775-3646